第6話 冒険者試験に落とされよう
冒険者ギルドの地下に案内されて重そうな扉の前で待つ。
先ほどのギルド員ではなく、交代した強面のギルド員が俺達に説明しだす。
「試験は一般常識の挨拶と実技。魔力判定など担当試験官によって採点は多少変わるがマニュアルがある、今日の試験官はオレ。落ちたかと言って冒険者になれないわけわけではなく冒険者ギルドに所属しない冒険者もいる。が、その辺は各自しらべろ。
不正をなくすのに試験内容は教えられないし見せられない、女性の場合冒険者登録に体を求められる場合もあるが、その場合は断っていい。質問は?」
「ないでーす」
エリザが元気よく返事すると、試験官は俺に目線を送ってくる。
「わたくしも特にないですね」
「よし、まずは男の方からいくか、一人で入れ」
鉄の扉を開け、長い廊下を歩く。
左右にも扉があり隙間からは武具や薬品が見えた。倉庫もかねているんだろう。
最後の突き当りの扉を開くと四角い殺風景な部屋が見えた。
地下というのに昼間のように明るく、ジメジメした空気もない。
「なんだ、やっぱり驚かないんだな」
「光の魔法を施した魔石ですかね。空気も同じような原理でしょう。それに、過去に来た事ありますからね」
「なるほどな。冒険者じゃないのにお前の噂は聞くからな、鎖に繋がれた犬」
ギルド員が俺を見ながらニヤニヤと挑発してくる。
「挑発にはのりません」
俺の返しにギルド員が直ぐにニヤっと笑った。
「なんだ。挑発も審査ってわかっていたか……実力ってもなぁ、辺境貴族の用心棒もかねていたんだろ? 戦わなくてもわかるってもんだ。お前ならC級でも推薦できるがそれでいいか? ついでに魔力判定もしていくか?」
「いえ、一番したのFからお願いします。魔力判定も無しで大丈夫です」
「謙虚だねぇ……一応いうが、国も違うんだし貴族だからと連れのお嬢さんにひいきはできんぞ」
というのは、裏を返せば貴族であれば冒険者カードを買う事が出来たりする。
その辺はエリザには伝えてない。
「もちろん。貴族の腕試しですので遠慮はいりません。それに安心してください、現在お金はもってませんので」
もっとも持ってないのはエリザであって俺は持ってる。
「なら安心だな、こっちだってあんな嬢ちゃんを冒険者にして不幸にするために試験官をしてるわけじゃねえし」
当たり前だ。
ひいきされて冒険者になっても困るし、金で冒険者カードを買われても面倒だ。
夢を壊すようで心は痛むが、現実を知ってもらわないとこれから困るだろう。
ここで落ちるのだから、俺の任務も終わる。
………………終わる。
終わるのか。
せめてエリザの記憶が戻ってから今までの礼を終えたかったもあるが仕方がない。
明日からは少し暇な日になるだろうな。
いや、何を落ち込んでいる。
「くっくっく、銀狼の困った顔を見れるとはな、惚れてるのか?」
「ご冗談を。元執事と元主人です」
「くっくっく、元だったらいいじゃねえか、夜は宿でずっぽ――――」
俺は剣を抜いてギルド員の首元に剣を突き付ける。後半歩、いや手首を少し伸ばすだけで喉に穴が開くだろう。
「試験中のお互いの死亡事件は不問でしたはずですよね」
「…………そうだな。終わりだ、試験は……終わり。剣をしまえ」
「わかりました」
剣を引き、腰の鞘に納める。
ギルド員が首元をさすりながら、帰るぞ。と先に歩いて行った。
くだらない冗談をいうからだ。
俺がエリザに惚れてる。などはない。エリザを適切な場所で暮らせるようにするのが俺の最後の仕事と思っている。
絶対に恋愛感情などはない。
もしあったら王子の婚約にすら送り出してないし、婚約パーティーの前日などエリザに、盗賊から出世しても恋人の一人もいないってオズの人生って結局何かしらね? 面白い事探したほうが良いわよ。まで言われたんだぞ。
「おい、戻るぞ?」
「失礼を、少し考え事をしていたもので」
扉が閉まりそうになったので俺も小走りに歩く。
来た時と同じように廊下を通り、待合室みたいな場所につくとエリザが椅子に座って手を振っている。
男受けしそうな笑顔で、普通の男なら騙されるだろう。
「試験どうだったの?」
「どうもこうもありません。わたくしの結果よりもエリザの結果です」
横からエリザって呼び捨てかぁ、ヒューと、聞こえて来たので首を向ける。
「にらむなよ……こええな」
「にらんではいません。絶対に公平に頼みますね」
「お、おう……すげえ気迫だな」
「オズさん! 私、その気迫に負けないぐらいに、がんばります!」
頑張らなくていい。
ギルドの試験官と一緒にエリザが消えていった。
待つのは慣れている。
腕を後ろに回して組み、エリザが消えていった扉を黙って見つめる。
「なっ!」
足元が揺れ、扉から光が漏れる。
「地震かっ!」
地震で怖いのは倒壊と火災だ。
しかも今は地下、すぐにエリザを外に出さなくては、扉に手をかけるも開かない。試験中だからだろう。
ならばとドアノブに剣を振るう。
堅い金属欠片地面におち鍵の部分を壊した。
すぐに蹴飛ばし扉を強引に開けた、真っすぐの廊下を走って最後の扉前につくと……。
「っ!」
ゴン!
俺の体が最後の扉にぶつかった。
突然開く事を想定するのを忘れてしまったのが敗因だ。
受け身をとって前を向くとエリザが立ってる。
「オズさん! 試験クリアしました!」
「……ご冗談を」
俺はエリザの後ろにいる顔色が悪い試験官を黙って見つめた。
「まぁそのなんだ…………ええっと、試験は合格!」
「賄賂ですか?」
「ちげえ」
「色仕掛け?」
「この嬢ちゃんに色なんてないだろ」
「へげっ!」
確かに。
若いと言っても一七歳を少し回った所、胸もあるわけではないし、色気も少ない。
「オズさん! 合格です、ご、う、か、く! 聞こえていますか!」
「勿論聞こえています。どんな手を使ったのか教えていただけると幸いです」
「どんなって……普通ですよ普通! ですよね試験官さん」
「そ、そうだな普通だったか……だったな。あれだ、伸びしろがある! って事で女性冒険者が少なくてそのせいもある」
おいお前、さっきは女性冒険者が不幸になるのを見たくないって言ってなかったか?
「ですから、約束ですよ約束。もう少し一緒にお願いします」
「そうですね、約束は守ります。冒険者試験合格おめでとうございます。わたくしは試験官さんとお話があるので」
問い詰めてやる何かあったはずだ。
「よかった、オズさんも嬉しそうで。試験官さんでしたらもう階段あがりましたけど」
「ちっ!」
「へげっ! そんなに露骨に下打ちしなくても……」
「舌打ちは気のせいですよ? チーズケーキでも買わないといけませんね。と言おうとしただけです」
「本当ですが! オズさん優しいー」