第456星:最高本部一等星②
皇 イクサ
『レジスタンス』の総頭領。過激派の名に恥じない『軍』の消滅という過激な思考の持ち主。カリスマ性は高く、『グリッターの自由』という理想を体現すべく行動に移す実行力から、確かな信仰を得ている。穏健派リーダーを倒し、『レジスタンス』を牛耳った。
白銀 明鉄
『レジスタンス』の副頭領。イクサの右腕であり、最も信頼を置く人物。時にイクサを嗜め、時に『レジスタンス』を動かす、参謀的立場。過激派の中では冷静沈着で、時に慎重を喫するが、最終的な判断はイクサに従うほど崇拝している。
金城 乖離
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人な『アウトロー』の王。それに見合う実力と知性、そしてカリスマ性を備えた人物。本来ならば群れない『アウトロー』をまとめあげ、ある目的のために水面下で作戦を企てている。かつて護里との戦いに敗れ、以降姿を眩まし続けていた。
加賀宮 陽葵
『軍』所属、最高本部に属する一等星。最高本部の指令で、裏のトップ同士の会談を監視、及び捕縛の命受ける。
影向 香夜
『軍』所属、最高本部に属する一等星。陽葵と同じく、最高本部の指令で皇 イクサと金城 乖離の監視、及び捕縛の命を受けている。
暫くしたのち、イクサは一旦考えることをやめた。
ここまでの短時間での戦闘で、陽葵の『グリット』の能力を把握することは不可能だと判断したからである。
「とりあえず、仕掛けてみてから考えっかな」
そう言うとイクサは再び手を上げ、次の瞬間、大出力の雷撃を放った。
「…!?」
違和感は直ぐにやってきた。
「なんだ!?私の手の向きが、自分の意思とは真逆に向いて!?」
イクサから雷撃は確かに放たれた。しかしそれは、陽葵達のいる方とは真逆に向けてであった。
当然、自分の正面にいる陽葵達は無傷である。
ここでイクサは再び考える時間に移る。
「(暴れてから考えるつもりだったが、これは予想外だな。タネも仕掛けも全く分からねぇ。闇雲に撃てば、私に当たる可能性もあり得るか?)」
考える、というのは、見方によっては迷いとも取れる。つまり今のイクサには、隙が出来ていた。
「…!」
イクサが自分の背後から気配を感じ取ったのと、即座に回避行動に移ったのは同時だった。
真横に避けたイクサの頬を掠めたのは、黒い槍のようなもの。
それが自分の影から現れているのを見て、イクサは即座に自分の影に向かって雷撃を放った。
その一帯が雷撃によって抉り取られたものの、何者かを仕留めた気配は無かった。
そして、黒い影のようなものが渦巻き、イクサの横を移動して行った。
「ちっ…あ〜そうだよな。私と金城 乖離の邂逅を知ってるんだ。一等星つっても主力一人で来るはずが無いよな」
その影が陽葵と合流すると、ズズズ…と伸びるようにして人が姿を現した。
「影向!無事だったか」
陽葵にとっても、この援護は予想外だったのか、姿を現した最高本部一等星、影向 香夜に驚きの表情を浮かべていた。
「…無事じゃ無い。救えなかった」
膝裏まで伸びた黒髪に、黒の軍服型のロングコート姿の香夜。
その後ろ、背後の影が巨大化すると、そこから次々と『軍』のグリッターと思われる人物達が現れた。
およそ50人程に及ぶ半分以上が重傷を負い、倒れ込んでいた。
残った半数も大なり小なり怪我を負っており、実質戦力としては数えられない状態であった。
「相手はあの皇 イクサ。必要以上に責任を感じる必要は無い」
「…でも任されたのは私だ。それが、一瞬でこれ…気を抜いていた自分が許せない」
それでも陽葵は香夜を擁護しようとするが、もし自分が逆の立場であったなら、これ以上の慰めの言葉をかけられたらどう思うか。
恐らく惨めで、怒りの感情を覚えただろう。
だから陽葵はそれ以上の慰めはしなかった。代わりにかけた言葉は、発破だった。
「だったらそれを怒りに変えな。部下を守れなかったことも、傷つけられた事も、全部張本人にぶつけてやれ」
「…そうだな」
その言葉に応えるように、香夜の瞳にも再び闘志が宿る。
二人が言葉を交わしていたその間、イクサは考えをまとめていた。
「(新しく出てきた黒い女が私の『グリット』を逸らした能力者かと思ったが、どうやら違うな。見て直ぐに分かる、あれは影を操る『グリット』だ)」
イクサは自分の手首のあたりを見た後、グッパグッパして感触を確かめる。
「(さっきの攻撃を見るに、影で攻撃した時に、影自体に実体はある。だとすれば、もし影で私の攻撃の軌道を逸らしたんなら、相応の感覚があってもおかしく無いはずだ。なのにそれがさっきは無かった。となると、あの女の仕業じゃ無い)」
再び考える時間に移ったイクサの頭の中で、二人の攻略パターンを絞り込む。
「(①、最初の女が相手の身体を操る『グリット』のパターン)」
一つ目の考えを、イクサは即座に首を振って否定した。
「(無いな。何かしら条件はあるのかも知れないが、それなら今も操れば良い。そんな便利な『グリット』ならとっくにやられてる)」
このパターンを直ぐに捨て、イクサは二つ目のパターンを考える。
「(②、幻覚を見せるタイプの『グリット』使い)」
これに数秒時間を要した後、イクサは再び首を振った。
「(これも違うな。幻覚を見せるタイプなら、一発目はともかく二発目の状況が納得出来ない。真反対に放つ幻覚じゃなく、自分に向けて撃たせる幻覚で良かったはずだ。つまり幻覚タイプの『グリッター』じゃない)」
二つのパターンを切り捨て、イクサは三つ目のパターンを考えようとするが、そこで時間切れだった。
ジリジリと圧をかけ続けていた陽葵と香夜の二人が攻勢を仕掛けて来たからだ。
「ちっ…やるしかねぇか」
答えはまとまらなかったものの、イクサもこれに打って出る。
距離が縮まっていくなかで、イクサは親指と人差し指を近付け、その間で小さなスパークが起きる。
「(出力は抑え目だ。さぁどうなる?)」
スパークしていた方の手を振り払い、小さな電撃が二人に襲い掛かる。
「『影縫』」
香夜はイクサの攻撃を見切っていたかのように動き出しが早く、先程のように自分の影の中に沈んでいった。
「やっぱり影を操る能力か。ならもう一人はどうする?」
イクサの雷撃をかわした香夜から目を逸らし、今度は陽葵に目を向ける。
陽葵もイクサが反撃に転ずる事は読んでいたのだろう、既に防御体制に入っていた。
「『耐雷反射鏡』!!」
「ッ!!」
防御の手段として出されたものは、『メナス』の対レーザー用の『耐熱反射鏡』にそっくりのものであった。
しかしイクサは直ぐにその違いに気が付き、真横に飛んだ。
次の瞬間、イクサの電撃を受けた『耐雷反射鏡』が、無数の電撃を放電した。
直撃こそ避けたものの、間一髪のところであったイクサは小さく息を吐く。
「…ははっ!!面白いモン持ってんじゃねぇか!!接触した電気を放電して身を守る、『耐熱反射鏡』の電撃版ってとこか!?」
イクサの推察は正しかった。
陽葵が使用した『耐雷反射鏡』は、電撃を操る対イクサ用に特別製造された『戦闘補具』である。
未知のレーザーよりも素材がハッキリしている分、製造も容易く、そして耐久性や応用性も高い。
「…ッ!?」
自分自身様の武器が創られ、気分が高揚したイクサの僅かな隙に、香夜の奇襲がかけられる。
「ちっ!!この引きこもりが!!」
『耐雷反射鏡』の効果に目が入ったことで隙が出来たイクサの背後から、香夜が影を操り、細い槍と化してイクサの身体を貫いた。
「…慢心したな」
「かすり傷だよこんなもん!!」
イクサは感情を昂らせながら、香夜の影ごと振り払うようにして電撃を放った。
しかしそれよりも早く香夜は自らの影に隠れ、イクサの攻撃をかわした。
「(ちっ…やり辛いな。影の方は分かりやすいが、もう一人の女の方に意識がチラつかされて攻めきれねぇ)」
倒れこそしたいないものの、イクサの腹部からは出血が見られ、服の上からポタポタと血が垂れていた。
「(考えるのにもイライラしてきたな…明鉄からは出来るだけ冷静にって言われてるが、ちょっとくらい発散して良いだろ)」
答えを導き出せない苛立ちから解放されるため、イクサは片手を空にかざした。
「…?なにを…」
無造作に、そして隙だらけのイクサの行動に、陽葵は眉を顰めるが、直ぐにその行動の意味を理解する。
「影向!!後方組のカバーに回れ!!」
「…!!加賀宮は」
「自分の身は自分で守る!!」
それを聞くと、香夜は直ぐにその場を離れ、二人の指示で後方待機していた『グリッター』の元へと移動する。
「さぁ!!これはどう対処するよ一等星!!」
次の瞬間、イクサの両腕から大量の電撃が上空に向かって放たれ、空中でエネルギー体となって帯電する。
「『雷鳴下』!!」
そして、空中で帯電した電撃を操り、巨大な電気の塊が放電を始め、無数の落雷となって周囲に降り注いだ。
辺り一面が巨大な落雷音と閃光に包まれ、視界が真っ白に染まっていった。
※後書きです
ども、琥珀です。
先日お伝えしたのですが、職場が新しくなることになりました。
つきましては、今後の更新時間の調整の確認と、環境適応の時間確保のため、一時休載させていただきます。
期間は予定として二週間ほど、再開は17日を予定しています。
変更がありましたら、SNS、及び最新話更新での文面にてお伝えさせていただきます。
新年度早々ご迷惑をお掛けしますが、宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は4月17日を予定しておりますので宜しくお願いします。




