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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第446星:呆然

 翌日の朝。


 千葉根拠地は再びどこか気の抜けたような雰囲気が漂っていた。


 無理もない話ではある。


 あれほど人の良かった神宮院 アンナが、『レジスタンス』の捕虜を連れて逃亡したのだから。


 咲夜がいつものように訓練に参加し、全員に喝、無いしは激励を入れたが、それも微々たる効果しか与えることはできなかった。


 高いカリスマ性を持つ咲夜であっても、朝陽の昏睡状態、アンナの逃亡と、立て続けに暗いニュースが続いた状況では、士気を上げるのも難しかった。


 それでも、根拠地の面々はそれを表面上は出そうとせず、いつも通りに振る舞っていた。


 事情を知る咲夜からすれば、痛々しい思いではあったが、その点には素直に三咲達に心の奥底で賛辞を送っていた。


 そして早朝の訓練を終え、各々は軍務へと移る。


 咲夜も大和の待つ執務室へと移動し、ソッとドアの扉を閉めた。



「それで…どうなさるおつもりですか?」



 そして入室早々、部屋の中央で黙々と作業をしていた大和に、キツイ口調で問い詰めた。


 大和は肩をビクッとさせながらも、恐る恐る顔を上げた。



「かろうじて表面上は保っているとはいえ…、士気の低下は明確です。常に死地に向かっている彼女達には、やはり酷だったのでは?」



 大和は進めていた作業の手を止め、「フーッ…」と大きく息を吐き出しながら、椅子に背中を預けた。



「…そうだね。少しボクの考えが至らなかったかな。彼女の影響が、まさかここまで大きいとは思わなかった」



 大和は自らの非を素直に認め、困ったような様子を見せた。



「…ですが、間違ったことだとお考えにはなっていないのですよね?」

「まぁ…ね」



 咲夜の言葉に対し、大和はこれにも肯定した。



「あのままなら、渚君達は確実に最高本部に連行されていた。恐らくだけど、情報を引き出すために、()()()()を使うこともあり得ただろう。それは…避けたかった…」



 目頭の部分を抑えながら大和が呟くと、咲夜は小さく息を溢しながら答えた。



「…先日申し上げたように、私は大和の決定には従います。大和がお考えになられていることも理解できています」



 咲夜は「ですが…」と続ける。



「貴方は千葉根拠地の司令官です。全てを救おうという貴方の心構えには、どこまでも尊敬致しますが…今の立場もお考え下さい」



 咲夜はゆっくりと大和のいる机へと歩み寄り、大和の顔を覗き込みながら続けた。



「大和…貴方は全てを背負い込み過ぎです。根拠地司令官…いえ、関東総司令官という立場はあるかと思いますが、それでも行き過ぎています」

「咲夜…でもボクは…」

「貴方が世界を変えたがっているのは分かっています。ですが、過去の私を思い出してください」

「…!」



 遮るようにして紡がれた言葉に、大和は閉口してしまう。



「私は一人で全てを背負い、そして身を滅ぼしながら失敗しました。全てが同じとは言いません。ですが、今の大和は、その時の私と似た道を進んでいます。このままでは、貴方の身も滅ぼすことに繋がってしまいます」



 その言葉には、強い説得力があった。


 何故ならそれは、100年前に咲夜自身が経験してきたことだからである。


 その壮絶さを大和も聞いてはいたが、それを実際に経験した咲夜の言葉は、大和が普段発する言葉以上の強さがあった。



「…けど、実際に行動しなくちゃ何も変えられない。立ち止まっているだけじゃダメなんだ。だから、例え身を滅ぼすことになるとしても()()…」



 力強く握りしめられる大和の拳に、ソッと咲夜の手が添えられた。



「その気持ちは十二分に理解できます。自分がやらなくては、自分が動かなくては、そういった気持ちに駆られるのもよく分かります」

「…なら」

「だからこそ」



 そして咲夜は、添えた大和の拳をキュッと優しく握りしめた。



「もっと私達を頼ってください。貴方を助けたいと思っている人は、貴方を理解している人は、一人では無いのです」

「…!」



 添えられた手を見た後、その言葉を受け、大和は咲夜の顔を真っ直ぐ見た。



「私と同じ過ちを犯す必要なんてありません。私は周りが見えず失敗した。けれど今は、貴方が側にいると知り、そして支えることが出来る。貴方が、その事に気付いて貰えるように」

「…咲夜…」



 咲夜の言葉は力強く、そしてどこまでも真っ直ぐで、大和の心を響かせていた。



「貴方の周りには私と同じく…いえ、それ以上の理解者がいます。ですから…もっと私達を頼ってください。私達を信じて下さい。例え何があろうとも、貴方がこの根拠地でしてきた功績と信頼は揺るぎません。皆が貴方を慕っています」



 大和の手を握る力は次第に強くなり、それに比例して口調も強くなっていった。


 その咲夜の言葉が、大和の心を開放し、一つの決断をさせた。



「…本当に、その通りだね、咲夜」



 被せられた手の上に、更に手を被せ、大和は柔らかい口調で答えた。



「ボクは少し…自分を見失っていたのかもしれない。皆から信頼を集めようとして、実際に信用してくれているのに、ボク自身がそれを無碍にするところだったよ」



 咲夜が改めて大和の顔を見ると、そこにはいつもの温和な表情を浮かべた大和の姿があった。



「ありがとう咲夜。君が隣にいてくれて…側で寄り添ってくれて本当に助かったよ」



 大和の優しい笑みに釣られ、咲夜も同じく笑みを浮かべる。



「…そのために、貴方の側にいると決めましたから」



 咲夜は大和から手を離し、いつものように咲夜の隣に立った。



「咲夜」

「はい」

「何時でも良い。根拠地のメンバーを集めて欲しい」

「分かりました」



 その内容については問わず、咲夜はただ一言、了承の言葉で答えた。






●●●






────同刻、根拠地医務室


 医務室は静まり返っていた。


 沙雪も所用で離れており、人の気配もなく、ただ開けられた窓から吹く風で、カーテンが揺れるだけであった。


 窓からは風だけでなく強い日差しも射しており、その光がベッドに横たわる朝陽を照らしていた。


 しかし、その日光とはまるで別の淡い光が、いま朝陽の身体を包み込んでいた。



『……』



 そして、その直ぐそばには、同じ光に包まれた謎の人物が立っていた。


 しかし、何故かカーテンに影はなく、側から見ればそこには誰も居ないように見えた。



『貴方は…身内だけでなく、かつての敵であっても心を許す器の持ち主なのですね』



 その声は周囲には聞こえない。


 しかし、発せられる言葉は、向けられた人物の心に直接響いているようであった。



『…だからこそ、それほど想いが強いからこそ、身内を貶されたことに憤り、あのような無茶をなされたのですね』



 謎の主の声は優しく、それでいてどこか憂いているようであった。



『…貴方はどこまでも優しい方。それでいて、いつまでも純粋なまま…まるでかつての……』



 それ以上言葉は紡がれることなく、しばしの沈黙が続いていた。


 やがて、光を纏った人物は、ソッと朝陽の額に手のような部分を当てた。



『…私が出来るのはこのくらい。ですが、これが貴方の救いになるのなら…』



 その人物が纏っていた光が一層強くなり、その光が朝陽の額に集中していく。



『…どうか、彼女と同じ道を歩まんことを…そしてどうか、私と同じ過ちを犯さないことを…ただ切に願います…』



 そして、その光がパァッ…!!と強くなり────



「誰ッ!!」



 その瞬間、カーテンがバッと開かれた。


 用事を終え、医務室に戻ってきた沙雪が、側からは気付かない異変に気付き、カーテンを巡ったのである。



「……?」



 しかし、カーテンを開けた時、そこには誰もおらず、確かに感じたはずの異変も無くなっていた。



「なに…?気のせい…?でも確かに…」



 沙雪は口元に手を当て、考え込む様子を見せる。


 そして、朝陽の方に目を向けるが、特に異変は無かった。



「…日の光と勘違いしたのかしら…私も気が立ってるわね…」



 そして、沙雪がカーテンを閉めてその場を後にしようとした時だった。



「う…うぅん…」



 布団に横たわっていた朝陽が、()()()()()

※本日の後書きはお休みさせていただきます



本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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