第3話 VS盗賊と銀狼
「オズさん! 外からの風が気持ちいです!」
「それは良かったです」
何所までも能天気なエリザベートを見て再び窓の外を見る。
正式に恩赦扱いで国外追放されたエリザベードお嬢様、それに付き添う形となった俺とともに豪華な馬車で移動中だ。
慌ただしい物でエリザベードお嬢様が目覚めたのが昨夜、翌朝にはすぐ退去しろ。と城からの使いが来たのだ。
「さて、もうすぐ国境が見えてきます。そこを抜けると帝国領に入りますね」
「あっパスポート忘れた……」
「何の話でしょう? パスポート?」
「あ、この世界ではいらないのね。ええっと、そうアレ! 冒険者カードみたいなやつ。冒険者カードってあるのよね、日記にも書いていたし、何となくですけど最近過去の事思い出してきたんですよ!」
冒険者カード、冒険者ギルド発行のレアミスリルを元にした魔法加工されたカードだ。
個人の名前や冒険者ランクが書かれており、様々な事で役に立つ。
「ありますけど、エリザベートお嬢様には必要は無いですね」
「え。オズヴェルトさん……なんで? 私は冒険者になるんじゃないの?」
「オズで結構です」
昨日からオズヴェルトさん。と、聞きなれない。
「記憶が混乱する前のエリザベートお嬢様は、わたくしの事をオズ。と、呼んでましたので、その方がよろしいでしょう」
「でも日記にはフルネームで……ああ、うん何でもないです。それでは私の事も……名前で……へげ?」
「どうかなされましたか?」
「いや、名前が思い出せなくて……」
今の今までエリザベートお嬢様と呼んでいましたよね? とは口にださない。
「で、でも、そんなお嬢様呼ばわりされる身分じゃないですし」
そういう身分だろ。
黙っていると、元気よく話しかけてくる。
以前のエリザベードお嬢様と正反対だ。以前は会話することもなく、手や視線だけで駒を動かした。
「フルネームで呼ばれるのが嫌であれば、短く呼びましょうか?」
「短く。そうです! エリザで、エリザで大丈夫です! これからはパートナーとして一緒に頑張りましょう!」
頑張るのはお前だ。
「わかりました、エリザ。これでよろしいですか?」
「はい、お願いしますオズさん!」
そこは敬称つけるのか。
まぁ本人がいいならいいだろう。
「話を戻します。恩赦で国外追放とはいえエリザは貴族、いいえ貴族の身分すら剥奪された元貴族です」
「元貴族、響きがかっこいいですね」
何を言っているんだ……。
能天気もほどほどにしてほしい。
「続けます。そんな人間が冒険者など……エリザは冒険者の生活を知っていますか?
空腹や寒さに耐えながらドブの掃除や、探し物、酔った男性の介抱など様々です。
女性であれば聞きたくもない言葉すらかけられるでしょう。下手をしますと魔物退治やいえ、同じ人間に襲われ命を落とす」
エリザが少しむくれ始めた。
もうお嬢様では無いのだし、これぐらい言ってもいいだろう。
しかし、むくれるとは感情豊かになったものだ。
以前の目を細めてうすら笑う姿を思い出す、付き合いの長い屋敷の人間なら既に警報発動とわかるが、外ではその笑顔が評判で数々の人間が泣かされて来た。
「じゃぁ錬金術師……」
ほう、冒険者の次は錬金術師になりたい。と、馬鹿言っては困る。
「失礼ですが、錬金術師というのはエリザが思っているほど簡単な職業ではありません。
魔力持ちの人間が多い職業で、その魔力を道具にいれ様々な薬品を作ります。作業も地味ですね。代表的なのはポーションなどですが、作る人が多く手間の割に売れ残ります。
とはいえ、その反面危険なアイテムを作れば高くうれますが、犯罪となり捕まったりもします」
さらにむくれ始めた。
現実を見ろ。
「じゃぁ以外な所で魔法使い」
魔法使い!? まだ国を作る独裁者になる。と、言ったほうが希望がある。
「魔法使いとは、魔力量が物を言います。冒険者にもその職業いえ、ジョブは多いですが三年前に魔法学園の魔力判定でブチ切れたエリザが何をしたか覚えてますか?」
「な、なにをしたの!?」
「魔力判定に納得いかなく試験官を首、その家族をギロチンにかけました」
「へげっ! まじでっ!?」
「もちろん、未遂で終わりましたけど」
「良かった……で、でもこれでも魔力あるんですよ、いや増えたんですよ」
「世迷言は聞こえません」
貴族であれば、無茶な命令も出来るだろうが、もう、エリザは貴族ではない。
数日前のエリザ。いやエリザベードお嬢様が錬金術師になりたい。と言えば俺は最善を尽くしただろう。胃を痛めながら。
「じゃぁパン屋さんか宿屋!」
「失礼ですが、パン職人というのはエリザが――」
「へげああああああああああああああああああああああああああああああああ」
あまりの奇声に馬が驚いたのだろう、馬車が何度も上下する。
それでも御者は文句を言わず暫くすると馬車が落ち着き始めた、さすが御者生活五十年、スタッツ家に仕えるオン爺だ。
「夢を壊さないでください! どうしろって言うんですかっ!」
「ですから、管理された家とメイド達がありますので、そこで細々と領地に戻れるまで針仕事ですかね。四十年も我慢すれば恩赦はあると思いますよ」
そもそも貴族の国外追放なんてめったにない。
過去にある事はあるが、それもすべて他の貴族の保護の元、他の貴族と結婚したり愛人になったり部下になったりと一般庶民に落ちるような人間はいない。
「ご理解いただけましたか?」
「…………だ…………嫌だ! 折角のセカンド人生です! せめて冒険者ぐらいになって暮らしたいです! それに目的もあるんです!」
どうせろくな目的ではないのだろう。
「では、冒険者になって何をしたいのですか? S級を目指す。お金を稼ぐ。名声を稼ぐどれも十年、二十年で成功するとは思えません」
「うぐぐぐ…………オズさん、嫌いです!」
嫌いと来たか。
「別に好き嫌いで付き合っているわけではありませんから。
そもそも、ノリス様。わかりますか? エリザの父に無事送り届けると依頼を受けていますので、それが完了しましたら視界から消えますのでご安心を」
「へげっ。やだ」
こいつは……記憶障害と言っていたが嘘なんじゃないか? 口調は大人しくなったが、わがままなのは変わらない。
馬車の速度が極端に早くなった。
「オン爺、何事です」
「銀狼の旦那すまねえ。盗賊だ! 逃げ切れるか…………」
「銀狼ではなくオズヴェルトです」
「へ、どっちでも同じでぇ」
まったく違う。
訂正をしたいが、訂正する時間すら惜しい、情報が筒抜けか。
馬車窓から外を確認する、馬に乗って、わざとにボロ布をまとった人間が五人。
こっちの馬車を囲むようにして並走しようとしている、逃げ切れないか。
「エリザ! 顔を出さない様におねがいします」
「オズさんオズさん。あっでもあの人、手を振ってますっ!」
嬉しそうに喋るエリザは後にして考えろ、こちらは足手まといが二人。
戦闘できるのは俺一人。
対して相手の先行部隊は七人、後続に十人はいるかもしれない。
まともに相手をしていれば馬車を強引に止められて袋叩きだ。
俺とオン爺を殺した後にエリザが何をされるかは考えたくもない。
仕方がない金銭で済めばいいが……馬車の中にあるカバンを馬車から放り投げた、途中でカバンの口が開き、中にある金品がちらばり馬車から離れていく。
「へげ! 大事なお金が! オズさん、取ってきてくださいよ!」
盗賊の四人がそのカバンへと注目して馬の脚を止めた。よし、これで馬車を追っているのは三人だ、だったら後は追い付かれてもなんとかなるだろう。
「オン爺」
「なんじゃ!!」
「わたくしが追っ手を止めますので、エリザを……ごほん。エリザベートお嬢様を国境の警備隊までお願いします。なに、ゆっくりと追い付きますので」
「ふん! このワシを老いぼれと思って……」
どうみても老いぼれだ。
「オン爺、一瞬でいいので馬車の速度を落として、今から十秒後に私はおりますので後は一気に走って下さい」
「銀郎の小僧!」
「わたくしは…………オズヴェルトという名があります」
オン爺が死ぬなよ。と言うと、馬車の速度が下がっていった、追っては左右と後ろに分かれて馬車を囲もうとするが人数が足りない。
「え!? へげ!??」
「と、いう事ですので、お達者で」
エリザに一声をかけて馬車から飛び降りた。全身で受け身を取って腰の剣を引き抜く。
近くに来ていた盗賊の馬へと突き刺して、盗賊を一人地面へと叩き落とした。
相手の腹を全力で蹴り飛ばす、骨の折れる音が足に伝わる、俺の周りに残った盗賊が囲むように戻って来た。
「いたたたた……まったくオズさん! 降りるなら一言かけてくれませんか?」
俺の背中から何故かエリザの声が聞こえる。
振り向きたくないが振り向かずにはいかなかった。