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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
3章 ー最高本部出向編ー
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第48星:責任

国舘 大和(24)

新司令官として正式に根拠地に着任した温和な青年。右腕でもある咲夜とともに改革にとりかかり、朝陽の『グリット』覚醒を促した。そして全員の信頼を得ることに成功し、『小隊編成』という新たな戦術を組み込んだ。


咲夜(24?)

常に大和についている女性。一度は誰しも目を奪われる美貌の持ち主で、礼儀正しい。大人しそうな風貌からは想像できない身体能力を誇り、『グリッター』並びに司令官である大和を補佐する。現在は指揮官として彼女達に戦う術を伝える。


斑鳩 朝陽(18)

千葉根拠地に所属する少女。大和の言葉により、『グリット』を覚醒させ、初の実戦で仲間の命を救った。大和に指名され、新戦術の小隊長に任命された。


曲山 奏(20)

朝陽小隊のメンバー。明るく元気で爽やかな性格。サッパリとした人物でありながら、物事の核心をつく慧眼の持ち主。趣味はツーリング。


望生(16)

大和達の前に現れたメイド服姿の美少女。無表情ながら礼儀正しく、三人を最高本部へと案内する。その素性は謎に包まれている。


国館 飛鳥(18)

実兄の背後に飛び込んだ大和の実妹。最高本部の『グリッター』であり、最高司令官である護里直属の戦士でもある。その正体は日本に8人しか存在しない、護里が指名した最高の『グリッター』の称号である最年少の『シュヴァリエ』である。


早乙女 護里

『軍』における『グリッター』最高権力、最高司令官の女性。『グリッター』を仲間以上、家族のように思っており、子供達と呼ぶ。日本だけに留まらず世界に存在する『グリッター』から人格者として知られ、一目置かれている、『グリッター』の母。

ーーーーー若い


 護里は率直にそう思った。実力もあり、高い志を掲げながらも、まだ実戦は二度だけ。それが故に、まだ凄惨な戦場を知らないのだろう。


「(けど、私はそういう青さ大好きよ。私の寄りかたまった考えよりも、今はこの子の考えを素直に受け止めるべき。一個人としても、最高司令官としても)」


 護里は一度目線を外し、お茶をすすってから朝陽の問い…いや、嘆願に答えた。


「そうね。確かにあなたの言う通り責任を一人に押し付けるのは良くないことだわ。現場にいたのは彼女だけではないし、『子供達(グリッター)』が命を堕としたのだって、何も彼女が望んでいたことじゃない…」

「でしたら…」

「けれども」


 朝陽の言葉を遮るように、護里は厳しい声色で続けた。


「その責任を持つのが司令官であり、それを咎めないのは寧ろその人のプライドを傷付けることになるわ。大和君から同じような話を聞かなかった?」

「それは……はい、聞きました」

「素直で良い子ね。大和君も雲越ちゃんも、皆その覚悟を持って司令官という地位に立ったわ。それでも貴方は、彼女の処分の軽減を求めるのね?」


 護里に見つめられながら、朝陽の沈黙は少しの間続いた。やがて顔を上げ、朝陽は護里を見つめ返して答える。


「はい、思います。そして雲越司令官直属の『グリッター』の方々も求めると思います」

「…どうしてそう思うのかしら?」

「私はここに来た時に、雲越司令官とお付きの『グリッター』のお二人にお会いしました。その時の彼女達の表情は、決して納得している表情ではありませんでした」


 隣に座る奏が少し驚いた表情をしていた。奏は、雲越の威光にアテられ、雲越から視線を逸らすことが出来なかったからだ。


 しかし、朝陽はそれだけでなく、後ろの二人の表情までキチンと見ていたのだ。細かな気配りと、雲越の圧にも負けない強さに、奏は驚いていた。


「当事者でない私達が処分の軽減を求めても、あまり意味はないと思います。けれどもし、当事者であるお二人がそう言ったことを話されたら…少しでも良いんです、どうかご検討ください」


 朝陽はほぼ初対面の人物のために頭を下げた。同じ場所にいて同じ気持ちになった奏だが、果たして自分がそこまで出来るかと考え、悔しさ混じえ、心の中で首を振っていた。


「ふふっ…ホントに有紗ちゃんは人望あるのね」


 これまで真剣な眼差しを向けていた護里は、朝陽の言葉を聞き終えて、相好を崩した。


「実はね朝陽ちゃん、有紗ちゃん…雲越司令官には既に処罰が下っているの」

「え!?そ、それじゃあ雲越司令官は…もう…」


 悲痛な面持ちを浮かべる朝陽に対し、護里はやはり笑顔だった。


「そう、有紗ちゃんは二人の子と一緒に帰ったわ」

「…え?それは、どういう…?」


 護里の言葉の意味を理解しきれず、朝陽は思わず聞き返してしまう。


「最高議会は降格、若しくは除名処分を求めてきたのだけど、最高司令官(ワタシ)と関東総司令官は別の処分を考えていたの。『軍』から退かせることで責任を取らせるのではなく、『軍』に()()()()()責任を取って貰おうってね」

「それじゃあ、雲越司令官は…」

「根拠地の司令官として残るわ。部下を死なせてしまったからこそ、最後まで司令官としての使命をやり遂げる、という処罰の元ね」


 朝陽は安堵した。初対面での朝陽でさえ思わず畏まってしまう程の人物が退くなど、考えられなかった。いつか戦場を共にしたい…そう思っていた程だ。


「けれど、正直に言えば私は直前までこの処罰で良いのか悩んでいたわ。さっきも言った通り、彼女自身の誇りを傷付けることになるんじゃないかと思ってたから」


 護里は「けれど…」と続ける。


「その決心をさせたのは、彼女について来た二人、セリちゃんとスギナちゃんだったわ」


 護里はどこか嬉しそうに微笑みながら話し続ける。


「私と有紗ちゃんが話し合いをする前に、彼女達が私の部屋を訪れたの。正直予想だにしてなかったわ」


 護里だけでなく、朝陽と奏の二人も驚いた。訪れた理由が理由だけに、訪ねるのには相当の覚悟が必要であった筈なのに、二人は護里の元へ足を運んだのだ。


「驚きながらも私は二人を招き入れると、二人は一斉に頭を下げてこう言ったの。『()()()挽回をするチャンスを下さい』、って…訪ねて来た以上の衝撃が走ったわ。だって、今回の戦いの責任は自分達にあるんだって言うんだもの」


 その時のことを思い出して興奮してしまったのか、護里はお茶を飲んで一息つく。


「有紗ちゃんを庇うための発言ではなく、本心からそう思っている言葉だったわ。そこで私の迷いは吹っ切れた。これほど慕われている司令官を現場から外すのは、最高司令官としての立場から考えても不利益しか生じないと…だから、現場で使命を果たすことを処罰に決めたの」


 事実上、これは無罪放免のような扱いだ。朝陽達からすれば安堵することだが、当の本人である雲越がこれを素直に受け入れたのかは疑わしい。


 それを見透かしてか、護里は続きを語り始める。


「勿論有紗ちゃんは反対したわ。部下をしなせておずおずとみんなの前に立つことなんてできないって…でも、セリちゃんとスギナちゃんのことを話したら、長い思案の末承諾してくれたの」


 朝陽と奏の二人は、その場面を直ぐに想像することが出来た。実直で厳しそうな人物であったが、誠実で部下思いなのは直ぐに伝わって来た。


 だからこそ、その二人が直談判したことに心を揺れ動かされたのだろう。


「だから有紗ちゃんのことは何にも心配いらないわ。あの子はこれからも司令官として戦うし、どこかで一緒に戦うこともある。その時は、あの子に力を貸してあげてね?」

「はい!喜んで!」

「勿論です!!」


 二人の元気な答えに、護里は嬉しそうに微笑んで頷いた。


「しかし、あれですね。ここに来てから良く関東総司令官さんのお話を聞くのですが、かなり良識ある人物なのですね」


 用意されたお茶を啜りながら、奏がふと思ったことを口にする。


「私も思いました。でも、私まだお会いするどころかお顔を拝見したこともなくて…」


 朝陽も緊張して喉が渇いていたのか(こちらは畏まった様子で)、用意されたお茶を飲む。


「関東の総司令官は更に込み入った事情があってね、他の総司令官以上に表立って顔を出すことは出来ないのよ。でも貴方達の言う通り、良識のある子なのよ?今回の件みたいにね」


 護里の言葉に、二人は頷く。


「いつかお会いしてみたいですね…」

「きっと会えるわ。あの子はいつも貴方達のことを見ているもの」


 その言葉に、何か意図が隠されているようにも思えた朝陽だが、深く追求することは出来なかった。


「さぁさ!!暗い話はこれぐらいにしましょ!!せっかく来てくれたんだから色んなお話をしたいわ!!そうねぇ〜まずは…」


 何故なら、護里がまるで少女のようにマシンガントークを始めたからだ。


 突然の豹変ぶりに驚きながらも、こんな親しみの覚えやすい人物だからこそ、この人望なのだと言うことを二人はすぐに理解した。


 相手が最高司令官であることなど忘れ、3人はしばしの間、ガールズトークに華を咲かせた。






●●●






 護里の部屋を後にした大和は、二人の付き人を従えて、東京の街へと繰り出すべく廊下を歩いていた。


 と言っても付き人とは名ばかりである。付いて来ているのは実妹の飛鳥と、付き合いの長い望生の二人だからだ。


 大和は根拠地の所属、二人は最高本部の所属であるため、こうして集まって過ごすことの出来る時間は全く無かった。そのため、大和はこの機会を利用して、水入らずの時間を作ったのである。


「(ま、どうせ護里さんは純粋に朝陽達と話したいだけだろうからな。前任指揮官の話と…まぁもしかしたら雲越司令官の話くらいはしてるかもしれないが…)」

「あの…ご主人様、ホントに宜しいのですか?」


 考え事に耽っている大和に、望生がおずおずと話しかけてくる。


「ん?なにが?」

「せっかくの空いたお時間を…飛鳥は兎も角、私までご一緒してしまって…」

「せっかくの時間だからこそ、家族で過ごすんだろ?まるで自分が家族じゃないみたいな言い方するんじゃないぞ望生」

「そうだよ望生!!お兄ちゃんと一緒に遊べる時間なんてホントに激レアなんだから!!そんな萎縮してたら楽しむもんも楽しめないよ!!」

「お前はもっと遠慮しろ。初っ端から背中に突っ込む奴がどこにいるんだよ」

「ンフー!!(自分を指差す)」

「褒めてないんだよ俺は…」


 疲れたような、呆れたような息を吐く大和のため息のあとに、「フフッ」と小さな笑い声が聞こえた。


 目を向ければ、そこには望生が口元を押さえながらも笑みをこぼしていた。


「す、すいません!でも…フフッ、ホントにお二人は変わらないなと…」


 朝陽達の前では絶対に表情を変えなかった望生は、二人の前では簡単に表情を崩す。明確な信頼関係がここにはあった。


「ありがとうございます、ご主人様、飛鳥。せっかくの貴重な時間、私も楽しませていただきます」

「そうそう!!あー咲夜さんがいないのが残念だなぁ…」

「そう言うな。俺も咲夜も、今は上に立つ立場なんだ。なかなか全員揃うって言うのは難しいんだよ」


 飛鳥は「分かってるけどさ〜」と言いながら口を尖らせる。


「まぁ今日は俺だけで許せ。買い物でもなんでも付き合うよ。一先ずはここを出て…」


 と、一行が曲がり角に差し掛かった時、その影から三人の人物が現れた。



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