第54星:模擬戦
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲耶とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…？
咲夜（24?）
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽（18）
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵（22）
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。戦いの傷は癒え、戦線へ復帰する。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。
佐久間 椿（22）
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
「お待たせ致しました。準備は宜しいでしょうか？」
昼食を挟んでの午後。巡回中の『グリッター』を除いた全員が集まる訓練場の一角では、咲夜と夜宵の二人が向かい合っていた。
「勿論です。あとは実践的場面で試させていただければ」
「良いことです。それでは早速始めましょうか」
組手は二人で行われるもので、それ以外の面々は訓練を続けている。しかし、当然意識は二人に向けられていた。
「ルールは基本的にありません。相手を殺傷、若しくはそれに近い攻撃は禁止、『グリット』の使用は有りとします」
「え！？『グリット』の使用をですか！？」
流石の夜宵も、この発言には驚きを隠せない。『グリット』は人類が『脅威』に挑むための力であり、それ故に強力である。
加えて、三咲や椿であるのならばまだ模擬戦でも使うことが可能であるが、夜宵の能力は攻撃的であり加減も効かない。
下手をすれば味方であっても命を奪いかねない能力である。夜宵が躊躇うのも無理はなかった。
「…お言葉ですが指揮官。私の『グリット』の力はご存知の筈です。下手をすれば周りの仲間を傷つけかねません。実戦感覚を取り戻すためとはいえ、それはあまりにも危険では無いでしょうか…」
「良く分かっているでありませんか」
しかし、咲夜の答えは夜宵が思っているものとは真逆のものであった。
「…どういう…意味でしょうか？」
「あなたの『グリット』は非常に強力であり、同時に異質です。それ故に制御が効かず意識的に制御してきた筈です」
咲夜の指摘は全て当たっていた。これまで夜宵は自身の闇の解放を意図的に制限し続けてきていたからだ。
「ええ、仰る通りです。ですが、それが今回の模擬戦とどのような関係があるというのでしょうか」
「模擬戦だからこそです。模擬戦ですら扱えない『グリット』を、実戦で扱えるわけがありません。実際、そのことで苦労したこともあるのではありませんか？」
「それは…」
何も言い返すことも出来ない内容だった。実際、味方への被害を恐れて戦うことも少なくなかった。
前回の戦いにおいても、夜宵がフル出力で能力を解放していれば、恐らく怪我をすることは無かっただろう。
しかしその場合、自身が庇った朝陽がどうなっていたかは分からない。下手をすれば、最悪の事態もあり得たかもしれない。
それは、夜宵が最も危惧していることだ。朝陽に限らず味方を傷付けてしまうこと、それだけは絶対に避けなくてはならない事態だ。
「この模擬戦をあなたに申し込んだのは、当然通常の戦闘感覚を取り戻して頂く意図もありますが、それ以上に『グリット』を使いこなして頂こうと思ったからです」
「『グリット』を…使いこなす…」
夜宵はジッと自分の手を見つめる。その眼にうつるのは、今はまだ見えない、解放した時の能力だった。
その様子を、咲夜はどこか冷ややかに見つめていた。
「分かりました。ですが、一つだけ確認をさせてください」
「何でしょうか？」
「『グリット』を使って良い…というこは、当然指揮官も『グリット』を扱える、という風に捉えて宜しいですね？」
夜宵の問いに対し、咲夜は僅かに目を細め逡巡する。今、ここでどこまで話して良いものか…それを推し量っているようだった。
10秒に満たない沈黙を終え、咲夜がゆっくりと口を開く。
「はい、私も『グリッター』です。ですから貴方が『グリット』を使って頂いてもなんら問題はありません」
この咲夜の言葉は、当然全員が聞いており、これで周知の事実となったことになる。
自身が『グリッター』であることを話すかどうか悩んだ末に、咲夜は話しても問題ないという結論に至った。
『グリッター』であることを話さなければ、この模擬戦は成立しないし、何より夜宵の反応を見て、恐らく自分が『グリッター』であることはバレていると判断したからだ。
「（『グリッター』であることはこの際知られても問題無いでしょう。使用も出力も最小限に留めれば把握されることもないはず）」
理由は不明なものの、咲夜は自身の『グリット』を明かしたくないという考えを持っていた。
その中で今回のように自分が『グリッター』であることを明かすことは、咲夜にとってはリスクとデメリットでしかない。
それでも、咲夜がそのリスクを負ってでも明かしたのは、ひとえにそれが夜宵と彼女達のためになると思ったから。
そしてそれが、最後には大和の力になると考えたからである。
「分かりました。時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした」
「それでは模擬戦を始めましょう。皆さんも観戦して頂いて構いませんが、離れていてください」
夜宵の『グリット』の能力を警戒してか、はたまた危険な模擬戦になると考えてか、咲夜は周りのメンバーに距離を取るよう指示する。
夜宵の『グリット』を知っているからか、三咲達を筆頭にメンバー達は即座に距離を取っていた。
「遠慮はいりません。私を『メナス』だと思って全力で来てください」
「分かりました。指揮官自ら割いて下さった貴重な時間、無駄にしないよう全力を尽くさせていただきます」
二人は既に交戦体勢だった。メンバー全員もそれを感じ取り、辺りに緊張感が走る。
「『闇夜の月輪』！」
先に動いたのは夜宵。何の躊躇いもなく『グリット』を発動させ、蠢く漆黒の闇を全身に展開させる。
「戦闘補具、『衝撃槌』」
対して、咲夜は『グリット』を発動させなかった。代わりに取り出したのは短く細い棒…それがガシャンガシャンと音を立てながら先端が変形していく。
変形が終わると、それは30センチ程の大きさの小型ハンマーへとなっていた。
「…まさかそれでお戦いになられるおつもりで？」
「ええ、そのつもりです。あぁご安心を。キチンと殺傷力は落としてありますので」
夜宵の言いたいことはそこでは無いし、勿論咲夜もそれを分かった上で言っていた。
煽りに対し、冷静さを保つよう一つ息を吐きながら集中する。
『グリット』で強化された肉体で一気に加速し、咲夜との距離を詰める。勿論狙いは直接攻撃ではなく、攻撃速度の遅い『闇』を当てるために距離を詰めたのである。
「遅い」
が、それを上回る速度で咲夜が移動。距離を詰めたいという夜宵の狙いを、意図せず咲夜が叶えた形となる。
次に夜宵が感じたのは凄まじい衝撃。左のこめかみ辺りに走った衝撃を、感じた直後に闇で吸収し、ことなきを得る。
しかし、全ての衝撃を吸収出来たわけではなく、夜宵は進んだ分の距離を戻されてしまう。
「（は、早い…距離を詰められたのも、あのハンマーを振ったのも、何一つ眼で捉えられなかった…）」
こめかみに残る感覚に指を這わせる。傷は無いものの、額には大量の汗をかいていた。
「（たったの一手でここまで…）」
「あなたの『グリット』の特性上、距離を詰めてくることは分かっていました。単純な弱点であるが故に、あなたの行動も単純になっています。…一つ学びましたね」
動揺の表情を浮かべる夜宵とは対照的に、咲夜は悠々自適とその歩を進めていた。
「（恐らく指揮官は『グリット』を解放していない…純粋な『グリット』による肉体強化だけで圧倒されている…）」
夜宵は咲夜の持つ武器に目を向ける。
「（あれは恐らく衝撃か何かを発生させるハンマー。それが分かっていれば、衝撃を吸収することは出来る。うまく行けばハンマーごと飲み込める…）」
夜宵は「けれど…」と思考を続ける。
「（それは反応できたらの話。正直、今の私で眼で追える気がしない…狙うのなら、攻撃をした時にカウンターを仕掛ける！）」
夜宵は完全に待ち構えて受ける体勢であった。咲夜はその様子を僅かに伺った後、距離を取ったままハンマーを構え…
「シッ！！」
全力で振るった。その瞬間、ハンマーからは衝撃は見えない波動となって放たれ、距離を取っていた夜宵を直撃した。
「ガッ！？」
見えない攻撃では、流石の夜宵でも防ぎようがなく、仰け反るようにして倒れこむ。
「思考はシンプルで判断も早い。けれど単調且つ単純過ぎます。それではこの先の戦いを生き抜くことなどできませんよ」
頭部に衝撃を受け、視線が定まらないながらも夜宵は咲夜を真っ直ぐに見つめる。
「まだ…これからです！」
「良い心意気です。さぁ、立ちなさい」
一同がハラハラとした様子で見届ける中、二人は再度距離を詰め、ぶつかり合った。
※ここから先は筆者のくだらない後書きになります！興味のない方はどうぞ読み飛ばしてください！！
ども、琥珀でございます。
また台風のようですね。しかも前回よりも大きいとか。
正直洒落になりませんね…ただ前回の影響が大きかったこともあり、皆さま対策の方は取られている方思います。
自然災害は何が起きるか分かりませんが、自分に出来ることはしっかりやり、時に助け合って乗り越えていきましょう！
本日もお読みくださりありがとうございました！
次回の更新は月曜日を予定していますが、台風次第で更新お休みさせて頂くかもしれませんのでよろしくお願いします！
