第64星:擬態
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。指揮官として司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の元隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。自身の『グリット』の強大さに悩みを抱えている。現在は『夜宵小隊』の小隊長。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。『三咲小隊』小隊長。
佐久間 椿(22)
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。『椿小隊』小隊長。
「司令官!!メナスの反応ありました!!予想通り複数地域に現れています!!」
報告官である夕の報告を受けて、大和の表情が真剣な面持ちへと変わっていく。
「来たか…総員に通達してくれ。戦闘開始だ」
大和の指示に咲夜と夕が答え、各地に散った小隊に伝達していく。
しかし、その中で指示を出した当の本人である大和の表情は険しいものだった。
「(想定内、と言えば聞こえは良いが…これまで散々知性を匂わせてきたメナスが、ここにきて同じような行動をとるような真似をするか…?)」
時間にして数秒ではあるが、大和は一瞬で複数の可能性を考慮する。しかしどれも確信には至らず、大和は一旦思考を切る。
「(このことは後だ。今はこれからの戦いに集中しないと)」
大和はモニターに映し出された映像を見つめ、大和の心も戦闘態勢に入る。
『こちら三咲小隊。メナスの反応をこちらでも感知しています。ですが…姿を視認することができません』
三咲の返答に、大和は眉を寄せる。
「…それは、君の『グリット』を以ってしても…ということかい?」
『はい。レーダーの反応上、既に感知の範囲に入っているはずですが、反応していません』
三咲の答えを聞いて、大和は改めて状況を思案する。
「司令官さん…これは一体…」
予想外の事態に夕は早くも動揺しており、隣に立って同じくモニター越しに報告を受けていた咲夜も、表情にこそ出さないが、その目付きは険しかった。
大和は机に肘をおき、顔の前で指を組むと、神妙な面持ちで話し出す。
「…今回、技術班の日下部君と話し合って行った対応策は、ともかく速攻性重視ということで探知型コイルによるレーダー性能の向上を図ったんだ」
「コイル…ですか?」
「そう。これまではメナスの放つ微弱なパルスをマイクロ波で読み取って感知してきた。しかし前回、そのレーダーに反応しなかったということもあり、幾つかの改善策と対応策をとってきた。その中で最も早く取り組めそうだったのがこの探知型コイル」
大和がポケットから取り出して見せたのは、ボタン電池を少し大きくしたような円形物だった。
「以前の戦いで、朝陽君達に探知機を射たせていたのは覚えているだろう?探知型コイルはそれと同等以上の性能を持っていて、今回は予め各市の外側に埋め込んでおいたんだ」
「あ、じゃあ今反応しているのは…」
「そう、この探知型コイルに反応しているんだろう」
夕が納得するように頷く横で、咲耶は腑に落ちない表情を浮かべていた。
「ですが…そのコイルに反応するのに、何故、樹神三等星の『グリット』には反応しないのでしょうか…」
「コイルは直接に近い形でメナスのパルスを感知する。つまりは精度と感知性能が非常に高いんだ。だから反応があるんだろう。だが、姿が見えないというのは…」
大和は直ぐに思考を張り巡らせ、各小隊に指示を出す。
「各小隊。現在メナスは姿が見えないようだ。表示されているメナスの反応のみが唯一の手掛かりになっている。それを頼りに撃退を試みつつ、市民の避難が完了するまでの時間を稼いでくれ」
『姿が見えないなんて厄介この上ないね〜。椿小隊了解』
『打って出るわけにもいかなさそうね…夜宵小隊了解』
『私は引き続き感知を試みます。何か対策が練れるかもしれませんので。三咲小隊了解』
三小隊からの返答を聞いた後、大和は直ぐに次の対策を練る。
「やはりただ攻めてくるだけなわけが無いか。しかしこれは予想外だな…まさか姿を消すことが出来るとは…」
「朝陽小隊を各地域に向かわせて人員を増加させますか?」
「いや、相手の姿が見えないんじゃ効果は薄い。寧ろ混乱を招くかもしれない。今はまだ待機だ」
とは言うものの、このままでは不利な状況が続くのは明白であった。
「(落ち着け…そもそもこの擬態効果はなんだ?『知性』云々以上の問題だぞ)」
ふと、大和は今の自身の発言で、一つの解決策を思いつく。だがしかし、それは同時に一つの絶望を喚起させるものでもあった。
「(擬態…効果?まさか…だがもしこれで効果があったとすれば…)」
「大和…?」
「…ッ!悩んでてもしょうがない!夕、咲夜!至急各市の非戦闘員に伝達してほしい内容がある!!」
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エデンは人間達が慌てふためく姿を、遠巻きに楽しそうに眺めていた。
『アァ…良イナ…良イヨ…人間ドモガ絶望スル顔ハトテモ良イ…胸奥ガ満タサレルヨウダ…』
そこは『軍』の探知も及ばない程遠い海域。しかし、そこにいながらも、エデンには今街を襲っている仲間達と、慌てふためく人間達の姿をハッキリと捉えていた。
『サテ…ココカラドウヤッテ仕留メテヤロウカ…』
エデンが言葉では無い何かでメナス達に指示を飛ばそうとした時だった。
『随分ト、楽シソウネ』
辺りには岩場一つ存在しない海原から、突如一つの人影が現れる。
現れたのは、通常のメナスとも、エデンとも異なる姿をしたメナスだった。
メナス特有の白髪に紅眼であることは変わらないが、外見が全て同じ少女姿のメナスとは違い、このエデンと突如現れたメナスは、それぞれに個性を持っていた。
どちらも少女ではなく成人した女性の姿であり、エデンは単発で眼光の鋭い知的な女性。もう一人のメナスは長髪で艶かしさを感じさせる女性の姿をしていた。
この、突如現れたメナスの正体を知るエデンは、特に驚くこともなく、そのメナスに目を向ける。
『アァ…楽シイネ…人間ドモノ、アノ絶望スル表情ハイツ見テモ良イ…』
『若イワネ…マァ、生マレテ数ヶ月ダモノネ。無理モナイワ』
純粋な愉悦感を表情に出すエデンに対し、もう一体のメナスはどこか大人びたような落ち着いた様子で、エデンを見ていた。
『忘レルナヨ?ソノ生マレタバカリノ私カラ、知性ヲ与エラレタトイウコトヲナ』
『勿論感謝シテルワ?私達ニ唯一足リテイナカッタモノヲ与エテクレタンデスモノ。ダカラ、コウシテ力ヲ貸シテアゲタデショウ?』
妖艶なメナスが指差した方角には、姿を消したメナス達が今も進行を続けていた。
その様にエデンは鼻で笑うも、続く言葉は出てこない。
『マァ、アナタモソコデ見テイルガ良イサ。コノママ根城ヲ落トサレル人間ドモノ絶望ノ瞬間ヲナ』
思い通りにことが運んでいることが嬉しいのか、エデンは幼くも悪どい笑みを浮かべていた。
その笑みを見た後、もう一体のメナスは戦場の異変に気が付き、こちらは怪しい笑みを浮かべた。
『ソウ上手クハ行カナソウヨ?』
『…ナニ?』
『ゴ覧ナサイ?』
メナスが再び指差す方に目を向けると、そこには姿を消したはずのメナスが次々と姿を現していた。
『ナ…ニ…!?』
エデンは驚きを隠さずにいた様子であったが、その仕掛けを実行したメナス、悪厄災『アイドス・キュエネ』はただ笑むだけだった。
『ドウイウコトダ!?何故アナタノ力ガ破ラレル!?』
『ソレハソウヨ。アレ、20年前ニ破ラレタトリックダモノ』
アイドス・キュエネの答えに、エデンは驚きの表情を浮かべ、次に怒りの目を向けた。
『貴様…始メカラ破ラレルノヲ分カッテテ、ソノ力ヲ…』
『アラ怖イ目。デモ、力ヲ貸シタノダカラ約束ハ守ッタハ。ダカラ、私ハコレニテ失礼』
そう言うと、アイドス・キュエネは再びその姿を消した。気配も何もなくなり、エデンはその場で舌打ちをする。
『…マァ良イ。先手ヲ打ッタノハ事実ダ。コノママ奴ラノ動揺ヲ突キ、一気ニ落トス!!』
先程までの知的さを取り戻し、エデンは更なる猛攻を仕掛ける。
※ここから先は筆者の後書きになります!!大したことは書いてないので興味のない方はどうぞ読み飛ばして下さい!!
ども、琥珀でございます。
漸く戦闘回に入りました…
以前書いてた小説はもっと頻繁に戦闘回があったのですが、そこに至るまでの描写が少なかったため、読み返しても「…?」といった感じでした。
今回はそこに至るまでの描写を増やしたのですが、逆に戦闘までの回が長引いてしまって「…?」といった感じに…
書くのって、難しいですね…笑
というわけで、本日もお読み下さりありがとうございました!!
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします!!




