第78星:永久凍土2
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。当初より根拠地の『グリッター』をあしらうような姿勢を見せるが…?
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
市原 沙雪(28) 女医
千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、精神科にも通じている。適当に見えるが、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術も高い。
「まったく、めんどくさい傷作ってくれちゃって…」
先程の戦闘で肩に傷を負った朝陽を連れ、小隊の面々は根拠地の医務室に戻ってきていた。
医者である市原 沙雪の第一声はため息であった。最早これが当たり前となっている朝陽達は、ただただ苦笑いをするだけであった。
「見事に貫かれてるわね。まぁ骨とかは上手く避けられてあるから3日くらいあれば動かすことは出来るでしょうけど」
『グリッター』は基礎身体能力が向上しており、当然治癒能力も向上している。全治1ヶ月の怪我であっても、『グリッター』であれば1週間もあれば十分なくらいまで回復する事ができるだろう。
「ありがとうございます!沙雪先生」
「あ〜あ〜先生なんて呼ばないで頂戴。私は先生なんてガラじゃないのよ」
そうは言いつつも、沙雪の治療は的確であった。腕は痛みを感じないようきっちりと固定され、肩の部分に負担がかからないよう包帯で巻かれていた。
怪我をしたあとのカンファレンスも、迅速かつ的確に行い、直ぐに治療を始めた。
どれだけぶっきらぼうで荒い口調を使おうとも、朝陽達は沙雪のことと腕を信頼していた。
「ほら、治療は終わったんだからとっとと出ていきなさい」
必要な仕事はしたと判断したのだろう。沙雪はシッシッと外へ追い出した。
朝陽達はキチンと一礼をしたあと、医務室をあとにした。
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「Извините、アサヒ。私が気を抜いたばかりに…」
医務室を出て直ぐに、ヴィルヴァーラは頭を下げて朝陽に謝罪をした。
素直に謝罪をされるとは思っていなかった朝陽達は、目を見合わせてキョトンとしていた。
「言い訳はしないわ。貴方に怪我をさせてしまったのは、私の責任。ニホンの軍法でも何でも適用させて頂戴」
その言葉に裏はなく、ヴィルヴァーラは今回の責任を感じているようであった。
「えっと…そんなに気にされなくても大丈夫ですよ?」
「…え?」
今度は朝陽の言葉に、ヴィルヴァーラが驚く番であった。
「怪我も大したこと無いですし、まぁ貫かれてはいますけど…、誰も死んだりなんてしてないですし、それに」
朝陽はニッコリ笑顔を作り、笑って答えた。
「仲間を守るのことは、当たり前のことですから」
ヴィルヴァーラは頭を下げた状態のまま、目だけで驚きの表情を作り、朝陽を見ていた。
「仲間って…私は来たばかりの余所者。それも3週間後には居なくなっているのよ?」
「そんなの関係ないです。ここにいて、一緒に戦って、それで一緒に生活してる。それだけで、私にとって、いえ、私達にとっては仲間なんです」
ヴィルヴァーラは未だに信じられない、と言った表情を浮かべていた。
「…それでも、私の慢心が招いたことで…」
「私ぃ、ちょっと気になってたんだけどぉ…」
と、そこで華が話に加わる。
「さっきの戦い。ヴィルヴァーラちゃん、別に油断も慢心もしてなかったよね?」
「…そんなことは…現にこうしてアサヒに…」
「私も思っていました。戦い慣れしてはいましたが、そこに慢心はなく、メナスを倒すことに集中しているように見えました」
「何か、別の理由があるのでは無いですか?」
華の話に同意するように、奏と梓月が加わる。
「何か、理由があるんですか?もしかして、私達に話そうとしてくれた内容と関係があるんですか?」
ヴィルヴァーラは僅かに視線を逸らした。
その話の内容が関係していることは間違いではないが、それを言い訳に使うのを躊躇っている様子であった。
しかし、純粋な朝陽達の思いを無視するわけにもいかないと考え直したのか、ヴィルヴァーラはようやく口を開いて行った。
「私達の国、ロシアでは、『グリット』と呼ばれる力は一つしかないの」
「えっ!?」
「それは…同じ能力しか無い…ということですか?」
梓月の言葉に、ヴィルヴァーラは頷いて続ける。
「その通りよ。私も、新人の『グリッター』も、熟練の『グリッター』も、我らが王、皇帝陛下でさえも例外ではないわ。皆が同じ能力、『永久凍土』なのよ」
朝陽達はどういった反応をしたら良いかわからないと言った様子であった。
自分達が当たり前だと思っていた常識がひとつ覆されたのだから無理もない話である。
「で、でもそれじゃあ等星とかはどうやって決めているんですか?同じ能力じゃ決めようが無いんじゃ…」
「逆ね。同じ能力だからこそ、個人の差が顕著に出てくるわ。二等星程度だと物体を凍らせる、且つ広範囲というのが最低条件ね。三等星以下だと相手の動きを鈍らせるとか、酷いのだと冷気を僅かに出せるだけ…という者もいるわ」
確かに、それならば明確な差というものは顕著に生まれるだろう。
その点に関しては朝陽達日本のグリッターよりもシンプル且つ明解かもしれない。
「ただ、それだけでなく、どうやら土地・気候も『グリット』に影響を及ぼしていたようね。私はこれまでと同じ氷結度で攻撃していたつもりだったけど、どつやらこの地では、通常よりも強い攻撃をしなくてはいけないらしいわ。それが、土地によるものなのか、気候の差によるものなのかは分からないけどね」
「成る程!!ヴィルヴァーラさんがメナスを倒し損ねたのはそう言う理由でしたか!!」
華の言う通り、ヴィルヴァーラは油断も慢心もしていなかった。ただ行うべき行動を淡々と取った上で、異常事態が起きていたのだ。
「あ、そうそう。ちなみに、皇帝陛下であるのならば、この国を氷河期に出来るわ」
「…えっ!?」
全員の表情が凍りつくが、ヴィルヴァーラはフッと笑う。
「心配しなくても、皇帝陛下はそんなことしないわ。ただそれが可能というだけ」
ヴィルヴァーラからすれば冗談として言ったのかも知れないが、それが嘘であるとは言わなかった。
つまり、ロシアの皇帝は、本当に日本を凍りつかせることが可能であるということである。
それを実行しないとはいえ、その脅威があるということを考えると、ゾッとしない話であった。
そこで、朝陽が気が付いた。
「あ、そうか!!ヴィルヴァーラさんの言ってた進化と適応の話って…」
「理解が早いわねアサヒ。そう、このロシアの『グリッター』が全員同じ氷結系の能力であることが何よりの証拠よ」
朝陽の言葉にヴィルヴァーラが頷き、それに梓月が続いた。
「成る程…つまり、全員が極寒の地に耐え、適応するために『グリット』が顕現した。『グリッター』は即ち進化に相当する…という考えなのですね」
「私達からすればね。けれど、貴方達からすれば確かに理解できないのも納得だわ。これだけ多種多様な『グリット』が存在するのだものね。でも、それもある意味進化と適応だと言えるわ」
その言葉に、一同は顔を見合わせる。
「どういう事ですか?」
「私達が極寒の地に適応するために、氷結系の『グリッター』として進化したのであれば、貴方達はこの地の汎用的な側面に適応するために様々な『グリット』が生まれた、ということよ」
ヴィルヴァーラの言わんとしていることは理解できた。進化の理論が正しいとして考えると、ロシアの極寒の地に対して日本は春夏秋冬、年間に様々な気候が存在する。
また、土地と地域によっても小さくない違いがあり、よく言えば万能、悪く言えば大きな特徴を持たない島国だと言えるだろう。
そういう面で、様々な状況に対応するためのオールラウンダー構成になった『グリッター』が生まれてきた、という説明が理解できなくはなかった。
しかし、朝陽はどうしても根幹のところで納得することが出来ずにいた。
「あの…お話はよく分かるんですけど、一つ疑問に思ったことが…」
「何かしら、アサヒ」
「どうして、氷なんですか」
「え?」
朝陽の言葉に、今度はヴィルヴァーラが困惑する。
「極寒の地に適応するために氷結系の『グリッター』が存在するのは分かります。でも、氷結系じゃなくても良いんじゃ無いでしょうか。例えば、火や炎とかの『グリッター』でも極寒には対応できますよね?」
「それは…それだと極寒の地の環境に支障をきたす可能性があるから…」
「でも、それって人間の考えですよね?『グリット』の発生原因や理由が分からないのに、『グリット』が環境に支障をきたすから、と言った理由で出現しないなんてこと、あるんでしょうか?」
続く朝陽の言葉に、ヴィルヴァーラは返すことができない。
進化・適応理論が間違っているとまでは考えていないし、朝陽の言葉はそもそも理論批判になっていない。
それでも、その謎の圧力のある朝陽の言葉には、思わず納得してしまいそうな説得力があったからだ。
「それに…私達の『グリット』が適応した進化によるものだとしたら、どうして私の能力は『光を操る』能力なんでしょうか」
「それは…変動する気候に適応する万能性の一つで…」
「適応する万能性が『光を操る』ことなんでしょうか。ロシアで氷結系の『グリッター』しかいない=極寒の地であるから、なのはまだ理解できるんですが、変動する気候=光を操る、というのは、どこか違う気がします」
「…それは…確かに…」
ヴィルヴァーラはついに朝陽の発言を認めてしまった。これまでロシアでしか戦ってこなかったヴィルヴァーラは、この日本の地で様々な『グリッター』を見ることで、初めて自分の考えに違和感を得ていた。
「あ、ご、ごめんなさい!!私ったらなんか偉そうなことを…」
ヴィルヴァーラが黙ってしまったことで、自分が否定的な発言をしてしまったことに気が付いた朝陽が直ぐに謝罪する。
ヴィルヴァーラがそれを止めようとした瞬間…
「ねぇねぇ!最高本部から派遣された人が来たってよ!それも二人も!!」
興奮気味の七が現れ、朝陽達にそう告げた。
※久々の後書きです
ども、琥珀でございます!!
…はい、大変お久しぶりでございます。
インフル→肺炎のコンボによりダウンしており、なんと1ヶ月もお休みを頂いてしまいました…
楽しみにしてくださっている皆様、大変申し訳ありませんでした…
さしあたっては、今週は月、水、金の三回更新をさせていただきます!!
その後は恐らく週2更新に戻るかと思いますが、お休みなく更新を続けて参りますので宜しくお願いします!!




