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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
5章 ー海外交流編ー
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第88星:ロシアーモスクワー

ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星

ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。当初より根拠地の『グリッター』をあしらうような姿勢を見せるが…?

ーーーーー1ヶ月前・ロシア連邦・モスクワ本部


 日本より3,500km以上離れた極寒の国、ロシア。その国最大の本部が置かれた首都、モスクワに、その少女は訪れていた。



「ヤクーツク支部所属、ヴィルヴァーラ・スビルコフ二等星、現着しました」



 とても巨大な宮殿。恐らく収容人数は十万人程は入れるだろう。


 その空間の半分を利用した巨大な空間に、ヴィルヴァーラと名乗った少女が膝をつき、目の前に立つ二人に頭を垂れる。



「…いらっしゃい、ヴィル。…遠いところよく来てくれたわ」



 そのうちの一人が、ヴィルヴァーラの移動を労う。声は女性のもの。


 どちらかと言えば幼さを感じさせる声であったが、その中にはどこか圧を感じさせる強さがあった。


 それもその筈である。


 その女性の前には天幕が下されており、その姿は影でしか見ることが出来ないが、その玉座に座っているのは、紛うことなき、現ロシアの皇帝本人であるからだ。


 ロシアは広大な敷地面積と、過酷な環境がメナスに対して優位に働き、世界的に見ても被害は少ない方であった。


 しかし、それでも総人口の三分の一以上を失ってしまっていた。


 加えて広い敷地面積が今度はマイナスに働き、人々はバラバラとなり、統率が取れない状況が続いていた。


 加えて、世界的に見て人口が比較的多く残っているにも関わらず、相対的に『グリッター』の出現率が低く、五千万人以上残っている中、『グリッター』の数は僅か三千と、世界的に見ても、その比率は断トツで少ない(『グリッター』の数自体は少なくは無い)。


 その原因は不明であるが、そう言った経緯があり、統率が取れず、『軍』としての整備はやや後進国であった。


 しかし、その状態でメナスに襲撃されてはあっという間に支配されてしまうと判断した一人の『グリッター』は、かつての帝国制を採用した。


 時代に逆行するような君主制に、当初は反発するものも当然いたが、結果的にそれは功を奏した。


 偶然、と言えば偶然かもしれない。当時、最初に皇帝となった『グリッター』はカリスマ性に優れていた。


 加えて実力と知性も備わっており、時間とともに畏敬の念を得るようになっていったのだ。


 必然と『軍』としての形は整っていき、ロシア独自の形として成っていった。


 しかし、過酷な環境ということもあり、他国との関係は非常に少なく、また『グリッター』の数が(相対的に)少ないのも関係して、メナスとの戦いは常に劣勢であった。


 そこへ現れたのが、当時最高司令官に着任したばかりの早乙女 護里であった。


 常にマイナスを記録する極寒の地に突如として現れた護里は、当時の皇帝に負けず劣らずのカリスマ性と、皇帝には無い母性で一瞬にしてロシアの人々の信頼を得て、一気に交流を深めていった。


 それだけでなく、護里は当時の日本の技術を無償で提供したのだ。


 これにより、ロシアの『軍』としての体制は一気に進み、今では難攻不落の都市として世界でも有数の戦力国として知られている。



ーーー閑話休題



「勿体ないお言葉です、皇帝様(ツァーリ)



 労いの言葉を素直に受け取り、ヴィルヴァーラは感謝の言葉を述べる。



「…今回、貴方を呼び出したのは…私達の友国、日本(イポーニィ)からの依頼を…受けたから」

「日本から…ですか?それで、その依頼とは…?」

「…依頼…と言うよりは提案ね。日本との交流を深めましょう…という内容よ」



 あまり話すタイプでは無いのか、皇帝の声はか細く小さい。


 加えて透き通るような美しい声であることもここではマイナスに働き、聞き取るにはそれなりの集中力が必要であった。



「交流…ですか?具体的には?」

「…各国から…日本に人員を派遣し…、日本のことを学ぶ…又は体験してもらう…みたいな感じね。ホントに交流会みたいな内容だわ」

「はぁ…」



 どうやら皇帝も詳しい内容は把握していないらしい。


 いや、もしかしたら本当にその程度の内容しか記載されていないのかもしれない。



「それで、私がここに呼ばれた理由は何でしょうか」

「決まっておろう。貴様にこの派遣人員を行なって貰うためだ」



 そこで、これまで黙っていた、皇帝の隣に立つ男性が口を開く。


 頭には王冠のような被り物。着こなしも高価なものを着ており、顔には伸ばされたヒゲ。まさに権威を見せびらかしているような人物であった。


 男の名はタラス・ザガエフ。歳は五十手前程度。役職は宰相であり、実際その身の丈にあった階級ではあった。



「は…?私が、ですか?」



 まさか自分が選ばれると思っていなかったヴィルヴァーラは、思わず聞き返してしまう。



「そうだ、貴様がだ」

「失礼ながら、理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」



 ヴィルヴァーラはロシアの『グリッター』では優秀な部類に入る。


 がしかし、今回の派遣交流のような内容には不向きな性格をしていた。


 ヴィルヴァーラ本人もそれを自覚しているからこそ、聞き返してしまったのだろう。



「交流と言えど、異国の地でロシアを侮られてはならん。とは言え空回りし、メンツを潰すようなマネも許されん。その点、貴様ならその辺りを上手く線引き、立ち回れると判断したのだ」



 成る程、と思わずヴィルヴァーラは納得してしまう。それならばある意味で適任であるとも考えてしまう。が…



「…そんな、堅苦しいことは良いから…ロシアのメンツとか…侮られるとか…そんなのキョーミない」

「こ、皇帝陛下!!」



 自身の言葉を全否定されたタラスは思わず声を荒げるが、皇帝である女性は全く気にしていない様子であった。



「…ヴィル」

「はっ!」

「貴方…ぼっちよね?」

「はっ!…は?ぼ…え?」



 勢いに任せて返事を返した後、ヴィルヴァーラはその内容を反芻し、思わず変な声をあげてしまう。



「貴方の…成績と功績は…色々見たよ。どれも…全部優秀で…良い子。でも、どれも…一人で上げたものばかり…だよね?」

「は…ですが、他と組むよりもその方が効率的で成果を上げられると判断したからでして…」



 ヴィルヴァーラの言葉に偽りはない。


 実際、これまでヴィルヴァーラが挙げてきた功績は、どれも本人自身が優秀であるが故に納めてきたものである。


 ダストの目に止まったのも、その優秀さが目に留まったからに他ならない。


 しかし、皇帝はそれとは別のところでヴィルヴァーラを気にかけている様子であった。



「…ねぇ、ヴィル。私もね、ちょっと前までは…貴方みたいだったんだよ」

「は…女王陛下が、ですか?」



 突然自分の話を始めた女王に対し、ヴィルヴァーラは戸惑いを隠せずにいたが、一先ずその話を聞くことにする。



「そう。自慢じゃないけど…私は『グリッター』としては…結構強い自信がある。じゃなきゃ…ロシアの広大な土地を守る…皇帝に何か務まらないから…ね」

「仰られる通りです。貴方様の力は、どんな『グリッター』も及ばないでしょう。例え、()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

「…()()()()()()()



 その言葉に、ヴィルヴァーラは思わず下げていた頭を上げてしまう。


 それが不遜であると気が付き、直ぐに頭を下げ直した。


 皇帝から、それが咎められることはなかった。代わりに、話を続ける。



「…寂しかった。『グリッター』に…目覚める前も、目覚めた後も…皇帝になることは既に決められていて、それで、誰も隣に立ってくれなかった。皆んなが私に頭を下げて…敬われて…でも…私を()()()()()()()()()()()()()()

「陛下…」

「…そんな時、私はマモリに会ったわ」



 その時、明らかに皇帝の声色が明るくなったのを、ヴィルヴァーラは感じ取った。



「…異国の地…それも慣れない極寒の地…であるロシアに…マモリはまるで散歩をするかのように…現れたわ」

「以前耳にしたことがあります。当時最高司令官に着任したばかりである彼女が、()()1()()()()()この地に訪れたと…」

「…うん、その通りよ」



 噂…もしくは虚言であると思っていたこの話を肯定され、ヴィルヴァーラも流石に同様を隠せない。


 目の前に立つ皇帝には常に畏敬の念を抱いているが、この話が本当であるのならば、そのマモリという人物も相当規格外であるようだ、と認識せざるを得なかった。



「…彼女に会って、私は変わったわ。ロシアの冷たい大地と、敬われることしか知らなかった私に…マモリは色々なことを…教えてくれた。そして何より、マモリは私の友達になってくれた。それが…私を変えてくれた…」

「陛下を…ですか?」

「…そう。今まで義務としか…思ってなかったこの皇帝の役割を…彼女が教えてくれた愛によって、心から誇りに思えるようになった…」



 愛、という単語に引っかかりながらも、それはそうだろう…とヴィルヴァーラは思った。


 皇帝という立ち位置は、現ロシア人ならば誰もが憧れる地位である。それを誇りに思うのは、当然だと。


 しかし、皇帝がそう思った理由は、ヴィルヴァーラの考えとは大きく異なっていた。



「…だって…私が、このロシアの地に住む人々を…守ることが出来る…それはとても素敵で…とても誇れることでしょ…?」

「…!!」

「…だから私は…皇帝でいれることを…誇らしく思う。それを教えてくれたマモリと出会えて…友達になれたことが、本当に…嬉しい」



 皇帝が、ここまで自分の話を自分に話してくれたことに、ヴィルヴァーラは困惑していた。


 しかし、今みで見ることすらおこがましいと思っていた皇帝の存在が、少し身近になったような、そんな感覚を覚えていた。



「…だからね、ヴィル。貴方も、この交流派遣を…通して、お友達を作ってきなさい…」

「…は?」



 ヴィルヴァーラは再び素っ頓狂な声をあげてしまう。



「…ロシアのメンツとか、そんなこと…考えなくて良いから…ヴィルヴァーラ・スビルコフとして、貴方を見てくれる友達を…作ってきなさい」



 思いもよらない内容に、ヴィルヴァーラは何かを言い返そうとするが、皇帝の次の言葉で、何も言い返すことが出来なくなる。



「…これは命令よ…ヴィルヴァーラ・スビルコフ二等星?」



 悪戯っぽい笑みと言葉で発せられた内容に、ヴィルヴァーラはがっくりと項垂れながら、その内容を受諾した。

※後書きに書く事がない…




週3更新結構行ける!!笑

本日もお読みいただきありがとうございます!!

次回は金曜日の朝5時ごろ更新します!!

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