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起きているのか寝ているのか、彼の視線は窓の外側に向けられたまま動かない。その手には携帯、耳にはイヤホンをしている。バスが継ぎ目を踏んで少し飛び上がった時、携帯の画面が光った。彼は鼻を掻き、パスワードを打って中を見た。しかし、それは弾んだ勢いで光ったにすぎず、こんな早朝に誰からも連絡はきていなかった。ひょっとすると、期待する人間の空回りは、いつの時代も同じかもしれない。迷惑を承知で、この旅の発案者にメールを送る。当然のごとく、返信はなく、待つことの天才ゴドーのように呆然と無意味な論理を頭の中で巡らせる。携帯の画面を閉じ、脚を組みなおして車窓から見える景色を再び眺めはじめた。トンネルの光が間欠的に顔を照らす。