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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第442星:『メリット』

国舘 大和(24)

 千葉根拠地の司令官として配属された青年。右腕でもある咲夜とともに指揮をとりつつ、根拠地内の環境面、戦術面、待遇面の改善にも取り組み続け、『グリッター』達からの信頼を勝ち得た。実は関東総司令官という立場であるが、それを隠している。


神宮院 アンナ

 レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。従来の『レジスタンス』そのもののリーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北した。穏健派だけあり、平和的な思考を持ち主。言葉で人の心を動かすタイプで、心から『グリッター』と人の平等な世界を願っている。千葉根拠地に希望を見出し、助力した。


門脇 渚(25)

 対『軍』組織『レジスタンス』の構成員で、対象の物質を口内に含む事で情報を得る『グリット』を有する。その副作用で五十嵐 歪という人物の人格が乗り移っていた。朝陽に迎え入れられ、かつての自分を取り戻す。現在は根拠地の留置所に拘束されている。


無値(14)

 無感情・無機質な反応の少女。対『軍』組織『レジスタンス』の一員で、兵器として育てられた戦闘員。朝陽の言葉と行動に心を動かされ、自分の中に価値を見出した。現在は根拠地の留置所に拘束されている。


日浦 透子(16)

 常に何かに怯えているような様子の少女。対『軍』組織『レジスタンス』の一員。カンナ達の教育で恐怖を植え付けられ、『グリッター』は恐れられる存在でしかないと思い込んでいたが、朝陽の言動に心を動かされ、世界に希望を見出した。現在は根拠地の留置所に拘束されている。

「私と共に行く、メリット…ですか…」



 渚から出された言葉に、アンナは直ぐに答えることが出来なかった。


 言葉に詰まり、手を口元に当て、考え込む。



「(メリットか…渚君もなかなか酷な話を切り出すね)」



 渚の言葉を聞いた時、大和も同じように考え込んだ。



「(普通に考えるなら、この場から逃げ出せること…即ち自由になれることだけど…彼女達はそれを望んでいない。寧ろ、自分達が犯した罪を償うために敢えて留まることを望んでいる。そうなると、逃げ出すことはメリットにはならない)」



 ここから解放されるということが、大和の考え得る唯一のメリットであったがために、それを真っ先に否定されたこの状況はかなり分が悪かった。



「(ただ、これは条件提示のようなもの。つまり、彼女達にとってメリットになるものさえ示れば、動く気はあるということ。どうする、アンナさん)」



 救いの手を差し伸べることはできず、大和はアンナの答えに全てを任せた。


 当の本人であるアンナは、それに応えるようにして、ゆっくりと口を開いた。



「…私は、この根拠地で見出した希望を、改めて世間に知れ渡るように行動していくと話しましたね」



 アンナの言葉に、三人は頷いた。



「では、あなた方三人はどうですか?希望を見出すことが出来たのに、そのまま閉じこまり、閉じ込められたまま、何もせずにその希望を身に秘めてお終いですか?」

「…!」



 アンナが発した発言に、三人は僅かに目を開いて反応する。



「あなた方がこの根拠地から希望を見出し、世界に再び目を向ける気持ちを持つことが出来るようになったのであれば、世界からの『差別』を受け止める勇気を与えられたというのであれば、それを行動に出さないでどうするのです」



 自身で結論づけたメリットについて、アンナは力強い口調で三人に語りかけた。



「希望を見出し、勇気を与えられて、それでいて行動は起こさない。それは、あなた方が望むことですか?何もしないことは、寧ろ罪なのではありませんか?」



 アンナは座っていた姿勢から立ち上がり、今度は見下ろすようにして語り口を続ける。



「貴方達が本当に世界と向き合う覚悟と希望を持ったのならば、立ち止まらず、進みなさい。貴方達に希望を与えてくれた人物は、このまま黙っている事を望むような方だったのですか?」



 その時、渚達全員が思い浮かべたのは、間違いなく朝陽のことだろう。


 心を歪められた渚に居場所を取り戻させ、心を閉ざしていた無値の心を開き、心の乱れていた透子に安寧を取り戻させた眩く輝く人物。


 その朝陽がもし目の前にいたら、何というだろうか。


 三人は目を瞑って、仮想の朝陽を相手に、答えを模索しているようであった。



「もし、貴方達に本当に進む覚悟があるのなら、私に着いて来なさい。私達の手で、一からまた世界と立ち向かうのです」



 そう言うとアンナは、ゆっくりと柵越しに三人に手を伸ばした。


 その身体には、窓越しに月明かりが照らされており、どこか神々しさを感じさせた。


 三人はしばし沈黙し続けた。


 やがて、最初に声を上げたのは、一番否定的だった渚だった。



「分かりました。私はノります」

「…!」



 最後までアンナを否定すると思っていた大和は、僅かに驚いた表情を見せる。



「さっきも言ったように、私は別にそこまで『差別』に対して反発心はないです。()()を否定するには、私の手は汚れ過ぎました」



 渚はただ利用されただけに過ぎない。それを罪と呼ぶには、あまりにも酷だろう。


 しかし、どれだけ言葉をかけようとも、それを本人が罪と感じている限り、解放されることは無いだろう。



「それでも…こんな私を温かく迎え入れてくれた根拠地の面々と…朝陽が『差別』からの解放を望んでいるのなら、私はそれを助けて支える立場でありたい」



 それでも、その罪の意識を乗り越えて立ち上がるほどの勇気を、朝陽は渚に与えていた。



「貴方の言う通りです。私にはいまチャンスが訪れている。彼女達から与えられた恩に報いる、チャンスが。なら、その手を掴まないてはない。だから私は、貴方と行きます」



 柵の間を抜けて、渚はアンナの手を取り、握りしめた。


 これに無値と透子も続いた。


「確かに…彼女ために動くことが出来るのに、このまま何もしないのは罪…非効率的ですね」

「あはは…素直になろう無値。わ、私達はもう一度、立ち上がる。朝陽さんが見せてくれた、希望を繋ぐために」



 無値、そして透子も、差し出されたアンナの手を握りしめた。



「…決まりですね」



 アンナはもう片方の手も差し出し、三人の手を包み込むようにギュッと握りしめると、ソッとその手を引いた。



「司令官さん、タイミングはお任せします。内容は元『レジスタンス』、穏健派リーダー、神宮院 アンナが仲間を回収するために襲撃した、という内容でお願いします」

「…あまり他人を悪人にしたてるような事はしたくないんだけどね…」

「ですが、それ程の内容でないと上は納得しないでしょう。何より、斑鳩 朝陽という人物は貴方を尊敬している。そんな貴方を犠牲にするような真似をして、彼女達三人が脱走に賛同すると?」



 大和はアンナの後ろを見ると、三人は確かにそれならば納得はしない、といった様子でこちらを見ていた。


 大和は降参の証として両手を上げ、その条件を飲んだ。



「再出発の門出としては最悪の一歩になるね。何せ、『軍』管轄の根拠地を襲撃して、囚人を脱獄させた犯人になるんだから」

「覚悟の上です。その上から、私達は世界を少しでも変えて見せます」



 残念ながら、大和自身も三人の解放をするためには、アンナを悪役に仕立てる必要はあると考えていた。


 勿論、自分のミスで逃亡を許したパターンも考えてはいたが、それは先程アンナと三人によって棄却された。


 そうなれば、大和が打てる手は最初から一つしか存在しなかった。



「…時刻は明日の夜。今回の報告の主たる内容になる『コマンダーメナス』と『ユニティメナス』についての報告書を細かく仕上げるために時間が必要なのは確かだ。その報告内容に、時間を要するのは事実だからね。アンナさんが出撃したという内容もうやむやにする必要もあるし」



 「それから…」と大和は続ける。



「警戒体制の強い朝、昼よりも、通常より人員が少なく、襲撃をし易い夜の方が、理由としては成り立つ。これらを纏めると、明日の夜が一番ベストなタイミングだろう」

「そうですね。そうしましょう」



 アンナとその後ろにいる三人も、大和の提案にのった。



「それから…心苦しいですが、ここの方々にはここでの内容は伏せておきましょう。皆さんに限って無いとは思いますが、元々敵であった私に対しての同情から、何か別のアクションを起こされても困ります」

「…それは、彼女達からの失望を買うことにもなりますが…」

「やむを得ません。私達は全てを一度捨てて、最初からやり直す身です。それくらいは受け止める覚悟は持っています」



 根拠地の司令官としては、それはとてもやるせない事ではあったが、アンナ達に協力する手前、アンナの言う通りやむを得ないと判断し、大和もこれを受け入れる。



「…司令官さん、貴方には本当に苦労をかけます。ですが、貴方の言う通り、私はここを『視察』出来て本当に良かったと思っています。そうでなければ、私はもう立ち上がることは出来なかったでしょう。本当に、ありがとうございます」



 アンナはソッと大和に手を差し出すと、大和は僅かに躊躇ったあと、その手を取った。



「ボクはただ、立派な思想を掲げる貴方に、もう一度立ち上がって欲しかっただけです。結果として、貴方に罪を押し付ける形になってしまった。情けない限りです」

「情けないなんてとんでもない。ここで見た希望は、確かに彼女達が生み出しています。でもその根幹を作り出しているのは貴方なのです。だからどうか、この希望の灯火を、消させないで下さいね」



 アンナは優しい笑みを浮かべ、大和を称えた。


 大和は苦笑いを浮かべながらも、これに小さく頷いて答えた。


 必要以上の長居は危険と判断し、二人がこの場を離れようとした時だった。



「大和司令官」



 ふと、檻の中から渚に呼び止められた。



「こんなことを言える立場じゃないことは分かったます。でも、私がここを出て、アンナさんと行動を共にするにあたって、一つだけ条件を出させてください」



 そして渚は、大和に懇願するように、その条件(願い)を伝えた。

※後書きです






ども、琥珀です。


休載そうそう申し訳ないのですが、実は少々身内に不幸がありまして、現在バタバタしております。


状況と心情によるのですが、来週以降の更新はお休みさせていただく可能性があります。


また後書きにてお知らせさせて頂きますので、もう少々お待ちください。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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