窓に映る影
ガタンゴトン
ガタンゴトン
いかにも旧式の車両は一際大きな音を立てた
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
いかにも旧式の車両は早い台風のもたらした強い風に一際強く揺れた
まったく……
私は独り言ちた
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
郊外に向かう終電には他に人の影もない
大馬鹿野郎め……
私はまた独り言ちた
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ほぼ畑しかない郊外 夜は真っ暗になる郊外 私の乗った電車は意地になるかのように車内を明かりで煌煌と照らしていた
上がらない営業成績 士気を上げるという名目での木曜日の緊急飲み会 強制的全員参加……
私は大きな溜息を吐いた
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
私の顔が電車の窓に映る 疲れ切った顔だ おかしい こんな筈ではなかった……
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
東京に出てくれば 全ては光を浴び 輝きだす筈だった 大見得を切って 出て来た田舎にも今更帰れない……
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ゴーッゴーッ
ガタンゴトン
ガタンゴトン
ここは私の居場所ではない 田舎も私の居場所ではない 私の居場所…… それはどこなのだ
パサリッ
私の膝の上から一冊の文庫本が落ちた ゆっくりと拾い上げる 「異世界転移」……
…… そうか 異世界に行けばいいのか いや 異世界ではなくとも ここではない どこかへ……
どこかへ……
…………
…………
…………
!
次の瞬間 私は見た!
窓に映る私の顔が無気味に笑うのをっ!
その顔の口は裂け、両耳まで広がったっ!
待っていたよ…… 待っていた…… 長かった…… 本当に長かったよ……
待っていたよ…… 待っていた…… 13日の金曜日の午前零時…… その言葉を言ってくれる人を待っていたんだよ……
さあ…… さあ…… 行ってくれるんだよね…… 私の…… 代わりに…… そこでは…… ない…… ところへ……
両耳まで口が裂けた私と同じ顔をした女は電車の窓からにょろりと飛び出し、私の両肩を掴むと身体を押し付けて来た
私は恐怖のあまり悲鳴も出ない 助けを呼べない
私は恐怖のあまり身体が硬直したまま動かせない 逃げ出すことも出来ない
さあ…… 行って…… 私の…… 代わりに…… ここでは…… ない…… ところへ……
私の目の前は真っ暗になり そのまま気を失った……
…………
…………
…………
私は…… ここが嫌いだ…… ここは真っ暗だ…… ここは寒い…… ここは身体を自由に動かせない……
私は…… ここが嫌いだ…… もし…… 出て行けるのなら…… ここ以外なら…… どこでもいい……
やがて…… 私は気付いた……
13日の金曜日の午前零時…… その時刻が近づくと…… 顔の周りだけ、電車の明かりが差し込む……
そして…… その時刻…… 「ここではない、どこかに行きたい」という言葉を聞ければ、代わることができる……
早く…… 早く…… もう…… 私の魂は…… ここの暗闇の鎖に溶け込み始めてしまっている……
そうなったら…… もう…… 代わることは出来ない……
だから…… だから…… 早く…… 早く…… その言葉を……
「ここではない、どこかに行きたい」というその言葉を……