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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
5章 ー海外交流編ー
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第87星:潜入

ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星

ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。当初より根拠地の『グリッター』をあしらうような姿勢を見せるが…?

 その日の夜。静まり返った根拠地内で、月光に照らされた一つの人影が蠢く。


 物陰に隠れながら気配を消し、()()()()()()()は、着々と根拠地内部に侵入していく。



「(監視カメラは5台。サーマルカメラが3台。全体で見れば死角はないけど、サーマルカメラなのは幸いね。私の『グリット』なら…)」



 ヴィルヴァーラは『グリット』を発動させると、その周囲に冷気が発せられていく。



「(私の周囲を僅かに冷却させて、周りの気温と合わせる。少しでもずれれば怪しまれるけれど、私なら問題ないわ)」



 直接的な関係は無いにも関わらず、ヴィルヴァーラの周囲の気温が統一されると、心無しか存在感も希薄になっているようであった。


 ソッと腕のみを出すが、サーマルカメラは反応しない。



「(これで三台分の死角は作った。残ったカメラの位置も把握済み。残りは巡回してる警備だけれど…)」



 チラリ、とヴィルヴァーラは顔を覗かせる。視線の先にはある程度武装された警備兵が巡回をしていた。



「(問題ないわね。アレは武器を持っているただの人間。気取られずに抜くことなんてた易いわ)」



 タイミングを図り、意識が逸れたところで、ヴィルヴァーラは音もなくその背後をすり抜ける。


 同様の形を繰り返し、ヴィルヴァーラは昼間訪れた執務室へと辿り着く。



「入口はレトロ…開けるのは難しくないわ」



 ヴィルヴァーラは再び『グリット』を発動。今度は全身ではなく、片手の先に冷気が集中していく。冷気は次第に固まっていき、鍵の形を成していく。


 固まった氷の鍵をドアに差し込み、ゆっくりと回していく。やがてガチャン…という音が鳴り、ノブを回すとゆっくりとドアが開いていく。



「(ここまでは想定どおり…難関なのはここから…)」



 室内を見渡し、誰もいないことを確認すると、ヴィルヴァーラは音もなく中に入り込む。



「(欲しい情報があるのは恐らく司令官側の机…けれどあそこは今は開かない…)」



 するとヴィルヴァーラは、司令官側の机ではなく、夕が座っていた机のほうに忍び寄る。



「(一番左の棚…上から2番目…)」



 指伝いで棚の位置を確認し、取手を確認する。


 そしてゆっくりと引くと、本来なら自動で施錠されるはずの棚がゆっくりと開いていく。



「(よし…うまくいった)」



 これは、ここに訪れた際にヴィルヴァーラが仕掛けておいた種であった。


 夕が棚を開いたのを見た瞬間、ヴィルヴァーラは『グリット』を一瞬発動。棚の鍵の部分を薄く凍らせ、棚が閉まったようにみせかける。


 時間の経過とともに氷は溶け、電子錠は開いたままの状態となり、開くことができたのである。



「(棚の中身には興味はない…電子錠の解錠状態のパルス波を解読して、これを連結させれば…)」



 棚の内部にある機械部分を操作し続けていると、やがてピーッと電子音が鳴る。それに続いてガチャン、ガチャンと鍵の開く音が続けて鳴り響く。



「(これで全て開いた)」



 ヴィルヴァーラは咲耶が座っていた席に移動する。軽く棚を引くと、やはり同様に鍵は解除されていた。



「(無用心ね…いくらなんでも電子錠だけでは盗んで下さいと言っているようなものだわ。それにタイプも古い。私でも解錠出来たもの)」



 中を開くと、そこにあったのは無数の書類と、一台のパソコン端末。


 現代の主流は電子端末によるデータ管理であるが、重要な書類など一部のものはまだ紙媒体として残っていた。


 とは言え、流石に紙媒体になっているものを持ち去ることは出来ない。


 ヴィルヴァーラは電子端末を取り出し、電源を入れる。


 次いで画面にパスワードを要求する映像が映し出されるが、特段動揺することなく、一つのドライブメモリを取り出し差し込んだ。


 すると、画面には無数のウィンドウが表示され、何かを解析していく。


 数秒後、画面には認証の文字が表示され、ロックが解除されていた。



「(これもお粗末な出来ね。端末本体の初期のロックシステムと、データを保護する基礎的なロックシステムしかないじゃない。良くこれで今まで…)」



 ふと、端末を弄るヴィルヴァーラの手が止まる。



「(上手く…行き過ぎてはいないかしら…)」



 それは、反応が告げてきた警戒であった。ここまでの種と布石は、全てヴィルヴァーラ自身が巻いたものである。


 実際それは成功し、ここまで順調に侵入に成功している。が、しかし…



「(いくら何でもここまで順調にことが進むものなのか?)」



 ヴィルヴァーラの額に汗が滴り落ちる。



「(外の警備までならまだ分かる。けど、この部屋に侵入し、データを盗む…その可能性を咲夜(あの女)が完全に排除しているものなの?)」



 乱さないように努めながらも、ヴィルヴァーラの呼吸は少しずつ大きくなる。



「(そんな筈は無い…彼女は力だけでなく相当頭もキレる…それが、こんなお粗末な状態で放置しておくはずがない…)」



 バレていたら…その考えが頭をよぎり、ヴィルヴァーラは一瞬体を震わす。



「(もし、私がデータを抜き取ることを知っていて泳がしているとすれば、ここで私がデータを抜き取れば、直ぐに拘束しに来る筈…戦闘になれば、私は一瞬で敗北するわ)」



 最悪のケースを想定しつつ、ヴィルヴァーラは大きく深呼吸をした。



「(落ち着きなさい私…今彼女の気配はこの場にはない…憶測だけで考えては失敗するだけ。本能と直感を信じるのよ)」



 改めて、ヴィルヴァーラは端末に手を伸ばし、操作を始める。


 漁っていくうちに、目当てとなる【軍事機密】のファイルを見つけ出す。



「これだ…これをコピーして本国に持ち帰れば…()()()()()…」



 コピーと画面に表示され、ヴィルヴァーラはOKと書かれた項目を押そうとする。


 しかし、その直前、ピタリと指がとまった。


 頭の中で朝陽と夕の顔が横切り、ヴィルヴァーラの決断を鈍らせたのだ。



『仲間を守るのは、当たり前のことですから!』

『つまり真面目ってことですね!それはヴィルヴァーラさんを見てると納得できます』



 真っ直ぐで、まるで疑うことを知らない純粋な心。


 そして、自分を信頼しきった真っ直ぐな瞳。それが、ヴィルヴァーラの頭の中でフラッシュバックしたいた。


 次いで思い出すのが、無意識に夕の頭を撫でていた時のこと。何故手が出たのか、それは今なお分かっていない。


 それでも、あの時の感覚が、今も手に残っているように感じた。


 迷っていたのは僅か数秒。


 ヴィルヴァーラはその感触を握り潰すようにして手を握り、ゆっくりとコピーの項目をクリックした。


 コピーを始める画面に見向きもせず、ヴィルヴァーラは机の棚に背を預け、小さく呟いた。



「ははは…残念ね、アサヒ、ユウ…貴方達の信頼を私は裏切ったわ」



 それは酷く乾いた笑いであり、発せられた声は虚無に包まれたものであった。



「だって…しょうがないじゃない。こうしなきゃ、私の家族は…」



 心の中で割り切っていたはずの罪悪感が押し寄せ、その場でうずくまるようにして声を震わせた。



мама(マーマ)папа(パーパ)、私は…どうしたら良かったの…!!」







●●●






「そういうことでしたか」



 ヴィルヴァーラの行動を、()()()()()()全て観察していた咲夜は、その違和感にようやく納得していた。



「これでロシアの蛮行については証拠を収めましたが、これではヴィルヴァーラさん一人に責任をなすりつけられてしまいますね…かといってこのまま機密情報を持ち帰られるのも問題ですし…何より」



 咲夜はほんの一瞬、周囲がざわつくほどの圧力を発する。



「あれほど真っ直ぐな彼女の心を弄んだモノを許すわけには参りませんからね」



 直ぐに殺気を収めた咲夜はその場から去っていく。



「大和はああ仰いましたが、念のためいくつか対策を練っておく必要がありそうです」



 咲夜の姿は闇夜に消え、根拠地は再び静寂に包まれた。

※後書きというか最早宣言






今週も週3更新頑張るゾォ!!

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