第53星:素性
国舘 大和(24)
再び根拠地に現れた青年。『軍』関東総司令部より『特級』の階級を与えられ、新司令官として正式に根拠地に着任した。右腕でもある咲夜とともに早速指揮にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。新しい環境で新しいことに挑もうとするが…?
咲夜(24?)
常に大和についている黒長髪の美女。一度は必ずしも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。落ち着いたただ振る舞いからは信じられい圧力を放つことも。司令官である大和を補佐する。並外れた戦闘能力でグリッター達の信頼を集め、彼女達に戦う術を伝える。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めており、開花に至たらないまま戦場に立ったが、大和の言葉により、『天照す日輪イノセント・サンシャイ』を覚醒させ、仲間の命を救った。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。所属している根拠地における『グリッター』達を束ねる部隊の隊長。実力さながら面倒見の良い性格で、仲間からの信頼は厚い。療養生活を終え、現場へと復帰した。
樹神 三咲 (22)
千葉支部所属。夜宵の率いる『グリッター』部隊の副隊長を務めている。生真面目な性格で、少し緩い隊長に変わって隊を締める右腕。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を見渡す。大和方針に反対している。
佐久間 椿(22)
千葉支部所属。夜宵率いる『グリッター』部隊メンバー。包囲陣形の時には後方隊の指揮を任せられる。洞察力に優れ、物体を還元して透明な罠を作る『グリット』を効率よく扱う。おっとりした口調が特徴。
「え、お姉ちゃん指揮官と模擬戦するの!?」
その日の昼下がり。昼食を食べ終えた朝陽達は、休憩時間の中食堂で復帰した夜宵と会話をしていた。
「そうなの。それも向こうから提案してくれてね。朝陽達から聞いてた話とは違うから少しビックリしちゃった」
「はぁ〜…アタシん時は直ぐに受けてくれたけどなぁ…」
「それはあれだけふっかければ流石に応じるでしょうよ…」
海音の言葉に、三咲が呆れたように答える。
「でも〜、よくよく考えたら指揮官って不思議な方よね〜」
ポリポリと細長い菓子をつまみながら、椿がフラッと溢す。
「不思議…ですか?凛々しくて、厳しくて…それでいて私達のことを考えて下さっている優しい方ぢと思うのですが…」
「そりゃ〜勿論、私もそうは思ってるよ〜?ただ、それを踏まえても不思議な人だなぁって」
素直で人を疑うことを知らない朝陽は、椿の話に首を傾げる。
そんな朝陽に良い子良い子しながら周りを見ると、やはり他の面々は椿の話に共感を得ているようだった。
「言われてみればそうですね。ドタバタしていたのもありますが、考えてみると不思議な方ですね」
真っ先に同意したのは三咲だ。咲夜と正面からぶつかり合っただけに、一番思うところがあったのだろう。
「そもそも司令官も指揮官も、私は全く存じあげない方々でした。確かに『軍』の名簿リストには載っているのですが、経歴は殆ど不明。いつ『軍』に加入し、どこでどのような功績を挙げてきたのか…それすら分かりませんでした」
「あらら。そうやって聞くと確かに謎めいた人達ね」
これまで遠目に話を聞いているだけだった言葉が割って入ってくる。
「でもさ、『軍』に入るだけならともかく、司令官、指揮官になるのはそう簡単に出来るもんじゃないよね?だったらやっぱり凄い人達なんじゃない?」
次いで発言したのは七。こちらは大事にしているカメラをキレイに掃除しながら話しているようだった。
「そういう考え方もあります…けど…」
七の言葉に対し、三咲は何か言い辛そうに口ごもる。代わりに答えたのは、ゆったりとした口調の椿のだった。
「ここの前任者達があんなんだったからねぇ〜もしかしたらコネクションで…なぁんて可能性もあるよね〜」
椿の発言に、空気が一気に重くなる。『達』というのは、前任の塚間 義一よりも前の指揮官のことも指している。
これまで朝陽達を指揮してきた人物達は、皆が基本的に自分達を道具のように扱ってきた者達ばかりであった。
そのため、朝陽達はいつしかそれが当たり前のことのように受け止めるようになってしまったのだ。
とはいえ、現在の社会状況的に見れば、『グリッター』が差別の対象となっているのは事実である。
それを『軍』の上層部が黙認しているのだから、朝陽達にはどうすることもできない。
そもそも『軍』そのものが、『グリッター』を管理するために創られたのだから、はなから期待など出来はしないのだが。
一同が重苦しい雰囲気の中で黙っていると、朝陽がその空気を振り払った。
「もう!!皆さん何を言ってるんですか!!司令官も指揮官も、私達のことを何度も救ってくれたじゃないですか!!」
朝陽の突然の大声による反論に、一同の視線が集まる。
「前任指揮官から私達を救ってくれたのも、苦戦したメナスとの戦いで助けてくれたのも、小隊編成で私達の成長を促してくれたのも、全部司令官と指揮官のおかげじゃないですか!!多少過去が分からないだけで疑ってかかるなんて失礼ですよ!!」
怒気さえ孕んでいるように聞こえる反応に、全員が面食らっているような表情を浮かべていた。
「…や、ごめんごめん朝陽ちゃん。別に司令官達を悪く言おうと思ったわけじゃないんだ」
「ちょーっと、ミステリアスな人達だよね〜って言いたかっただけなんだ〜」
少し慌てた様子で言葉が朝陽を宥め、それを椿がフォローする。
朝陽も自分がまさかここまで感情的になるとは思っていなかったのか、直ぐにハッとした表情を浮かべると、頭を下げて謝った。
「ご、ごめんなさい!!な、なんだかカッとなってしまって…」
「…無理もないです。朝陽にとって司令官は自身のグリットを覚醒させてくれた張本人。私達以上に思うところはあるでしょう。私達が無頓着でした」
三咲の説明に一同は納得すると、重ねて朝陽に謝る。朝陽は戸惑っていたものの、自分が受け入れなければ繰り返しになると思い、申し訳なさそうにしながらも受け入れた。
「でもさ〜掘り返すようで悪いんだけど、正直指揮官の方がミステリアスだよね〜」
「…?何故です?」
周りの雰囲気など我関せず、と言った様子で椿は続ける。
「や、だってさ〜?司令官って根拠地での最高権力者だけど、基本的に『グリッター』でない人が選ばれるでしょ〜?」
「…まぁ、『軍』の上層部から選ばれる訳ですからね…」
「で〜、それに併せて指揮官は『グリッター』が選ばれることが多いでしょ〜?」
「指揮を取る二人が『グリット』を使えないのでは不具合が生じますからね…って、そうか、そういうことですか」
「え?どういうこと?」
いち早く察したのは三咲。そして少し遅れて夜宵が気が付いた。
「そうか。指揮官は『グリッター』っていう可能性が高いわけね」
「そ〜そ〜」
言い出しっぺの本人が興味のなさそうな声で頷く。
「しかし、よくよく考えてみれば直ぐに気が付いても良いようなものでしたね。最初の訓練の時に朝陽を、組手では海音を圧倒したわけですから。そもそも『グリッター』でないわけがなかったんです」
むしろ何故そこに考えが及ばなかったのか。一同は確かにと言った様子で頷いていた。
ちなみに、必ず配属される指揮官とは違い、司令官には配属義務がない。
指揮官が『グリッター』である場合、若しくは『グリッター』でなくとも優秀であると判断された場合は、司令官の配属が免除される。
とは言え、司令官を配属しないことによるメリットは殆どなく、寧ろ配属された根拠地の方が良い成果を挙げているという結果も出ている。
この根拠地の前任者である塚間は後者の理由で指揮官のみの配属であったが、それは殆どが捏造であったことが大和の調べで分かっている。
勿論、護里もその全てを見抜けなかった訳ではない。が、しかし、多少は目を瞑ってでもそうしなければならなかった。
というのも、現在の『軍』には、司令官や指揮官に足り得る人材が足りないのである。
実力者、という意味でならことは足りている。『七輝星』と呼ばれる7人の『輝騎士』、最高本部に所属している50余名を超える猛者達。
それ以外に、本部でなくとも各根拠地にもなる十分な実力者達が潜んでいる。夜宵達もその中に含まれる実力は持っている。
しかし、上に立って指揮を執るとなれば、また話は別だ。実力だけでなく、カリスマ性や知識、冷静さなど様々な素質が求められてくる。
勿論、『軍』(というより護里)も育成には努めている。しかし思うような成果は上がらず、現在に至っている。
「そう言えば、以前、私が初めて『グリット』に目覚めた時、数体のメナスを取り逃してしまったことがありましたよね」
「ありましたね。その時は…本部近くでメナスが消滅したと…もしかしてそれが…」
「可能性ですけど、もしかしたらそのメナスを消滅させたのが咲夜指揮官なのかなって、いま思いました」
一同成る程と言った様子で頷く。
「その可能性は高いよね〜。あの時巡回に出てた奏ちゃん達も身に覚えは無いって言ってたし〜」
お菓子を食べ終えた椿が、机に突っ伏しながら補足する。
「あ、その時こんなことも言ってたね〜。なんか、白銀の光を見たとかなんとか〜」
「白銀の光…それが指揮官の『グリット』なんでしょうか」
朝陽の言葉に、しかし答えられるのものは当然いない。僅かに沈黙が続く中、夜宵がパンっと手を叩き、全員の意識を戻す。
「まぁともかく、いまそんなことを考えてても仕方ないわ。朝陽の言う通り大事なのは、お二人が私達のために尽力してくれているということ。なら、私達はそれを信じてついていかだけ。でしょ?さ、みんな訓練に行くわよ」
夜宵の言葉に一同は同意し、午後の訓練に向けての準備に入る。その中で、あいも変わらずのっぺりした姿勢のまま、椿は更に深く考えていた。
「(指揮官が『グリット』なのはもう確定なんだけど〜…気になるのは、どうしてそれを秘密にしようとしているか、なのよね〜)」
「ほら、椿行くわよ」
「は〜い」
とはいえ、これ以上考えても推察の域を出ない。夜宵に言われた通り考えるのをやめ、椿も訓練に向かうべく立ち上がった。
※ここから先は筆者の後書きになります!!興味のない方はどうぞ読み飛ばしてくださいませ!!
ども、琥珀でございます!!
最近、私は大きな買い物をしました。
かかった額も文字通り桁が違うため、なんだかまだ買ったような自覚がありません…
そうなんども買えるものではないので、大事にしないと…
皆さんも、お金の使い道は計画的に笑
本日もお読みくださりありがとうございました!
次回の更新は金曜日になりますのでよろしくお願いします!




