第63星:小隊長として
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。『グリッター』とのぶつかり合いを経て信頼を勝ち得た。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救う。大和から信頼され、小隊長にも任命される。
夜宵達小隊長が準備を進める中、朝陽は校舎をあとにし、かつて足繁く通っていた根拠地の崖頂上に座り込んでいた。
既に時刻は夕刻で、朝陽の視線の先に広がる海上の地平線には、真っ赤に染まった夕日が沈んでいくところだった。
夕日を見つめる朝陽の表情は、その夕日と同様に沈んでいた。
「はぁ…私は結局また、なんも出来ないのかな…」
小さく溢された呟きは、誰に届くでもなく風に流される。ただ一人を除いて。
「もしかしたらここに居るんじゃないかと思ったよ、朝陽君」
朝陽が声の方に目を向けると、そこにはゆっくりとこちらに向かってくる大和の姿があった。
「し、司令官…」
「君とキチンと話をしたときもここだったね。夕日がよく見える美しい景色…君のお気に入りだったからね」
笑みを浮かべながら、大和は朝陽の隣に腰掛ける。
そこから二人はしばらく口を開かず、やや気まずい沈黙の中、沈んでいく夕日を見つめていた。
その中で、先に口を開いたのは朝陽だった。
「…司令官は、全部お見通しでここに来られたんですよね?」
「君が…君の小隊が配置から外された。それは自分の実力不足と経験不足のせいで、自分が隊長でなければ、自分はともかく他の三人は選ばれたはずだ…あたりかな?」
「さ、さすがにそこまで見透かされると恥ずかしいというか…」
そんなにも表情に出ていたのか、朝陽は夕日に隠れるようにして顔を赤らめる。
「君は真面目で責任感が強いからね。きっと自分を責めているんじゃないかと思ったよ。勿論、それは見当違いだと否定しておくけどね」
「じゃ、じゃあどのような理由で私達が外されたのでしょうか!?」
朝陽は、急かすように大和の言葉に被せて問い詰める。しかし大和はそれを宥めるようにして微笑んだ。
「朝陽君の経験が足りないことが理由であったとしても、メンバーである梓月君達がそれを補ってくれている。君の小隊はそういう小隊だった筈だ」
「でも、それじゃ私は小隊長として何も出来てないことに…」
尚も自分を責め立てる朝陽に、大和はしょうがないな、といった様子で更に言葉を続ける。
「君は、小隊のメンバーに…梓月君達にそんな振る舞いを求められたのかい?」
「え…?」
「夜宵君、三咲君、椿君…それぞれが特徴を持ちながら、個性を活かした隊長としての振る舞いをとってる。じゃあ君は?君は、奏君達から何を求められていたんだい?」
「何を…求められて…」
朝陽はハッとして、小隊での初めての実戦の時を思い出す。
『サポートは私達にお任せください!!』
『その代わり、朝陽さんはその輝きで…』
『私達を導いてねぇ』
朝陽の表情から、憑物が落ちたように穏やかさが戻る。
「そっか…初めから私は、お姉ちゃん達と同じような振る舞いは求められてなかったんだ…私は…その時の行動で、皆を導けば良いんだ…」
朝陽の言葉に賛同するように、大和も頷く。
「その通り。そして、今回君の小隊を配置から外した理由は、君達の小隊の特性にある」
「特性…ですか?」
「そう。夜宵君や椿君、三咲君達三人の『グリット』は、即戦闘にあまり向いていない。特に椿君なんかは、どちらかと言えば戦闘に時間が必要なタイプの『グリット』だ」
朝陽は確かに…と頷く。
椿の『鮮美透涼の誑惑』は効果こそ強力だが、それを最大限に活かすには、設置までの時間と設置中の身バレを防ぐ必要がある。
夜宵の場合、咄嗟の戦闘に『グリット』を扱えない訳ではないが、現場に赴いて対応するよりは、現場に居て対応する方が『グリット』の力を活かしやすい。
三咲の場合は言わずもがな。
効果範囲を考えれば現場の近くにいた方が一早い発見と対応を行うことができる。椿と同じくらいこの作戦向きの能力なのである。
「その点、朝陽君達の『グリット』は対応力の面で他の小隊を上回ってる。現場には配置しても十分な戦果はあげられるだろうけど、それ以上に不足の事態に対応する戦力として、残しておきたかったんた」
「そう…だったんですか」
朝陽の中の悩みは、大和の一言で全て解消されていった。
大和は自分達を戦力として見ていないどころか、最も重要な役割を担わせてくれていたのだ。
「でも、三咲さん達に言われてからの一瞬でそこまで…」
「実を言うと、ボクも三咲君達と同じような作戦は考えていたんだ。ただ元々大隊で動いてたことを踏まえると、広範囲に人員を広げるシフト体制は混乱を招くんじゃないかと思ったんだ」
大和は「けれど…」と続ける。
「感情的ではなく、しっかりと自分達の意思を持ってボクに意見してくれた。なら、ボクはそれを後押ししたいと思ったんだ。作戦に多少の穴があろうと、それを埋めて補うのが司令官の役目だ。だから…この作戦の実行を決めたんだよ」
大和の本心に驚きながらも、その話を自分にしてくれたことに朝陽は喜びを感じていた。
「多分、これから間もないうちにメナスはまた攻めてくる。もう、人々にあんな思いを…あんな感情を持たせないよう、今度こそ勝利しよう」
「は、はい!!」
朝陽の返事に、大和は満足そうな笑みを浮かべると、腰を上げゆっくりとその場を立ち去ろうとした。
その背中を見届けながら、朝陽はもう一度口を開く。
「あの!!本当にありがとうございます!!司令官さんの期待に応えられるよう、精一杯頑張ります!!」
朝陽の言葉に、大和は歩みを止めることなく顔だけ振り返る。
「うん!勿論期待してるよ!!」
そう返事を返し、今度こそその場から去っていた。
見えなくなるまで大和の姿を見届けた後、朝陽は大和の最後の言葉を思い出していた。
『… もう、人々にあんな思いを…あんな感情を持たせないよう、今度こそ勝利しよう』
「(あの会見で…あれだけ責め立てられたのに、それでも司令官さんの心は人々のためにあるんですね…)」
朝陽は大和への感謝だけでなく、強い覚悟も受け取りながら、再度期待に応えるべく全力を尽くすことを胸に誓った。
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ソレは好機を伺っていた。
仲間達を意図的にバラし攻め込ませたり、一箇所に襲撃すると見せかけ陽動を行い別の箇所を攻め込んだり…ともかく隙を生み出そうと試みていた。
しかし、ことごとく防がれていた。幾たび攻めようとも、完全に攻め込むことが出来ていない。
勿論ソレの策略が完璧に防がれている訳では無い。
一度目の襲撃の際は、相手の得意としているであろう戦術を利用し後一歩のところまで追い詰めた。
二度目の襲撃に関しては完全な読み負けであった。まさか一瞬であの人数を分けてくるとは思っていなかった。
三度目の襲撃は虚をついた。しかし、完全に裏を取ることは出来ず、予想よりも早く対応されたために、仲間達を撤退させざるを得なかった。
しかし、ソレは、これらの敗北と戦いが、自分の糧となっていることを強く実感していた。
敗北であろうと、何であろうと、生まれたばかりである今の自分にとっては、それらが全て成長を促進する栄養剤のようなものであった。
だがしかし…それでも、負け続けると言うのは気分の良いものでは無かった。
『次コソハ、必ズ堕トシテ見セル』
感情という概念は持たないはずの身体に、こういった想いが芽生えていることに、自身も驚きを隠さないでいた。
しかし、ソレは同時に、この感情というものが強い力を引き起こしていることにも気が付いていた。
『アァ…楽シミダ…』
ニゴリ…人の姿をしているとは思えないほど凶悪な笑みを浮かべ、メナス…否、悪厄災『エデン』はゆっくりとその姿を影へと消していった。
※ここから先は筆者の後書きになります!何か今回は葛藤していますが、興味のない方はどうぞ読み飛ばしてください
ども、琥珀でございます!
ちょっと作品見直してきて気付いたのですが、『三咲小隊』とか『椿小隊』ってちょっと変ですかね?
『朝陽小隊』と『夜宵小隊』に関しては姉妹ということもあり、苗字が被ってしまうので、差別化を図るために名前表記は決めていたのですが、三咲と椿に関しては素で名前+小隊なんですよね。
この場合三咲小隊は木霊小隊、椿小隊は佐久間小隊、というのが正しいんでしょうか?
ちょっと訂正を考える案件ですよね…
というわけで、本日も読了ありがとうございました!
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします!!




