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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
469/481

第445星:貴方のおかげで

 医務室の中は暗く、視界は悪かった。


 しかし、暗闇でも行動できるよう訓練されてきた三人には全く問題にならない程度でもあった。


 三人は音と気配を消しながら、医務室の一番奥、患者が使用するベットルームの方へと移動して行った。


 その一室だけカーテンがかけられており、渚はソッとそのカーテンをめくった。



「…斑鳩…朝陽」



 そこには、ベットに横たわる朝陽の姿があった。


 状態だけ見れば寝ているに等しいが、その表情からは精気が感じられず、まるで死人のようにも感じられた。


 かろうじて見られる呼吸と、胸の動きが、朝陽が生きているのだと言うことを証明していた。



「…ほ、ほほほ本当に、昏睡状態なんですね…」

「…私達に会いに来てくれてた彼女とは別人みたいです。あんなにも明るく爛漫だったのに」



 三人にも朝陽の状態と状況については、大和から説明されていた。


 唯一心を開いていた人物であったこともあり、三人とも流石に驚いていた。


 収容されている状況のため面会は許されず、苦々しい思いをしていた。


 そして計画された脱走。それを実行するにあたって、朝陽に会わずにはいられなかった。


 それが、渚が望んだ唯一の願いであった。



「斑鳩 朝陽…」



 渚はもう一度朝陽の名前を呼び、ソッと近寄るとベットの側に膝をついた。



「私達は、ここを去ります」



 ベッドの布団に手を伸ばし、優しくその手を握りしめる。



「逃げ出すのではなく、もう一度立ち向かうためです。貴方が私達に教えてくれたように」



 例え返事が返ってこないと分かっていても、渚はそこで朝陽が話を聞いているかのように、真剣に語りかけた。



「…この結果は、貴方が望んだ結果では無いかも知れない。貴方は本当は、罪を償って欲しいと、そう願ったかもしれない」



 ギュッ…と、僅かに朝陽の手を握る力が強くなる。



「でも、貴方は私を迎え入れてくれた。貴方は彼女達を受け入れてくれた。だから、これは私達が望んだ未来です。例え世界から拒絶される道であろうとも、私は…私達は、貴方が見る世界を見届けたい。そして、少しでもその力になりまい。そう望んだ結果だから」



 これまで手に向けられていた視線を、今度は目を瞑ったままの朝陽に向け、儚げな表情で続ける。



「目を覚ました時、貴方は私達に失望するかも知れない。それでも、その可能性を知ってもなお、私達はこの道を歩むことを決めました。こんな強い意思を持って、覚悟を決めることが出来たのは、貴方のおかげ…」



 渚は朝陽の手に額を付け、祈りを捧げるような姿勢をとる。



「ありがとう…斑鳩 朝陽」



 そう呟く渚とともに、無値、透子の二人も、そこに重ねるようにして手を被せた。



「朝陽…貴方が見せてくれた世界への希望。あの日見せてくれた光…私は忘れない。そして、私が無価値何かじゃないと言ってくれた言葉を、私は心に刻む…ありがとう」



 無値からは、当初に見られた無機質な言動はもう見られず、その言葉には明確な意思がのせられていた。



「あ、あああ朝陽さん。私も忘れません。蔑まれるだけだと思ってくれた世界への認識を広げてくれたこと。拒絶ばかりしていた私達を受け入れてくれた、貴方のことを…ありがとうございます」



 三人の朝陽の手を握る手が更に強くなる。


 その時だった────ギュッ…



「「「!?」」」



 三人は一斉に、しかし間違いなく感じ取った。


 三人が握りしめた朝陽の手。その手から、ほんの僅かではあるが、握り返された感覚があったのである。


 それはまるで、三人のそれぞれの決意と、新たな門出を祝うような、そんな感覚であった。



「…ッ!」



 三人は深い眠りにつきながらもなお、三人を想う心を感じ取り、涙を飲んだ。


 最後にもう一度だけ手を握りしめ、三人はゆっくりと寝室を後にした。



「…もう、宜しいのですか?」



 一人、寝室に入らずに三人を待っていたアンナが、出てきた三人に声をかけた。



「もう十分。ここを出てからの覚悟と、勇気を、貰ってきたから」



 渚、そして無値、透子、三人揃って、今さっきまで握りしめていた手を見つめていた。



「そうですか…」



 そう言うとアンナは、三人とは逆に寝室の方へと向かって行った。



「…?なにを…」

「いえ、時間はあと1分ほどあります。なので、これまで幾度となく名前を聞き、そして貴方達を動かした人物を、一目目にしたくて…」



 アンナは中に入るまではせず、ソッとカーテンだけ小さく開き、中を覗き込んだ。


 そして、朝陽の姿を確認すると、フッと小さく笑みを浮かべた。



「(…何故でしょう。初対面で、話したことも無いのに、何故か彼女からは、気持ちを前に向けさせて貰えるような、温かさを感じます)」



 ソッとカーテンを閉め、今度は三人の方を振り返る。



「(貴方達三人が、心を開いたのも理解できる気がします。私もいつか、そのような存在になれるでしょうか…)」



 アンナは僅かな沈黙とともに目を閉じ、そして再び開いた時には、決意の眼と変わって行った。



「さぁ、猶予の時間は終わりです。ここからはもう、引き返すことのできない、道無き道です。改めて問います。覚悟は宜しいですね?」

「愚問」

「…今更だよ」

「と、ととととっくに決まってます」



 三人とも強い眼差しと声色で答え、アンナも笑みを浮かべて頷いた。


 そして、医務室に強い風が吹き荒れ────






●●●






────ジリリリリリ!!


 根拠地内に、突如巨大な音の警報が鳴り渡る。


 一瞬にして根拠地内の明かりが付き、次々と足音が鳴り響く。


 時間が迫っていた大和は、中にいた四人が()()()()()()()()、一度その場をあとにしていた。


 最初からその場にいたのでは、大和にも嫌疑がかかると懸念したためである。


 そして、警報が鳴ってから数分も経たないうちに、根拠地のメンバーは留置所に集まっていた。



「こ、これは…」

「…『レジスタンス』の捕虜が…居なくなってるね〜」



 断ち切られた檻、鋭く裂かれた手錠を見て、夜宵、椿の二人が直ぐに脱走したことを見抜いた。



「ここの檻は結構堅固な筈なんだけどね〜。こんなキレイに切られてるのを見ると、そうでも無いのかな〜」

「そんな悠長なことを言ってる場合じゃ無いでしょ!!まだ警報が鳴ってから数分しか経ってない。根拠地内を捜索するわよ!!」



 夜宵の言葉に釣られ、椿は「へいへ〜い」と返事を返すが、その視線は最後まで()()()()檻に向けられていた。


 夜宵と椿が移動する中、離れた場所から三咲が向かってくるのが見えた。



「三咲!!ちょうど良かった!!直ぐに『対敵生命体感知(エクスタミネーター)』で、襲撃者の位置を特定して!!捕らえていた『レジスタンス』の三人が脱走したの。もしかしたら、『レジスタンス(彼女達)』を取り戻しに来た仲間がいるかもしれないわ!!」



 夜宵は直ぐに三咲の『グリット』を頼ろうとするが、三咲は三咲で報告があるようだった。



「夜宵さん、それが問題はそれだけじゃありません。既に私の『グリット』を使用して、周囲の様子を見ましたが、『レジスタンス』の姿はありませんでした」

「…!?じゃあどうやって…」

「問題はもう一つあります。アンナさんの姿が見当たらないんです」



 三咲の言わんとしていることを直ぐに理解し、夜宵は歯噛みする。



「まさか、彼女が『レジスタンス』の三人を脱走させた、ってこと?」

「アンナさんとは共闘した仲です。そんなことは無い…と思いたいですが…」

「いんにゃ〜。残念だけど、これはアンナさんの仕業だね〜」



 アンナへの容疑を否認しようとした三咲だったが、それを更に椿が否定する。



「さっき私と夜宵ちゃんで見てきた檻だけど、キレイに切られてたんだよね〜。あの檻は『メナス』収監も想定してたから、生半可な衝撃じゃびくともしない設計になってたはず〜。それがスッパリ切り裂かれてた…三咲ちゃん、何か思い当たることない〜?」



 椿に尋ねられ、三咲は僅かに考え込むが、直ぐに結論に至った。



「アンナさんの、『グリット』!彼女の力なら檻を断ち切ることは可能です」

「そう〜。私もそこに思い至ったよ〜」



 共闘したからこそ分かる、アンナの強力無比な『グリット』。


 繋げたくなかった結論が繋がってしまい、三咲は複雑な表情を浮かべた。



「そんな…でも…どうして!あの人は、私達に協力してくれたのに…」

「…まぁでも、まだそう決まったわけじゃ…」

「いや、残念ながらそれで確定だろうね」



 三咲の困惑する表情を見て、椿が意見を取り下げようとした時だった。


 その場にやってきた大和が、帽子を深く被り、椿の考えを肯定した。



「神宮院 アンナの消失、そしてそれと同時に姿を消した『レジスタンス』の捕虜の脱走。これが関連してないとはとても考えられない。残念ながら、これは彼女の手によるものだろうね」



 三咲は否定しようとするものの、その確証はどこにもなく、ただ口を開いただけに留まった。


 逆に椿は、大和らしくない直ぐに疑ってかかるという様子に違和感を感じながらも、それを一旦受け入れた。



「どうしますか、司令官。四人の捜索を実施しますか?」



 夜宵の提案に、大和は「いや…」と首を横に振った。



「こういった際の『レジスタンス』の逃走は訓練されている。それに、向こうには姿も気配も消せる『存在隠蔽ヴァニタス・ハイディング』の『グリット』を持った透子君もいる。今から直ぐに捜索に出ても無駄骨だろう」



 大和は帽子を深く被り、その表情を見せないまま、夜宵達に背中を向けた。



「悔しいが、完全にしてやられた。この責任は、『レジスタンス』のリーダーである彼女を自由にさせてしまったボクの判断ミスによるものだ。念の為周辺の警戒をしつつ、問題がなければ、君達も直ぐに休むと良い」



 そう言うと大和は、直ぐにその場から去ってしまった。


 今だに信じられないといった様子の夜宵と三咲、そして、あまりにも大和の引き際が早いと感じた椿。


 釈然としないまま、三人は周辺の警戒のため、巡回に向かった。


 結局、何の手掛かりもないまま、この脱走劇は終わりを迎えたのであった。

※後書きです






ども、琥珀です。


ご無沙汰しております。

お時間いただきありがとうございました。


一先ず復帰させていただきました。

ただこの間小説が書けず、ストックもなく、またどうしても筆も進まなかったこともあり、カツカツです…


どうにか更新を続けられるよう、頑張ります。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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