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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第443星:風の便り

神宮院 アンナ

 レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。従来の『レジスタンス』そのもののリーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北した。穏健派だけあり、平和的な思考を持ち主。言葉で人の心を動かすタイプで、心から『グリッター』と人の平等な世界を願っている。千葉根拠地に希望を見出し、助力した。


矢々 優弦 ー夜宵小隊ー

 幼少期を山で過ごし、『グリット』無しでも強い戦闘力を発揮する。自然の声を聞くことができる。自然の声を聞き取る『グリット』を持つ。

 留置所から離れ、大和と細部の打ち合わせをした後、アンナはそのまま大和と別れた。


 当初はそのまま与えられた部屋に戻る予定であったが、久々の戦闘の余韻もあってか気分が落ち着かず、夜風に当たるべく、海辺の方へと歩みを進めていった。


 海が一望できる場所へと移動すると、アンナは大きく息を吸って、吐き出した。



「……ここは良い場所ですね。心地良い風も吹きます」



 コンクリートで出来た壁に手をかけ、アンナは海の方を見つめながら呟く。



「…貴方もそんなところにいらっしゃらず、こっちに来ませんか?」



 振り返ることなく呟かれた言葉。しばしの沈黙の後、スッと物陰から一人の人物が現れた。



「……良く…分かり……ましたね」

「ふふ、こう見えて、いち組織のリーダーを務めてましたから」



 そこに立っていたのは、優弦であった。


 優弦はアンナに言われた通り移動しその横に立ち、アンナも優弦を拒むことはしなかった。



「貴方も夜風に当たりに来たのですか?」

「風に…という…より、自然を……感じに」



 風に髪を靡かせながら、優弦はアンナの問いに答えた。



「…自然を?」

「う…ん。ボク…の『グリット』は、自然…の声を聞く力…だから…。だから時折、こう…して、自然の声…を聞きに来る…んだ」

「まぁ…あまり見かけない、特異系の『グリット』なんですね。自然の声を聞けるなんて、羨ましいです」



 アンナは優弦の能力に対し、屈託のない答えを返した。



「そう…かもね。でも…自然の声…はとても素直… 花…木々…雲…太陽…水…そして…()()

「…!」



 聞いてるだけならただのたわいもない会話。しかし今、両者はハッキリと言葉の意図を汲み取っていた。



「…そうですか…確かに、風も自然の一部ですものね…」

「う…ん。寧ろ、一番身近…な、存在かも…しれない」



 そこで両者は口を塞ぎ、僅かに沈黙が続く。



「…つまり、貴方は私達の密会を知ってしまった…ということですね」



 先に口火を切ったのはアンナだった。


 遠回しな言い回しをすることなく、ハッキリと優弦に告げた。



「う…ん。()()便()()…で」



 そして優弦も、アンナの言葉に偽ることなくハッキリと答えた。



「そうですか…それで、貴方はどうされます?本部に報告でもしますか?」



 アンナから僅かにピリッとした圧が放たれる。


 アンナは直ぐに実力行使に出るタイプでは当然ないが、今回は状況がやや異なる。


 優弦が知った情報が出回れば、自分はともかく、大和や渚達に被害が及ぶ。


 信頼と希望を携えたこの状況を潰させるわけにはいかなかった。


 アンナは回答次第では…と身構えていたが…



「そんな…こと、しない…よ」



 優弦はこちらを振り返ることすらせず、アンナの言葉を否定した。



「彼女達と貴方…の逃亡について…は、司令官も承知…の上での行動…だろうから…ボクがとやかく…いうことは…なにもない」

「……ですがそれは…貴方にとっては根拠地を裏切ることになるのでは?」



 アンナは万が一にまで備えて、したくもない疑念を優弦に投げかけた。


 優弦の表情は、口元につけられたタイトなマスクもあって見ることは出来なかったが、その瞳から笑みを浮かべていることが分かった。



「そう…だね。でも、司令官が…そうするなら…ボクも…信じる。ただそれ…だけ」



 アンナは改めて、大和という存在が、この根拠地においてどれほど信頼を得ているのかを実感させられていた。


 時に自分達に黙っている、といった裏切るような行為でさえ、彼女達にとっては、信頼の証であると捉えられていたのだ。



「ボク…が疑った…のは、寧ろ…貴方の方…」



 優弦は視線をアンナの方へと向け、ジッと凝視した。



「脱獄…を計画してる…って知らされた時、貴方…は、何かを企んでいる…んじゃないかって…思った。それでもし…司令官に被害…が及ぶなら、その時…は、っとも…」



 優弦の言葉に、アンナは素直に納得した。


 考えてみれば当然の帰結である。


 片や根拠地とその周りを守る『軍』の『グリッター』、片や根拠地から敵を逃がそうとしている組織のリーダー。


 側から見れば、どちらが正しく、どちらが誤った行動を起こそうとしているのかなど明白である。


 こういった有事に備えて、いち早く状況を察した優弦は、根拠地を守るために行動を起こしたのだ。



「(…私がとやかく事を起こすようなことではありませんでしたね…非は全てこちらにある。行動を起こされてもしょうがない状況ではあります)」



 優弦は先程、報告はしないと発言した。


 しかし、大和への信頼があるとはいえ、そう簡単に自分を信じ、更には逃亡まで見逃すことが出来るのか、という疑問が浮かび上がった。



「(ここの根拠地の方々を知る限り、発した言葉に嘘があるとは思えません…ですが、今回の件に関しては根拠が欲しいですね…)」



 疑いの眼差しを向けるような人物では無いと思いつつ、今回の場合は一人の被害で済むものでは無い。



「そこまで状況を知り、覚悟を決めておきながら…それでも尚、私達の動向を報告しないのですか…?ひとえに、司令官さんを信じているから?」



 だからアンナは、懐疑的な自分を恨めしく思いながら、優弦に探りを入れた。



「うん…そう」



 言葉に詰まるかと思いきや、優弦はアッサリと答えた。ハッキリと答えた上で、優弦は続けた。



「司令官…を、信じてるから…こその判断()()…ある」

「…でも?では」



 言葉に含みを感じたアンナは、その部分を追求する。



「言った…でしょ?ボクの『グリット』…は、自然の声を聞く…『グリット』だって」

「それはお聞きしましたが…つまり、どういう意味なのです?それがどう関係してくるのでしょうか」



 優弦の発言の意図が見えず、アンナは困惑した様子で尋ねる。



「自然の声…は、いつでも素直…で、正直。だか…ら、貴方の計画を知った…時の(こころ)の声も…ちゃんと聞こえてきた」

「……!」



 優弦はアンナが無意識に発していた『グリット』の風の音を聞いていた。


 そして、そこからアンナがどんな想いで大和達との密約を交わしたのかを理解したのだろう。


 とどのつまり、優弦がアンナに何を言いたいのかというと…



「貴方は…信頼に値する人…だって、思った。だって風が…そう囁いて…たんだもん」



 今度はマスク越しでも分かるほどの笑みを浮かべ、優弦は優しい声で答えた。



「だか…ら、大丈夫。ボク…は、貴方と司令官…の計画のことを…誰にも言わない…から、安心…して」



 どこまでも素直で真っ直ぐな優弦の言葉に、アンナは思わず胸を握りしめる。



「ありがとう…ございます。本当に私は…この根拠地に来てから教えて貰ってばかり…ですね」

「ふふ…ボク…もそうだ…よ?夜宵さんや、指揮官、司令官さん…から、たくさんの事を教えて…貰った。だから自然の…言うことも素直に受け入れ…て、貴方を信用出来た。私達は…同じなん…だよ」



 こんな自分を同じだと言ってくれる優弦の優しさを噛み締めながら、アンナも笑顔を浮かべて答えた。



「私がこれから起こす行動が正しいのかどうかは分かりません。ですが、司令官さんや、貴方から受け取った信頼に恥じない行動を、改めて心掛けます」

「ふふ…ボク一人のこと…何か気にしなくて良いと思う…けど…でも、うん…信用…してる」



 共通点はこれまでさほど無かった二人の間に、確かな絆が一つ生み出された。


 そして少しの沈黙の後、アンナが囁くような声で優弦に語りかけた。



「矢々 優弦さん。貴方もどうか…この世界に絶望しないでいて下さい。彼女達の言う斑鳩 朝陽さんのように、光り輝く、希望であり続けて下さい」



 それは懇願。


 アンナがこの根拠地で見てきた希望を、この場にいる優弦を代表と捉えて頼み込んでいた。



「ボクは…あまり外の世界に…関心は無い…のが本音」



 その言葉に、優弦は少し避けたような返しをする。



「でも、自然の声…に流されて、()()()()()()()()()()()()()ここのみんなならきっと…希望を照らし続けて…くれる。きっと」



 遥か彼方に美しく輝く夜空を見つめながら、優弦はそう答えた。



「そうですか…貴方が言うのなら、きっとそうなのでしょうね。私も、信じます」



 アンナも優弦の答えを追求も否定もせず受け入れ、そして同じように夜空を見上げた。

※本日の後書きはお休みさせていただきます






本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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