第69星:餌
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)四等星
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
斑鳩夜宵(22)三等星
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の元隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は『夜宵小隊』の小隊長。
樹神 三咲 (22) 三等星
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。『三咲小隊』小隊長。
佐久間 椿(22) 三等星
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。『椿小隊』小隊長。
【朝陽小隊】
譲羽 梓月(23) 四等星
冷静で優しいお姉さん。物事を達観気味に多角的に捉えるベテラン。
久留 華 (22)四等星
おっとりで実は大食いキャラも、人見が良い。経験豊富なベテラン。
曲山 奏(20)四等星
明るく元気で爽やかな性格。真面目な性格ながら物事の核心をつく慧眼の持ち主。
【椿小隊】
写沢 七 21歳 159cm 四等星
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。
重袮 言葉 20歳 158cm 四等星
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…
海藤 海音 16歳 151cm 四等星
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。
【三咲小隊】
椎名 紬 22歳 四等星
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。
八条 凛 16歳 四等星
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。
大刀祢 タチ 17歳 四等星
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。
【夜宵小隊】
私市 伊与 19歳 四等星
年齢関係なく他者を慕う後輩系『グリッター』。近接戦闘を得意とする。
早鞆 瑠衣 18歳 四等星
十代には見えない落ち着きを持つ、お嬢様系『グリッター』。支援を得意とする。
矢々 優弦 16歳 四等星
幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。
「司令官!!近くに生体反応!!人です!!」
「攻撃中止!!朝陽君、砲撃を止めるんだ!!」
●●●
「えっ!?」
発車直前であった朝陽は、どうにか【天射す日輪の光】の放射を止める。
が、それによる隙を突くようにして、メナスから無数のレーザーが放たれた。
「ふ、『フリューゲル』!!」
朝陽は慌てながらも『光り輝く聖槍』の六枚刃を展開。同時に『シルト』も発動し、メナスのレーザーを防ぐ。
『夜宵君、近くに生体反応があった。座標を送るから直ぐに救出に向かってくれ!!』
「ですが、朝陽が…!!」
大和の指示に対し、目の前で攻撃を受けている朝陽の姿を見て、夜宵は直ぐに行動に移すことができない。
『心配ない。朝陽君の小隊が援護を始めている』
そう言われ見てみると、朝陽の前には奏が立ち、メナスのレーザーを曲げ、梓月と華は『浮遊』と『圧縮』のグリットを駆使し、メナスの攻撃を食い止めていた。
「夜宵さん、こちらは我々にお任せを!!それよりも逃げ遅れた人がいるのかもしれません!!救出をお願いします!!」
奏に二度目の指摘をされ、夜宵はようやく動き始めた。
「優弦!!」
「もう始めて…る」
夜宵が指示を出す前に優弦は『精霊の囁き声』を発動。辺りに残された自然から声を聞き、より正確な位置を図る。
「分かっ…た。あそ…このガレキ…の下。あそこ…だけ、意図的…に重ねられて…る」
「意図的に…?いえ、それよりも救出が先ね!行くわよ!!」
一瞬の迷いを捨て、夜宵は優弦の指示する場所へと向かう。
現場に到達すると、夜宵は確かにその場所に違和感を感じた。
辺りが無数のガレキで酷い有り様になっている中、その一帯だけはある程度整えられており、重なったガレキも、誰かが積み重ねたように見える。
「大丈夫でしょうか隊長。これが罠で、中にいるのがメナスだったら…」
「その心配はないわ。司令官が捉えた反応は生体反応。メナスはこのレーダーには反応しない。中にメナスがいる可能性はないわ」
瑠衣の問いに夜宵が答えると、夜宵は早速闇を展開し、ガレキを飲み込んでいく。
ガレキの中には、夜宵の予想通り二人の母娘が寝そべっていた。その全身と口にはメナスの触手が絡みついており、身動きが取れない状態であった。
「大丈夫ですか!?」
「直ぐにこの拘束を解きますので!!」
息があることを確認した面々は、直ぐに二人に駆け寄り、その拘束を解こうとする。
●●●
「えっ!?」
メナスが一斉に朝陽達から離れたのと、夜宵達が二人を見つけ出したのはほぼ同時であった。
「ど、どうして急に!?」
それだけでなく、その場にいたほぼ全てのメナスが夜宵達目掛けて移動を開始。
奏達がそれを追おうとするも、残った数体のメナスに阻まれる。
「いけない!!夜宵さん達、あの親子に夢中で気が付いていません!!」
介助に意識を割いているせいでメナスの接近に夜宵達は気が付かない。
そして距離を詰めたメナス達は一斉にレーザーの発射態勢に入り…
●●●
「…ほどけた!!お二人とも大丈夫ですか!?」
縛っていた触手が解かれ、親子は解放される。
「柚!!」
解放された母親は、夜宵達へのお礼よりも先に柚と呼ばれた子どもを強く抱きしめた。
拘束されている最中も常に声を上げていたが、ずっと子供の名前を叫んでいたのだろう。その強い愛情を育む姿に、夜宵達は安堵の息を吐きながら微笑む。
子どもの無事を確認した母親は、次に夜宵達に目を向ける。そして、気が付いた。無数のメナスがこちらを目掛けて何かをしようとしていることに。
「あ!!後ろ!!」
言葉に出したのは子どもの方だった。その言葉に反応し、夜宵達も後ろを振り返る。
その時には既に、メナス達はレーザーの発射態勢に入っていた。
「しまっ…!?防御を…」
夜宵の『グリット』も『耐熱反射鏡』の展開も、既に間に合うタイミングでは無かった。
その刹那の間に、夜宵達はせめて家族だけでもと壁になり、母親は子供を守るべく強く抱きしめた。
そして、その直後、レーザーは無慈悲に放たれたーーーーー
「『閃光の盾』!!!!」
レーザーの甲高い音とともに聞こえてきたのは、朝陽の声だった。
薄く目を開けると、そこには『六枚刃』を開き光の盾を展開して、レーザーから自分達を守っている朝陽の姿があった。
「あ、朝陽!!」
「ふっ…ううううぅぅぅぅああああ!!!!」
朝陽が多少数を減らしたとはいえ、メナスの数は未だ三十体を超えている。
そのレーザーを一身に受け、朝陽は苦悶の表情を浮かべていた。
「だ…大丈夫だからね!!」
しかし、それも一瞬だけであった。
次の瞬間には朝陽は必死に笑顔を作り、後ろで怯えていた少女に笑いかけていた。
「私が守るから!!何にも怖くないよ!!」
少女はなおも怯えたいたが、それでも、まっすぐ朝陽を見れるくらいには落ち着きを取り戻していた。
朝陽は再び前を向き、レーザーの対処に集中する。
「(大丈夫!!出来る!!レーザーだって光なんだ!!自分の光を操るようにして、レーザーの光も操る!!)」
次の瞬間、円を模るように展開されていた『フリューゲル』が一瞬にして朝陽の身体を軸に円状に展開。
それに合わせて、正面から受け止めていたレーザーが、その円を流れるようにして回っていく。
「『閃光の円環』!!」
朝陽の周りを一回転したメナスのレーザーは、そのまま跳ね返るようにしてメナス達に向かっていった。
『ッ!?』
メナス達は一斉に回避行動をとるが、そなうちの数体はレーザーの嵐に巻き込まれ、チリとなって消えていった。
「ッ!!ハァ…!!ハァ…!!できた…良かった…!!」
息を切らしながら、朝陽は力無くその場に膝をつく。汗を大量にかきながらも、その表情には笑みが浮かんでいた。
その様子を、夜宵は呆然としながら見つめていた。本来なら、妹の成長を喜ぶ場面である。
しかし、何故かいま夜宵の心の中はモヤっとした霧がかかったような心境であった。
「(朝陽…貴方、いつの間にこんなにも…)」
夜宵が動かないままでいると、後ろから夜宵の小隊の面々が走り寄り声をかけていった。
「朝陽さん、大丈夫っすか!!」
「あ、はい、大丈夫です!!ちょっと力が抜けちゃっただけです」
「凄いですわ。まさかメナスのレーザーを撃ち返すだなんて」
その話し声を聞いて我に帰った夜宵は、咄嗟に今の自分の考えを嫌悪する。
「(私は一体…何を考えていたの…自分の妹に…嫉妬するなんて…)」
と、そこへ、今度は朝陽達が助け出した親子が朝陽に近寄ってくる。母親の方は『グリッター』に対して差別意識があるのか、少し複雑な表情をして何も口にできないようだった。
しかし、まだ10にも満たない幼い少女は、その顔に満面の笑みを浮かべた。
「助けてくれてありがとう!!お姉ちゃん!!」
何の他意も無い、純粋なお礼の言葉を聞き、朝陽は嬉しさよりも驚きの感情が先に出てきていた。
その素直さに、自分の汚さを痛感させられたのか、母親の方も考えを改め、ゆっくりと頭を下げた。
「娘を…私達を助けてくださり、ありがとうございました」
ようやく朝陽の心に喜びという感情が追いつき、片目から涙を流しながらも、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
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『チッ…マサカ今ノ奇襲ヲ防ギキルトハナ…《餌》ヲ取リ逃シモシタカ…』
『エデン』は、今回の襲撃にあたって、襲撃箇所に『人質』を残していた。
これは大和の狙いを読んでの指示ではない。もし、敗戦濃厚となった際に、人間共の動きを止めるための保険のために用意したものであった。
通常の拘束では見つかってしまう可能性があったちめ、自分達の中でも最もメナスとしての反応が薄い触手で全身を拘束することで、メナスの反応を無くし、且つ人間の生体反応を消せるように仕掛けていた。
『(本来ノ意図トハ違ウ使イ道二ナッテシマッタガ…結果トシテ人間共ノ狙イヲ妨ゲルコトニハ成功シテイル。コレハ奴等ニトッテモ予想外ノハズダ。コチラニモ被害ハ出タガ、十分ニ数ハイル。我々ノ勝チダ)』
『エデン』は自分達の勝利を疑わない。それは慢心ではなく、自分達と人間共の質と量の差を計算しての確信だった。
そして万が一に備え、敗北からの起死回生の手も打っておいた。そしてそれは十分過ぎるほどに作用した。
ここまでの経過で、『エデン』が勝利を確信するのも、無理もない話である。
もし、この時相対しているのが大和でさえ無ければ、この瞬間、『エデン』等メナスの勝利は決まっていただろう。
※本日の後書きはお休みです☆




