第4話 異常がないのが異常すぎ
「てめえ。良くもビリーを!」
俺達を囲んで来た盗賊の一人が叫んだ言葉だ。
こいつは馬鹿なのか、盗賊が名を名乗ってどうする。
いかにも雑魚な台詞を吐く盗賊であるが、油断はならない、後ろにお荷物が立っているからだ。
血なまぐさいのも見せないほうがいいのだろうか。
しかし、まてよ? エリザと出会った時はもっと血なまぐさい場所であったな。
盗賊の一人がお決まりのセリフを言うと、残った二人も馬を降りて囲んできた、魔法使い系はいなさそうだ、よし、俺一人なら撃退できるだろう。
ちらりとエリザを見ると呑気に盗賊を数えている。
「なんでエリザが馬車を降りているんですか?」
「へげっ。いやだって、オズさんが降りるから降りた方がいいのかと思って……だって盗賊を倒すんですよね? 手伝います! あの、顔が怖いです」
手伝えるわけがない。
「元からこの顔です、わかりました。絶対にそこを動かないでください」
「絶対に?」
「絶対です!」
「よくわかりませんが、そういうのであれば、私この場から動きません!」
素直に頷く姿をみると、戦闘中というのに少し感動する。
こんなに素直なら絶対に馬車から降りるな。と命令、いやお願いをしておけばよかったな。
「銀色の色男さんよ、そんな女守って動けないのにどうするつもりだ?」
「安心してください、わたくしは動きませんので」
動かない。俺はそう言い切ってから、リーダー格の男へと突進した。
「なっ奇襲かっ動かないんじゃなかったのかよ!」
「騙される方が悪いですね」
ち、このリーダー格の盗賊場慣れしている。
俺の攻撃を避けると、腰にある小瓶を投げ飛ばしてきた。俺の顔の横で小さい爆発が起きた。
「表情一つ変えずに突っ込むかね……」
「お褒め頂き光栄です」
俺の長剣と、リーダー格の盗賊の剣が打ち合う形になった。
早めに倒さないとエリザが危ない。
「その起爆弾あと何個あるんです?」
「教えるかよ!! ジャック右から攻撃だ!!」
左から迫ってくる盗賊の脇腹を蹴り飛ばす。
「なるほど、わざと反対側を言って相手を混乱させる、いい作戦です」
「てめえの戦い方を真似ただけだ」
二度目の打ち合いが始まる。
背後から襲ってくる剣をかわしながらだ、まだこちらに集中してくれる分は助かる、エリザのほうへ意識を向けさせたら面倒な事になるだろう。
「わたくし達は戦闘を好んでません、慰謝料もかねて、金貨の入ったカバンを投げましたし、それで引いてもらう事はできませんかね?」
「オレ様もそうしたいけどよ、どこぞのオツムの弱そうな女だろ? 遊んだ後に売り飛ばそうとな、そうすれば倒れた奴も報われるだろ?」
所詮は盗賊か。
エリザの新しい人生の日に多くの血を流すものでもないしな、その腕を切らせてもらう。
盗賊の利き腕を狙って剣を二度走らせる。
「なっ、てめえ! 今まで手加減してたな!」
「気のせいですよ」
後二人! 俺は振り返ると、黙って立っているエリザと目があった。
「…………何をしてるのです?」
「へげっ! 何って立ってまってますけど?」
「あの、少しは隠れるとか体を小さく丸めるとか」
これでは動かない的だ、危険極まりない。
「酷い! 絶対に動くなって言ったのはオズさんですよね! だから動きたいのを我慢して立ってたんですよ!」
「それは大変失礼しました。エリザならわかると思っての言葉だったのですけど次回からは説明いたします」
「そうですよ! 私悪くないですし!」
そうなのか? 俺が悪いとでもいうのかこの状況は。
っ!!
一瞬の隙をつかれた。
俺が最初に倒した盗賊がエリザの足を掴み、もう一人の盗賊がエリザの腕を取った。
エリザの胸を背後から掴み体を押さえつけ始めた。
「ボス! 捕まえましたぜ!」
「ビリー! ジャック! 良くやった。銀髪の護衛の兄ちゃん悪いな、形勢逆転だ。おっと、振り向くなよ」
俺の背後で人が起き上がる声がしだす。
執事、いや元執事たるもの取り乱してはいけない。と、俺はこの十年で勉強した。
「オズさーん。もしかして私捕まっちゃいました?」
「……そうですね――」
胸を触られているのに別に何とも思ってないのか淡々とした声で訪ねて来た。
捕まえている盗賊二人もエリザの、普通な返答に少し困惑した顔だ。
わかるぞ、俺もそうだし。
「――――ですが、安心してください。少し目を――――」
「じゃぁこっちは大丈夫なので! 後ろお願いします」
少し目をつぶって頂けると嬉しいです。その言葉を最後まで言う前にエリザが動いた。
胸を触っていた男の腕を引っ張ると体を一周させて遠くへ放り投げた。
足を掴んでいた男の手が離れた、今度はその男の両足を持って、そいつもぐるっと体を一周させて放り投げた。
「一歩も動かずに何とかしました! 偉いですよね!」
「ええまぁ…………」
背後から嘘だろ。と短い声が聞こえて来た。
一応は振り返るか。
「わたくしも少し考える時間が欲しいので、この辺で辞めませんか? 先ほど投げたカバンの宝石は渡しますので」
「お、おう。そうだな、ありがとうよ銀髪の兄ちゃん。今度は少人数の馬車みても様子みるわ」
盗賊の頭は、残っていた馬を一頭乗ると、エリザが放り投げた盗賊の方角へ走って行く。
それを見送り、エリザの側へと近寄った。
まぶたを指で開くと、赤い瞳の中で俺の姿が見えている。
口の中に指を突っ込んで喉などを確認する、その際にエリザが俺の指を噛んできたが些細な事だ。
体のライン、背中や尻に当たる部分を叩いたりもして異常が無いかを確認したが、異常はない。
「へげっ! オズさん。そのあちこち触りすぎです!」
「失礼しました。異常すぎますが、異常は無い様で……さて残された馬を借りましょう。帝国領で針仕事が待っています」
「はっ! 針仕事……いやーでーすー! いーやー! なんでも、なんでもしますから! 言ったじゃないですが、オズさんは味方だって!」
「味方ですよ、エリザが長生きでるように日々胃を痛めて頑張ってました」
どこで覚えたのか品の無い言葉を……。
針仕事がそこまで嫌であれば、盗賊に捕まっていた方が針仕事をしなくてすんだのだろうに。
「何でも……ですか」
「あっでも、服を脱げとかエッチなのは、心の準備が――どうしてもって言うのであれば、まぁ私も鬼じゃないですし興味が無いと言えば」
「失礼ですが、エリザの裸などは今更みても何も思いません」
エリザが七歳の頃から着替えを手伝っていたんだ。
さすがにここ数年は手伝う事は無かったが、それでも興奮などしない。
「やはり乳が少ないから……日記にも書いてあったし……」
「失礼ですが、一般的といっても貴族の中では普通にあると思います」
「へげっ! オズさんってとっても変態!」
なぜにだ。