避暑地の悪役令嬢は好奇心で猫を殺す
夏になるとアイツがやって来る。
公爵家の令嬢として何不自由なく育ち、村長の息子達を猟犬のように手懐け、自分にけしかけ、まるで獲物の野うさぎかキツネのように痛め付けて満足そうに高笑いするあの女が。
マリアは夏が大嫌いだった。夏なんて来なければいいのにと何度も何度も神に祈った。
時が過ぎれば無慈悲に夏が来た。今年も夏と一緒にアイツがやって来る、そう考えるとマリアは気がおかしくなりそうだった。
去年の仕打ちは特に酷かった。バスケットにケーキとティーセットを入れ村長の息子に運ばせ、アイツは村の子供達を野原に集めお茶会を開いた。
最高級のケーキと紅茶、子供達は初めてのケーキを美味しそうに幸せそうに食べていた。でもそれは全部アイツの罠だった。そう思い出すとマリアのまぶたは熱をもった。
アイツは紅茶をみんなのティーカップに注ぎケーキを食べるようにすすめると、マリアのぶんのティーカップに入れるお茶がなくなったと大げさに言い出した。
「ごめんなさい、あっ!そうだわ!」と言い出すとティーカップをスカートの中に入れてその場で放尿を始めた。
あまりに異常な光景に皆動けずにいた。
あなたのぶんのお茶よと差し出した時のアイツの意地悪そうな顔が、目を閉じると今でもまぶたの裏で踊る。
マリアがみんなの顔を見回すと誰もがマリアと顔を合わせないよう、うつ向きながらひたすらケーキを食べていた。
アイツは人を裏切らせて関係をぶち壊し孤立させるのが大好きな悪魔の様な女で異常者だ!!
マリアはその先の事を思い出すのは耐えがたかった。みんな大嫌いと心の中で叫び、唇を噛むとマリアの唇から血が流れた。
今年はもっとエスカレートするだろう、村長の息子達に両手両足を押さえつけさせ村の若者達の慰み者にして、皆に見物させるぐらいの事だってアイツならやりかねない……。
もう無理、限界だ!!悪魔を殺そう。マリアは去年から考えた計画を実行に移す事にした。
アイツは別荘地から森の小道を抜け意地悪をするために村にやってくる。襲うならそこしかない!!
マリアは森の小道の脇にある底なし沼と噂される沼の脇に幾つもの小石を集め、大工から盗んでおいた大きめの釘打ち用のハンマーを準備した。
計画はこうだった。背後から忍び寄りハンマーで脳天を直撃して絶命、引きずりながら沼まで運びポッケや口に詰められるだけ小石を詰め込み、沼につき落とし、余った小石とハンマーを沼に投げ込み、引きずった跡を木の葉で隠せば完了だった。
マリアは降り注ぐように蝉の鳴く森の中で、アイツが通るのを朝から夕方まで何日も繁みの中で蚊に刺されながら待った。
5日目やっと日傘をさしたアイツが歩いて来た。
大きく成長してすらりと伸びた長い手足が優雅で、日傘からのぞく顔は性格の冷酷さと比例するかのように氷のように冷たく綺麗だった。
間違いないアイツだ。マリアは背後から近づくと日傘ごとハンマーで力一杯に脳天に降り下ろした。
アイツの悲鳴が聞こえた。「誰なの!?お願いだから止めて!!」そう言うとアイツはハンカチで目に入った血をぬぐい傷を押さえながら別荘地に向け駆け出した。
まずい、捕まえないと…マリアはハンマーを振り上げ追いかけたが脚がもつれ倒れてしまった。
遠くから「大変だ!早く医者を呼べ」大人達の声が聞こえた。
失敗した。マリアは走って逃げた。どこをどう歩きハンマーをどうしたのか覚えていなかった。気がついたら自分の部屋の隅で震えていた。
父親が家に帰って来ると「えらい事になった。公爵家の令嬢が森の小道で暴漢に襲われ怪我をし、村中その話で大騒ぎだ」と言った。食卓はその話題一色になった。マリアは食事が喉を通らなかった。
家族に打ち明け、役人が捕まえに来る前に一家で逃げなければと思った。
でも恐ろしくて言えなかった。
誰かが玄関を叩き家族がドアを開けると役人が自分や家族を捕まえる夢を見てマリアは何度も何度も目を覚ました。
身体は疲れ果て、直ぐに眠りに落ちたが悪夢が直ぐ現実に戻した。
汗びっしょりで、何度も何度も水をごくごく飲んだ。
マリアの悪夢が現実になったのは一週間後だった。公爵家の別荘から使いの者が訪ねて来て、マリアにお嬢様を見舞ってほしい、これはお嬢様たっての願いだと告げたのだ。
マリアは理解した。これはいつもの趣向。みんなの前でオシッコを飲ませた時のように最悪な方法で私を大勢の前で糾弾し破滅させる気なんだ……。
もう、逃げられない。マリアは使いの馬車に乗り公爵家を訪れる事になった。
遠くから眺めた事はあったが、公爵家の別荘に訪れたのはマリアは初めてだった。
屋敷の中には富とセンスの良さを顕示するために飾られたような立派な芸術品がいくつもあった。
少し奥まった場所にアイツの部屋があった。執事は私を部屋に通しお茶を出すとアイツに「下がりなさい」と言われ退出した。
アイツは執事が部屋から離れた事を確認するとガチャリと部屋の鍵を閉めた、マリアは終わりの始まりを告げる音なんだと観念した。
するとアイツは床に頭を擦り付けるように低くして「ごめんなさい、私が全部悪かった。どうかしていた。出来る限りの償いはするから許せなくても私が後悔している事だけは、わかってほしい」と平謝りした。
マリアは拍子抜けした。何が起きたのかよくわからなかった。
平謝りするアイツを見ていたらマリアの心にどす黒い怒りの感情が青天に沸き立つ入道雲のように立ち込めた。
「そうよ!!許せるわけないじゃないの!!」マリアはそう言うと出されていた紅茶を床にぶちまけ、中にオシッコをした。「さあ、飲みなさい!!話があるならそれを飲んで謝罪の意思を証明した後よ!!」
アイツは事も無げにそれを飲み干すと「あっ、あの~、わかっていただけたかしら?」と上目使いに聞いた。
マリアは、まだ全然足りない!!と言い。思い付く限りの屈辱的な行為をアイツに命令した。
アイツは頭だけは堪忍してまだ酷く痛むのと言いながら、マリアの要求をほぼすべて受け入れ従った。
自分の感情をどうすることも出来ずにマリアは泣き出した。するとアイツは抱きしめながら「ごめんね。もう大丈夫 嫌がらせをしたり、訴えたりしないから安心して暮らしてね。あなたがした事は私に追い詰められてしたこと、私が命令して無理強いしたのと変わらない。全部私が悪かったの。本当にごめんね」とマリアが泣き止むまで抱きしめた。
マリアはアイツの言葉を受け入れ信じることが出来なかった。
夕暮れ時になり帰る事になった。アイツは謝罪の印に受け取ってほしいと高価そうなブローチをマリアに渡した。
ひとりは危ないからとマリアは馬車で使用人に家まで送り届けられた。
アイツはその日から別荘からいなくなった。なんでも街の名医に診せるため本宅に戻ったそうだ。
それから数日して父が興奮して帰宅した。なんでも大きな仕事を任されるようになり報酬がいままでの3倍になるそうだ。
これは、マリアが公爵家の令嬢と付き合いがあるおかげでパイプができ、大きな仕事を回してもらえるようになったためだと父は言った。
「ありがとう、ありがとう」と父はマリアに抱き付き何度も何度も幸せそうに言った。
マリアの家には若い頃、季節労働者の若者と恋に落ち、ゴミのように捨てられ赤ん坊を産んだ姉が一緒に暮らしていた。
周囲から恥さらしだと陰口を言われ日陰者のように目立たずひっそり暮らしていた姉のところに、没落男爵家との縁談が夏の終わりに舞い込んだ。
男爵は、ある人にここの長女と結婚し奥さんと娘を幸せにして自分の名が伏せられている間は、家を復興させる手伝いをしてもいいと取り引きを持ちかけられたそうだ。
そちらの家庭の事情は知っている、自分は歳も多いし貧乏だ、吊り合いはとれていると思う。そちらの事情は全て受け入れるつもりでいる。
この取り引きが上手くいけば、家を再興させられるかもしれない。
どうかお願いだからこの最後のチャンスを私に掴ませてほしい、もし引き受けてくれたら絶対にこの恩は忘れないし恩に酬いるようにすると姉に何度も何度も会いに来て頭を下げ頼んだ。
最初は怪しい話だといぶかしがっていた姉だが、自分にとってもこれが最後のチャンスなのかもしれない、あの人の熱意や度量の大きさは本当だと思う、もう一度だけ誰かを信じて賭けてみる。
もし取り引きを持ちかけた誰かに騙されていたとしても、あの人と一緒なら賭けに負けても、立ち上がれるかもしれないと言い嫁いでいった。
正月に男爵は嫁いだマリアの姉と養女にした娘と一緒にマリアの家に訪れ新年を家族皆で祝った。
例年では考えられないほどのご馳走が食卓に並んだ。
男爵は取り引きは守られ、さまざまな利権にありつけるようになり、長年放置され痛んだ家をやっと修復できるとうれしそうに近況を報告した。
久し振りの姪っ子は可愛らしく着飾っていて、男爵にべったりでマリアが男爵に話しかけると、美味しいモノを食べてる子猫のように取ったら怒るわよといった視線をマリアに向けた。マリアは姪っ子が今幸せなんだと理解した。
姉はお腹をマリアに触らせると身籠ったみたいと言った。
女の幸せはもうあきらめていたのに
世の中何が起きるかわからないわね。
娘を産んだ時は後悔と後ろめたい気持ちの中、誰にも祝福されず出産し、家族に迷惑をかけ、娘にも可哀想な事をしてしまった。
今度はみんなに祝福され愛するあの人の子供が産める、こんなに幸せな事はないと姉は涙ぐみ、姉妹はふたりで嬉し泣きをした。
マリアはその夜、ベッドで考えた。これらは全部アイツが仕組んだ事なのだろうと。心を入れ換えたなら良しとするけど、人間が心を入れ換えるなんて事、今まで見たことがない。あり得ない!!
たぶんアイツの新しい趣向なんだ。幸せの絶頂で全ての幸せをぶち壊す気なんだ!!今度は家族を巻き込むつもりなんだろう…。やったら絶対に許さない!!マリアの目は怒りに燃え身体が怒りで震えた。
季節はめぐり、またマリアの嫌いな夏が来た。アイツは手口を変えたのかマリアの家に頻繁に訪れるようになった。
アイツは以前から料理がしたくてしたくてたまらなかったが家ではさせてもらえない、お願いだから料理を手伝わせてほしいと母に頼み込み。
母が困惑しながら手伝わせると無駄のない見事な手つきで素朴な田舎料理を1品作り。一緒に昼食を囲み貴族の口に合うのかという家族の心配を他所に母の田舎料理を美味しいと喜んで食べ、おかわりをした。
いつの間にか普通に母とアイツが親子のように一緒に昼飯を作り家族みんなで食べるようになった。
公爵家の令嬢が手荒れをしたら申し訳がたたないから絶対に洗い物はしないでほしいという取り決めがマリアの母との間で決まり、アイツはそれを守った。
アイツは時々、誰も知らない創作料理を披露した。
最初から美味しく出来るかは微妙だったが、料理上手なマリアの母と研究し何度か試行錯誤すれば、お金を出してでも買いたくなるような高度なレベルの味に化ける料理がいくつかあった。
マリアの母はあきらめていた若い頃夢見た料理のお店を持つ夢に取り憑かれるようになった。
父に令嬢の創作料理を出せば必ず店は軌道に乗る。あの料理は他の店で簡単に真似できない、味も食感もピカイチ。お客の顔を美味しい顔に変えられる店を作りたいと言い出すようになった。
父は最初反対していたが、やがて昼の短い時間だけならと折れ、とんとん拍子で話が決まり、夜中酒場として使っている店舗を昼の間だけ借りて、オリジナル料理を出し、菓子も売るお店を出すことになった。
最初は地元民だけ利用していたが評判を聞き付けた貴族も、使用人に買いに行かせ利用するようになった。
ある日など、公爵家の使用人が菓子を買いに訪れ、以前ここで買った菓子を本宅の近所に配ったら大変よろこばれたと主人が言っていた。この菓子を考案した料理人はさぞ有名な料理人なのでしょうなと言われマリアの母は苦笑した。
噂の料理人の令嬢はその時、厨房で料理を作っていた。
マリアはもうわけがわからなくなった。ある日など、家に帰ると居間から父がアイツの名前を呼んで「そこそこ、そこが気持ちいい」という声が聞こえてきた。自分の身体を汚してまで私を苦しめたいのか!?と居間に飛び込むと更に驚愕した。上半身裸の父が素足のアイツに踏まれてうっとりとした顔をしていた。
父が、これは腰痛のマッサージなんだと白々しい嘘をついた。
アイツは「おじ様、揉みすぎるとかえって腰が痛くなるから今日はこれぐらいにして、また痛くなったら踏みますわね」と言うと父の上から降りた。
マリアは考えた。確かに父は腰が痛いと長年腰痛に悩まされていたが最近はさっぱり言わなかった。
でもあれは性的ななにかよ!!マリアはそう思った。父はアイツに調教され、今に村長の息子みたいになってしまうと。
アイツが家に出入りするようになり、みんなおかしくなった。みんな幸せそうだ。
姉など、出産した息子を見せに家に訪れた際。名前を伏せ男爵との結婚を取り持った謎の人物の事を守護天子様と呼び、食事の前のお祈りで時には涙を流しながら感謝の言葉を述べ、興奮しすぎると感極まって号泣で嬉し泣きをするようになる始末。
アイツは悪魔で、みんなを偽物の幸せで幸福感でいっぱいにする代わりに魂を売る契約書にサインさせたんだ!!
信用できないから証明しろと言えばアイツはマリアの命令をなんでも受け入れた。一度などパンツを脱がせて村を歩かせた事があった。
今までの仕返しに男性が通りがかった時にスカートを捲り上げるぐらいの事はするかもしれない、相手がその気になったら相手をしてあげればと言ってあったので、アイツは男性が通るたびに震えた。
結局、マリアはスカートを捲り上げるような事をしなかった。
解放するとアイツは恐かったと言いマリアの胸の中で1時間ほど泣きじゃくった。
それでも、マリアはアイツの事が全然信じられなかった。マリアは偶然、アイツが村長の息子達と人目につかない場所で立ち話をしているのを聞いてしまった事があった。
村長の息子達は、もうずいぶん待たされて我慢できない、マリアを襲うから、どこか人目のつかない場所に連れてきてほしいとアイツに頼んでいた。
するとアイツはその計画は白紙になったから、もうする必要はない。
マリアとその家族は自分のモノで別の遊びを始めたから、もし勝手に遊んで壊したら、村長一家にひどい目に遭わされたと父親に言いつけ別荘を引き払うと言い出した。
父親の公爵は私を溺愛しているから私が懇願すればたいていのことは聞いてくれる。
もし公爵家がここからいなくなれば公爵家に媚を売るために近くに別荘を建てた貴族たちもいなくなる。
公爵家の不興を買い、この村に大きな損失をえたのが村長一家と村民が知るところとなれば、この村にあなた達の居場所はなくなるわ。
わかったら私が遊んでいるおもちゃを取り上げるような真似は事はしないでちょうだい!!とあのいつもの冷酷で人を痛め付けるのを心底楽しんでいる眼差しで村長の息子達を叱りつけ。
あまり聞き分けがないようなら、先にあなた達一家が壊れるまで遊んであげてもいいんだけどとアイツは畳み掛けた。
彼らは叱られた犬みたいにいつまでもいつまでも青い顔でうなだれていた。
やっぱりアイツは変わっていなかった、アイツは悪魔だとマリアは確信した。
ある日、マリアが家に帰ろうと通りを歩いていると村長息子のふたり組が声をかけてきた。
自分達は、もうあんたに手を出すつもりはない。頼みがあるから聞いてほしいとマリアを人気のない場所に連れ出した。
話はこうだった。自分達はもうアイツの事が我慢ならないから襲ってメチャクチャにしてから人買いに売るか始末するつもりだ。
でも、アイツは用心深いから助けを呼べない場所で俺達に会おうとはしない。
だからアイツを連れ出してほしい。なんなら見物してアイツを侮辱したり痛めつけたっていい。
アイツは暴漢に襲われなければその夏にアンタを俺達に襲わせ、それをネタに一生言いなりにさせるつもりだったんだ!!アンタもアイツに酷い目にあった、復讐したいだろ?と秘密を暴露して計画を持ちかけてきた。
マリアは思った。こいつらはバカだ本物のバカだと。
娘が行方不明になれば公爵家の威信をかけて大規模な捜索が始まるだろうし、別荘地は終わりになり村は衰退する。
自分で自分の一家のクビを絞める事になるのがわからないのだろうか?
つまらないプライドと家族の生活を天秤にかけるような、こんなバカと関わったらこっちが終わるとマリアは思った。
それにそんな話を聞かせて私がNOと言えば私を帰せなくなる。帰せなくなればアイツが黙っていない、それもわかってないようだ……。
マリアはうれしそうにその話に乗ったフリをして襲撃の計画を3人でたて、ふたりと別れた。
そしてマリアはつけられてない事を確認して公爵家の別荘に向かった。
マリアは執事に経緯を説明した。執事は慌てて公爵の部屋に駆け込み。公爵はマリアを部屋に通すように執事に言いつけた。
公爵は娘の危険をよく報せてくれたとマリアに深々とお辞儀をしマリアの手をとり感謝の意を表した。
マリアは偉い人に頭を下げられびっくりしてしまった。
公爵は話を続けた。私の娘に天使の顔と悪魔の顔がある事を私も知っている。そしてキミが悪魔の顔の娘に酷い目にあわされ復讐しようと襲った事も知った。
だが私はキミを許す事にした。キミもいつか娘を許してやってほしい。
私にとって悪魔も天使もどちらも大切な娘だと公爵は言った。
マリアが驚いて震えていると、公爵は怯えさせてしまいすまなかった。それで、村長の息子達の件だが執事に任せたから執事がキミに協力を頼んだら引き受けてほしいと公爵に頼まれマリアは退出した。
執事はこちらに来てほしいとマリアを別の部屋に通した。そこには令嬢と同じぐらいの背格好をしたメイドが何人か呼ばれカツラをつけたり令嬢の服に着替えさせたり令嬢の声色を真似させたりで誰が一番似ているか使用人達で話し合っていた。
メイドのひとりが選ばれるとマリアにメイドを紹介し、メイドに令嬢のふりをさせるから村長の息子達を呼び出してほしいとマリアは頼まれた。
メイドが相手の悪意を確認して合図を出したら公爵家が用意した男達が突入するという手筈だった。
数日後、計画は上手くいき。村長の息子達は令嬢を暴行し誘拐しようとした罪で捕まり、人買いも捕まった。残された村長一家はその夜、夜逃げをしていなくなった。
村長の息子達は捕まって連行される時、マリアに騙されていた事に気がついた。わけがわからないという顔をマリアに向け何かを言い出そうとしているようだったが言葉に出来ず、口をパクパクさせながら役人に連れられていった。
マリアは、公爵家の大切な客として公爵家の別荘に招かれ、もてなされて時々別荘に泊まるようになった。
豪華な客間で夜中横になっているとドアを叩きいつもアイツが枕を持って入ってきた。
子供が懇願するような顔で一緒に寝てもいい?と聞き、許可するとうれしそうにベッド入ってきた。
マリアがベットで家族の近況を話すと泣いたり笑ったり怒ったりしながら自分の家族のように案じてくれたり。孤立して孤独なマリアが夢想した友達に言ってもらいたいセリフもアイツがほとんど全部言ってくれた。アイツは寝ぼけるとマリア大好きと言いながら抱きついてよくほっぺにチューをした。
マリアは自宅のベッドで横になっているときにアイツが自分を気遣ってくれた言葉やしてくれた事を思い出して、うれしくなって枕を抱きしめ身悶える事が増えた。
もうアイツの事を全面的に信用してもいいんじゃないか、許してもいいんじゃないかとマリアが思いかけた頃、別荘の客間で寝ていると深夜、泣き声が聞こえてきた。
隣でアイツがうつむいて泣いていた。
マリアがどうしたのかと聞いたら「昔よく知っていた小さな女の子の夢を見た」と言った。
「その女の子はいじめられ居場所を失い追い詰められ、高い建物のてっぺんから宙に身を乗り出した。潰れるまでの間に今度生まれ変われたら踏みつけにされるのはもううんざりだ!!今度は踏みつける側になりたい!!本当の友達が欲しいと最後に願ったの」
「誰かを踏みつけにして支配したいという気持ちも、誰かの気持ちに寄り添い力になりたいという気持ちも、どちらも本当の私の気持ちのひとつなの」と言いアイツは泣いた。
マリアは言った「あなたが私や私の家族のために尽くしてくれた事は忘れないし、私と友達になるために努力を続けてくれたことも忘れない。今度、悪魔のアナタに会ったらあなたがしてくれたように私も彼女と友達になる努力をする。約束するわ」
そう言うとアイツは顔を上げた。その顔は冷酷で人を痛め付けて高笑いするアイツの顔だった「本当に友達になってくれるの?ありがとう。私、あなたの事、昔から大好きで、お友達になりたかったの」そう言うと悪魔の顔は消え穏やかな顔に変わった。
マリアは気づいた、泣いてたのは悪魔のアイツだったんだと。壮絶な死を経験してアイツは心が壊れてしまったんだと。
私はアイツの事を悪魔だと思い込み、アイツがいつも心の中で迷子の子供のように泣いていたことに気付いてあげられなかったんだと…。
マリアは隣で眠る少女をいとおしそうに撫でながら小声で言った「オフィーリアあなたは私の最高の友達よ。明日からきっと私達の本当の友情の物語が始まるわ」
【完】
結局、猫は殺しませんでした(>ω・)てへぺろ
タイトルを先に考えて行き当たりばったりで適当に書いたらこうなっちゃいましたm(__)m