第454星:メリット
皇 イクサ
『レジスタンス』の総頭領。過激派の名に恥じない『軍』の消滅という過激な思考の持ち主。カリスマ性は高く、『グリッターの自由』という理想を体現すべく行動に移す実行力から、確かな信仰を得ている。穏健派リーダーを倒し、『レジスタンス』を牛耳った。
白銀 明鉄
『レジスタンス』の副頭領。イクサの右腕であり、最も信頼を置く人物。時にイクサを嗜め、時に『レジスタンス』を動かす、参謀的立場。過激派の中では冷静沈着で、時に慎重を喫するが、最終的な判断はイクサに従うほど崇拝している。
金城 乖離
傲岸不遜で唯我独尊で傍若無人な『アウトロー』の王。それに見合う実力と知性、そしてカリスマ性を備えた人物。本来ならば群れない『アウトロー』をまとめあげ、ある目的のために水面下で作戦を企てている。かつて護里との戦いに敗れ、以降姿を眩まし続けていた。
乖離の問いに対し、明鉄は一度イクサの方を振り返る。視線を交わした後、イクサは一つ頷いた。
「…お前の言う通り、イクサは『レジスタンス』を手中に収めた。だが、神宮院 アンナを追い出したからといって、その全ての戦力がイクサのものになるわけじゃ無い」
「フン…なるほどな、つまりは純粋な戦力不足という訳か」
名言を避けていた内容を、乖離はハッキリと告げる。
「勘違いしないで欲しいが、対抗できないほど戦力が無いわけじゃ無い。だが、『軍』に対して宣戦布告するには、物足りないのが正直なところだ」
「だろうな。元々人望だけで言えば、名前をよく聞いていたもう一人のリーダーだった女だ。それを取り込んだとしても、精々一部程度だろうからな」
乖離から返された言葉に、明鉄は改めて警戒心を高める。
「(コイツ…どこまで『レジスタンス』の情報を仕入れてるんだ…やけに詳しいが…)」
そんな明鉄の内心を見透かしているのかいないのか、乖離の問いは続く。
「それで?その物足りない戦力を俺達で補おうと言うのか?そんな貴様らの都合だけで俺らが動くとでも?」
「勿論こちらの都合だけで提案なんてしない。私達と組むことの『メリット』も提示する」
明鉄の『メリット』の言葉を待っていたと言わんばかりに、乖離はニヤリと笑みを浮かべた。
「聞かせて貰おうか?『メリット』とやらを」
どこまでも上から目線で、そして答えを知っているかのような物言いに、明鉄は密かに汗を一筋垂らしながらも答えた。
「一つはさっきアンタが言ったことの逆だ。私達と組むことは、アンタ等の戦力の増強にもなる」
「そうだな。だが俺等の計画は現段階でも十分進んでいる。より万全にはなるだろうが、必須では無い」
一つ目の『メリット』は意味をなさず却下される。
しかし明鉄達もこれだけで上手くいくとは思っておらず、二つ目の『メリット』を提示する。
「…二つ目は、私達が組むことに、『デメリット』が無いことだ」
「…ほう?」
これには少し関心を持ったのか、乖離は黙って続きを促す。
「私達の目的は、『グリッター』の管理社会の破壊、及び自由と権利の獲得だ。その為に最も障害となるのは、それを維持しようとしている『軍』になる。この標的は、アンタと同じ筈だ」
「そうだな。より正確に言えばズレはあるが、大筋は間違っていない。だがそれだけなら、一つ目の『メリット』と変わらんぞ?」
その答えを待っていたかのように、明鉄がニッと笑みを浮かべて答えた。
「アンタが求めているのは、『最強』の称号、そして権力だ。そして、これに今最も近いのは、早乙女 護里。『軍』の最高司令官だ。コイツこそが、お前が討ち倒したい標的だろう?」
乖離は口にしてこそ答えなかったが、口元には笑みが浮かんでおり、否定もされなかった。
「アンタは頂点に立ちたい。だが私達は頂点には興味がない。けれど倒すべき標的は同じ。共通の敵がいながら互いの目的が障害になることは無く、利害も一致してる。戦力増強以上に『メリット』になるはずだ」
明鉄は最大の『メリット』を提示した。これに乖離は腕を組み、不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「つまり貴様等は、『軍』を倒した後、俺の傘下に降るということか?」
「…そうなるな」
乖離のハッキリとした言葉に、明鉄は僅かな沈黙の後肯定した。
「それは貴様も同意しているのか、皇 イクサ?」
ここで乖離は、明鉄ではなく総頭領であるイクサに直接問いかけた。
「…あぁ。今のクソッタレな世界をぶっ壊せるなら、お前の下にでも何にでもついてやるよ。元々権力になんて興味ないからな」
イクサも明鉄が提示した『メリット』を否定せず、同時に乖離の言葉を肯定した。
乖離は腕を組み、笑みを浮かべながら僅かに考え込む様子を見せる。
「確かにその条件ならば悪くない『メリット』だ。『デメリット』も確かに存在しない…理論上はな」
「…何が言いたい」
明鉄の問いかけに、乖離はやはり不敵な笑みを浮かべる。
「貴様等『レジスタンス』が、『アウトロー』にとって本当に戦力になるのかどうかだ」
「なんだと?」
「……」
乖離から発せられた言葉に、明鉄は目を睨ませ、イクサは静観する。
「『レジスタンス』が戦力にならないって言うのか?」
「まぁ早とちりするな。何もそう決めつけたわけではない。俺が貴様らの力を知らんというだけの話だ」
自ら明鉄達を煽っておきながら、乖離はそれを嗜めるような言動を取る。
「考えてもみろ。互いに名前は知れ渡れど、俺たちはぶつかり合った事も手を組んだ事もない。それでは貴様達の組織の実力を知り得るには不十分だと思わんか?」
乖離の言うことは正論であったが、明鉄はこれに反論して来た。
「…おたくらとは少し違うが、『レジスタンス』はこれまで幾度と『軍』と衝突しては警戒されて来た。そして今も存続している。それだけで十分な証拠にはならないか?」
「どうかな。一部では、穏健派のリーダー格が早乙女 護里と内密に結託して存続していたという噂もあがっているが?」
明鉄は内心舌打ちをする。
乖離の言っていることは、全てが虚偽ではないからだ。
『軍』と『レジスタンス』が思想の違いからぶつかり合っているのは事実である。
しかし、神宮院 アンナが『レジスタンス』という組織を保つために、早乙女 護里と裏で取引していたという事実も、イクサ達は裏を取っていた。
乖離がどれだけ確証を得て発言しているか分からないため、強く否定することはできず、明鉄は言葉を発することが出来ずにいた。
「ならどうしたら良い」
その沈黙を破ったのはイクサだった。
「アンタが私達の実力を見定めたいのは分かったよ。だったらどうしたら納得してくれる?」
分からないなら分からせるまで。そういった意図で、イクサは乖離に問い返した。
「そうだな…」
その類の返事が返って来ることは想定していたであろう乖離は、ワザと悩むような素振りを見せる。
そして、数度に渡って辺りを見渡した。
「絶好の機会だとは思わんか?」
「…?」
乖離から放たれた言葉の意図を理解できず、明鉄は眉を顰める。
しかし、一つの結論に至り、警戒心を高める。
「おい…まさかここがひと目につかないところだからって、私達と実際に対峙しようと言うんじゃないだろうな?」
明鉄の言葉を、乖離は肯定も否定もせず、再び周囲を見渡した。
「分かっているのか?お前が私達の実力をどう思っているのかは分からないが、イクサの実力は本物だ。こんなくだらない事で衝突していたら、互いに不利益にしかならないぞ!」
答えない乖離にますます警戒心を高めた明鉄だったが、そこでイクサが明鉄の肩に手を置いた。
「落ち着け明鉄。乖離の狙いは私達じゃない」
「え…」
イクサの言葉を聞いて、改めて乖離の方を振り返る。
イクサの言う通り、確かに乖離からの敵意はこちらには向けられていなかった。
「なんだ…じゃあ絶好の機会ってのは…」
「臨戦態勢は解くな明鉄。居るぞ」
「…え?」
再び発せられたイクサの発言に呆気に取られていると、イクサが周囲を警戒していることに気が付く。
思い返せば、乖離の意図のわからない発言をした時も、周囲を見渡していたことを思い出す。
「貴様も気付いていたか。良い感覚だ」
「お褒めに預かり光栄だな。まずは最初の試練は突破、ってとこか?」
本人の理解できない次元でされているやり取りに、明鉄はただただ困惑するばかりであった。
しかし、二人が周囲を警戒している仕草で、ようやく今置かれている状況に気が付く。
「まさか…囲まれているのか?」
「あぁ。まぁお前が気付かないのも無理はない。相手は相当の手練れだ。よっぽど戦闘技術が高くなきゃ気付けない程のな」
状況を理解した明鉄の額から、汗が一筋垂れる。
「相手は?『軍』か?それとも…」
チラッと乖離の方を見るが、乖離は肩をすくめることしかしなかった。
「『アウトロー』じゃねぇよ。いまアイツが言ったろ?絶好の機会だって」
「…そういうことか」
改めて、乖離の発言も含めて意図と状況を理解した明鉄は、大きく息をこぼす。
「つまり、私達と『軍』の戦いを見て、私達の実力を試そうってわけか」
「ふはっ!そういうことだ!」
完全に見下されていると感じたものの、そもそも金城 乖離とはそういう人物なのだと言うことを思い出し、改めてため息を溢す。
「イクサ、それで良いんだな?」
「あぁ。まぁただ試されるだけなのも癪だ…」
イクサは乖離の方をチラッと見た後、信頼する明鉄に向けてニッと笑みを浮かべる。
「『軍』と金城 乖離の度肝を抜いてやろうぜ」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




