第92星:信頼の形
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
国館 飛鳥(18)
実兄の背後に飛び込んだ大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない、護里が指名した最高の『グリッター』の称号である最年少の『シュヴァリエ』である。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力を秘めているが未だに開花には至らず。それでも、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
「咲夜さん!緊急通信が入りました!」
「分かっています。私の端末にも来ています」
大和が桐恵から情報を受け取るのと同時に、千葉根拠地にも同様の通信が入っていた。
「敵の数は…100!?こんなの、過去の記録にもない…どうしていきなり…」
「メナスが知性を持った以上、数で押す作戦に出るという推測は以前からありました。ですが、これほど唐突に仕掛けてくるとは…」
流石の咲夜も、この襲撃にはいつもの平静さを保つことは出来なかった。
「宇都宮支部、及び栃木根拠地からの救援要請…直ぐに対応できる人員がいるのは、現在千葉根拠地だけですか…」
しかし、それでも咲夜は直ぐに冷静さを取り戻す。それは、先程の大和の言葉があったからこそであった。
「直ぐに緊急警報を。それから動ける小隊若しくは人員をまとめてください。私はメナスの襲撃の情報を調べます」
「分かりました!!」
咲夜の指示を聞き、夕は迅速に動き出す。
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「状況は話した通りです。宇都宮支部が襲撃に遭い、危機的状況に陥っています。そこで、我々千葉根拠地は、臨時戦闘員を栃木根拠地に送ることに決定しました」
咲夜は緊急招集に応じ、執務室を訪れた二人に指示を出す。
「幸いメンバーは揃っています。迅速に準備を済ませ、即座に出発。栃木到着後は、栃木根拠地の阿久津司令官の指示に従ってください。良いですね、夜宵隊長、椿隊長」
「了解しました」
「了解で〜す」
夜宵と椿の二人はそれぞれ返事を返す。
「本来であれば、敵の数を考慮して全勢力を向かわせたいところですが、未だメナスの狙いが読めない以上不用意に出すことは出来ません。貧乏くじを引かせてしまうことになりますが…」
「そんなことないですよ指揮官〜」
椿は緊張感のない声で手を振る。その言葉に、夜宵も頷いて反応する。
「私達が救援に迎えることは、『グリッター』として、そして根拠地の戦士として誇りに思います。必ず、支部と根拠地を救ってまいります」
その力強い返事に、咲夜は一瞬頬を緩ませ、そしてすぐに引き締め直した。
「現在、メナスに対して栃木根拠地の指示のもと、全勢力で迎え撃っています。その援護の第一陣として我々が赴き、その後準備が整い次第、他関東エリアの各県から増援が来ます。それまで持ち堪えさせるのが、貴方達の役割です。頼みましたよ」
「任せてください」
「やり遂げてみせるよ〜」
再度力強い返事を返す二人に、咲夜は信頼を寄せる。そして、二人の肩に手を乗せ、いつもの言葉を投げかける。
「敵が誰であろうと、どんな状況であろうと、私達のスタイルは変わりません。我々が戦うのは勝利のためではありません。我々が戦う理由は…」
「「生きるために、立ち向かう!!」」
二人の言葉を聞き、今度こそ咲夜は二人を送り出した。
●●●
「そういうわけだから、ヴィルヴァーラさん、夜宵小隊はこれから出動しないといけなくなったの。悪いけれどここで待っていて」
「何故?私も力になれると思うけれど?」
出撃の準備を進める夜宵達に対し、ヴィルヴァーラは自分が隊から外されたことに不満を抱いている様子であった。
しかし、準備を同時に行いながらも、夜宵の言葉は冷静で的確なものであった。
「確かに貴方は強いわ。純粋な戦闘力だけで言えば、ここではトップを争うかもしれない」
必要な荷物と戦闘補具を身につけ終え、夜宵はヴィルヴァーラを真っ直ぐ見つめる。
「けれど、私達の戦いの中では別。私達は個々の能力や戦闘力は劣っていたとしても、それを補う連携と信頼で戦うことを常としているの」
「…つまり、私がいるとその連携に支障が出るというのね?」
ようは足手まとい。ヴィルヴァーラはそう言われた気がしてますます腹を立てる。
「いいえ、違うわ」
しかし、夜宵からは意外な返事が返されてきた。
「貴方はとても器用で真面目だから、ここ数日の間で私達の能力と連携は頭に入っているでしょう?恐らくそこに自分を取り込む術に関してもね」
「それは…まぁ…」
ヴィルヴァーラは夜宵の言葉を否定しない。寧ろ肯定していた。
実際、自分の力をどう組み込むかは、合流初日から考えていたからだ。
「だけど、そこまで分かっていて、なら何故私を外すの?サクヤ指揮官の指示だから?」
外された怒りよらも、今度はデータを盗んだことが気付かれているのではないかという焦りに変わる。
もしそうであるのならば、小隊から外されたことも合点がいくからだ。
「それも確かにある。けれど、あくまで指揮官からは問い質されただけ。『ヴィルヴァーラ二等星はどうしますか』と。そして、私の意思で貴方を外したの」
一先ずバレている訳ではなくないことに、内心胸を撫で下ろしながらも、再び外されたことへの怒りが込み上げる。
「では何故私を外すの?私は貴方達から信頼されていないから?」
ヴィルヴァーラのその言葉と同時に、夜宵達の準備が整う。そして、最後に夜宵はしっかりとヴィルヴァーラの目を見て答えた。
「それは逆よヴィルヴァーラさん」
「…え?」
その剣幕に、ヴィルヴァーラは僅かに気圧される。
「私達が貴方を信じていないんじゃない。貴方が私達を信じていないのよ」
「ッ!!」
まるで、内心を見透かされたような一言に、いや実際その的を射ている言葉に、ヴィルヴァーラは驚きで目を見開く。
「私達は、仲間に100%背中を、命を預けることが出来る。そこにはそれだけの信頼関係があるから。けれどヴィルヴァーラさん、貴方からはそれを感じない。独善的…とまでは言わないけれど、どこか近寄りがたい雰囲気を感じていたわ」
「それは…貴方達とはずっと一緒にいるわけでも、ずっと一緒にいたわけでもないから…」
「いいえそれも違うわヴィルヴァーラさん。そうじゃないの」
ヴィルヴァーラの苦し紛れにも聞こえる言い訳さえ、夜宵は断ち切った。
「私達だって、この数週間で貴方に私達と同じくらいの信頼を持てるだなんて思ってないわ。これは私達が長い間培って手に入れたモノだもの」
「だったら…何故」
「貴方…初めから私達とどこか距離を取ろうとしているわよね。いえ…私達と絆を深めることを恐れている、といった方が正しいかしら」
「…ッ」
夜宵の言葉は、再びヴィルヴァーラの心の核心を突いており、ヴィルヴァーラは返す言葉が無くなる。
「それがどうしてかは分からないし、いまは興味がない。けれど、そんな人を命を預け、預けられる戦場へは、一緒には連れて行けない。連携が重要であり、重視される小隊であるのなら尚更ね。それが理由よ」
ヴィルヴァーラはもう何も言わなかった。
いや、言えなかった。
夜宵も答えを期待していた訳では無かったのだろう。それ以上は何も言わず、小隊を率い、ゆっくりと浮かび上がっていった。
「ヴィルヴァーラさん」
他のメンバーが飛び立っていく最中、夜宵は最後にもう一度ヴィルヴァーラに話しかけた。
「貴方が私達を信頼できない理由は分からない。けれど、信頼に値する人物であることは理解しているわ。だから、私は貴方を信頼してる」
「ヤヨイ…」
「だから、もし私達に何かあった時は、この根拠地と妹…朝陽を宜しくね」
そう言い残し、夜宵もメンバーの後に続いて飛翔していった。
後に残されたのはヴィルヴァーラ一人。ポケットにしまわれた一枚のデータディスクを指でなぞり、僅かに握りしめる。
「出来るわけ…無いじゃない…だって…私はもう…」
誰もいなくなった暗い兵舎のなか、一人佇むヴィルヴァーラがこぼした呟きを、飛鳥は外の壁に寄りかかりながら静かに聞いていた。
※後書きというか後悔…?
ども!琥珀です!
今回は後悔(もしかしたらネタバレ?)の後書きなのですが、本編のとおり、ここから戦闘回に入っていきます。
私も日常編が結構長くなったかなと思ってたので嬉しいのですが、ちょっと待ってよ?と心が言うのです
もっとヴィルヴァーラの日常シーンを書けば良かったと
個人的にヴィルヴァーラの過去や現状はしっかりと描いたつもりなのですが、もっとこう…自然体というか、朝陽達と触れ合ってない時の、ふとした優しい場面(小鳥や小動物と触れ合うような)とかを描けば良かったと
そうすると、今後の展開に、もっと入り浸っていただけたと思うんです…
いや、まだ遅くはない…書けるのなら書けば良いじゃない!!
ということで、もしかしたら本編に差し込む話を付け加えるかもしれません!!
次回の更新時にまたお伝えします!!
本日もお読みいただきありがとうございました!!
次回の更新は、月曜日の朝八時を予定していますので宜しくお願いします!!




