第75星:市原 沙雪
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
樹神 三咲 (22) 三等星
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。『三咲小隊
ヴィルヴァーラ・スビルコフ (20) 二等星
ロシアスルーツク支部所属。海外派遣交流により日本の千葉根拠地にやってきたロシアの『グリッター』。当初より根拠地の『グリッター』をあしらうような姿勢を見せるが…?
市原 沙雪(28) 女医
千葉根拠地所属の女医。がさつでめんどくさがり屋な性格で、患者が来ることを嫌がる。外科だけでなく内科、精神科にも通じている。適当に見えるが、誰よりも命に対し真摯で、その医療技術も高い。
着任したばかりであるヴィルヴァーラは、身体を休めるためということで、その日の半日は休息として時間を与えられた。
とは言っても、実際に動き出すのは明日の午後であるため、実質丸一日休日を与えられたようなものであった。
与えられた個室で荷物を下ろしたヴィルヴァーラは、直ぐに周囲を確認しつつ、次いで部屋をグルッと一回りする。
「(カメラや盗聴器具は無し…日本が平和脳で助かるわ)」
彼女は布団の上に腰掛け、鞄の中から小型の通信機を取り出す。スイッチを押すと、通信機から光が発せられ、人の姿を映し出した。
『…どうやら無事に辿り着いたようだな』
通信機から発せられたのは男の声だった。声質から察するに恐らく五十歳前後の年齢で、どこか圧を感じさせるものだった。
「Да、問題なく入り込めたわ。盗聴、盗撮の心配も無し」
『…ふふ、貴様とて女子。盗撮されては気が滅入るか?』
「ふざけないで…!」
男がヴィルヴァーラの身を案じて言っているわけでは無いことは明白であった。
それも彼女は理解しており、だからこそ腹を立てていた。
『フフ…まぁ良い。肝心の仕事の方は達成出来そうなのか?』
「…えぇ、成し遂げて見せるわ。警戒も薄いし、時間の問題よ」
『それは僥倖…期待しているよヴィルヴァーラ。ロシアの発展のためにも、是非成し遂げてくれたまえ』
通信はそれだけの短いやり取りで終わり、男を映し出していたホログラムが消える。
「блин!!」
通信が終わるや否や、ヴィルヴァーラはその通信機を乱暴に投げつける。
自分の膝を拳で強く叩き、悔しそうに歯噛みしていた。
その行動は、誰に知られるでもなく、ただただ静寂に流されていった。
と、今度は咲夜に渡された、この根拠地での通信機に連絡が入る。
「Да、ヴィルヴァーラ・スビルコフです」
『咲夜です。無事にお部屋にたどり着けましたか?』
「お気遣いありがとうございます。たった今到着したところです」
『それは良かった。上質な部屋ではありませんが、滞在中はそこで自由に過ごしてください』
上質な部屋では無い、と言っていたが、派遣されて訪れた身としては十分すぎる部屋であった。
タンスやロッカーなどの日常品は全て完備されており、シャワーやトイレなども全て個室になっており、何の不満も感じさせない設備である。
「私には勿体なさすぎるお部屋ですが、ありがたく使わせていただきます。それで、ご用件のほどは?」
キチンと礼を伝えた後、ヴィルヴァーラは通信をしてきたことを問い詰める。
『えぇ、今回派遣交流するにあたって、身体的健康に問題ないかどうかを検査させていただきたいのです』
「…検査ならロシアでも受けましたが…」
その内容に、ヴィルヴァーラは思わず顔を顰める。
『貴方の国の検査だけでなく、こちらの検査も受けて頂きたいのです。こちらとしても、貴方を預かっている身として責任がありますので。勿論、強制はしません。もし受けていただければ助かる、というお話です』
ヴィルヴァーラは僅かに迷った。身体に問題があるわけでは無い。
しかし、この検査を受けて問題ないかを推し量らずにいたのだ。
しかし、咲夜の口調からして、ただ検査を受けて欲しいという言葉に嘘はないようにも思えた。
「(…この国の…いや、この支部でそんなことを企てるような人はいないか…それに、ここで断って悪戯に疑われると動きに障害が出る。素直に受けておくべきだな)」
そう考えたヴィルヴァーラは、咲夜の申し出を受けることにした。
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「まったく…何で私がこんな面倒なこと…」
咲夜の指示で訪れた医務課には、およそ医者は似つかないような女性が座っていた。
検査に来たといって訪れたヴィルヴァーラに対し、目の前の女性が最初にした行為は舌打ちだった。
ヴィルヴァーラを嫌悪しているというよりは、そもそも人が来ることを面倒くさがっているようであった。
女性、市原 沙雪は肩より少し上まで伸ばされた藍色の髪を雑に掻き毟った。
「いつまでもそこに立ってられると迷惑よ。とっとと座って頂戴」
言葉遣いも乱暴であった。
何も言われないまま座るわけにもいかず、待ち惚けていたヴィルヴァーラを、明らかに不機嫌そうな声で座らせる。
「…この国の人は、みんな礼儀正しく謙虚な人だと思ってたわ」
「はっ!偏見の塊ね。どこの国だって礼儀正しい奴がいれば、逆に私みたいにやさぐれているような奴だっているわ。ほら、とっとと始めるわよ小娘」
口調は荒っぽいが言ってることは正論だった。
一先ず指示に従うと、沙雪はヴィルヴァーラの全身をポンポンと叩くように触り出す。
最初は嫌悪感のような感情を覚えたが、その動きに無駄がない事に気が付く。
時間にして10秒に満たない間であったが、触診を終えると、沙雪は何かを記録用紙に書き出す。
「…それは?」
「貴方の3サイズと血圧。あと今ので視覚検査と聴覚検査も終わったわ」
沙雪の言葉で、自分が書類を見て聞き出すことまで誘導されていた事に気が付く。
更にたった数秒の触診だけで測られた事に驚きを隠せなかった。
「(見てくれてと口調は悪いけど…成る程、今の触診といい誘導といい、この人、相当の名医だわ)」
「あとは血液検査と心電図ね。何かアレルギーとかあるのかしら?」
「ないわ。けど、随分と沢山検査するのね」
本音を言えば、あまり多くの検査をこなしたく無いというのが本音であった。
『グリット』のメカニズムに関しては不明な点が多いとは言え、血液などは人体の情報が多すぎる。
敵対関係ではないとは言え、あまり好ましいものでは無い。言葉にはしなかったが、それを懸念し遠巻きに牽制しようとしていた。
「心配しなくても、貴方のデータを悪用することなんてしないわよ」
ヴィルヴァーラは思わずドキッとした。まるで内心を見透かされたかのようなタイミングだったからだ。
「…いえ、別にそのように疑っていたわけでは…」
心境的に良くないイメージを与えることを懸念したヴィルヴァーラは、直ぐさまそれを否定しようとするが…
「別に隠さなくても良いわよ。このご時世だもの。そういう情報を秘匿したくなる心境も理解できる。だけどね…」
沙雪はカルテから目を離し、真っ直ぐヴィルヴァーラの目を見つめた。
「私は肩書きだけとはいえ、残念ながら医者よ。どれだけ私自身がクソ野郎であってもね。医者として、例えどんな事があろうと、患者の個人情報を撒くようなマネは絶対にしない」
それは、先程までの目付きとは全く異なる、信念を持ったものの目であった。
ヴィルヴァーラにとって、医療は管轄外の領域である。
それでも、今まで戦いを生き抜いてきたヴィルヴァーラは、信じるに値するかどうかを、目を見る事で判断する事が出来る様になっていた。
その慧眼によって、ヴィルヴァーラは目の前の女性が信ずるに足る人物であると認めた。
「ま、私なんかの言葉なんて信じられんだろうけどね。受けたくなければ別にそれでも…」
「いえ、信じますよ。医者としての貴方のことは。先程の検査、お受けします」
ヴィルヴァーラの言葉に、今度は沙雪が驚いた表情を浮かべる。しかし、直ぐにそれは笑みにかわり、順番に検査を始めていった。
そして2時間ほどして全ての検査が終了。検査後の休憩として、現在ヴィルヴァーラはベッドの上で横になっていた。
「今のところ数値的にみて至って健康ね。明日からあの子達と一緒に出撃してもなんら問題ないわ」
「そうですか。ありがとうございます」
健康なのは初めから分かっていた。
それでも受けたのは、医者としての沙雪を疑ってしまったことへの贖罪のためであった。
キィ…っと沙雪はベットの側のイスに腰掛ける。
暫く黙ったままの状態が続いていたが、頭を乱暴に掻いたかと思うと、めんどくさそうな口調でゆっくりと話し出した。
「めんどうなことにね、私は医師の他にメンタルケアの相談医師としての資格も持ってるのよ。まぁこのご時世、そんな資格役立ったことないけどね」
「はぁ…メンタルの…」
言っている内容はともかく、沙雪が伝えたい意図が分からなかった。
沙雪もあまりにも抽象的過ぎたと思ったのか、座ったまま肘を足に乗せ、どこか妖艶な笑みを浮かべた。
「だからね、もし困りごとがあれば相談にのってやっても良いのよ…って意味よ」
次の瞬間、ヴィルヴァーラは驚きの表情を浮かべ、即座に立ち上がると、一礼だけしてその場を後にした。
その様子をどこかおかしそうに見届けながら、沙雪は再びキィ…と音を立てながら椅子の背もたれに寄り掛かった。
「抱え込み過ぎちゃだめよ小娘。どんなに強い力を持っていても、どんなに賢い知性を持っていても、1人の力には限界がある」
それは既にこの場には居ないヴィルヴァーラに向けられたものでもあり、同時に、ここには居ない誰か別の人物に向けられたものであるようにも感じられる、そんな言葉であった。
※クリスマス特別編に執筆の時間割いたから思ってたよりストックが…←




