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よろしくお願いします。
直ぐに後ろの扉が開き目の前にハンカチが置かれ、「ここで寝れば?」と声をかけられ気絶するように爆睡した。
◇ ◆ ◇
気がつくと天上に光が差し込んでいるのをぼんやりみていた。目が覚めたらしい。
身体中ベタベタしてシャワーを浴びたかった。
本当は湯船にゆっくり浸かりたかったけど、何しろしゃべれないのであーちゃんに頼むのは難しいなー。と思った。
取りあえず洗面台に向かう事にした。
もしかしたら洗面器にお湯をためて風呂まがいの事が出来るんじゃないかと期待もした。
いつものように天上近くへジャンプして身を乗り出す。
今までどこで鳴りを潜めていたのか(たぶん2階の寝室か元私の部屋)、優秀なハンター達がキャットタワーを陣取っている。
―――どうやって洗面台まで行くかなー。
部屋の南側、窓がある所にはキャットウォークはない。
ないが…。
猫用吊り橋は部屋を横断しているので、どこを通っても吊り橋の下を通らざるを得ない。あーちゃんは嬉しそうにこの吊り橋を作っていたけど、こんな姿になったらこんなに厄介なものはない。
吊り橋の下を通る時、床からジャンプされると逃げ場がない。でも橋の幅はそんなに広くないから大丈夫かな。と思い、タイミングを見計らいながら橋の下を通る事にした。
南側の窓に添ってよたよたと飛び始めた。
……………
……………
―――そして今まさに吊り橋の下に差しかかったその時…。 あーちゃんが起きて来た!
ぐっとたいみんぐ!
今までこんなに嬉しかった事はない(結構大袈裟)。
命の危険を冒してシャワーを浴びる。あまつさえ湯船に浸かるなんて、今までの人生で経験したこともないこの危機的状況の中。本当に良かったよ~。助かったよ~。うるうる。
優秀なハンター達はごはんやり機が起きたので、お皿が置いてある場所へさっさと軽やかに飛び降り、「ご飯をくれー」「これじゃないヤツくれー」と足下にまとわりつく。
「まだ残ってるよぉー。」と言いながら、それぞれのお皿にキャットフードを入れている。
………………
なんか昨日より飛ぶのが一層鈍くなった。
えっ?
太った?
ドラゴンって太るの?
―――ドラゴンになっても太るのかぁ。
ダイエットが必要なのかなー。とため息が出た。
優秀なハンター達がご飯に気を取られているお陰で、よたよただけどどうにか洗面台まで行けそうだ。
途中あーちゃんとぶつかりそうになり、驚いたようにこちらを見て「夢じゃなかったんだ」と呟いた。
『夢じゃないよ~』と心の中で呟き「ほえぇ~」と鳴いた。
名前まで付けた癖に…。忘れたんかい! とちょっとキレ気味にそのまま洗面台へ向かう。
不思議そうな顔して後ろから付いてくる顔が鏡に映った。
洗面台に着いて排水栓のレバーを見ると洗面器の横に付いていたので、押すことは出来ない。
そこでレバーの周りをよたよた飛びながら「押して~。」と叫ぶが、勿論「ほぇ~。ほぇ~。」と鳴く。
よく分からなかったようだが、排水栓のレバーに手を置きながら「これを押せば良いの?」と聞かれたので、思いっきり頷いた。
お湯をためれば良いのかなぁ…。と独り言を言い。
「もしかして浸かりたいの?」と聞かれたので、「ほぇ~」と鳴いた。
「よく知ってるね~。」と言ったので。
『使ってましたから~。』と心の中で答えた。
そしてあーちゃんの物わかりの良さで、洗面器にお湯もたまったので思いっきりダイブした。
くぅ~。
何日ぶりかのお風呂ですよ~。
口から「極楽極楽」って言ってしまいそうになる。
タオルがあったら絶対頭の上に乗せるね! もう感動だよ~。
石けんがないので身体のぬめりはあまり取れないけど身体をごしごしと擦った。
気持ちよくお湯に浸かってまったりしている、まさにその時!
優秀なハンターが勢いよく洗面台に飛び上がった!
何が起こったのかと、異変を感じた方を見ると目が合った。その瞬間猫パンチが飛んで来た!
――――ぎゃーーーーっ!!!
一瞬の出来事だった。
鋭利な爪は身体に突き刺さす事はなく、身体を包むように爪が丸め込まれ猫パンチの勢いであっという間に飛ばされた。
飛ばされた先を狙う、優秀なハンターの身体を押さえてつけているのをスローモーションの様に見た。
いやぁ~。もうちょっと早く押さえようよ。
飛ばされながらそんな光景を割と冷静に見ることが出来た。
壁にぶつかったがそんなに衝撃はなかった。太ったとは言え身体が軽いせいなのか…。
そのままひらひらと重力に身を任せて落ちていると優秀なハンター達の良いにおもちゃにされるから、ここはばしっと重力に抵抗してよたよたと飛び上がった。
そこを直ぐに手の中に捕まえられて「ケガはない?」とか「食べられなくて良かった」とか結構物騒なことを言われた。
「今度はちゃんと見てるからもう一回浸かる?」と言われたけど、思いっきりぶるんぶるんと首を振って、ついでに火を噴いてしっかり断った。
「あっぶねー。」とか言いながらも掌から落とされる事はなかった。
ありがとうございました。