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2話 見習いの料理人

次の日、定時であがれた正吉は、急ぎ足で帰宅しArchitect Fantasyにログイン(ダイブ)する

自室で目覚めるやいなやすぐさま街の中心部へ行き、テレポーターを利用してフィーネの経営するフェザー農園へ

農園では実っている果物から出る甘い匂いが辺り一帯に広がっていた

そして、つらなっている木々の様子を1つ1つ丁寧に確認するフィーネの姿がそこに



「あれ、アルターじゃん、どったのこんな時間に」

「うっす、昨日国王が俺に会いたいって話あったじゃん、案の定会食の提供の依頼だったわ」

「あらら~…んでんで、なんでここに?」

「デザートに使う果物を、ここから仕入れようと思ってだな」

「マ!?なら1番品質のいいやつ用意するよ!」

「おう、そりゃ助かるぜ、シュガーチェリー1箱と、あとセイクリッドピーチ8個を再来週の週末までにお願いできるか」

「まっかせて!……あれ、セイクリッドピーチは教えてなかったような…」

「奥の方にちらっと見えたんでな」

「まあ別に隠してたわけでもないけど、でもあれ試験的に栽培してたやつだし、最高品質ってわけでもないよ?」

「別に構わんぞ?そこをどうカバーするか腕の見せ所だからな」

「さっすが、料理人は違うね」

「ああ、金は当日渡すわ、いくらになる?」

「お金は結構、いつも料理作ってもらってるし」

「ほんとか、ならお言葉に甘えさせてもらうか」



アルターは、今回の会食で出す予定の料理のうち、デザートだけは真っ先に閃いていた

ゲーム内の季節は初夏を過ぎた辺りである、アルターが選んだ果物はちょうど旬のものである


「さて、どうせ向こうで調理することになるだろうし、一通り設備を確認しておかないとな」

「王宮はやっぱりオーブンじゃない?」

「だろうな、何かと最新設備が整ってる場所だろうからな、んじゃあな」

「またに~」


フィーネと別れたアルターはテレポーターで中心部へと戻り、そのまま王宮へ向かう




「む、貴様はアルターか、この場に何の用だ」

「厨房を視察しておきたいんだが…許可必要だよな」

「そうだな、上の方から許可が下りれば視察は可能だ」

「なら、ジェルン殿に会わせてくれ」

「よかろう、ついてこい」



昨日と同じく応接室に招かれるアルター

そのドアから微かに出ている匂いと音に少し敏感になる



(これは…魚か、匂いと音からして焼きの工程か…)



静かに想像を膨らませていると、程なくジェルンが入ってきた



「お待たせしました、厨房の視察とのことですね、許可は特段なしでもいいのですが、これも必要なものですので…」

「忙しいときにすまんな、それに今は調理中だったか」

「なんと、この位置からもわかるのですか」

「ちょっと敏感になっちゃう性分でな」



そのままジェルンに招かれ、厨房へと向かうアルター



「しかし、なぜ厨房を?」

「念には念をってね、あ、昨日聞き忘れてたが、包丁とかは自前ので大丈夫だよな」

「それは構いませぬ、やはり使い慣れた道具のほうがいいのでしょうか」

「だな、ずっと使ってきた相棒だ」



彼が今使ってる包丁は、鍛冶レベルカンストのフレンドから購入した物である

使用後は欠かさず研いでいる為に、アルターの研磨スキルはカンストしており、研磨後の包丁の切れ味は並の武器より切れる


厨房は国に雇われた料理人が王宮関係者のためにせっせと料理を作っていた

その様子を、アルターは入り口からゆっくりと確認していく



「ジェルン様!こちらにどういった御用で」

「ここを視察したいという方がいてですね、急な出来事で申し訳ないけどよろしく頼みますぞ」



厨房内は熱気に包まれていた

肉や魚を焼く者、具材を切り分ける者、スープを煮込む者、それぞれが忙しく動いていたが

アルターは厨房内にある器具、装置を確認しつつその料理人たちの様子を見て冷静に分析をしていた



「オーブン、グリル、大きいやつでうちで見られないのはこれくらいか」

「王の意向により常に設備の強化に力を注ぐよう注力しておりますゆえ」

「しかし…カマドが無いのか…」

「カマド、ですか?」

「ああ、石窯だ、うちは石窯で色々作ってるんだ」

「なるほど、しかし石窯はうちには無いものでして…」

「まぁ無いものねだってもしゃーないし、今あるものでなんとかするよ」



アルターはゆっくりと厨房を見て回る

そんな中、1人だけ他よりも明らかにスキルレベルが低い料理人が、調理前の食材を前に悩みこんでいた



「どうしたんだ、なんか悩みごとか?」

「あ、いえ、ちょっと献立が決まらないもので…」

「ふ~ん…お前、得意料理はあるか?」

「得意料理なんてそんなものは…私は料理人見習いなので…」

「そうか………ジェルン殿」

「いかがしましたか」

「ちょっとこの方借りていってもいいか?」

「問題はありませんが、当日は大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ、それとは別で進行させていく」

「左様でしたら、君、今すぐ支度をしなさい」

「は、はいっ!」



見習い料理人はすぐに厨房を後にした



「さて、あの人の代わりにちょっとこの厨房の使い心地を確かめるか」

「え、よろしいのですか」

「構わん、どうせ1人減ったのを補充として俺が入るだけだ、サクッと終わらせるぞ」



アルターはエプロンと帯を締め直し、目の前にある食材を確認する



(深緑キャベツ、薔薇豚のひき肉、漆黒にんにく…なるほどな)

「なぁなぁ、今作ってるのって兵士向けの料理か?」

「そうだぞ~!今日はスタミナが付く料理が良いんだとよ~」

「了解!冷蔵庫にある食材使ってもいいよな?」

「大丈夫だよ~ガンガン使っちゃって~」



確認が取れた瞬間、アルターは行動に移す

冷蔵庫から緑光ニラを取り出し一定の間隔に切り、すぐに、漆黒にんにくを微塵切りにする

その包丁捌きは、その場にいたどの料理人よりも圧倒的に早く、そして丁寧だ

切り終わると小さなボウルに調味料を合わせ、混ぜる

フライパンにごま油を引きにんにくを入れる

魔石コンロに火をつけ、中火で香りを立たせひき肉を投入

肉に火が通ってきたところでにニラと合わせ調味料を入れ、炒め続ける

全体に味が馴染んだところで火を落とし、厨房内で大量に炊かれてあった白米を丼ぶりによそう

白米の上にフライパンで炒めていたものを乗せ…



「ほら、1杯いっちょ上がり、冷めないうちに運んでくれ」

「は、はやい、これが貴方様の…」

「見た目気にしないならこんなもんよ、当日はもうちょい時間かける予定、んじゃあペース上げますかね」


作り終わると、すぐに次のための食材を今度は複数人分まとめて調理しはじめる

それを繰り返し現実時間1時間…

約100人分のスタミナ丼が完成されていた


「この量をたった1時間で…あの視察にきた人が作ったのか…」

「ありえねぇと思うだろ、俺は見たんだ、圧倒的早さで食材を捌いていくのを」

「まっ、こんなもんだろ」



厨房内でもざわつきが起こり、料理人たちの調理速度が遅くなっていた

そんな彼らをアルターは気にすることなく、調理器具の後片付けをする

それが終わる頃、ちょうどよく見習い料理人が身支度から帰ってきた



「ただいま支度が終わりました!」

「よし、この厨房の感覚もわかったし、そろそろ失礼するよ」

「本日はお疲れ様でした」

「いやいや、こっちこそ急な視察ですまなかった、んじゃ」



アルターは見習いを連れて、王宮を後にした

その際1つ献立を思いつき、手帳にメモをするのだった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あの…」

「ん?どした」

「なんで私なんかを連れて来たのですか?厨房には私よりもっとスキルレベルの高い方はいたはずですが…」

「あぁ、それは珍しいやつがいるなって思って、そういや名前聞いてなかったな、俺はアルター、この先の皿の祭壇っちゅう店を経営する料理人だ」

「ホタルっていいます、あの場所で働き始めてまだ2ヶ月の見習いです」

「料理スキルのレベルっていくつだ」

「まだ300程です…料理長からお誘いを受けてあの場で働くようになりました、あなたは700くらいでしょうか」

「んあ~ここでは控えさせてくれ、店についたら答える」



アルターとホタルは互いのことを教え合いながら、店に入った

ゲーム内時刻は16時を回っており、日も少し傾いていた



「さて、時間も時間だし、自分用の飯ついでに当日の試作でも作るか」

「ボロボロ…」

「再来週の週末にリフォームする予定だったんだが…王宮から直々に依頼が入っちまってな…」

「依頼ですか?」

「ああ、近々なんか会談があるだろ?その日の会食を作ってくれって依頼が来てだな」

「会食なら、我々王宮料理人でも作れますが、なぜ…」

「このゲームは料理人の割合こそ少ないが、母数であるゲーム人口が多いんだ、王宮料理人よりもレベルの高い料理人なんて結構いる、俺もその一人ってわけさ、ほら、そこに座りな」


アルターは厨房の奥にある石窯に火をつけ、冷蔵庫からラム牛のブロック肉を取り出し、魔石コンロを中火で点火さる

フライパンにオリーブオイルを引き、煙が出始めたらブロック肉を入れ、すぐに蓋をする

焼き目がついたら、面を変えて再び蓋を繰り返す



ーーーチリリーン…



「うい~っす」

「お、ちょうどいいところに、試作してんだ」



ゾディアックが来店した

なにやら中身がいっぱいの麻袋を担いでいる



「評価しろってか~?俺は食レポ下手だぞ~」

「うまくいってるかどうかでいいぜ、それだけ分かれば十分だ」

「ま、お前が失敗なんてないだろ」

「試作の失敗なんてめっちゃあるぞ、ぶっつけ本番の料理なんて当日したくないからな」

「ということは、やっぱりあれだったんか」

「そだな、受けたからにはしっかりとした物を用意しておきたい」



全ての面に焼き目がついたら、赤ワインを加えて全体に絡める

ある程度絡めたところで防水火布を広げ香辛料を引き、肉を置く、その肉を包むようにまた香辛料をのせていく

そしてきつく、二重に布を包み、石窯で焼き始める



「そういや、その袋は何を持ってきたんだ?」

「ああ、面白いもんが手に入ってだな」



ゾディアックが取り出したのは…



「シロタマゴタケ…!こんな高級食材を、どこで…」

「お、嬢ちゃんわかるか、今日取ってきたんだ、俺が取ってきたからモドキじゃねえぞ」

「よくこんなもん見つけてきたな、お前の職場に生えてたっけ」

「そだぜ、結構奥の方に行かねぇと取れねえけどな」



笠の大きいシロタマゴタケが麻袋いっぱいに入っていた



「んで、これをどう料理してほしいんだ」

「そだなぁ、まぁ本来の味でイケる素焼きで頼むわ」

「おぅけぃ」



アルターは七輪を取り出し、網を敷き、その上でシロタマゴタケを焼き始める

焦げ目が軽くついたら、皿に盛り付ける



「醤油とかいるか?」

「お、いいね、頼むよ」



盛り付けたキノコに醤油を一回し

完成したものをゾディアックは食べ始める



「イケるイケる、やっぱこのキノコうまいわ」

「あんま流通してないのが残念だよなぁ、だからこその高級食材なんだが」

「ほら、嬢ちゃんも食べな」



恐る恐る、ホタルも1つ食べる



「美味しい…!」

「だろ?これバター乗せてもイケそうだな」



どんどん口に運ばれていくキノコ

2人がキノコを食べているその間に、アルターは何やらフライパンに残った肉汁を使ってソースを作っている

辺りには焼けたキノコと肉汁の香ばしい匂いが充満する

気づけば焼いた分はきれいサッパリ無くなってしまった



「さて、カマドの方確認しなきゃな」



そういいアルターはそそくさと石窯の様子を確認しに厨房の奥へ



「あの…」

「ん?どした嬢ちゃん」

「あなたとアルターさんの関係ってなんでしょうか…」

「俺とあいつの関係か?フレンドで常連客と店主の関係さ、あいつがこの店を開店してからずっとこの店に通っている」

「なんでこの店に通うように…?」

「まぁフレンドだからな、それにあいつのスキルレベルは……アルター!スキルレベル教えても大丈夫か?」

「まぁ構わねぇぜ、そのうち教える予定だったしな」

「というわけで、あいつの料理スキルのレベルは999、カンストだ」

「え?あの唯一の料理人?」

「ああ、この店はあの唯一のカンストプレイヤーの料理が食べられる店だ」

「にしては店がボロボロだし、なによりメニューが見当たらないような…」

「ああ、この店に特定の料理という料理のメニューは無い、食材を俺ら客が持ってくるスタイルの店だ」

「なんで、こんなに人が来ないような場所に店を構えてるんですか?」

「ああ、あいついわく混雑が嫌なのと隠れた名店ってのが好きなんだってさ」



そんな質疑応答を繰り返していると、アルターが先程まで石窯で焼いていた肉を持って厨房から戻ってくる

その肉を薄く切り分けていく

それを綺麗に皿に盛り付けて、ソースをかけて…


「ほい、ローストビーフの完成だ」

「わぁ…!これがアルターさんの…!」

「試作だからつけ合わせとかないけどな」

「これ俺も食っていいんか?」

「いいぜ、ただし食レポしろよ~?」

「ったく、俺は食レポ下手だっつーの」



店の中にいる3人は出来上がりのローストビーフに箸を伸ばす

ホタルにはそのローストビーフが輝いて見えていた






王宮の外周にある兵舎にてーーーーー



「今日のこの丼ぶり、めちゃくちゃうめぇ!」

「いつもうまい料理を作ってくれるあの料理人たちだが、今日のは特段うまいぞ!」

「まるで別人が作った見てぇだ!」



アルターの作ったスタミナ丼は王宮兵士たちの中で話題となった

兵舎には20人の兵士がいたが、あっという間に無くなってしまった

だがこの丼ぶりが、国内に存在する小さな料理店を経営する、ゲーム内では無名の料理人が作ったということは誰も知らない

だが、アルターが料理する姿はその場にいた料理人全員が強く印象に残っており

SNSでは、あのスキルカンストプレイヤーが料理してたんじゃないかという噂も立った

しかし正吉は、そのことを認知はすれども自分から名乗り出ることは決してなかった


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