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今回完結です。
よろしくお願いします。
じゃ。とか。
野良ドラゴンにならないように。あっ。野良おかーちゃんか。とか。
ごそごそと憎まれ口を聞きながらそれぞれ帰って行った。
◇ ◆ ◇
取りあえず、目標は達成した。
自分だ。と言う事も分かって貰ったし、達成感と言うか、もう良いかなー。と何となく思った。
自分の変身技術がどんなものなのか、あーちゃんにPCで変身したい動物を検索して貰った。
詳細にイメージするとそのままの姿に変身できる。
昼間はあーちゃんが居ないため、PCを使うために猿に変身する事も出来るようになった。
しかし、人間の手、指。繊細だと改めて感じた。
何か掴めるんだけどね、でも上手く掴めない。
家事はねぇ…。
どうにも。
やろうと思えばそこそこねぇ。
家の中のあらゆる物が人間仕様なんで色々不便。
背が届かなかったり、物を掴む場所がなかったり、そもそも掴めなかったり…。
それに気持ちと身体が付いていかなくて…。
「驚く」とか「身体が勝手に反応する」とか、いくつもの試練を乗り越えてやっと何とか…。
人間の頃のように出来ないけど、生活するには困らない程度で…。
何とか生活にも慣れてきた。
生活にも慣れてくると不安な事が芋ずる式に出てくる。
ドラゴンに生まれ変わった目的は何だろう…。とか。
家族に会いたかったら、人間に生まれ変わっても良かったわけで…。
無駄にドラゴンって…。
やっと変身できるようになったのに、人間に変身できないって何?って感じで…。
あぁ!
もう…。
いやいや。このループに入ってしまったら負けだ。と思った。
そして、このままでも良い。と言ってくれた家族の顔を思い出す。
昼間家に居るのも段々飽きてきて、遠くに行かない。と言う約束を取り付けた。
一度猿に変身し猿だと分からないように洋服を着込み、扉の下のカギを閉め、庭に誰からも見えないところに物置を作って貰い、そこで猫に変身し木や屋根に登ってぼーっとする。と言うのを、最近の日課にしている。
外で昼寝をしている時、思わずドラゴンに戻っている時があったので、さすがにびっくりして最近は気をつけている。
……………………
子供用の包丁を買って貰い、猿に変身しなんとか簡単な夕食を作りあーちゃんの帰りを待つ。
その日のあったこととか、何に変身できた。とか、どこに行って来た。とか、どこの木が登りやすくて昼寝がしやすかったとか。そんなたわいのない話をしていた。
「変身するのは馴れてきたの?」
『変身するのには時間がかかるから、やっぱりドラゴンでいるのが一番エネルギーも使わないし、楽かなぁ。』
「そうなんだ。
猫ぐらいの大きさになってから随分経つけど、身体はもっと大きくなる気配とあるの?」
『うーん。
気配はないなぁ。
今は人間に変身できないけど、もう少し大きくなったら人間に変身できるかもしれないなぁ。とか思ってるけど…。どうかな…。』
「そうだな…。
死んじゃったと思ったのに、生きててくれて良かったよ。
それ以上のことは望んでないから。」
『うん。』
私はそれ以上のことを望んでいるのかな。と思った。
……………………
週末の買い物にも一緒に出かけた。
サバンナキャットと言う、飼いたかった猫をネットで詳細に調べ、変身することに成功した。
サバンナキャットは飼育は色々面倒なので、聞かれたらこう答える。みたいなことを予めあーちゃんに伝えておく。
サバンナキャットの時は仕方がないので首輪をした。
後は、ハーネスを付けて買い物に出かけた。
気軽に声をかけてくる人や、簡単に触ってくる人も居るんだけど、急に触られるとびっくりするね。
子供とか特に見えない所で触られると、こっちが命の危険を感じてしまうので止めた方が良いと思う。
変身して気づいたことがいくつかある。
そのものを詳細に変身できていると、長時間運動していると負担がかかっている筋肉とか、筋が分かる。
この「分かる」事が伝えられたら良いな。と歯がゆい気持ちになる。
ただ、動物の気持ちはさっぱり分からない。
それは人間の時と同じ。
例えば猫に変身できても、一緒に暮らしている、優秀なハンター達の会話にも未だに入れない。
詳細に変身できているつもりでも、やっぱり元はドラゴンだしどこか違うのだろうか…。
外出する時は、色々な動物に変身して外出していた。
特に自分が飼いたかった動物たちで、そうした動物に変身できて複雑な気持ちになった。
……………………
ある日、外出する時ご近所さんが声をかけて来た。
「あら。今度は犬?」
ちょっとびっくりした。
「はい。友人から預かったんで。」とあーちゃんが答える。
「この間は結構大きな猫? いなかった?」
「あぁ。あれも友人から預かったんで。」
「ペットの預かりでもしてるの?」
「ははは。」と和やかに笑った。
「そう言えばこの間、子供がお宅の物置に入って行ったわよ。何か悪さしてないと良いけど…。」
「あぁ。そうですか。
何も…。
特別何もなかったですよ。」
「そう。まぁ。昼間いないんだし。気をつけてね。」
「あぁ。はい。
それじゃぁ。」
あぁ。見られたのかぁ…。
『ドラゴンになって魔王と戦うことは出来ても、近所を散歩することも出来ない世の中だ!』 ちょっとイライラしてあーちゃんにぶつけてしまった。
「魔王ってどこにいるの?」
『さぁ。この世の中にはいないわねぇ…。』と答える。
まぁ。人間に変身できたら全てのことが解決するとは思えないけど、今より人目を気にしなくても良いかも?と思った。
けど…。
なんか釈然としない気持ちでいっぱいになった。
……………………
この日はドラゴンになるため、久しぶりに人気のいない山奥に向かった。
猫ぐらいの大きさなんで翼を広げるとかなりの大きさになる。
暫くぶりに思いっきり翼が広げられてかなり気持ちが良い。
しわしわの翼に隅々まで力がみなぎっていく。
幸せだなー。って感じる。
あんまり久しぶりなんで、翼に風を上手く捕まえられず、飛び立つ時ちょっとふらつく。
それでも飛び立ってしまえば、それだけで十分翼に風をまとい、思い通りに飛ぶことが出来る。
そして鳴く。
「わぁぅおー」
しばらく鳴かなかったので鳴き声が変わったことにも気づかなかった。
暫くぶりに思いっきり飛んで、胸のもやもやもなくなったようだ。やっぱり人の居ないところで思いっきり飛ぶことも必要だと感じた。
そして閃いた。
こうした毎日を日記のように書き始めたらどうかしら?
私にとってはノンフィクションだけど、みんなにはフィクションになる。なんてそそられる行為だろう。
ただただ毎日を正直に書いているのに、みんなにはそれが物語のようになる。秘密を持って生活するなんて、なんてスリルとサスペンスに満ちている生活なんだろう。
どれだけの人を騙せるだろうか…。
そして、
帰りの車の中で物語を書き始める宣言をした。
どれくらいの人を騙せるのか…。
わくわくしながらほくそ笑んだ。
【おわり】
今年もよろしくお願いします。
初めての作品でドキドキしながら書きました。
読んでいただいてありがとうございます。
楽しくかけたのでまた書こうと思います。
その時は、またお付き合いください。