第四星:違い
登場人物紹介
青年(?)
朝陽が出会ったぶつかった青年。纏っている服装から『軍』の将校であると思われるが正体は不明。優しい笑みを浮かべるなど心優しそうな青年。
斑鳩 朝陽(18)
千葉根拠地に所属する少女。『グリッター』としての力を秘めているが、開花に至っておらず、現在は指揮官の報告官を務めている。戦えないことに引け目を感じている。
斑鳩夜宵(22)
千葉根拠地に所属する女性。根拠地にいる『グリッター』を束ねる部隊の隊長。責任感が強く、仲間たちから信頼されているが、妹の朝陽が絡むとポンコツ化する。
塚間義一(35)
千葉根拠地における指揮官で階級は少佐。『グリッター』に対する差別意識が強く、彼女達を平気や道具のように思い扱っている。
朝陽の発言に、青年の顔からゆっくりと笑顔が消えていく。
怒っているのではない。朝陽の言葉の真意を探ろうとしているのだ。
「世界が脅威との戦いを始めてから、私達はずっと戦い続けてきました。それこそ一世紀にも及ぶ戦いです。その間、正面から『メナス』と戦ってきたのは、私達『グリッター』です」
話す途中から、朝陽は青年ではなく、海の方へと顔を向けていた。
「戦える力が有るから戦う。戦う相手がいるから力を奮う。その在り方はまさに兵器そのものです。そんな私達を女性扱いするなんて…」
無論、これは朝陽の本音ではない。
『グリッター』とて心を持つ人なのだ。女性扱されずとも、人間なのだ。
相応の当然の扱いをされて嬉しくないはずがない。
それでも、自分達が人とは違う力を有していることも事実であり、そこから来る『自分達が兵器である』という考えを持っていることも嘘ではなかった。
そう言った面で、今の中年指揮官の扱いは間違ってはいない。
自分達を純粋に兵器扱いしている。
言動は不愉快であっても、その点がハッキリしている分、気が楽ではある。
下手に人間扱いされる方が、辛いと感じる時もあるのだ。
青年は暫く黙ったままだった。その沈黙が怖く、朝陽は青年の顔を見ることができなかった。
暫くして、青年がゆっくりと口を開く。
「兵器と人間の違いってなんだと思う?」
青年からされたのは、唐突な質問だった。
何かしら否定する様な内容の話をするかと思っていた朝陽は、答えることができない。
「質問を変えようか。兵器とグリッターの違いはなんだと思う?」
そこで朝陽は気が付いた。
さっきは否定していないように聞こえたがそれは誤りだった。
青年は最初から『グリッター』と兵器を分けて考え聞いていた。朝陽の話を聞いた上で、否定から始めていたのだ。
否定されていることに釈然としないものを感じつつも、朝陽は数秒考えてから答えた。
「…『対象』…ではないでしょうか。私達は人を殺めるために力を使うわけじゃありません。『メナス』を倒すために力を行使します。その違いではないでしょうか」
「違う。その力を誰に使うかは君達次第だ。兵器も同じ、人に向けようが動物に向けようが同じだ。要は使用者の意思次第で人にも動物にも向けられる。そこに違いは無いだろう?」
青年の答えは即答、且つ正論だった。
「では…なんなのですか?私達と兵器の違いとは?」
「ボクは『こころ』だと思ってる」
青年は芯の通った強い口調で再び即答した。
「兵器は人の心が離れれば無尽蔵にその猛威を振るう。冷酷に、冷淡に。ただ単に淡々と命を奪っていくんだ。何故ならそういう風に作られているから。けど、君達は違うんじゃないかい?」
青年から真っ直ぐ見つめられ、朝陽もその瞳から目を背けられなくなる。
「さっき君は『グリッター』と兵器の違いを『対象』と答えたね。その違いはどこから生まれる?形かい?能力の差かい?違う、『こころ』だ。『こころ』がヒトを殺めるためでなく守るために使えと叫んでいるんだ」
ビリビリと、目の前の青年から強いプレッシャーを感じる。
そのプレッシャーが言葉に乗り移り、朝陽の心を直接揺さぶっていた。
「君が…君達が無差別に人々を殺めるために力を行使するのであれば、君達のことを喜んで『兵器』と蔑んであげよう」
青年は朝陽を真っ直ぐ見つめながら、「けれど…」と続ける。
「人と同じように生まれながら、力を持ってしまったが故に兵器と呼ばれ、その狭間で悩み、それでも人々のために力を使って戦うのであれば、君達は立派な『人間』だ。日常の生活の中で悩み、苦しむ普通の人達と何が違うって言うんだ」
青年は難しいことを何一つ言っていない。謂わば当たり前のことを話していた。
その当たり前の考えを、朝陽はずっと失っていた。
自分達が恐れられているという現実から、その考えを押し込めてしまっていたのだ。
しかし、目の前の青年が放った言葉で、朝陽の胸の中に眠っていた『こころ』が、解き放たれたような、そんな気分になっていった。
「君達は『グリッター』である前に、ヒトであることを忘れちゃいけない。嬉しいことがあれば笑い、悲しいことがあれば泣く。それこそ、悩んでいることがあることそのものがヒトである証拠じゃないか」
青年はゆっくりと立ち上がり、沈んでいく夕日を背に、笑顔を浮かべながら朝陽に言う。
「だからこそ、その『こころ』を持つ君に、この問いを届けよう」
立ち上がりざま、青年は朝陽をしっかりと見つめながらこう尋ねた。
「君が戦おうとする理由はなんだい?」
青年はそう言い残すと、ゆっくりと去っていった。去り際、青年は何かを思い出したのかゆっくりと振り返る。
「そうだ。ボクの名前、まだ教えてなかったね。ボクは国館大和って言うんだ。宜しくね」
名前を伝え終えると、青年、大和は再び支部の方へと歩き出した。朝陽はその背中を見送りながら、何度も青年の名前と言葉を胸の中で繰り返し続けた。
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「ったく…なぜ俺があんな餓鬼に頭を下げにゃいかんのだ…」
翌日、朝陽がこれまで通り業務の報告をしている間、義一はその報告を聞いているのかいないのか、ブツブツと小言を繰り返していた。
「…以上です。何か補足が必要な箇所は御座いますでしょうか?」
「…あぁ?あー…特にねぇよ、下がれ」
相変わらずの雑な扱い。
しかしいつものような不快感を強くは感じない。昨日の青年との出会いが明らかに朝陽の心に変化を及ぼしていた。
「…いや、待て斑鳩」
と、部屋を出ようとする朝日を、義一が呼び止める。
正直一刻も早くこの部屋から出たかった朝陽は心の奥底でうんざりとしながらも、それを表情に出さず振り返る。
「はい、なんでしょうか」
「次の戦いではお前を戦線に出すことを決めた」
「……は?わ、私がですか?」
流石にこれには平静を保っていた表情を崩さざるをえない。
何の脈絡もなく、まるでたった今思いついたかのように、突然の発言だった。
「で、ですが私はまだ能力に覚醒して…」
「その状態から何か月経ったと思ってるんだ」
「…っ!!」
朝陽は言葉に詰まる。
突然の実戦投入という発言には驚かされたが、その理由は真っ当なものであるからだ。
朝陽に『輝く戦士』としての能力が秘められていることが発覚してから、半年近くが経とうとしている。
通常であるのならば、発見後数日、遅くとも数ヶ月程度で能力が覚醒がすると言われている。
確たる証拠や理論がある訳ではないものの、これまで多くの『輝く戦士』達が同様に覚醒してきたのだ。
しかし朝陽は、週どころか月が経とうとも能力が覚醒する兆候が見られることは無かった。
同じ『輝く戦士』からそのことを責められたことは一度もない。寧ろ何度も慰められてきた。
しかし、それが『軍』から当てられる差別意識をより強く感じさせていた。
「いいか。『グリッター』でありながら、その能力を扱うことが出来ない今のお前は無能だ。報告官にしてやってるから勘違いしているかもしれんが、ただの穀潰しでしかないんだよ。仲間たちが決死の覚悟で戦っているというのに、自分一人が安全なところにいて何とも思わんのか貴様は」
「そ…それは…」
それは、朝陽自身がずっと思い悩んできていたことだった。
自分だけ後方にいて、いつも傷ついて帰ってくる仲間たちを見るだけ。それは非常に辛かった。
そういった意味で、能力を覚醒させることが出来ていない自分を戦場に出す、という提案自体はありがたいもののように思えた。
「ですが、能力に覚醒していない私がどうやって戦闘を?」
「本部の方から戦闘補具を数台調達してきた。それで出てもらう」
戦闘補具。これは二つの意味を持っている。
一つは『グリッター』の戦闘補助としての役割である。
能力覚醒者は、その突然変異に対応するため純粋な身体能力も向上している。
戦闘補具はその身体能力向上差分を各種武器等によって補うことを目的としている。
空を飛ぶ『メナス』に対し、飛行能力を付与する『ジェットパック』や、海から現れる『メナス』に対し、海面を航行する能力を付与する『ホバー』がこれにあたる。
そしてもう一つは、それは主として『メナス』との戦いを望みながら能力覚醒見込みがないと判断されたものが扱う補助道具である。
未覚醒者が使用すれば、覚醒者に比べ大幅に劣るものの、ある程度であれば戦うことが出来る。
但し、一度の戦闘後の生存確率は、10%を下回る。
能力を持たず、戦闘補具だけで戦いに挑むということは、謂わば自殺行為と同じなのである。
その事実を知りながら、朝陽が下した結論は────
「…分かり、ました」
どうも、琥珀です!
Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―第四星をお読みいただきありがとうございました!!
青年と運命とも言える出会いをした朝陽でしたが、まるでそれを潰すような義一の発言…朝陽が戦う理由はなんなのでしょうか…
次話も明日更新されますので宜しくお願い致します!!