男は誰しも剣を持っている~美少女パーティーの荷物持ちでしたが、女に絶望したので自分が理想の女になります~
若干表現としてあれなところがありますのでご注意を。完全に夜のテンションで書きました。
悔いはない。後悔もして……ないかな?
九月二十八日(土)追記
活動報告にも書きましたが、皆さんの声にお応えして連載を決意しました。久しぶりにやる気が出ているので、投稿した際はご愛読よろしくお願い致します!
僕には戦う力がない。
才能というやつだろう。いくら頑張っても強くなれないし、魔法も使えない。
だけど、僕はどうしても冒険者として生きていきたかった。
子供の頃、早くに両親を亡くした僕を育ててくれたじいさんが、冒険者だった時のことをよく話してくれた。
僕には衝撃の連続だった。僕もいつかそんな生き方をしてみたい。まだ見ぬ未知に遭遇してみたいと。
だから、ボロボロになるほど特訓をしたんだ。
したんだけど……どうやっても強くなれない。じいさんは、諦めるな。お前なら強くなれると励ましてくれたけど……。
だから、僕は薬草採取やどぶさらいなどの依頼しか達成できていない。でも、それでも頑張れば強くなれる。
素敵な出会いだってあるはずだ。そう自分に言い聞かせて、冒険者となり、半月が過ぎた頃。
素敵な出会いがあった。なんと僕が拠点としているハーバの街で知らない人はいないほど有名な美少女パーティーに荷物持ちだけど、パーティーに入らないか? と誘われたのだ!
嬉しかった。荷物持ちとはいえ、美少女ばかりのパーティーに入れるんだ。男としてこれほど嬉しいことはない。
パーティーリーダーのカトレアは、正義感の強い金髪ポニーテール美少女剣士。
魔法使いのユーラは、体は小さいが魔法ならば上級まで扱える才能をもつ赤髪ツインテールの美少女。
そして、一番年上の治癒術士であるマリアンは、清楚だが色気のある桃色のストレートヘアー美少女だ。
実力も、容姿も、街の評判もいい理想の美少女パーティー。
そんなパーティーに男は僕だけ!
周りの男達も、なんであいつなんだ! と羨ましそうに睨んでいた。僕の実力なら、荷物持ちが妥当だろうけど、それでもそこから生まれる絆や……その恋愛とかもあるんじゃないかと、期待してしまっている。いつか、彼女達と並べれるぐらい。いや、頼られるぐらい強くなるまで、荷物持ちとして頑張ろうと決意した。
……けど、僕は思い知らされる。
所詮理想は理想。現実は非常だということを。荷物持ちとして、僕は必死に彼女達についていった。
転んだり、罠にかかったり、魔物に囲まれたりと迷惑をかけることが度々あったけど、それでも彼女達は僕のことを見捨てなかった。
頑張れ! もう少しだ! と美少女の笑顔と言葉に癒され続け二週間。午前は自由行動となり、僕は久しぶりに喫茶店でのんびりしようかと立ち寄った。
一番奥の壁際の席。
そこに座った僕はコーヒーとサンドイッチを注文し、荷物持ちで溜まっていた疲労を癒す。
すると、僕の後ろの席に複数の客が座った。きゃっきゃっと、楽しそうに会話をしている。あれ? この声って。
聞き覚えのある声に僕はサンドイッチを持っていた手が止まる。
「それでさ? 今度のダンジョン探索なんだけど」
やっぱりだ。カトレアの声。ということは、一緒に居るのはユーラにマリアン?
もしかして、僕が居ることに気づいていないんだろうか? まあ、僕ってそこまで目立たないし、影が薄いってよく言われるから、今更気にしてないけど……うん。
声をかけようと思ったけど、三人の時にどんな話をしているのか気になった僕はあえて声をかけなかった。けど、それが僕が絶望する分岐点だったとは、思いもしなかったのだ。
「あぁ、そういえばそろそろ最深部だったわね」
カトレアの言葉にユーラが答える。そう、現在僕達はハーバから遠く離れたダンジョンに挑んでいるのだが、そろそろ最深部を攻略することになりそうだったので、一度ハーバに戻って準備をしてから挑む予定になっていた。
「最深部となると、道中の敵も今までより強くなります。当然ダンジョンボスも現れるはず」
と、マリアンが冷静に語る。ダンジョンには、それぞれ階層というものがあり、進めば進むほど敵も強くなり、最深部へ行けばダンジョンボスと言われる敵が待ち受けている。
尋常じゃない強さだが、倒せば経験値も道中の敵とは比べとのにならないぐらい手に入るうえに、ダンジョン攻略の証として、そこでしか手に入らない宝がある。ダンジョンを攻略することは、かなりの功績となりそれだけで周りから評価される。
「いつも以上に気を付けないとね。罠確認も忘れずにしないと」
やはり凄腕のパーティーだ。女だけだからと言って馬鹿にできない。
「ところでさ、話は変わるんだけど。荷物持ちとして入った」
僕の話題? なんだか急にドキドキしてきた。いったいどんなことを話すんだろうと、つい耳を澄ませてしまう。
「あー、確かラルクだっけ?」
そう。僕はラルク。ラルク・ホーマースだ。
「あの時のこけかた面白かったよねぇ」
ん? 面白かった? 確かにこの前のダンジョン攻略の時、転んでしまったけど。面白かった、かな?
「確かにそうですね。カトレアも人が悪い。気づかれないように転ばすなんて」
……は? 今、なんて言ったんだ? ちょっと声が小さすぎてよく聞こえなかったな。
「それを言うなら、ユーラも余程だよ? わざと魔物を誘導したんだからさ」
わざと? 誘導した? 魔物を? え? でもあの時はユーラが助けて。
「私だけなにもしてませんって顔をしてるけど、マリアンもでしょ? 罠があるってわかっているのにそこに彼を誘導したじゃない」
た、確かにあの時はマリアンがこの辺りには罠があるから気をつけてついてくるようにって言っていたけど……そんな、でも。
どうなっているんだ? どうしてこんな会話を。
幻聴だ。今聞こえているのは、全て幻聴なんだ。僕は、彼女達から絶対出てこないであろう言葉の数々を信じようとせずコーヒーを一気に飲み干す。落ち着かない……落ち着かない……!
「ただの暇潰しですよ。必死に荷物を背負ってついてくる彼が罠にかかったらどんな反応をするのか見てみたかった。二人もそうでしょ?」
嘘だ。嘘だ……こんなの嘘に決まっている。そうだよ。あんまり重い荷物を持ってダンジョンに潜り続けたから、予想以上に疲労が溜まっていて、それで。
「まあねー。ほんと、笑っちゃうよね。あの必死な顔」
「絶対僕はハーレムだ! とか思ってる顔だったわね」
「ただの暇潰しに選ばれただけなのに」
こんな現実……!
「あっ、そうだ。そろそろ解雇しちゃおうか? けど、普通に解雇しちゃうなんて面白くないよねー」
「では、どうするつもりですか?」
やめてくれ。もう、それ以上。
「そうだねー……あっ! ダンジョンの最深部に取り残すっていうのはどう?」
僕は……。
「えげつないこと考えるわね、カトレアは。正義感溢れる美少女剣士さんの言葉とは思えないわ」
「ばれなければいいのよ。だって所詮はほとんど活躍もできなかった影の薄い冒険者だったんでしょ? ダンジョン攻略中に私達の役に立つために行動した結果、死んでしまったってことにすればいいよ」
壊れていく。僕がずっと憧れていたものが……。
「まあ、私はどっちでも良いけど。十分楽しめたし」
「私も。また次の荷物持ちを誘えば良いだけですしね」
「だね。私達美少女パーティーが誘えばモテない男達なんて、ほいほいついてきちゃうんだからね」
「……」
その後、彼女達は食事を済ませて、僕に気づかず去っていく。僕は、もうなにも考えられない状態で放心していた。
今までの自分の頑張りはなんだったのか。あれが、皆が憧れた美少女パーティーの本性? まさか、あんなことを……僕のような奴が他にも居たのか? いや、それだったらもっと噂が立っていてもおかしくはない。今まで、三人で活躍していたから。男なんて入る余地がなかったから、僕は喜んだし、周りも羨ましがっていたんだ。
「……宿に戻ろう」
午後のダンジョン攻略までまだ二時間はある。これから色々と準備をしなくちゃならないけど、やる気が起きない。魂が抜けたかのような状態で会計をした僕を店員さんは心配していたけど、僕はなにも答えずに喫茶店を出ていった。
宿に戻るといつものように受付のおばさんが挨拶をしてくれる。けど、それすら反応ができない。
部屋に入り、すぐベッドへと倒れた。
「……じいちゃん。僕が今までしてきたことって、何だったんだろう」
死ぬ間際に授けられた不思議な筒を手に呟く。
剣の柄に見えなくもないが、それにしては軽すぎる。
「思いたくないけど、女が怖くなったよ僕。あれが、女の本性ってやつなのかな……」
これからどうすればいい? このまま午後まで待ってもダンジョンの最深部に取り残されるだけだ。
どんな方法でくるのかはわからないけど、確実に言えるのは僕の命がこのままではあぶないということだ。
「……あっ、そういえば」
そこで、僕は筒を渡す時に言い残した言葉を思い出す。なにか、困った時、どうしようもなくなった時は、この筒の中身を見ろ。
「筒の中身って言っても……ここか?」
蓋のような部分をいじっていると、くるっと回った。そのままくるくると蓋を回し、筒の中身を確認する。
「紙?」
入っていたのは一枚の紙だった。どうやら手紙のようだけど……なになに?
「この筒にち◯こを入れて抜け」
……意味がわからん。それでどうやってこの状況が変わると? じいちゃん。別に僕はそういう変な性癖はないよ。
しかし、今の僕は若干おかしくなってしまっていたので、誰もいない部屋の中で、空洞になっている筒の中に自分の息子を入れる。あぁ……冷たい。筒の中はひんやりとしており、びくんっと体が震える。
「えっと、これでそのまま筒を抜けば、いいんだよね?」
まったく意味がわからないが、まあじいちゃんが言ったことに今ままで嘘なんてなかっかし、かなりおかしいことをやっているけど。
「……そーっと」
一気に抜くのは怖かったのでゆっくり筒を抜く。
そして、少し動いた刹那。
「うお!?」
股間から眩い光が溢れ出す。直視していた俺は驚きのあまり目を瞑ったまま勢いよく筒を引き抜いてしまった。
「……なにがーーーなっ!?」
光はすぐに収まったので目を開ける。
するとそこで目にしたのは……ナイフほどの刃生えた筒だった。
「え? ちょ、なにが……なに、が……」
あれ? というか声がかなり高くなっているような。それに、視線の高さも若干低いし、ニーソ? スカート? ……ま、まさか。
嫌な予感がした僕は、慌てて部屋にあった鏡で自分の姿を確認する。
「えぇー……」
そこに映っていたのは、見慣れた僕の姿ではなく……銀髪ツインテールの美少女だった。
くりっした赤い眼に、ぷにっとした頬。赤いリボンが胸元についた白いシャツに袖がぶかぶかなフードつきの上着。これが今の僕、なのか?
「い、いやいやない。ないでしょ。性別が変わるなんてそんな」
しかもそのなり方がおかしい。僕の予想が正しければ、あの筒に僕の息子を入れることで、刃と化す。息子がなくなったということで、僕の性別は女に。
……あ、ありえない。こんなこと絶対ありえない。じいちゃんがこれを作ったのか? それともどこからかの掘り出し物? どちらにしろ、落ち着かない。なんだろう、体から沸き上がるこの感覚は。
「……ふう」
どうも落ち着かない僕は、街の外に出た。宿から出ていく時も、街を移動している時も視線が集まって恥ずかしかった。別に自分が女になったのがばれたわけではないのだが、どうにも注目されるのに慣れていないのでそわそわしてしまったのだ。
「この感覚、もしかしたら」
沸き上がる感覚の正体を確かめるため、僕は魔物を探す。この辺りの魔物はさほど強くなく初心者でも危なげなく倒れる。
戦いの才能がない僕にだって。
「いた」
探し出して数十秒ほとで魔物を発見する。《スライム》だ。液体化状の体で、攻撃力も低く動きもそれなりに鈍いので、魔物との戦闘に慣れるにはもってこいの相手だ。
普段でも一撃で倒せるけど……よし。
「ーーーえ?」
軽く。そう軽く踏み込んだだけだった。それなのに、対象から大きく離れた場所にいつの間にか移動していた。本当だったら近づいて切りかかる予定だったのに。
「も、もう一度!」
今度はゆっくり近づいていく。そして、気づいたスライムが飛びかかってくるのを利用して……切り裂く。
スライムはあっさりと倒され、マナとなって消えていく。やっぱりこれぐらいじゃ実感がわかない。もう少し強めの敵を探そう。
「あれは」
そんなこんなでまた魔物を探すと今度は《ウルフ》を発見する。普段の僕だったら結構被弾して、やっと倒せるほどだけど。
「いぃっ!?」
また軽く踏み込んだだけで、かなりの距離を移動する。しかも今回はウルフへと突撃してしまっているではないか。このままではぶつかってしまう。
僕は咄嗟にナイフを振りかざし、まったく僕に気づいていないウルフへと振り下ろした。
「へぶっ!?」
勢い余ってころころと転がるもすぐに立ち上がる。切った感覚がなかった。もしかして、攻撃が外れた?
……いや違う。切った感覚がないほど切れ味が凄まじかったのだ。ウルフが居た場所見ると、今まさにマナとなって四散しようとしていた。
「やっぱり僕……強くなってる?」
さっきまで僕が居た場所を確認すると、どれだけ強い踏み込みだったのかがわかるほど地面が抉れている。
そして、手に持っているナイフも凄まじい切れ味だ。
「はは」
笑みが零れる。まだだ……まだやれる。試したい。時間は二時間もあるだ。
僕は駆ける。ナイフ片手に銀髪ツインテール幼女として。
「はあ!」
次々に魔物を切り裂いていくと、僕のテンションも上がっていく。
「うわ!? や、刃が伸びた?」
すると、なぜかナイフぐらいだった刃が短剣ほどまで伸びたじゃないか。ど、どういうことだ? あっ、そういえばこれについている刃って……。
「……せいやあ!!」
考えるのを止めた。正直なんで伸びたのかは理解できたけど、なんか言葉にしたくない。
僕が興奮すると伸びる刃。元々があれだったわけで、まあ言わずもがなってやつで。そんなことよりも、今は魔物を一人で倒せる高揚感を味わいたい。切って、切って、切りまくって……小一時間経ったけど、まったく疲れていない。
「刃こぼれも全然してない……というか、血がまったく付着していない」
なんだか長剣ぐらいまで刃が伸びてるし。何なんだこの剣、というか筒? いや力か?
僕にこんな力があったなんて……もしかして、じいちゃんは知ってた? だからあんな筒と手紙を残したのか? それにしたって、あんな力の解放の仕方じゃなくても。それになんで幼女なんかに。
色々と謎が残ってるけど、今はよしとしよう。
「さて、結構倒したしステータスを……いっ!?」
一息ついたところで、自分のステータスを確認したらまたもや衝撃。なんと、ステータスがオールSだったのだ。
体力、筋力、防御、魔法、俊敏、さまざまなステータスがSになっていたのだ。僕のステータスは元々がEやFばっかりだったのに。ぎりぎり筋力がDだったけど。今のステータスは異常だ。現在世界最強である神聖騎士の三つが最高だ。こんなステータスは異常としか言いようがない。
「僕、やっぱりおかしくなっちゃったのかな?」
こんなステータス、誰かに知られたらどうなってしまうか。そもそも男が幼女になっている時点でおかしいっていうのに……。
更にそのなりかたがなぁ……絶対人には言えないいろんな意味で。
「それにしても」
僕は自分の姿を再度見詰める。
「どうやって元に戻るんだろ?」
それである。このままでは、時間になってしまう。正直行きたくないけど、彼女達は僕にばれてないと思っているようだし。
「……これを戻せばいいのかな?」
と、僕は手に持っている刃がナイフぐらいまで戻ったそれを見詰めながら、股間へと近づける。
が。
「無理! 無理無理!! こんなの刺したら死んじゃうって!!」
怖くなった。だって普通に考えたら刃物を刺すんだよ? そりゃあ、誰だって怖くなるって。
けど、これしか方法がないんだよな。
「だ、大丈夫。大丈夫……怖くない、怖くない……!」
僕は恐怖と戦いながら、ナイフを恐る恐る股間へと近づけていく。これ、他人から見たら幼女がナイフを自分で股間に刺そうとしているようにしか見えないよな絶対。
まあその通りなんだけどさ。
「うっ!」
スカートの上からナイフの先っちょが触れた瞬間。
「ひゃっ!?」
あの時と同じく眩い光が放出される。思わず可愛い声を出してしまったのは忘れよう。
「……おぉ」
元に戻っていた。手には刃が消えた筒が握られていた。ステータスも一応確認する。
……よかった。いつもの、というわけじゃないな。さっきの姿で魔物を倒しまくったから、経験値が入ってレベルが上がっている。ステータスも俊敏がDに上がっている。これは中々いいレベル上げ方法かもしれない。オールSの姿で魔物を倒してレベルを上げればこっちの姿でも大分楽に戦える。それに戦闘の経験だって。
「これで、いつ置いていかれても大丈夫、だよね」
僕は、一度は絶望した。女という存在の本性を知って。けど、じいちゃんのおかげで希望が見えた。
街へ帰る僕の足取りは喫茶店を出た時よりも軽かった。
・・・・・
「さて、ここからが本番よ! ダンジョンの最深部! 張り切って攻略するわよー!」
「もう、カトレア? 子供みたいにはしゃがないの」
「良いではないですか。カトレアはこの方が自然体なんです」
僕は、予定通りカトレア達とダンジョン攻略に来ていた。
あのことを知っていなかったら、僕はいつものように美少女パーティーで男は僕だけ! 頼られるように頑張らないと! なんてお気楽な感じで居ただろうな。
でも、今は違う。知ってしまった。
彼女達の本性を。
僕がこれからどうなってしまうのかを。
あの力を手に入れていなかったら、僕は絶望しかなかっただろう。
なんてたって、ダンジョンの最深部に一人取り残されるんだから。荷物持ちで、ステータスが低い僕は迷いに迷って、いずれは魔物に襲われて人生が終了していた。
「あっ、そうだ。ラルク」
「な、なに?」
おっと、いけない。つい動揺してしまった。いつも通りに……よし。
「この先に何があるかわからないからさ、ちょっと私達だけで見てくるよ」
「え? でも」
ちなみに、一度新しい階層に入ってしまえばもう戻れない。戻れるとしたら、中間地点にある転移陣を使うか、階層を攻略するしかない。なるほど、入り口付近に置いていって自分達はそのままダンジョンを攻略しようという魂胆か。
「大丈夫ですよ。どのダンジョンも入り口付近は安全ですから」
そう。ダンジョンの階層にはラインがある。入り口からちょっと離れた場所に光のラインがあって、そこから出るともう後戻りできない。ラインから出なければ魔物に襲われることもないので、ここで作戦を練るのもひとつの手だ。
「すぐに戻ってくるわ。それまで私達の荷物を頼んだわよ?」
「大丈夫よ! あなたのことを絶対に迎えに来るから!!」
本来だったらかなり頼もしく嬉しい言葉なのだが、今は全然響かない。
「……わかった。それじゃここで待ってるから。三人とも気を付けてね」
「わかったわ」
「では、行ってきますね」
こうして三人と別れた僕はふうっと息を漏らし、背負っていた荷物を下ろす。
「やっぱり」
なんとなく予想はしてたけど、リュックの中身が違う。本来入っているものがなく、ほとんど石ばかり。あるとすれば、ちょっとした保存食ぐらいだろうか。
入れ替えられていた。おそらくほとんどの荷物はユーラの収納空間の中だろう。これも最近知ったことだ。収納魔法があるというのに、荷物持ちを雇っているあたり相当性格が悪い。
「あれから、三十分は経つけど……ま、戻ってかないよね」
最初から期待なんてしてなかった。今頃、三人は僕がなにも知らず今も健気に待っているんだろう、とか笑い話にしているかもね。
「それじゃ、僕も行動に移りますか」
僕は、ポーチに入る程度の荷物を持ち、大きなリュックをその場に放置する。ごめんな相棒……本当は持っていきたいけど、あえてここに置いていく。
これはなるべくあの三人に気づかれないようにするためだ。こうして置けば、僕がいつまで経っても戻ってこない三人を心配して探しにいったように見える。ここはダンジョンの最深部。さすがに大きな荷物を背負ったままでは身動きが取れない。少しでも、身軽になれるようにと捨てていった思わせるんだ。
「本来の僕ならここの魔物は倒せないだろうけど……」
懐からあの筒を取り出し、僕は自分の息子を入れる。あー、二回目だけどやっぱり恥ずかしいうえに、誰にも見せたくない。見せられない光景だ……!
「抜刀」
刹那。
僕は銀髪ツインテール幼女へと変身する。その場でとーん、とーん、と軽く跳ねてフードを被る。これはあの三人に出会った時に顔を見られないための処置だ。
「あの三人より先にここを攻略してやる!」
それが僕の復讐となる。別に殺してやりたいとかそういうことは思っていない。あんな奴らなんてもうなんとも思っていない。けど、このまま何もしないわけではない。
まあ、偶然三人がダンジョンを攻略中に謎の幼女に先を越されてしまった、てことになるだけだから。
「スタート!!」
安全圏を出て、僕は走り出す。くっ! やっぱりこの姿は力がありすぎて制御が難しい。
伊達にステータスオールSなだけはある。
「ほっ!」
壁にぶつかりそうになるも、そのまま壁を蹴って軌道修正。
すると、さっそく魔物が出現した。
相手は《レッドリザードマン》だ。トカゲのような姿で、二足歩行。鱗は赤く、手には曲剣と盾を装備している。ここまで来るとレベルは四十以上が普通だ。通常の僕のレベルの約四倍。普通なら全速力で逃げるところだが。
「せやあっ!!」
「グギャッ!?」
通り際にさっと両断する。レッドリザードマンの体は硬い鱗で覆われており簡単には傷つかないうえに盾で防御するため、パーティーを組んでいても苦戦する魔物だ。
更に火属性の魔法を得意としており、耐性もある。けど、あっさりと一撃で倒せた。まるで通り魔だなこれじゃあ。
「けど、大急ぎで攻略しないとね。三十分の遅れを取り戻すために!」
その後、出現する魔物をスパスパと通り際に切り裂いていき、テンションが上がってきた。
ナイフも短剣になっているが、そこのところはあまり気にせずにいる。罠も僕があまりにも速すぎたせいなのか発動が遅れものが多い。
「そろそろ見えてきてもおかしくないけど……居た」
魔物を倒しながら移動して五分。
呑気に移動をしている三人の姿を目にした。笑っている。ここがダンジョンの最深部だというのに。
どうせ僕のことで笑っているんだろう。その余裕が命取りになる。
「ほっと」
「え? な、なになに!?」
「今、私達の頭上を」
「飛び越えた?」
大分力の制御にも慣れてきた。もう少しで天井に頭をぶつけそうになったけど。
「嘘!? 私達の他にこの階層に人が居るわけが……!?」
幼女化した僕の背中を見て声を上げるカトレア。僕は、人として扱われてなかったのか? それとももう僕はいないものとされているのか……。
「どっちでもいいか。今はこのままボスの間へ駆け足だ!」
唖然としている三人を置いて僕は一人ボスの間へと急ぐ。ボスの間に近づけば近づくほど魔物の出現度も強さも高くなる。
本来の僕なら倒せないような《ホーンウルフ》や《ダガマスゴーレム》などを次々に撃退し、ついに。
「ここがボスの間」
特に苦労することなくボスの間へと辿り着いた。
見上げるほどに大きな扉。
左右には守護者とでも言うのか。獣の像が飾られている。
「……うん。ここの挑戦者は僕が最初みたいだね」
どういう仕組みなのかはわからないけど、ダンジョンやボスの間には挑戦回数を刻む石板がある。
それを見て、自分は何回目の挑戦者なのかを知るのだ。で、ここのボスに挑戦するのは、僕が最初だからまだ数字はゼロのままだ。この中に入れば刻まれる。挑戦一回目と。
「いざ!」
扉に触れると自動で開く。薄暗い空間の中に入ると、扉がまた自動で動く。
閉ざされたことで視界が暗く何も見えない状態になるが、すぐ灯りが灯った。
「あれが」
そして、僕の視界に入ったのは巨大な狼。大きさは、軽く二階建ての家ぐらいはあるだろうか。
尻尾は二本。毛の色は銀。刃のような角を生やしており、そこからバチバチと火花が散っている。
「《バーンブレードウルフ》!」
ダンジョンのボスは単騎で倒すのは余程の実力者でも無理だ。それほど強い。だからこそ、あえてボスの間へと入らず途中で帰還する者達も少なくはない。
無謀にも挑戦して死ぬことがあるとわかっているからだ。そんな相手に僕は単騎で挑んでいる。馬鹿だよね……普通だったらありえない。ただ死ににいくようなものだ。
「でも……この姿だと、不思議と」
ぐっと握る手に力を込める。
「余裕で倒せるって気になっちゃうんだよね!!」
テンションを上げて突っ込んでいく。それに呼応して、長剣ぐらいの長さになった剣を一気に間合いを摘めて、横っ腹に叩き込む。
「グオオッ!?」
ボスが反応しきれていない。すごい! ダメージちゃんと入っている。倒せる……テンションが更に上がる!
「スキル」
反撃を容易に回避し、僕は自分の小ささを利用して、バーンブレードウルフの腹の下に潜り込む。
そして、刃に魔力を纏わせ発動する。
「〈ライトニングスラッシュ〉!!!」
この世界にスキルというものがある。それは神々が与えし戦う力だと言われている。
僕達はレベルが上がると、それに比例してステータス向上とスキルを獲得する。ステータスは毎回上がるけど、スキルは時々しか獲得できない。最初からひとつは覚えているのだが、僕の場合はただ切れ味がちょっと増すものや、回復力が微妙な回復術だけだったけど。
「おぉ……ダンジョンボスをこうもあっさり」
雷を纏わせた刃の一撃にてバーンブレードウルフは沈黙した。まさか、これほどの威力があるとは。使った僕自身が驚いている。
なんとなく数多のスキルの中でもかっこいいなぁと思ったものを使ったんだけど。
「経験値がこんなに……やっぱりダンジョンボスともなれば、凄い量の経験値が入るんだ」
倒したボスがマナとなって四散し、経験値となって僕の中に入ってくる。わかる……格段にレベルが上がっているのが!
ステータスを確認するのは後だ。今は、あの三人が来ない内にダンジョン攻略の証として、ここだけでしか手に入らない宝を入手しないと。
「えっと、あの先にあるんだよね?」
先にあるのは人が入れる大きさしかない扉。ボスはあそこを守っていることになっている。
僕は、その扉に触れる。
「あれが宝?」
扉の向こうには外に出るための転移陣と宙に浮いている謎の卵を発見した。ダンジョン攻略は一番がいいとされる。
なぜなら、それだけ良い宝が手に入りやすいからだ。
「なんの卵だろ?」
とりあえず卵を手に取ってみる。普通の卵ではないことは確かだ。紋様が刻まれているうえに、ここまで来て目玉焼きにどうぞ! なんてことはないはずだと思いたい。
なにはともあれ、僕は卵をポーチにそっと入れて、転移陣へと向かう。どうやら他には宝がないようだな。もうちょっと金銀財宝とかあってもよかったんだが……今回はよしとしよう。
「それじゃ、お先に」
まだボスの間にも辿り着いていないであろう三人に届くはずのない言葉を言い残し僕はダンジョンの外へと転移した。
「んー! なんて晴々とした気分なんだ!」
これほどうまい空気は初めてかもしれない。いや、言い過ぎか? でも、それほどに僕は気分が良い。
これからは、なるべく僕が生きていることを知られないためにしないと。特にあの三人には。
「さて、まだ余裕があるし、魔物退治にでも向かいますか」
ダンジョンボスをあっさりと倒してしまった僕はそのままのテンションで、草原を駆け抜けた。