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よろしくお願いします。
暫く経つと。
ネズミ位の大きさになった。
今までのねぐらが使えないので、リビングにある飾り棚の上。
優秀なハンター達が入れないように、柵を作り段ボールで寝床を作った。
ネズミ位の大きさになると、コミュニケーションも取りやすくなった。
仕事に行く前は「いってらっしゃーい」と見送り、帰って来ると玄関でホバリングをして「おかえりなさーい」と待っていた。
朝食は一緒に食べながら、「今日は定時ダッシュで帰る。」とか、「今日は少し遅くなる。」とか、人間だった頃の会話をした。
お昼ご飯は一人じゃ作れないので、大抵菓子パンが買ってあって袋から出されていた。
(キャットフードは諦めたらしい)
夕食も一緒に食べた。
作って貰うのに文句は言えないが、もう少し白いお米のご飯が食べたいなぁ。と思った。
お風呂も一緒に入るようになり、食べ物が身体についたべた付き感も少なくなって来た。
ただ、身体が小さいので直ぐにのぼせ、先に出ることが多かった。
お風呂から出るとタオルが出してあって、最初は拭かれる事が多かったが、最近では自分で拭いている。
あーちゃんは宵っ張りで遅くまでリビングに居る事が多く、その姿を飾り棚の上から眠い目を擦りながら眺めていた。
…………………
昼間、退屈し始めた。
人間だった頃は、ネットやゲームをやっていた。勿論家事もやったが、そう言えばパートで働いていたんだった…。
あー。こんな事も忘れてしまうなんて…。
この家で生きることに必死で(主に優秀なハンター達と戦っていた)、今までこんな気持ちになった事がなかった。
命の危険がなくなるのは、それなりに心に余裕が出来るんだなぁ。と思った。
…………………
ある休みの日に。
「ドライブに行こう」と誘われた。
久しぶりの外出で喜んだ。
外出するので首輪を付けられそうになったが、断固拒否した。
(いつの間に買っていたんだろう…。)
ただハーネスはすることにした。
座席に座ると全く外の景色が見えない。
ダッシュボードに座ると日光がガラスを通して直撃だからあぢい。
結局、人の座高ぐらいの高さの段ボールの上にまた更に小さな段ボールを重ね、出入り口用の小窓を開けた。
座席のシートベルトは、重ねた段ボールを斜めに留めた。
この作業でいくらか時間がかかってしまった。
まだ手直ししたかったらしいが、天気の良い中ドライブに行き損ねるので諦めたらしい。
―――――
あーちゃんは林道を走りなるべく誰も居ない場所へ向かった。
得意分野だ。
車が市街地を抜け、林道に入った。
空気がちょっと変わる。
道幅が狭くなり車が不規則に揺れる。
鳥の声や山の谷間に景色が広がる。
暫く走ると林道の行き止まりに着いた。
「イタッ。着いたよ。」と声をかけられたので、段ボールから出る。
行き着いた場所は林が広がり、木々から光が零れ、葉っぱが重なり合う所がそれぞれ濃さが違い、市街地では見られない景色だった。
「ここなら誰にも見られないから、自由にして良いよ。ただ、呼んだらすぐ帰って来るんだよ。」と言いながらハーネスを外した。
ハーネスを外され、思いっきり翼を開いた。
翼に精気がみなぎってくるのが分かるような気がした。
翼を動かしてみる。
家では味わえなかったようなしっかりした動きになる。
「飛んでおいで!」と声をかけられる。
その場で翼を何度か羽ばたき、ぴょんと飛び上がりそのまま翼に空気を溜めて飛び上がった。
『助走もつけないのに良く飛べたなぁ。』と思ったけど、そう言えば助走をつけて飛び立つドラゴンって、見た事ないなぁ。と思った。
部屋ではあまり飛べなくてよたよたになるが、ここでは思いっきり飛ぶことが出来た。
あーちゃんを中心にぐるぐる回ってみる。
スピードも結構出る。
どれだけ高く飛べるんだろうと垂直に飛んでみる。
あーちゃんの頭が段々小さくなる。
調子に乗って高く飛んでいると、途中で呼吸が苦しくなった。
ちょっとやばいから戻ろう。と思い途中まで戻りかけた時。
そのまま気を失って落下した。
――――――
気がつくとあーちゃんの掌の中で、もの凄く怒った声で目が覚めた。
『いやぁ~。心配してくれているのは分かるけど、ドラゴンになって飛ぶの初めてだから。』と心の中で呟く。
ドラゴンって強いんだなー。あんな高い所から落ちたのに、ケガ一つしていない…。
その後はあーちゃんの周りを飛ぶ程度にしてあまり遠くには行かなかった。
山の空気をたくさん吸って、家の中でくすぶっていた気持ちもちょっと晴れやかになった。
◇ ◆ ◇
直ぐにネズミから一回り大きいリス位の大きさになった
リス位の大きさになると、優秀なハンター達に威嚇が出来るように様になったが、飛び立つ時に飛びかかられて何度か危ない目にも遭った。
ある夕食が済んだ後、人間だった頃の私の部屋に連れて行ってくれた。
部屋はそのままだった。
イタッに会ったらすっごく喜んだ人の部屋だよ。と言って笑った。
カレンダーも本もテレビも何もかもそのままだった。
この部屋もねー。
何とかした方が良いのかなー。
イタッが来るまでこの部屋にも入れなかったけど…。
……………
おくさんはこの部屋が出来た時凄く喜んでね。
この部屋が出来てからこの部屋にずーっと居てね。
夕食食べた後は直ぐにこの部屋に籠もって、次の日の朝まで出てこなかったんだ。
この部屋、僕がおくさんの趣味に合わせて作ったんだ!
凄く気に入ってね。本当に一日中この部屋にいたよ。と自慢げに話した。
(まぁ。その通りなんだけど…。)
話を聞きながら部屋の中を飛び回った。
この部屋にもキャットウォークがあって、優秀なハンター達に狙われていたが、身体がちょっと大きくなったのと、何よりあーちゃんも居るので自由に飛び回る事が出来た。
なんだか懐かしくて「ぽえ~。」とちょっと変わった鳴き方になった。
机の上に一旦降り、壁に飾ってある写真まで飛んだ。
―――あーぁ。子供達の写真と二人で北海道に行った時の写真だね…。
………
………
………
下の部屋に降りようか…。
と言って掌を出された。
掌に乗って階段を降りた。
何だか静かな夜だった…。
やっぱりしゃべれないと難しいかな。と…。
取りあえずの目標は果たされないまま時間が過ぎていく。
ありがとうございました。