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第5話 銀狼と呼ばれていた犬

 盗賊から譲り受けた馬を使い、国境の砦へと入った。

 先に走っていたオズ爺と再会し、エリザが馬車にいない事を大変に謝られられた。

 あれはオズ爺の責任ではない、降りたエリザが悪いのだ。


 その事をオズ爺と話していたら、馬車に乗っていてと言わないオズさんが悪いのです。と言い切られた。最終的にはオズ爺も俺の顔を見てそうだな。と納得しだしたのでたちが悪い。


 たまには孫に会いに来い。とオズ爺に言われ握手をして別れた。

 はて? オズ爺に孫などいたのか? とうとうボケ始めたか。



「で、その帝国領って入っても景色全然かわりませんね。最初はどこに行くんですか?」

「そうそう直ぐに変わる物ではありませんからね。基本的に帝国も王国も友好国です、どちらも歴の数え方が違いますね。

 最初は近くのヒュンケルトへ向かう事になりますね。帝国の玄関となる街の一つです」

「楽しみです」



 一応は馬車を借り切っての移動である。一般の移動馬車でもいいが、エリザを乗せて変なトラブルは避けたい。

 着きました、と御者に言われて馬車の旅も終わる、箱型の馬車の外にでた俺の鼻に様々な匂いが入ってくる。



「あまりいい匂いではありませんね、エリザ。手を貸しましょう」

「ありがとうございます、そうですか? 普通の匂いですけど、なんでしたら私の部屋のほうがくさかったですし」

「メイド長やわたくしなど掃除してましたよね?」

「あっええっと、はい。綺麗でした」



 なんとも歯切れが悪い。



「でも! ありがとうございます! これで楽しい第二の人生です」

「第二の人生ですか……」



 まぶしい笑顔に俺は立ち眩む。

 あのエリザが俺にお礼を言う日が来るとは……出来て当然、出来なくて嫌味を言う奴だった、記憶障害というがもういっそ記憶戻らなくてもいいのでは。と思ってきた。



「オズさん? 大丈夫ですか?」

「ええ……エリザの笑顔が綺麗だったもので」

「や、やだーもうーお世辞がうまいんですから! 早く冒険者ギルドにいきましょ!」



 俺の手を強引に引っ張ると街中へと入っていく。

 エリザは直ぐに立ち止まり俺の顔を見て来た。



「ギルドってどこ?」

「恐らくあちらでしょう」

「すごい! オズさんって何でも知ってるんですね」



 答えるのが面倒で俺は黙って案内地図を指さした。

 エリザは、意気消沈した顔で、そうなんだ……。と、呟き始める。

 俺は辞書ではないし何でも知ってるわけじゃない。


 街の中心部から少し離れた場所。

 安宿や飲食店が並び、よだれを拭きながら歩くエリザを引っ張るように歩かせる。

 一度でも、食べたい。と言えば買ってくるのだが、何も言わないので俺も判断に困りながらだ。


 以前は主人の気持ち先に感じて買うのが執事の役目よ! とののしられ、いざ先に買うと買うと食べたくもない物食べさせられる可哀そうな主人よね。と嫌味を貰う。



「うわー想像通りの古さ」

「エリザ、そういう事は思っていても口に出さないほうが良いです」



 実際古いのはしょうがない。

 国境付近のこの街付近では魔物などが多く、それを討伐するのにギルドが立ち上げられた。建物を安くする分、周りの討伐に力を入れた結果だろう。


 ギルドに入ると、談笑するスペースを使い昼間から酒を飲んでいる冒険者が俺達を見る。



「へげっ昼間から飲んだくれがいます」



 なるほど、記憶障害といっても思った事を口に出す性格はそのままか。



「エリザ。実力不足から例え受けれるクエストが無いとはいえ昼間から酒を飲んでいる人間をけなしてはいけません」

「私でもそこまでいってませんよ、オズさん」

「ただ、飲むなら外のほうがいいのにって」

「外で飲むにはお金がかかります、ここでしたら暴れない、他の冒険者に迷惑にならなければ追い出されませんので」



 一部の冒険者が俺達をにらんでくる。

 席を立って暴力に訴えてくるか? そしたらお前らも追い出されるぞ? と意味合いも込めて視線を返す。



「何か?」



 一言いうとなんでもねえ。と目線を外してきた。

 弱い獣こそ突っかかってくるものだ。



「さて、冒険者になれなかったら素直に針仕事をする。という事でお間違えないですね」

「うんっ! 冒険者になれば、変な家行かなくても針仕事しなくてもいいのよね」



 何所にそんなに自身があるんだ。



「はい、近年では誰でも冒険者になれる制度は廃止されました。少なからず試験があり実力を見極められランクがつきます。上から……はまぁ、説明しなくてもいいでしょう、受かってからという事で」



 どうせ落ちるんだ、説明しても仕方がない。



「はいっ! お願いしますオズヴェルト先生」

「先生はいりません。かくいうわたくしも冒険者カードは持っていないですし」



 近くのカウンターに行き職員の顔をみる。



「なっ! 銀狼!」

「……オズヴェルトといいます。どこかでお会いしましたか?」

「王国に出張してる時に遠目でみました……帝国領ヒュンケルトの冒険者ギルドにいかなるご用で」

「はいはいはーい! オズさんって銀狼って呼ばれているんです?」



 ちっ、また面倒な事を。

 先ほどの酔っ払い達が俺達の会話を盗み聞くように静かになる。



「ああ……白銀の長髪に、その身の動かし方、最後まで闘争心を忘れない狼のような男で、銀狼と呼ばれている……もっともその銀狼も、首に鎖を繋がれて犬になったと噂されていたのだが」

「オズさんってすごい人!?」



 噂だけが先行している。俺自身は凄くはないし最後まで闘争心を忘れないの所は、往生際が悪いだけだ、この長くて手入れが面倒な銀髪はエリザの趣味で伸ばしていただけでもある。



「近頃のスタッツ家の話は?」

「スタッツ家の令嬢が王族を侮辱して国外追放とか……なるほど、銀狼も解雇されたのか。

 極悪非道な女主人から離れられて冒険者の再開、しかしまた帝国領まで来てか。

 質問してきた隣の子は新しい彼女かなにか? ちょっと胸は小ぶりだが良い子そうだな」

「どうも、その極悪令嬢のエリザベートですっ」



 ギルド職員が数秒固まった後に俺に助けを求めて視線を送るが、助ける義理もない。

 エリザの顔は笑顔であるが、対象にギルド員の顔は段々と悪くなっていく。



「今日は冒険者の登録試験をお願いしに来ました」

「は、はい……」



 消え去りそうな顔でギルド員が手続きを始めた。


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