第2話 二人に告白されるオズヴェルト特務執事
朝の使用人室。
屋敷内で働く使用人の休憩所みたいな所だ、ここで食事を取ったり朝の打ち合わせなどを行ったりする。
いつもの席に座りいつも珈琲を飲みながら静かに朝食をとる。
周りでは、冒険者ギルドの事や、迷宮ダンジョン。どこそこに魔物がでたや、聖女様が現れたとかの噂話を黙って耳に入れる。
馬鹿みたいな話が多いが一応耳に入れておくと役に立つことがたまにある。
「おはよ。鉄仮面」
ちらりと目線を向けると、金色のバッジをつけたメイド姿の女性が俺を見てはニヤニヤしてきた。薄いブラウンの長い髪を頭の後ろで縛りキリっとまとめ上げている。
この女のも毎日毎日飽きもせず悪質な嫌がらせをするものだ。俺にだけ乱暴者のこいつは、他の使用人やこの屋敷の主人から評判がいい。
「…………メイド長ですか。わたくしはオズヴェルトという名前――――」
「はいはい、こっちも十年の付き合いなんだし毎日同じ言葉聞きたくないわよ。同じ使用人仲間なんだし昔みたいに、もっと砕けた言葉でいいのに」
「これが素ですので。なら言わないでください」
そのほうがこっちも助かる。
「まぁいいけどね。うちの大魔王が国外追放でしょ、この家も終わりね。あんたどうするの?」
「エリザベードお嬢様の事でしたら名前でお呼びになって下さい」
「はいはい」
「家であれば、婚約はなくなりましたが、国外にいる義妹のリリー様が要職に就く事が決まってますで大丈夫でしょう。今回の国外追放はエリザベードお嬢様を遠ざける命令だけですし、恐らく別の婚約相手をあてがうのでしょう」
「貴族の娘って不憫ね……結婚相手も自由に選べないとか」
メイド長は嘆息をこぼす。
「その代わりの生活の保障ですからね、それにしても大魔王とは――」
「だって、行動が大魔王じゃないの、で。結局アンタはどうするの? はぐらかされたけど」
俺から見たらなぜ大魔王と呼ばれているのがわからんが、陰口でそういわれている。
別にはぐらかしていない。
「そうですね……わたくしの立場は、使用人でありながら、本来の使用人でもない。エリザベートお嬢様付きでしたからね。その契約はエリザベートお嬢様が婚約するまででしたし、契約は既に終わっています。これを機に外にでるのもいいかもしれませんね」
「…………じゃぁさ、私と一緒にならない?」
それまでペチャクチャとうるさかった使用人室が何故か静かになった。
メイド長言ったあああああ!
うわっ! まじで!
そりゃ言うなら今だろうな。
出ていくだろうし。
がいげんだけはカッコいいのよね、あの人。
など小さい声が聞こえてくる。
「なりませんね。ではエリザベートお嬢様を起こしてきますで」
素早く口を拭くと俺は立ち上がる。
なぜか固まったままのメイド長を置いて部屋をでると、誰か医者を! 衛生兵ー! など他の使用人の声が聞こえて来た。
大げさな、そもそも冗談の告白ごっごに医者も何もない。アレは何かにつけて俺をからかって遊んでいるだけだ。
エリザベートの部屋の前に来て軽く扉をノックする。
直ぐに開けられると俺の顔見てはにへらーとした顔をしだした。
「何が?」
「な、なんでもないです」
「おや? 日記ですか?」
俺はエリザベートが手に分厚い鍵付きの本を持っているのに気が付いた。
「そう。生前エリザベートは日記を書いていたのです! えらい!」
生前もなにも今お前は生きているだろう。
「やはり毒をのんで頭がおかしく……」
「あ、ええっとあの、はい。すこーし、すこしだけ記憶障害と言いますが、記憶が飛んでおりまして」
誰に説明してるのが俺に言い訳をしてくる。
「なるほど、でしたら一生記憶障害のほうが良いかもしれません」
俺としては少し寂しいが世の中のためにはいいだろう。
「それはどういう意味でしょうが!」
「事実を言ったまでです」
「おかしい、日記にはもっと優しいって書いて……それよりオズヴェルトさん!」
「なんでしょう?」
俺が返事をするとエリザベートは突然黙りだす。
「あの、私が私でなくてもオズヴェルトさんは味方ですか?」
「……言っている意味がわかりませんが」
「ですから、少しでいいんです。追放された先で手助けしてほしいんです」
「なるほど。そうですね……お願いですか……以前のエリザベートお嬢様なら命令をして来た事でしょう。わかりました、特別使用人としての契約は終わってますが、いいでしょう」
俺とエリザベートは古い約束で付き合っている、それ以上でもそれ以下でもない。
俺がエリザベートの召使いになる代わりに、エリザベートは俺の妹を助けてくれた。
ただの気まぐれとしても、それで妹が助かったのだから事実だ。
それにしても、本当に記憶障害なのか? 先ほど調べた感じ普通のエリザベートに思える。
魔物が変化した姿には見えないが、試しに少し斬って確かめるか? 他の使用人ならまだしも俺だったら、まぁ罰も少ないだろう。
エリザベートが背中を見せた時に俺は剣の柄を握った。
まるっきり無防備な背中だ。
エリザベートに化けれるほどの魔物なら俺の小さな殺気に気づくはず。
くるりとエリザベートが振り向いて来た。
「っ!」
「ええっと、どうかしました? いやされました?」
「いいえ、ノリス様がお待ちでしょう食堂へいきますよ」
「昨日の場所よね! 私知ってる!」
知ってるからなんだ。当たり前だろう……それにしても偶然に後ろを向いただけか?