第61星:対策
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
日下部 リナ(24)
千葉根拠地の技術班班長を務める女性。開発よりも改善・改造を好み、バトル・マシナリーを『グリッター』のために改造している。技術力は確かなもので信頼も厚い。職人としては大人しい性格だが、意見はハッキリと伝える強さも備えている。
モニターに流される会見の映像を、朝陽達は悲痛な面持ちで見ていた。
「どうして…誰もわかってくれないの…どうして、司令官が責められなくちゃいけないの!!」
我慢が限界を迎えたのか、朝陽はその場に立ち上がり、怒りのままに叫ぶ。
それを見た夜宵が近寄り、諌めるように肩に手を置いた。
「落ち着きなさい朝陽。これは今に始まったことじゃないでしょ?」
「そうだけど…でも…」
辛そうな面持ちを浮かべる朝陽を、夜宵はソッと抱きしめた。
朝陽自身も今の現状を知ってはいたが、実際に戦う立場となってから感じるものは、それまでとは桁違いの辛さであった。
これまで誰かのために心を痛めてきた朝陽だが、それでも自身のこととなると、やはり実感するものは大きかったのだろう。
「守れなかったのは事実。被害が出たのは現実。それを受け止め、受け入れて、私達は戦い続けるしかないのよ、朝陽」
妹を慰める夜宵の表情も、どこか暗い面持ちであった。
「しかし、司令官は何故メナスに『知性』があるような思わせぶりなことを言ったのでしょうか」
会見での大和の発言を聞き、三咲は疑問に思ったことを口にする。
「『知性』があることを公表すれば混乱を招くことになるのは分かります。それなら秘匿するように発言をすれば良いはず。なのに、敢えてそれを含ませるような発言をした意図は…」
「分からない?三咲」
大和の行動に疑問を抱いた三咲に、夜宵が諭すように答える。
「確かに司令官の発言は余計な混乱を招きかねない発言かもね。けれど、もし…全てを秘匿するような発言をした場合、非難の矛先はどこへ向かうと思う?」
「非難の…矛先?まさか」
夜宵の言わんとしていることは、三咲だけでなく全員が直ぐに理解した。
「そう。もしこれまで通りの状況であったのなら、非難の矛先は現場の『軍』人…即ち私達に向けられていたでしょうね。でも、『知性』という不確定要素を含ませ、且つその対応に追われていた、という言動。そして司令官自身が前に立つことで、司令官はその矛先を自分に向けさせているのよ」
言われてみれば、記者も市民も、朝陽達『グリッター』を直接非難するような発言は見られない。言葉も感情も、全て大和に向けられたものばかりであった。
そして、二人は自分達を誰一人連れて行くこともなく、責任を自分達が全て被っている。
「(私達は…司令官や指揮官におんぶに抱っこ状態…お二人がどれだけ優秀な方でも、私達が足を引っ張ってたら意味がない…私達がもっと強くならなきゃ…)」
モニターで頭を下げる大和の姿を目にしながら、夜宵は自身の更なる成長を誓った。
●●●
「え?今回の、メナスの探知が出来なかった件の究明ですか?」
会見の翌日。大和は早速事態の解決に向けて、千葉根拠地の技術班のもとを訪ねていた。
「そう。君達に責任を追求するわけでは無いんだけど、メナスを感知するソナーはある意味で『軍』の生命線だ。今後もこの状態が続くのは、我々からすれば致命的になる」
「や〜勿論それは技術班の私達が一番分かってますけどねぇ〜。今回の事件に関しては原因が全く分かってないわけでして…」
どこか謙ったような様子で話すのは、千葉根拠地技術班の班長、日下部 リナ。
女性でありながら上に来ているのはタンクトップのみ。下も作業用のニッカボッカを着ており、着こなしは女性らしさを感じさせない。
しかし、プロポーションは非常に良く、薄い生地の服に加えて肌が多く露出する服装は、リナの女性らしさを醸し出していた。
髪は後ろで結われ、額にはゴーグルが引っ掛けられており、全身が薄汚れているあたり、技術職人らしさが滲み出ていた。
「それに…悪いんですけど、正直人手も資源も足りて無いというか…ここの皆さんのバトル・マシナリー整備と用意だけで結構手一杯なんですよ…仮に人員を割いたとしても少数…原因究明だけでもどれだけ時間がかかるか」
口籠もりながらも言うべきことはハッキリ言う。この辺りは職人の性と言うべきだろう。
勿論大和はその答えを笑顔で受け止める。
まだ根拠地の司令官としては日が浅い大和からすれば、こう言ったことをハッキリ言ってくれるのは、寧ろありがたいことだった。
「勿論、それを日下部君達だけに任せようなんて毛頭思ってないよ。咲夜」
「はい」
大和にいわれ、後ろで待機していた咲夜がリナに紙の資料を手渡す。
「んん?これは?」
「今回の原因究明にあたって動かせる千葉エリア技術班の人員リストです」
目を通したリナの疑問に、咲夜が間髪入れずに答えると、リナは思わずそのリストを凝視し直す。
「人員って…これ何人くらいいるんですか?」
「一先ずではあるけど、とりあえず100名は確保した。必要であればもう少し協力して貰えるとは思う」
「ひゃ、100…昨日の今日でこんだけの人数を…ハンパないっすね、大和さん…」
大和を司令官と呼ばず、名前呼びした辺りで咲夜の眉が動いたように見えたものの、誰もそれには気付かない。
「大変な作業を任せることになるから、このくらいはね。それからこれも」
そう言って、大和は更に別の紙を手渡す。そこには先程のリストに負けず劣らずの文字が書かれていた。
しかし、リナが驚いたのはそこではなく、その中身だった。
「今回メナスを探知できなかった原因や方法と思われるもの、またそれにあたっての改善策や対応策を思い付く限り記載してみた。技術専門の君達からすれば鼻で笑われるような内容かもしれないけどね」
「いやいやいや…これは凄いすわマジで…」
大和はどこか謙遜したように笑っていたが、リナから溢れた言葉は冗談でも何でもない、本音であった。
「(マジで私の思い付く限りの対策方法全部考えてあるよ…というか巨大探知機を向かい合わせて超音波の反響を利用した半永久探知機能とか、もはや改革じゃん!!)」
渡された資料の内容に、技術職人として胸をときめかせつつも、リナはある疑問を抱く。
「(でもこれ、素人が思い付く内容じゃないよね。それこそちょっとかじった程度で思い付くものでもない…大和さん、マジで何者…)」
とは言えその疑問は疑いを持つようなものではなく、尊敬的な意味合いから生まれた疑問であった。
だからこそ、リナの次の言葉は自然と出てきた。
「あの…ありがとうございます。私達技術班の為なんかにここまでしてくれて…」
「…なんかのため?」
「だって…私達は現場で戦うようなことはしないじゃないですか。出来るのは、ちょこっと機械を弄ったりして、『グリッター』の人達を手助けするくらい。言ってしまえば日陰者なんですよ。だから、ここまでして貰えるのは寧ろ申し訳ないくらいというか…」
困ったように笑うリナに対し、大和は笑みを浮かべたまま、小さくため息を溢した。
「全く…どうしてここまで謙虚になれる子達が辛い目に合わなくちゃいけないのかな…」
「…え?ひゃっ!!」
困惑した様子のリナに大和は近付き、その両肩に手を置いた。
「いいかい?日下部君。君は誤解をしている。確かに君達は前線に立って戦うことはないかもしれない。けれど、メナスを探知するためのソナー然り、『グリッター』をサポートするためのバトル・マシナリー然り。その全てが彼女達の力となり支えとなっている」
「力…支え…」
「夜宵君や朝陽君達が思い切り戦えるのも、君達技術班のサポートがあるからこそだ。君達が日陰者?ならそれはライトだ。彼女達をより強く輝かせるために欠かすことの出来ないスポットライト」
「より強く輝かせるための…ライト」
考えもしなかった…リナはそう言った表情を浮かべながら大和の言葉に耳を傾けていた。
「申し訳ないなんて思う必要はない。君達にはそれだけの支援を受ける権利があるし、それだけのことをしてくれているんだ」
大和は真っ直ぐリナの目を見つめ、ハッキリと感謝の意を伝える。
「いつもボクたちを支えてくれてありがとう日下部君。ボク達を支え、一緒に戦ってくれていることを誇りに思うよ」
「お、うぅ…」
大和の感謝の言葉に素直に嬉しさを感じるのと同時に、リナは何故か胸の鼓動が早まり、顔が熱くなっていくのを感じていた。
すっかり固まってしまったリナの様子を大和が心配すると、咲夜が後方から冷ややかな視線と言葉を投げかける。
「露出した女性の肌に触れる…セクハラですよ?大和」
「あっ!?ご、ごめんそういうつもりじゃ…」
「えっ!?あ、や〜私も全然気にしてなかったですよアッハッハ!!」
手が離れたことで我に帰ったリナは、何かを誤魔化すように大声で笑う。
「じゃあいただいたリストと資料を参考に早速取り掛かりますんでね!!」
「うん、宜しく頼むよ。何かあれば何でも言ってくれ。じゃあボクは執務室に戻…ん?咲夜、なんでそんなに引っ張るんだ?あ、あぶなっ!?」
「もう…貴方はホントに…もうっ!!」
「さ、咲夜何か怒って…」
「怒ってません!!」
最後に謎のやりとりをしながら、二人は技術倉庫をあとにした。
リナはそれを見届けると、そっと手元の資料を胸に抱き寄せ、周りに聞こえる作業案に隠れるようにしてソッと呟いた。
「う〜…ガラじゃない…筈なんだけどなぁ…」
※ここから先は筆者のあまり意味のない後書きになります!興味のない方はどうぞ読み飛ばしてください
※2 すいません!朝5時に更新したつもりが出来てませんでした!
ども、ここ最近謎にたくさん読んでいただけて嬉しい琥珀です!
そうなんです。何故かここ最近、いつもよりたくさん読んで頂けたのです。
でも理由なんてどうでも良いです。少しでも多くのかたに読んで頂けたこと、そして少しでもこの作品をおもしろいとおもっていただけたら、それだけで私は満たされるのです…
あ、でも感想とかはお待ちしております!!
いただいた感想には随時返事を返しますので、どうぞ屈託のない感想をお願いします!!
それでは、本日もお読み下さりありがとうございます!!
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします!!




