第72星:襲来
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かつて人類の前に最初に現れた原初のメナス
「夕君!!朝陽君達との連絡が途絶えてる!!どうなってるんだ!?」
「わ、分かりません!!こちらも通信機器が反応してなくて!!」
それだけに留まらず、現在朝陽達を中心とした計器は全てがエラー表記を出していた。
映像や立体ホログラフは勿論のこと、精度の高さを誇る探知機でさえ反応は無かった。
「一体何が…咲夜、どうにかして朝陽君達と通信を……咲夜?」
その時、大和はようやく咲夜の異変に気が付く。目は大きく見開かれ、その瞳は同様に震えている。
額から一筋の冷や汗が流れ、明らかに動揺しているのが見て取れた。
そして、溢れるような小さな声で呟いた。
「何故…あのオリジンがここに…」
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ソレは突然現れた。
レーダーにも、優弦や海音の『グリット』にも感知されず、ソレは朝陽達の目の前に降り立った。
朝陽達は、目の前に立つソレがメナスであることを、最初は理解することが出来なかった。
外見は10を越えたばかりくらいの少女。
その表情も少女のように幼く笑んでおり、一見するだけではメナスであるとは思えない。
それでも、白銀の髪に灰白い肌、そして真紅の瞳。その特徴を目にして、ようやく朝陽達は目の前に立つ少女がメナスであることに気が付く。
そしてその少女が朝陽達に目を向けた瞬間.
「「ーーーーーーッ!!」」
朝陽達の全身が一瞬で恐怖に支配された。
身体は震え硬直し動かなくなり、息は詰まるようにして乱れ、全身の至る所からは嫌な汗が滲み出ていた。
そして、この悪寒とあのメナスの正体に真っ先に気が付いたのは、一度ソレのデータを見たことのある朝陽と奏の二人であった。
「か、奏さん…あの風貌…」
「は、はい…間違えありません…それに、この悪寒…あれは…以前本部で見せていただいた最初の悪厄災、オリジンです…」
目の前に立つ原初の厄災を前にし、あの気丈な奏でさえ、今は笑顔が鳴りを潜め、全身を震えさせていた。
目の前のメナスの情報を知っていた二人はまだ良い。
しかし、何も知らずにこのオリジンの恐怖に充てられた他の『グリッター』達は、最早動くことも声を出すことも出来ずにいた。
オリジンはしばらくその場から動かず、【ウーン…】と唸りながら、一人一人顔を見る。
【ア!!オ前カナ!?】
その視線が朝陽を捉えた瞬間、
「っ!?」
オリジンの顔が目の前にあった。
見ることも、気取ることも出来なかった。それ程の速度で、目の前のオリジンは朝陽達との距離を詰めたのだ。
「うっ…あっ…」
オリジンとの顔の距離は、15㎝も無い。それ程の距離まで詰められ、流石の朝陽も声を出すことが出来ない。
【ンン〜?何カ違ウ??顔ガ変ワッタ??】
朝陽を誰か別の人物と勘違いしているのか、オリジンは朝陽の顔をまじまじと見つめながら首を傾げている。
そして、その手が朝陽に触れようとした瞬間…
「朝陽に触るな!!」
怒りが恐怖を上回り、夜宵が動く。
『グリット』を発動し闇を展開。朝陽の前とオリジンの全体に渦巻くように闇が襲い掛かる。
【ン〜、ジャマ!!】
対して、オリジンは鬱陶しそうに片手を軽く振る。
ただそれだけの動作で、夜宵の『闇』が振り払われ霧散していった。
「そん………な゛っ!?」
夜宵がその光景に絶望するのと同時に、オリジンは夜宵を押し飛ばした。
その動作は本当に軽く押しただけのようにしか見えなかった。
しかし、たったそれだけで、夜宵は遥か遠くまで吹き飛び、一瞬にしてその姿は見えなくなった。
「お姉ちゃん!!」
朝陽がオリジンの方を睨もうと振り返ると、そこには先程よりも更に距離を詰めていたオリジンの顔があった。
「フ…『六枚刃』!!」
震える身体を押し切り、朝陽は六枚刃を展開。
「『光の矢』!!」
展開直後、オリジンに向けて光の矢を放つ。
【ヨッ…ト】
だが、それもオリジンは片手で振り払う。
だけに留まらず、その風圧で展開していた『フリューゲル』と共に朝陽も吹き飛ばされる。
「うぁ!?」
その風圧に耐えきれず、朝陽は地面を転がる。直ぐ様態勢を立て直すが、再び目の前には少女姿のメナスが立っていた。
「う…あ…」
【ン〜…ソッカァ…】
再度朝陽をジッと見つめていたオリジンは、暫くしてガッカリと項垂れた後、目の前に立つ朝陽が、いやその場にいる全員が、更に身の毛もよだつような悪寒を感じさせる、冷たい目を向けた。
【オマエジャナイ】
瞬間、その絶望的な力の差を痛感した全員が、その場での死を覚悟した。
しかし……
『《混沌の闇》』
オリジンが動く前に、朝陽達とオリジンの周囲を、粒子状の漆黒の闇が辺りに撒き散らされていく。
【ン…コレハ?】
その闇を訝しげに思ったのはオリジンだけでは無い。
見覚えがありながらも、見覚えのない闇に、全員が後ろを振り返る。
「夜宵…さん?」
三咲が名前を呼ぶのを躊躇うのも無理はない。
そこには、頭から血を流しながら狂気の笑みを浮かべる夜宵が立っていたのだ。
その姿は今までの夜宵からは想像もつかないほどの凶悪性を放っていた。
『はハ…これまタ随分と厄介ナヤツに絡まレているではないカ、娘』
声は夜宵本人のものであるが、話し方や雰囲気はまるで別人のようであった。
【ナニ、オ前…呼ンデナイ】
オリジンはあどけなさに加え、長文は苦手なのかどこか片言のような口調で夜宵を睨みつける。
『呼ばれテ出てクる程お人好しでハ無い……ガ!!』
夜宵が顔の前に手を出し、それを握り締めるようにして手を閉じると…
【ッ!】
オリジンの周囲にあった無数の粒子状の闇が一瞬肥大化し、その部分を覆っていた腕を消滅させた。
【…ヘェ…】
その時、初めてオリジンは、夜宵を敵と認識したように、冷たくも幼さと好奇心を感じさせる笑みを浮かべた。
次の瞬間、無くなった少女のメナスの腕の部分に黒い塵が集まり、何事もなかったかのように腕を再生させていった。
『はは!!流石バケモンよなァ!!腕の一本でハ微動だ二せんか!!』
その光景に、朝陽達は驚くことしか出来なかったが、夜宵だけはただただ笑っていた。
【面白イヤツ…アイツ以外ニモ居タンダ…】
それに釣られてか、オリジンも笑う。幼さと邪気を孕んだ、凶悪な笑みを…
【アハハ!!遊ボウ!!私ト遊ボウヨ!!】
『残念ダがガキは嫌いでナ!!此奴ら諸共消え去るガ良イ!!』
「えっ…」
その言葉に、朝陽達が動揺出来たのは一瞬。次の瞬間には、夜宵はその手を握りしめていた。
辺り一帯の漆黒の粒子が膨張し、朝陽達諸共一瞬で飲み込んでいった。
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それはほんの一瞬の出来事。あとにはただ一人、夜宵の姿だけが残っていた。
『ははハ、逃げられたカ!!だがまぁ、この娘が無事であるなラ一先ずそれで善イ…』
満足そうに笑んだ後、夜宵はグラリと身体を揺らす。
『フム…もう限界カ…だが、ふふフ…この状態であってモ表二出れル…良き収穫だったナ』
その言葉を最後に、夜宵は憑き物が落ちたかのように意識を失い、その場に倒れ込んだ。
それから間もなくして、何も無くなった空間から、無数の光の粒子とともに、突如として朝陽達が姿を現した。
「あ、朝陽さん…今のは?」
何が起きたのか、もはや全員が理解できず、一先ずたった今起きたことから、奏が尋ねる。
「わ、分かりません。ただ、周りの黒いものが膨れる前に、私の『光輝く聖槍』が輝いて…」
朝陽達は、夜宵の闇の粒子に飲み込まれる直前、槍から吐き出された光の粒子に包まれ、急死に一生を得たのであった。
「つまり…朝陽の意思とは関係なく『グリット』が発動したと言うことですか…もう何が何だか…」
今回ばかりは三咲も整理がつかず、お手上げで、その表情は疲労困憊といった様子であった。
「それに…夜宵さんのあの行動は…」
更なる問題を追及し出した瑠伊の言葉に、当然答えられるものはいない。
「とにかく〜今日は帰ろう〜。作戦は成功したわけだし、通信が出来ないってことは司令官も心配してるだろうからさ〜」
いつもふわふわした口調の椿も、この時ばかりは疲労の色を隠せずにいた。
一同がその言葉に同意し、三咲と椿の二人が夜宵を抱え、根拠地に戻っていく中、朝陽は一人聖槍を見つめ固まっていた。
実はこのとき、朝陽は一つだけ三咲達に話していないことがあった。
『光輝く聖槍』が輝きだした瞬間、朝陽は今まで以上にあの声を聞いていたのだ。
『ーーー大丈夫。貴方と貴方の仲間は、必ず護ります』
その声が何者なのであるかは、今も分からない。しかし朝陽は、自分達を救い、護り、そして安心させてくれるその声の正体を、本能的な部分で少しずつ理解しつつあった。
「(もしかして…この声の正体って…)」
「おーい朝陽さん、何してるんです!!置いて行きますよ!!」
結論に至る前に呼び出され、朝陽は一度思考を止め、仲間達の元へと合流していった。
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次回の更新は金曜日を予定しております。
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