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友膜  作者: 夏目凛
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仮名カナかな

あ.

 雨の旅は寂しかろう。肩に落ちるは天の雫か己のか。傘を通じた空にて光が濁り、落とした視線に明日はない。ただこう緩やかに歩くのも悪くはなかろう。兎にも角にも、歩いてみよう。すれば次第に雨も止む。そんな期待も好かろうもんだ。旅の味はそこにある。ただひたすら待てばいい。失も絶も、願も希も望みに含めて歩けばいい。


い.

 異国情緒が漂う早朝に、往来の少ない大通りで、彼はタクシーを拾った。眠気眼をこすりつつ、後部座席にてまどろんでいる。運転手の語りかけには、鼓膜が応じない。適当に返事をしては、薄暗い世を見つめて、欠伸を噛み殺す。会話が溶けて、車体が揺れる。彼は再び夢の中に落ちそうになっていた。その時に到着が知らされる。財布を取り出し、支払いを済ませた。外気を吸い込み、小さく震えた。


う.

 「うつむいて膝にだきつく寒さ哉」と漱石のことばが過ぎり、彼は両腕を抱えた。バスの停留所には暖がない。耐えかねて近くのコンビニ内を迂回して、たばことコーヒーを手に喫煙場所へ向かった。漂うはずの煙が強風に煽られ消散する。たちまちこころに隙間が生れるのも仕様がない。今日の旅は一人旅。人を求めて待室を兼ねた隣接のホテルに入った。エントランスには同類他者が散らばっている。発車時間に迫るにつれ、自動ドアが無常にも冷気をより多く運んでくる。



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