7
よろしくお願いします。
「あっぶねー」とか言いながらも掌から落とされなかった。
◇ ◆ ◇
何事もなかったかのように朝食を作っている。
今度は優秀なハンター達からしっかり守るように、掌から肩に乗せられしかも鼻歌まじりで朝食を作っている。朝食は「ホットケーキ」だ!
――――あれ?
今日って何曜日なんだろう…。
仕事は休みのようだし、朝食に「ホットケーキ」だからは週末かな~。
ホットケーキが大好物のあーちゃんは週末になるとよく作ってくれていた。
最近まで「美味しい」と言ってよく一緒に食べていた。
最近まで…。
と言うのは、最近になって「ホットケーキは言うほど好きじゃない」と白状したのだ。
正直週末朝食を作るのが面倒だったのと、ホットケーキを作ることに殊更情熱を燃やしていて、毎回のように感想を言い合うのも、会話が弾んで中々楽しかった。
それから何年も経って感想を言うのも面倒になり、そもそもそんなに好きじゃない事もあり、「本当はホットケーキはあんまり好きじゃない。」と白状した。
……………
その時の驚き様はなかった!
きっと今までの「ホットケーキ」に関わる様々な歴史が走馬燈のように蘇り、「味についてあれこれ語り合った事」とか「今まで一番美味しかった味の事」とか全てウソ偽りなんじゃないか。と…。
――――開いた口が塞がらない。とは正にこの事だ!
かなり呆れらたようで、しばらくは子供達に会う度に言い付けられていた。
(ほんとごめん。)
そんな曰く付きのあるホットケーキも、その後も嫌がらず作ってくれていた。
それほど好きなんだろう…。
……………
そして今も上機嫌でホットケーキを作っている。
分量は二人で一緒に食べていた頃と変わらない。
同じように鍋敷きとフライパンと一人分のお皿とナイフとフォーク。
それと小皿。
自分のお皿にホットケーキを取り分け、いつものようにバター、蜂蜜、スプレー缶の生クリームをプシューッと形良く丸く乗せ、そこから更に小皿に取り分けた。
既にテーブルの上に降りている目の前に、ホットケーキが取り分けられた小皿を置かれた。
………………
―――『イヤ、だからさぁ~。この甘いホットケーキとか、蜂蜜とかが苦手なんだよね~。』
『これって絶対、全身蜂蜜になるか、生クリーム塗れになるよね…。』
ラーメンのようにかぶりついて食べないのを不思議に思ったようで…。
「食べないの?」と聞かれた。
てへっ。って見たけど、分かったかなー。
食べますけどねー。ともそもそと食べ始める。
「食べっぷりが良くないからあんまり好きじゃないのかな? 実はね、おくさんもホットケーキ好きじゃなかったんだよー。」
………………
『本人ですから知ってます。』
………………
おくさん、ついこの間死んじゃったんだ。
とボソリと言った。
帰って来たら倒れててさぁ。
直ぐ病院に行ったんだけどね…。
緊急手術とかもしたんだけど…。
―――なんかねぇ。やるせなくて…。
お通夜とかお葬式とか全部終わって今は忌引き中。
そんな時、イタッに会うなんてねー。
おくさんに見せてあげたかったなー。
………………
『―――結構へこんでるなー。まぁ。そうだよねー。』
………
『人ひとり死んじゃったんだもんね。そりゃぁ。想像もつかないくらい大変な思いをしたんだろうな…。』
………
………
………
………!?
『―――それなら、本人だって気づいて貰いましょっかー!』
当面の目標は出来た!
しっかし、しゃべれないしなー。まぁしゃべれてもねー。って感じだよね~。
まぁ。折角また会えたあーちゃんとまた幸せに暮らしたいし、あの優秀なハンター達も…。 仲良くなりたいしなー。
ちょっとやる気が出て来た!
………………
ホットケーキを食べ終わるとテーブルの上を片付けてパソコンに向かっている。
食事をする場所もパソコンに向かう場所も同じテーブルだ。
パソコンを覗くとドラゴンの事を調べているらしい…。
パソコンを見ながらあーちゃんの指を枕に眠ってしまった…。
食べて直ぐ寝たら太っちゃうのにな~。と思いつつ爆睡した。
昼寝なのに随分深い眠りだった。
………………
起きると驚いたような顔をして覗き込んでいる目と合った。
起き上がるとちょっと身体が重くなった様な気がする。
キッチンまで行って水を飲もうと、いつものようにジャンプしても身体が重くてうまく飛び上がらない。おっかしいなぁ…。と思いつつ何度もジャンプした。
―――「大きくなってるよ!」ともの凄くびっくりして、興奮しながら言われた。
鏡を出されて見ると直ぐに分かった。極小だったのがカナブンくらいに大きくなっている。
ほぇーーーーーーーーーーー!と叫び、火も噴いてしまった。
カナブンくらいの大きさで噴く火は少しだけ威力が増していた。
びっくりだよ! びっくり!
なんか変な汗が背中に流れている。
このままどんどん大きくなって、いつかあーちゃんの背も追い越し、あの物語よくに出てくる位の凄まじく大きなドラゴンになるんだろうか…。
あっ。
待てよ。
そうしたらしゃべれるのかな?
もしかしたら変身とか出来るのかな?
イヤイヤイヤ、そんな良いことばっかりじゃない…。
そんな巨大になったらそもそもこの家で暮らせないんじゃないか…?
……………
たくさんの疑問や不安が一度に頭に流れ込んで来た。
落ち着いて頭を冷やす為に、ねぐらに戻ろうとしたらこのままではクローゼットの隙間を通れない事が分かった。
何度かジャンプして飛べるようになったので、あーちゃんに「ほぇ~」と訴えながらクローゼットの隙間まで重たい身体でよたよた飛んで「入れない」アピールをした。
何を訴えているのかようやく分かったようで、段ボールで何か工作を始めた。
優秀なハンター達の餌食にならず、尚且つ自分で出入りが出来る場所に新たなねぐらを作ろうとしてくれている。「もしかしら、もっと大きくなるのかなー」と不安を煽るような独り言も言っている。
……………
『怖いよねー。そんなの私だって怖いよ。どうなっちゃうんだろう…!?』
ありがとうございました。