第59星:罠
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。戦いの傷は癒え、戦線へ復帰する。
【夜宵小隊】
私市伊与 19歳 四等星
早鞆瑠衣 18歳 四等星
矢々 優弦 16歳 四等星
「咲夜、夕、状況は?」
「はい、たった今、市原・袖ヶ浦方面からメナスが侵入したとの報告が入りました」
深夜帯でありながらも、警報を聞き取り執務室へと戻ってきていた。
「侵入した?それじゃあメナスは既に危険区域に居るということか?」
「ど、どうやらそのようです!既に市原・袖ヶ浦では緊急避難警報が、他近隣市内にも準避難警報が出されてます!!」
予想外の情報に、流石の大和の表情も崩れる。
「どうしてもっと早くに発見出来なかった?せめて準避難警報区域で」
「わ、分かりません!直ぐに原因の究明を…」
「それは後で良い。今は市内の被害を少しでも抑えることだ。朝陽君と夜宵君の二人を至急向かわせてくれ」
執務室にあるイスに座り、大和は即座に二人に指示を出していく。
「夜宵三等星をですか?彼女はまだ復帰したばかりですが…」
「だからこそ、だ。彼女も朝陽君となら下手な気負いをせずに挑めるだろう。君の助言もあるしね」
大和の深みのある言葉に咲夜は微笑み、夕は一人置いていかれた状態で呆然としていた。
●●●
警報が鳴った瞬間、朝陽達は迷うことなく戦闘準備を始めていた。
「え、私とお姉ちゃんが出撃!?」
「朝陽ちゃんは分かるけど、復帰したての夜宵さんがいきなり…」
「悩むのは分かるけど、今は時間がないわ。司令官にも考えがあってのことでしょうから、私達はそれに従うだけよ」
三咲達が困惑の表情を浮かべる中、夜宵は一切迷うことなく出撃準備を進めていた。
「(空気が一瞬で引き締まった…流石夜宵さんですね…)」
三咲が、いやその場にいた全員が改めて隊長としての夜宵の大きさを実感していた。
「では我々も準備しますか!!梓月さん、華さん!!」
「そうだと思いまして」
「準備万端だよぉ」
朝陽小隊の面々も既に準備は終えており、万全の状態であった。
「それじゃあ私の小隊も。え〜とメンバーは…」
「私達…だよ」
夜宵の言葉に、矢々 優弦を筆頭に3人が前に出てくる。
「優弦、それから伊与に瑠衣の三人ね。練習なくいきなり実戦になっちゃったけど、いける?」
「勿論っす!!」
「お任せくださいませ。必ずお力になって見せます」
夜宵に答えたのは、優弦に加えた私市 伊与と早鞆 瑠衣の三人だ。
既にこちらも朝陽小隊同様、準備は整っていた。小隊としての実戦は初ながら、臆することなく、寧ろ意気揚々としていた。
「いいわね。じゃあ直ぐに現地へ向かうわ。先陣は朝陽にお願いするわね」
「え、わ、私!?お姉ちゃんが指揮を取った方が…」
「私は復帰したばかりで、小隊での戦闘も初。それなら既に小隊長としての経験がありながら、実戦もこなしてる朝陽の方が今は適任だと思うわ。大丈夫。後続でも私も出来るだけサポートするから」
夜宵の無駄のない説明を受けて納得した朝陽は頷き、全員に移動用のバトル・マシナリー装着の命を出す。
そしてそれから数分もせずに用意を終えた二小隊、計8名が出陣した。
●●●
「こちら朝陽小隊及び夜宵小隊。現場に到着しました!!」
『状況は?』
「状況…は…」
現場は酷い状態であった。至る所に見られた建築物は破壊され、形が残っている物は炎が燃え盛っていた。
朝陽達の行動は迅速であったものの、後手を踏んだ代償は非常に大きものとなっていた。
「既に街の各箇所に被害が出ています。火災も有り。消化班の要請をお願いします。これから索敵しつつ、人命救助活動も行います」
『了解した。メナスの反応はまだある。気をつけるように』
あまりの惨劇に言葉が出なかった朝陽の代わりに、夜宵が大和に情報を伝える。
「大丈夫ですか、朝陽さん」
「す、すいません、梓月さん。大丈夫です」
顔を青白くさせている朝陽を梓月が気遣うが、朝陽は込み上げてくるものをグッと堪え、気丈に振る舞う。
「朝陽さん。私達の隊で逃げ遅れた人がいないかを探しましょう!!」
「そうですね。私の念力操作なら瓦礫を退かせますし、火なら奏さんが曲げたり華さんが圧縮したり出来るはずです」
「そ、そうですね!!」
梓月達の提案に朝陽はのり、夜宵に目で伝える。
「じゃあ私達が敵の索敵をするわ。司令官達もレーダーで監視をしてくださってるとは思うけど、その根拠地のレーダーを掻い潜ってきた敵よ。気をつけて」
「うっす!」
「畏まりました」
伊与と瑠衣の二人が力強く答える。次いで夜宵は優弦に目を向ける。
「そういうわけだから、貴方が頼りになるわ優弦。お願いね」
「う…ん。任せて」
夜宵に頼まれる前に、優弦は既に『グリット』を発動。全神経を集中させ、『精霊の囁き声』によりメナスの位置を探り出す。
「警戒は最大限こちらで引き受けるわ。朝陽達は救助に全力を注いで」
「分かった、お姉ちゃん!!」
現場のメンバーが各々の役割を果たしながら、人命救助を進めていく。
「誰かいませんかー!!千葉根拠地の『グリッター』です!!」
朝陽達は崩れ落ちた瓦礫となった建築物の周りを回りながら、何度も声をかけていく。
が、しかし、各市には緊急時の避難訓練は徹底して行われており、朝陽達が市民の人々の避難にあたることはほとんど無い。
大抵はその場に配属された『軍』の非戦闘員が避難誘導にあたるため、『グリッター』は基本的に戦闘に集中することができる。
今回の襲撃に関しても、逃げ遅れた市民は見当たらず、非戦闘員による避難誘導は終了しているように見えた。
「逃げ遅れた人は…いないように見えるねぇ」
「でも…じゃあメナスは?ソナーにはまだ反応しているんですよね?」
華がこぼした言葉に、朝陽が疑問をぶつけ、一同も押し黙る。
●●●
「どう思われますか、大和」
咲夜に問われ、大和は手を顎に当て数秒考え込む。
「襲撃されたという報告を受けてから出撃までおおよそ15分。移動時間を含めると30分くらいになるが…今回の被害規模を考えれば、襲撃地帯の避難自体は十分に可能だろう」
「私もそう思います。ではメナスの反応については…」
直ぐに考えをまとめた大和の発言に、咲夜も同意する。
「…ソナーの範囲を縮小して精度を上げてくれ。それから朝陽君達にもビーコンの起動を伝えてくれ。メナスの正確な位置を知りたい。それから夕君、三咲小隊に出動準備をするよう伝えてくれ」
「は、はい!」
大和の指示に夕は直ぐに応じたものの、咲夜はその意図を知るべく問いかけた。
「三咲小隊の出動準備…朝陽さんと夜宵さんの元へ向かわせるのですか?」
「いや、違う。まだ出動はさせない。ただ、嫌な予感がしてね。念のためだ」
不吉な予感を匂わせる大和の発言に、咲夜も僅かに緊張感を覚えた。
●●●
「ソナー精度向上…メナス反応位置確認。場所は…ここね。みんな、戦闘準備を怠らないで」
「了解っす!」
「いつでもいけます!」
伊与と瑠衣の二人が力強く答えるものの、優弦だけはソナーが示すメナスの場所を訝しげに見つめていた。
「(…私…の『グリット』…は何も反応して…ない。ここに、本当にメナス…はいるのかな)」
一抹の不安を抱きながらも、優弦は反応のある箇所の瓦礫を夜宵が闇で飲み込む。そこには…
「これ…は?」
そこにメナスの姿は無かった。代わりにあったのは、『腕』。それも、強引に引きちぎったかのような腕の残骸だった。
「メナスの…腕?」
「どうしてそんなものがここにあるんすか?」
「いえ、それよりも、先程からソナーが拾っていたメナスの反応は、この腕ということになりますよね?それでは、メナスの本体達はどこに…」
全員が黙るほかない状況で、夜宵が口を開く。
「ともかく、これを司令官に報告するわ」
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「え?あったのはメナスの腕だけ…ですか?」
夜宵の報告を受けた咲夜の反応は、困惑だった。しかし、それとは対照的に、どこか焦ったような表情を浮かべたのは大和だった。
「やられた…!!どういう理屈なのかはわからないが、完全に後手を踏まされた!!」
珍しく声を荒げる大和の姿に咲夜だけでなく夕も驚いていた。
「咲夜、至急三咲君に出撃するよう伝えてくれ!!場所はーーーーー」
大和が次の指示を出そうとするが、それよりも早く夕が通信を受けて報告した。
「鴨川地区より入電!!数体のメナスが出現し、準避難警戒区域に侵入したそうです!!」
※今週も独り言はお休みです
本日もお読みくださりありがとうございました
次回は金曜日を予定しております




