第450星:夜中の約束
翌日の夜20時。
大和と咲夜の二人は、約束通り根拠地の訓練場へと向かっていた。
20時を回れば根拠地の面々も自室へと戻るため、人目につくことも殆ど無かった。
「日課の検査に、差し障りのない軍務…結局、今日一日で朝陽さんに変わったところはありませんでしたね」
「そうだね。逆を言えば、日常的な側面で分かるようなことじゃないのかも知れない」
訓練所へ向かう行くなかで、二人は今日の朝陽の様子について話し合う。
「…ですが、大和もお気付きになられていますよね?朝陽さんの、変化に」
歩みをピタリと止め、咲夜は核心に迫った話を大和に告げる。
大和も足を止め、咲夜の話に答える。
「まぁ…ね。でも何とも形容し難い、微々たる変化のようにも感じた」
「私も同感です。ですが…変化は微々たるものでも、その実、大きな変化とも感じているのです」
二人も朝陽の変化には困惑していた。
二人が言ったように、朝陽は確かに変わっている。
しかし具体的にどのように変わったのか、何が変わったのかが掴めないでいた。
それが朝陽にどんな変化を及ぼしているのか、どれだけ変化したのか、その全容がぼやけていた。
「…まぁそれについてはこれから本人が語ってくれるだろう。そのために呼び出されたんだろうからね」
「…そう、ですね。彼女自身の本質が、何も変わっていないことを祈るばかりですが…」
そう会話を重ねながら、二人は再び訓練所へと歩みを進めた。
●●●
訓練所に着くと、そこには既に朝陽の姿があった。
朝陽は二人に背を向けた状態で、空から照らされる月明かりを見つめていた。
やがて朝陽は二人の気配に気付き、ゆっくりと振り返った。
振り返る朝陽の姿は、やはり今までの少女のような立ち振舞いではなく、どこか大人びたような、妖艶さが滲み出ていた。
「司令官、先生、お時間を作っていただきありがとうございます」
ニコッと笑みを浮かべる朝陽の表情は、幼さが残るものの、やはりこれまでとは異なるような雰囲気があった。
「いや、構わないよ。ボクも咲夜も、今日の分の仕事はしっかりとこなして来たからね」
「それよりも…早速で申し訳ないのですが、お話というのはなんでしょうか?」
大和がゆっくりと話を進めようとするのとは対照的に、咲夜はすぐに話題に入った。
「咲夜、朝陽くんから切り出させた方が…」
「あ、司令官、良いんです。先生の言うとおり、わざわざ長引かせることもないので、司令官さんさえ宜しければ本題に入ろうと思うのですが」
大和に気を使わせてしまったと思ったのか、朝陽は少し慌てた様子で二人の仲介に入る。
「うん、朝陽くんが問題ないと言うのなら。本題に入ろうか」
しかし、二人にとってはこれは些細ないざこざにすら入らないやり取りのため、特に気にすることなく、大和は朝陽に話を促す。
それを聞いた朝陽は、「では…」と呟いた後、本題に入る。
「お二人はもうお気付きかもしれませんが、私は目が覚めてからというもの、自分自身に少し異変を感じています」
自分の胸に手を当てながら、朝陽はまるで別人の話をするかのように話題を切り出した。
「真っ先に変だと思ったのが、私が昏睡状態に陥っている間の、直近の記憶があることです。詳細はまだ分かっていませんが、『進化系』の『メナス』と戦闘したこと、『レジスタンス』の元リーダー、神宮院 アンナさんが滞在していたこと、渚さん達の脱走…そして、皆が毎日私に声をかけてくれたこと…少し霞がかかっていますが、私の記憶として残っています」
「ふむ…」
朝陽の話に、大和は改めておかしな話だと考える。
朝陽は確かに昏睡状態であり、根拠地の面々の声掛けにも反応できないほど深い眠りについていた。
それは沙雪が診断を下しており、あの沙雪が躍起になって様々な治療を試みた程である。
「それは、沙雪さんの治療の効果があったから、とは思わないかい?」
大和は一つの可能性の提示として朝陽に話たが、朝陽はこれに首を振った。
「絶対に違うとは言えません…けど、やっぱり違うと思うんです。もし昏睡状態だった私の記憶として残っているなら、私は寝ている状態での記憶しか残らないはずです。ですが、私は『メナス』との戦いも記憶しています。それは少し、おかしな話では無いでしょうか」
「確かに…日々の声掛けや、渚さん達の脱走だけならば、半分意識が覚醒していれば記憶に残る可能性もありますが…『コマンダーメナス』や『ユニティメナス』との戦いに関して言えば、報告もまだろくに出来ていない状況…全てではないとは言え、朝陽さんがそのことを知っているのは、少し変な状況ですね」
朝陽の答えに、咲夜が同意するように頷いた。
「それにもう一つ変なのは、私の中の記憶が、どこか客観的な視点ということなんです」
「客観的な視点…というのは、つまり自分が見た聞いたような記憶とは違う、ということかい?」
「はい、私の記憶としては残っているんですが、それを第三者のような視点で見て聞いたような記憶なんです」
朝陽の話を聞けば聞くほど、大和も咲夜も困惑するばかりだった。
朝陽の記憶として残っているにもかかわらず、頭にあるのは別人が得たような記憶。
それではまるで、朝陽のなかに…
「…あ」
そこでふと、大和が一つの推察を思い付いた。
「そう言えば朝陽くん、以前キミは何か別の人物が自分の身体の内に居るとか…」
「司令官もお気付きになられましたか。実は私も、そこに結論付いたんです」
以前朝陽から話を受けたことを思い出し話に出してみたが、朝陽も同じことを考えていたのか、大和の言葉に頷いた。
「朝陽さんの内に、別の人物が…?」
一人話に置いていかれかけた咲夜だったが、直ぐに【オリジン】との戦いの時を思い出す。
「…【オリジン】との戦いの時、まるで別人のような戦いを見せた時間帯がありましたね。もしかしてその時の…」
「はい、そうです。それと同じ感覚です」
咲夜も朝陽の言わんとしていることを理解し、頷いた。
「…その時、その人格の人物は表に出てきたのですよね?それでは、今その心の内側に呼び掛けて出てきて貰うことは出来ないのですか?」
至極当然の結論に至り、咲夜は朝陽に問い詰める。
しかし朝陽は、この質問にも首を横に張った。
「以前司令官にも同じお答えをしたかと思うのですが、私の中にあるもう一つの人格は、【オリジン】との戦いを経て疲弊しています。今回私が目が覚めることが出来たのは、その人物のお陰だと思いますが、そこでも無茶をされたのか、また私の深い深層意識のところで眠りについているような感覚があります。なので呼び出すのは難しいかと…」
朝陽のもう一つの人格については気になるところではあったが、本人が呼び出すのは難しいという手前、それ以上大和達が言えることは無かった。
「…つまり、ボク達に言いたかったのは、目が覚めたのは、そのもう一つの人格のおかげということかい?」
「それもあります。ですが、もう一つあるんです」
朝陽はそう言うと、二人から少し距離をとった。
「先生、今から『グリット』を使用します。ですが、無理はしませんので止めないでください」
予め咲夜に釘を刺すと、朝陽の身体が少しずつ輝出す
その光は全身へと行き届き、やがて身体の複数箇所から金色の粒子を噴き出していた。
「これは…『ゼーレ・ブリッツ』!?」
それは、朝陽が昏睡状態になった原因とも言える技。咲夜はすぐに使用を止めさせようとするが、直ぐにその違和感に気づく。
「『エナジー』が…安定している…?」
そう、『大輝戦』では溢れ出る力を抑え切れず暴走していた光が、今は乱れることなく完璧にコントロールされていた。
「戦闘のように動き回ることになったらまだ分かりません。ですが目が覚めた瞬間から、直感的に扱えるようになったと自覚しました。これがお伝えしたかった一番な話です」
朝陽は『ゼーレ・ブリッツ』を解除し、二人に問いかけた。
「この力をある程度使えるようになったのは、間違いなく私の身の内に秘められた、もう一人の私が関係していると思います」
朝陽はこの時、初めて不安そうな表情を見せた。
「司令官、先生、私は一体どうなってしまうのでしょうか…?私は、私じゃない、別の誰かになってしまうのでしょうか?」
朝陽のこの問いかけに、大和も咲夜もすぐにその場で答えを出すことは出来なかった…
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
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