第449星:快気祝い
その翌日。
根拠地ではささやかなパーティが開かれていた。朝陽の快気祝いのパーティである。
「いや〜朝陽ちゃん無事に目が覚めてホントに良かった!!このまま目が覚めないんじゃないかって心配してたんだよ〜」
席に座っていた朝陽の肩に手を回し、七が抱き寄せるようにして朝陽に絡む。
「こら七。目が覚めたからといって、まだ完璧じゃないんだから無茶させない。それと、その発言三回目だから」
それを隣から嗜めたのは言葉。回されていた手を解き、自分の方へと寄せる。
「だぁってさ〜ホントに心配だったんだもん〜」
「それは根拠地の全員がそうだったわよ。でも今は目が覚めて、こうしてちゃんと話もできる。それで良いじゃない」
言葉の言葉に七はぶーたれながらも、「まぁねぇ…」と納得する。
「朝陽、いきなり快気祝いパーティなんて開いちゃったけど、ホントに体調は大丈夫なの?」
そこへ夜宵が現れ隣に座ると、心配そうな表情で朝陽の顔を覗き込んだ。
「うん、大丈夫だよ。寧ろ沢山寝たからか、冴え渡ってるくらい」
朝陽はいつものように笑顔を浮かべ、素直に答えた。
「そう?それなら良かったわ」
夜宵も普段通り振る舞いながらも、やはり『大輝戦』で共闘し、無茶を目の前にしたからか、朝陽の側を離れなかった。
何より姉として、また眠りについてしまうのでは無いかという心配心を抱いていた。
それは単なる姉心から来るものだけでなく、目が覚めてからの朝陽は、どこか今までと異なっていたからだ。
無理に普通を装っている様子はない。しかし、漂う雰囲気はやはりこれまでとは異なる。
悪意が感じられるわけでは無い。寧ろその逆。
今の朝陽からは、大和や咲夜に似たカリスマ性のような、それでいてどこか落ち着きのある雰囲気が漂っていた。
その僅かな変化に気付いているのは、この場では姉である夜宵だけだろう。
その変化を、朝陽自身が自覚しているのかも分からない。
ただ夜宵はこの変化を、どこか自分と同一視していた。
自分の心の奥底に潜む闇に、自分が少しずつ蝕まれていく感覚、自分が自分で無くなっていくあの感覚…それと似た感じを覚えていた。
「(でも…朝陽のこの変化は…私とは真逆…)」
奥底の闇に苛まれ、自分自身との葛藤が続く夜宵に対して、朝陽は溢れる光を受け入れ、どんどんと自分の糧としているような、そんな感覚を覚えていた。
そして、そんな自分との差異に、僅かな不安と苛立ちを覚え…
「朝陽くん」
そんなことを考えていた時だった。
突如朝陽の名前を呼ぶ声が聞こえ、夜宵はハッと我に帰る。
「司令官、先生」
そこに立っていたのは、大和と咲夜の二人だった。
本来はアンナ達の逃亡もあって激務に追われている筈の大和達も、朝陽の快気祝いのパーティにはしっかりと参加していた。
朝陽もそんな状況を後回しにしてまで自分の回復を祝福してくれていることを理解しており、感謝していた。
「改めて…本当に目が覚めて良かったよ、朝陽くん」
「ありがとうございます、司令官」
「私からも祝言を、朝陽さん。まだ検査は続くでしょうが、今のところ問題が無いようで何よりです」
「先生も、ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました」
迷惑、というのは恐らく『大輝戦』で無茶をしたことに対する謝罪だろう。
目が覚めたいま、大和達にとってはもはや過去のこととなっていたが、今回の原因が『大輝戦』での無理に起因しているだけに、無視することは出来ないだろう。
「まぁ、それは追っていつか話をしよう。せっかくの祝いの場なんだから、重苦しい話は無しだ」
「そうですね。師としてかける言葉あるのでしょうが、今はそれよりも快気を祝いましょう」
それでも二人は、それよりも今の時間を大切にすることにした。
『大輝戦』での無茶をした話など、またいつでも出来るからである。
その気遣いに朝陽も気付き、改めて頭を下げた。
「身体の調子も悪くなさそうね。昏睡状態になるくらい身体に負担をかけたから、何かしら後遺症が残るかと思ったけど、それも無さそう」
と、更にそこに加わったのは、本来こういったパーティとは無縁の沙雪だった。
今でこそ根拠地の医師としてその技術を遺憾なく発揮している沙雪であるが、それ以前は最低限の仕事をこなすだけで、それ以上のことはしようとしてこなかった。
そんな沙雪が、朝陽の快気祝いのパーティにまで参加しているのだから、これは大きな変化である。
もちろんその理由は、沙雪自身が朝陽の治療に全力を尽くしてきたからにあるだろう。
結果としてその治療が目を結んだのかどうかは分からないが、目が覚めた事実を前にして、声を掛けないわけには行かないだろう。
「沙雪先生」
朝陽もお世話になった記憶はあるのだろう。ニコッと笑顔を浮かべ、そして沙雪にも頭を下げた。
「悪いけど、もう数日は検査に付き合ってもらうわよ。目が覚めたとはいえ、どんな所に影響が残ってるか分からないから」
「はい、勿論です。沙雪先生にも本当にご迷惑をお掛けしました。色々と治療を施して下さり、ありがとうございます」
「礼なんてよして頂戴。結果として私は貴方に何もしてあげられなかったんだから」
この辺りの以前と変わらずぶっきらぼうな受け答えであったが、それでも治療を尽くしたという点は否定しなかった。
これも、小さく無い変化と言えるだろう。
「それでも、です。先生の処置が私の微かな意識を繋ぎ止めて下さったのは、先生の処置があったからかも知れません。だから、お礼をさせて下さい。そして、ご自身がされたことを、卑下になんてしないで下さい」
朝陽の大人びた発言に、沙雪はキョトンとした表情を浮かべ、直ぐに次の言葉が出てこなかった。
「生意気言っちゃってこの」
しかしやがて、ニッと笑みを浮かべると、朝陽の頭を少し乱暴に撫でた。
そしてゆっくりと踵を返し、パーティの場を去ろうとする間際に、小さく呟いた。
「…ありがとね」
その言葉が届いたかは分からないが、朝陽は去っていく沙雪を最後まで見届けた。
「…朝陽くんの言う通り、沙雪さんは君が回復するように尽力していた。お礼の言葉は、正しかったと思うよ」
「…はい」
大和の言葉に、朝陽は小さく頷いた。
「さて、ボク達がいたら君も楽しめないだろう。さっきも言ったように、詳しい話はまた後日聞くとして、今日はみんなと一緒にパーティを楽しむと良い」
「修行もしばらくお預けですね。万全なのを確認してから、また一から仕切り直しましょう。貴方も、私も」
「あ、司令官、先生!」
そう言って去ろうとする二人を、朝陽は呼び止めた。
「えっと、細かなお話や修行については、仰る通り後程に…ただ明日、少しだけお時間をいただけませんか?日中はお忙しいでしょうし、私も検査がありますので、夜にでも」
朝陽からの提案に、二人は顔を見合わせる。
「それは、勿論大丈夫だけど…」
「細かな話は改めて、というお話になったはず。急ぎの案件ということですか?」
落ち着いた様子ながらも、どこか急いでいるような様子の朝陽に、咲夜が尋ねる。
「…はい。キチンとお話をする前に、確認していただきたくて」
「…?」
朝陽の少し妙な言い回しに違和感を感じながらも、大和は改めて頷いた。
「分かった。明日の20時頃に時間を作ろう。場所は訓練所で良いかな?」
「はい、ありがとうございます!」
大和の言葉に朝陽がお礼を返すと、ちょうど離れた場所にいる根拠地の面々から声がかかる。
「朝陽さん!!こちらで私達ともお話しましょう!」
「朝陽ちゃんが寝てた時のことぉ、ちゃんと話してあげるよぉ」
そこには朝陽の小隊メンバーを中心に、『グリッター』の面々が集まっており、朝陽を呼んでいた。
朝陽は大和達に目を向けるが、大和は笑顔で頷いた。朝陽は会釈してから、二人のそばから離れていった。
去っていく朝陽の背中を見届けながら、大和はジッと朝陽を見ていた。
「彼女…少し変わった、かな?」
「そうですね。以前と同じ明るさはありますが、少し落ち着きが伴ったと言いますか、大人びた感じがします」
大和が感じていたことは、咲夜も感じていた。
それは、姉である夜宵が感じ取ったものと、同じものであった。
「成長…なら喜ばしいことだけどね。これは何というか、変化と捉えられる気がするよ」
その朝陽の変化に、大和はどう反応したら良いか戸惑っているようだった。
「私も…まだ分かりません。ですが、明日彼女から話を聞けば、何か分かるかもしれませんね」
そう呟き、咲夜と大和は、『グリッター』の面々と楽しそうに話す朝陽の姿を見つめていた。
※大変申し訳ありません。少々寝坊いたしました…
以後気をつけます…大変失礼致しました…
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




