第455星:最高本部一等星
皇 イクサ
『レジスタンス』の総頭領。過激派の名に恥じない『軍』の消滅という過激な思考の持ち主。カリスマ性は高く、『グリッターの自由』という理想を体現すべく行動に移す実行力から、確かな信仰を得ている。穏健派リーダーを倒し、『レジスタンス』を牛耳った。
白銀 明鉄
『レジスタンス』の副頭領。イクサの右腕であり、最も信頼を置く人物。時にイクサを嗜め、時に『レジスタンス』を動かす、参謀的立場。過激派の中では冷静沈着で、時に慎重を喫するが、最終的な判断はイクサに従うほど崇拝している。
金城 乖離
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人な『アウトロー』の王。それに見合う実力と知性、そしてカリスマ性を備えた人物。本来ならば群れない『アウトロー』をまとめあげ、ある目的のために水面下で作戦を企てている。かつて護里との戦いに敗れ、以降姿を眩まし続けていた。
「目標視認。情報通り、『アウトロー』の王、金城 乖離と、『レジスタンス』総頭領、皇 イクサ、及び副頭領、白銀 明鉄の三人です、陽葵さん」
『軍』人の一人が、その僅か後方に控える人物に報告する。
「そのようね。まさかとは思っていたけれど、この三人が集まってるだけでも、貴重な情報ね」
報告を受けた人物、最高本部一等星『グリッター』、加賀宮 陽葵が答える。
「どう動きますか?」
「あの三人の動向や目的を知りたい。もう少し様子を見よう」
本来ならばあり得ない人物達の集まりということもあり、陽葵は少しでも情報を引き出そうと試みる。
「…!動きがありました!」
報告を受けた陽葵が、その隣に立ち、双眼鏡を受け取る。
「…何かの会話をして…周囲を見渡した?」
そして暫くして、陽葵がその行動の意味を直ぐに理解する。
「…!マズイ!全員その場を離れ……」
陽葵の指示で周囲に待機させていた『グリッター』達に、急いで指示を出そうとする。
直後に自分達とは真逆の位置に突如落雷が降り注いだ。
「…ッ!!」
迸る閃光を見て、陽葵は自分の行動が既に手遅れであったことを悟る。
「ひ、陽葵さん…!これは…」
「遅かった…奴らは私達の存在に気付いていた」
完全に後手に回ってしまったことに、陽葵は悔しそうな表情を見せる。
「とにかく、残った『グリッター』に通達!!直ぐに戦闘準備を急がせるように通信を……!!」
「よぅ、お前が頭か」
その背後から、直後聞きなれない声が陽葵の耳に届く。
陽葵は直ぐに振り返るが、その顔の先には何者かの手のひらが拡げられていた。
「悪いな。お前らを倒さないと、私達の目的が果たせないらしいんでな。消えてくれ」
その言葉と共に、再び強烈な雷鳴が鳴り響いた。
『電光雷轟』。これが『レジスタンス』の総頭領である、皇 イクサの『グリット』である。
能力の内容は至極単純。電気、雷を操る超攻撃特化の『グリット』である。
しかし単純であるが故に、最強。
打たれる電撃は、本物の雷に勝るとも劣らない電圧を誇り、放たれる雷撃は当然ながら光速に迫る勢いで襲い掛かる。
並の者なら当然、歴戦の猛者であっても、不意を突かれれば一瞬にして灰と化す、強力無比な『グリット』である。
「……?」
その歴戦の猛者を超える一握りの実力者。それが最高本部の一等星である。
イクサが眉を顰めたのも無理はない。
イクサの雷撃は、間違いなく放たれた。それも超至近距離で。
自身の目の前の地面が雷撃により抉り取られ、その周囲が放電していることからも、その事実を物語っていた。
にも関わらず…
「なぁんで、お前は私の後ろに立ってるんだぁ?」
陽葵を含む側にいた『グリッター』達は、全員イクサの背後に立っていた。
「最高本部一等星を、舐めるなよ」
陽葵はニッと笑みこそ浮かべていたが、額に浮かぶ冷や汗が、先ほどのイクサの攻撃が際どかったことを表していた。
しかしイクサもイクサで、この状況に少なからず困惑していた。
「(瞬間移動の類の『グリット』か?私の『電光雷轟』はもう知れ渡ってるだろうし、それに対抗するために対処できる『グリッター』が来てもおかしくはねぇ)」
そこまで考えたところで、イクサは一度自分の考えを否定する。
「(いや、違うな。運ぶ人数が増えれば『エナジー』の使用量は当然増えるだろうし、それならわざわざ大群を率いて攻め込んでくる理由がない。瞬間移動系の『グリット』なら、単体の方が効率が良い)」
次いでイクサは、少し離れた位置、先程自分の手で落雷を落とした場所を見る。
「(現に100人近くいた『グリッター』の半分くらいはさっきので仕留めた。私の電撃は光速に匹敵する。その刹那の時間じゃカバーすることは出来ないってことだ)」
イクサは従来感情的に戦うタイプである。
圧倒的な火力にモノを言わせ、威圧感を持って戦場を圧倒する戦闘スタイルである。
それに変化を与えたのは、腹心である明鉄である。
直情的な戦闘スタイルは、イクサに十分な戦闘力を発揮させる反面、冷静さを欠くことにもなり、それが弱点にもなっていた。
そこで明鉄は、最低限考えるための知識を与えた。
相手の『グリット』の特性を捉え、自分の立ち回り方を考えさせる。
そうすることで、常に全力全開のイクサに加減を覚えさせ、長時間の戦闘も可能にする狙いがあった。
当然、本来のイクサらしい戦い方を失わせるリスクもあった。しかし…
「(コイツらが私らを抹殺、もしくは捕縛目的で来るのは間違いない。集められた戦力も、それによって異なってくるが、今の反応を見るに、後者っぽいな)」
明鉄の教えは、良い方向に予想以上に働いた。
イクサはまず冷静に相手を分析できるようになり、そしてより効率的且つ効果的に『グリット』を操れるようになった。
その吸収力は凄まじく、数年前は指揮の殆どを明鉄が執っていた状況から、明鉄が大半の判断をイクサに任せられるようになった程である。
これが、かつてのもう一人の『レジスタンス』のリーダーであった、神宮院 アンナとの決着の分かれ目となった。
元々、『グリット』の力だけでいえば、イクサの方が圧倒していた。
しかしアンナは、己の『グリット』の性質をより正確に理解し、精密に操ることに長けていた。
また、戦いを好まない性格でありながらも、戦い方を知る人物でもあったため、直情的に動くイクサとは、そういった側面で相性が悪かった。
しかし、明鉄の教えでイクサが急激に成長したことで、そのアドバンテージは無くなり、結果としてイクサが勝利することとなった。
それ程までに、イクサの成長は著しかった。
「陽葵さん…私達は…」
「少し下がって。皇 イクサは暴れ馬のように『グリット』を乱発してくる。そうなると庇い切れないから後方支援に徹して」
当然、そんなイクサの成長を、陽葵達『軍』は知る由も無い。
結果として、現在のイクサを知らない陽葵達は、イクサに考える時間を与えてしまっていた。
「(部隊を指揮ってんのが一等星ってことは、本当は周りにいる奴もそこらの雑魚じゃねぇはずだ。速攻を仕掛けたから対処される前に倒せたが、警戒されると簡単にはいかねぇかもな。何より…)」
集められた『軍』のメンバーを守るようにして前に立つ陽葵に、イクサはめんどくさそうに頭を掻く。
「(ここまでの対応を見る限り、あの一等星は絡め手タイプの能力者だ。明鉄から学んだとはいえ、苦手なタイプなのには変わりねぇ。さて、どう動くかな)」
互いに警戒心を高めながら、両者の間でプレッシャーがぶつかり合う。
●●●
「ふはっ!いきなり雷を落とすとはなかなか大胆な手を取る!だがそれでこそ『レジスタンス』のトップよな!」
そこから離れた位置にある廃墟で、乖離と明鉄の二人はイクサの戦いを見ていた。
そして乖離は、ド派手な攻撃をかましたイクサを、愉快そうに見つめていた。
「暴れてなんぼのトップだからね、イクサは」
一方の明鉄は、乖離と二人っきりになりながらも、必要以上の情報は与えまいと、今のイクサの戦闘スタイルを告げなかった。
「ふは、あれだけの高火力の『グリット』だ。それが正しかろうよ。しかし貴様は参戦しないのか?」
膠着状態に陥ったのを見て、乖離の関心が明鉄に移る。
「私がいかなくても、イクサなら勝つ」
乖離からの圧をものともせず、明鉄は淡々とイクサの勝利を宣言した。
それだけイクサのことを信頼しているが、その上で明鉄は付け足した。
「でもさっきの動きを見たところ、相手は恐らく最高本部の一等星。私達を囲ってたのも、並の『軍』人じゃないだろうね」
ここまでのほんの僅かな戦闘から、明鉄は次々と情報を得ていく。
「だからイクサと言えど万が一ということもあり得るかもね」
「…ならば何故尚更貴様は出向かん。貴様は単なる参謀では無いのだろう?」
乖離の言葉に「そこまで知ってるか…」と心の中で思いながらも、それを表情に出すことなく、淡々と答える。
「私はイクサの右腕。だからといって、戦いで常に隣に立つわけじゃ無い」
ここで初めて明鉄は乖離の方を向き、不敵に笑い、
「さっき言った『万が一の事態』…その芽を摘むのが私の役目だよ」
そう呟いた。
※後書きです
ども、琥珀です。
四月から仕事の関係で忙しくなることが確定しました。
よって、四月中旬頃にもしかしたら休載を挟むかもしれません。
こちらはまた追って連絡します。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




