第90星:違和感
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。現在、現場を離れている大和に代わり、根拠地の指揮を執っている。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。根拠地の『グリッター』と少しずつ交友を深めていたが…?
国館 飛鳥(18)
実兄の背後に飛び込んだ大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない、護里が指名した最高の『グリッター』の称号である最年少の『シュヴァリエ』である。
新島 夕(10)
大和と咲夜をサポートする報告官を務める。『グリッター』としてこ能力を秘めているが未だに開花には至らず。それでも、自分にできることを精一杯こなす純真無垢な少女。10歳とは思えない礼儀正さを兼ね備える。
【夜宵小隊】
私市 伊与 19歳 四等星
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。
早鞆 瑠衣 18歳 四等星
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。
眩しい朝の日差しとともに、ヴィルヴァーラは目覚める。
目の周りには黒いクマがうっすらと出来ており、寝不足のためかその眼差しも険しいものとなっていた。
「昨夜のあとにこの夢か…ふふふ、滑稽ね」
布団から起き上がることなく、ヴィルヴァーラはその場で自虐的な笑みを浮かべ、次いでヴィルヴァーラは両頬を強く叩いた。
「しっかりなさい、ヴィルヴァーラ。貴方はもう手を染めたのよ。ならやり遂げる事だけに意識を向けなさい」
覚悟を決めると、気分を変えるべくヴィルヴァーラは衣服を脱ぎ捨て、室内に設置された浴室でシャワーを浴びる。
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自分の僅かな異変に気付かれないよう心掛けるつもりであったが、幸いなことに、今日から隊の配属が変わることを思い出し、密かに安堵する。
「今日から貴方が配属される小隊の隊長、斑鳩 夜宵よ。宜しくね」
「Спасибо большое、ヤヨイ…イカルガ、っていう名字は…」
挨拶として握手を交わしつつ、ヴィルヴァーラは夜宵に尋ねる。
「えぇそうよ。昨日まで一緒にいたのは私の妹。可愛いかったでしょ?」
「……この国は兄妹愛が強い国なのかしら…」
先日の飛鳥の口振りからも、兄である大和に強い愛情を持っていることは分かっていたが、どうやらこの姉妹も同様の愛情を持っているようだった。
姉妹ということもあり、自分の内面に気付かれるのではないかと一瞬警戒したが、どうやらその心配は必要なさそうであった。
「ヤヨイは元々この根拠地の大隊長を務めていたと聞いてる。色々勉強させて貰うわ」
ヴィルヴァーラとしては嘘偽りのない本音を告げたつもりであったが、夜宵は照れたような、困ったような笑みを浮かべていた。
「そうは言っても、私も最近復帰したばかりだから、小隊については出遅れてるわ。まぁそれでも教えられることは有ると思うから、色々見て聞いていってね」
夜宵の言葉にヴィルヴァーラは無言で頷く。
「私達も自己紹介を。早鞆 瑠衣と言います。宜しくお願い致します」
「私市 伊与だよ!!君とっても強そうだね!!宜しくね!!」
「夜々 優弦…宜しく…ね」
それぞれ差し出された手を握り返し、一通りの挨拶を済ませると、夜宵を筆頭に、全員がバトル・マシナリーで浮遊を開始する。
「基本的にやることは変わらないわ。上空から巡回をして、見回る。それ以外のことは上で聞いてね」
ヴィルヴァーラは再び頷くと、自身も浮遊を開始し、動き出した夜宵達の後を追いかけて行った。
上空まで飛び去っていった一行の姿を、執務室で作業を行なっていた咲耶が、窓越しに見つめる。
その手元には、一台の黒いパソコン端末が置かれていた。
「おはようございます、咲夜指揮官。本日も宜しくお願い致します!!」
と、そこへ、丁寧なノックのあとに、夕がこれまた丁寧なお辞儀とともに入室してくる。
「おはようございます、夕。こちらこそ宜しくお願いしますね」
同じく丁寧な言葉遣いで夕に挨拶を返す。ふと、夕の目に、咲夜の手元に置かれた端末が視界に入る。
「あれ…指揮官、それは『軍事機密』室に保管されている端末ではないですか?本日使用になられる予定はありましたっけ?」
夕の言葉に咲夜は僅かに笑みを浮かべると、こう返した。
「えぇ、大事な予定がありました。もう、既に済んでしまいましたけどね」
「…?はぁ…」
咲夜の言葉の意図を理解できなかった夕は首を傾げたが、深く追求することなく、自分のデスクへと向かっていった。
「さて…どうなりますかね…」
咲夜が小さく溢した呟きは、誰にも届くことはなかった。
●●●
ヴィルヴァーラが派遣されてから、早くも期間の半分である2週間が経過していた。
その間、ヴィルヴァーラは夜宵小隊、三咲小隊、椿小隊を回り、全ての小隊と任務をこなしていた。
回数は多くないものの、メナスとの戦闘もそれぞれの小隊の元こなしており、その交友を深めていた。
しかし、朝陽はヴィルヴァーラにどこか違和感を覚えていた。
行動も、言動も、最初にあった時と何一つ変わっていないというのに、どうしても違和感を拭い去ることが出来ずにいたのだ。
「う〜ん?」
「なに難しい顔してるの!!」
「うわぁ!?」
ズデンッ!!という音ともに、朝陽は腰掛けていたベンチから転げ落ちる。
「わ、大丈夫朝陽ちゃん。お尻割れてない?」
「お尻は最初から割れて…ってなに言わせるの!!」
朝陽のツッコミに、飛鳥はおかしそうに笑う。そして、もう一度座り直した朝陽の隣に、自身も腰掛ける。
「それで、どうして難しい顔してたの?」
「う〜ん、ヴィルヴァーラさんのことで悩んでて…」
「え、ヴィっちゃんのこと?」
「そう、ヴィっちゃ…え?ヴィっちゃん?」
思わず口にしたところで、朝陽は驚きの眼差しを飛鳥に向ける。飛鳥はなんともない顔で頷く。
「え…ヴィルヴァーラさんそれでオッケー出したの?」
「最初は明確に拒絶されたけど、五日間くらい言い続けてたら『もう…好きにして』って快くオッケーくれたよ」
「いやぁ…それ多分めんどくさくてオッケーしてくれたんだと思うよ…」
飛鳥の物怖じしないフレンドリーさに尊敬と呆れを交えた視線を送る。
「アッハハ。まぁそれはともかくとして、ヴィっちゃんの何が気になるの?」
「あぁ、うん。ヴィっt…ヴィルヴァーラさん、ここに来て2週間経ったでしょ?最初の頃に比べて大分ヴィルヴァーラさんの考えは分かるようになったし、ヴィルヴァーラさんも、いろんな人と話して戦って、交友と理解を広めることが出来たと思うんだ」
「うん、そうだね。ボクもそう思うよ」
この2週間、飛鳥もヴィルヴァーラと行動を共にしてきたため、同じようなことを思ったのだろう。
「でも…なんて言うんだろう…初めてあった時と同じ筈なのに、何か違和感を感じるの。何でだろう?」
朝陽の問いに、飛鳥は「う〜ん…」と頭を悩ませたあと、ふと何かに思い至る。
「朝陽ちゃん、いま初めてあった時と同じって言ったよね?」
「え?うん、言ったけど…?」
「初めてあった時と同じ…それってつまり、ボク達との距離が最初の頃から変わってないってことにならない?」
「…あ、そっか!!」
飛鳥の言葉が、朝陽の中の違和感に一致し、一気に払拭されていく。
「確かにそうだ…私が思ってた違和感ってその事だったんだ」
「でもね朝陽ちゃん。ボクは少し違う感じ方をしてるんだ」
「え?」
自分の中では完全に形にハマっていたが、飛鳥はそれをやんわりと否定した。
「ボクも実は同じような違和感を感じてたんだけど、でも、朝陽ちゃんの言う、初めてあった時と変わらない雰囲気を感じるようになったのは、ここに来てから数日経ってからなんだ」
「どういうこと?」
朝陽の疑問に、飛鳥は人差し指を一本立てて答える。
「あのね、朝陽ちゃんが怪我をしちゃった時とか、一緒に根拠地を回った時とか、ヴィっちゃんは確かにボク達との距離を縮めてたんだよ。それは、朝陽ちゃんも感じ取ってたでしょ?」
「…うん、確かに」
飛鳥の言う通り、朝陽も確かにそれは感じていた。例え無愛想でも、会話や共闘を通して、確かな繋がりを実感していた。
飛鳥に諭され、確かに朝陽も、ヴィルヴァーラのどこか素っ気なさを感じるようになったのは、一定の時期からであることに気が付く。
「何か理由があるのかな…私達が何か悪いことを言っちゃったとか…」
朝陽はあくまで自分達が何か悪いことをしてしまったと言う思考で考える。
しかし飛鳥はまた「うーん…」と唸ると、ポンッと手を叩く。
「良し!分からないなら聞けば良いんだよ!!」
「聞くって…え?誰に?」
「そんなの決まってるじゃん!ヴィっちゃん本人にだよ!!」
「そ、そんな無茶な…ちょちょちょ!!」
制止も聞かず、というより飛鳥は朝陽の腕を掴み、無理やり引きずっていく。
「本人に聞くなんて無理だよ!!わざわざ隠してるくらいなんだから…って、飛鳥ちゃんなんだか力強くない!?び、びくともしないんだけど!?」
「ウダウダ悩んでたって仕方ないじゃん!!善は急げ!!答えは聞き出せ!!」
「暴論だよそんなの〜!!」
朝陽は必死に抵抗するものの、飛鳥は全く微動だにしない。
朝陽は知らないが飛鳥は正真正銘の『シュヴァリエ』であり、簡単な引き合いからでも、その力の差が見て取れる図であった。
しばらくの間、朝陽の悲鳴と引きずられる音が根拠地内に響き渡っていた。
※後書きです!
ども、毎度お馴染み琥珀です!
二月も終わり、早くも三月…
某ウィルスなどの騒動もあり、落ち着かない状況ではありますが、もう年度末なんですね…
私がこの作品を投稿しだしたのが、およそ一年前になります。
早くも一年が経ったということですね…
365日もあってまだ100話に到達していないのはどういうことなんだ?と思われるかと思いますが、今後とも宜しくお願いします笑
本日もお読みいただきありがとうございます!!
今週も週三更新で、次回は水曜日の朝8時ごろに更新しますので宜しくお願いします!!




