第439星:反対
「私は反対です、大和!」
普段は常に冷静な咲夜が、珍しく感情を剥き出しにし、更に珍しく、大和の考えに反対していた。
しかし、それでも大和の歩みは止まらなかった。
「アンナさんの解放だけならば分かります。彼女はまだ『最高本部』には正体がバレていません。だからここで解放しても私達に被害は及びません。ですが…」
たまらず、咲夜は大和の前に立って、その歩みを強引に止めた。
「アンナさんの解放と同時に、『レジスタンス』の捕虜まで解放するなんて…!!」
ハァ、ハァ、と息を荒げながら、咲夜は強く大和の考えに反対の意を示した。
「…咲夜、彼女達を解放したくない気持ちは分かる。けれど…」
「彼女達の解放を望んでいないのではありません!大和の身の心配をしているんです!」
反論しようとする大和の言葉を、咲夜は遮った。
「アンナさんの解放のみならず、いま捕らえている『レジスタンス』の面々まで何の理由もなく解放してしまえば、いくら大和であっても立場が危うくなります!」
咲夜は感情的になっているようで、頭の中は冷静であった。
「それが何を起こすか理解されてない筈ありません。根拠地の司令官としての任を解かれれば、ここにいる大勢の人に混乱と絶望を招くことになるのですよ!?」
咲夜が案じていたのは、大和の身だけでは無かった。
『レジスタンス』の解放という、簡単に言えば『軍』を裏切るような行為をすれば、当然罰を与えられる可能性は高い。
それがもし、咲夜の言う通り、千葉根拠地司令官としての任を解かれる形となれば、現状考えうる中で最悪のシナリオとなるだろう。
「心配はありません」
そこで、これまで口を閉ざして二人のやりとりを見ていたアンナが、口を開いた。
咲夜はやや睨むような目付きで、そのアンナを見る。
「どうしてそんな事が言えるんですか?貴方は部外者だからそんな事が言えるんです!貴方の身勝手な頼み事で大和が…!」
「咲夜」
激昂し、アンナを怒鳴りつけようとする咲夜を、大和は静かながら圧のこもった声で制止した。
「申し訳ありません、咲夜さん。貴方のお怒りもご最もです。私の勝手な要求で、司令官さんの身に危険が及ぶリスクを孕んでいるのは重々承知です」
「…だったら…」
「ですから、そのリスクは私が全て受けます」
その答えに、咲夜は固まった。頭の中で理解が追いつかなかったからだ。
対して大和は、初めからアンナの意図を理解していたのか、深く帽子を被った。
「どういうことです…?貴方がそのリスクを負う…とは?」
「簡単な話です。そのまま解放してしまえば、司令官さんに全ての責任が向かってしまいます。そこで、私がこの根拠地を襲撃したことにします」
「え!?」
咲夜の頭は再びフリーズする。次々と飛び交う強力なワードに、完全に頭がついていかなくなった。
「つまりは、だ咲夜。彼女は根拠地を襲撃したことにして、『レジスタンス』の捕虜を強引に強奪したことにすることで、ボクへの責任を減らそうとしているんだよ」
より簡単な説明を受け、咲夜の頭の中で情報が整理されていくが、しかし理解が出来なかった。
「何故です…?今なら貴方は正体を晒さずに去ることが出来ます。なのに何故、そんな汚名を背負ってまで、事を起こそうとするのですか?」
「…ふふっ」
咲夜の問いかけに、アンナは思わず、といった様子で笑みをこぼした。
「いえ、すいません。ここにいる方にそのような質問をされるとは思っていなかったもので」
溢した笑いを抑え、アンナは優しい笑みを浮かべ、咲夜と向き合った。
「咲夜さん、逆に貴方にお聞きします。もし、貴方の仲間、部下が敵に捕まってしまっていたとしたら、貴方はどうしますか?」
「それは…あらゆる手段を講じて救出を試みますが…」
「私の行動も、それと同じです」
その答えを待っていたと言わんばかりに、アンナが即座に答えた。
「私は私の仲間を助けたいのです。このままここに居て、彼女達が無事にことが済む可能性は低いです」
「で、ですが、大和の計らいで、悪いようにはならない対応がされるはずです」
「それが絶対であると保証出来ますか?」
ハッキリと面と向かって言われ、咲夜は言葉に詰まる。
「確かに彼女達への情状酌量の余地はあるかも知れません。最高司令官である護里さんなら、十分温情のある処理をして下さるでしょう。ですが、戦力としてはともかく、権限として見れば、『軍』は一枚岩では無いのです」
「…それは…」
「既に連行されてしまったカンナさんのように、より深い情報を引き出そうとして、『最高議会』の面々は歪…いえ、渚さんでしたね。彼女達を利用するかも知らない。寧ろその可能性の方が高いでしょう。私は、これまでの戦いでもう十分傷付いた彼女達を、そこから救いたいのです」
アンナの発言とその意図を、咲夜もようやく全て理解し、受け止めることが出来た。
冷静になった咲夜は、しばし頭の中で情報を整理する。
「…大和、アンナさんの言い分は理解しました。ですが、千葉根拠地が彼女達の手によって襲撃されたのも事実です。アンナさんの行動を許すということは、襲撃そのものを許容するのと同義です。大和はそれを理解された上で、解放を見逃す…という認識で宜しいですか?」
咲夜にしては珍しく、大和に対して厳しい言い方で尋ねた。
大和は深く被っていた帽子を被り直し、咲夜を真正面から見つめた。
「確かに襲撃そのものは許されることじゃ無い。でもボクは、彼女達には許される理由があって然るべきだとも思ってる。だから襲撃された責任はボクが負う。その上で、彼女達はアンナさんに預けるべきだというのが、ボクの判断だ」
しばし両者は見つめ合う中、やがて折れるようにして咲夜がため息を溢した。
「はぁ…分かりました。大和がそう決めたのであれば、私はその判断に従います」
咲夜の言葉を聞いて、大和とアンナは小さく息を溢した。
「咲夜、咲夜の不安や懸念が理解できないわけじゃ無い。だけど、もし立場が逆だったら、ボク達ならどうしたかを考えたんだ。だから…」
「大丈夫です大和。私はもう受け入れています。一度決めたことは、貴方は曲げませんから」
「…ありがとう」
大和が小さく頭を下げ、咲夜はそれを見た後、再びアンナに目を向けた。
「大和のこの判断が、間違いでは無かったと言うことを、リスクを負っての判断であるということを、忘れないで下さいね」
「勿論です。それを知り、理解するための時間を、私はいただきましたから」
「…なら、良いです」
咲夜は踵を返し、ゆっくりとその場を離れていった。
「…今日は疲れました。報告書については明日取り掛かります。仕上がるのは明後日になってしまうかと思いますが…宜しいですね、大和」
「…あぁ、ありがとう、咲夜」
大和の答えを聞き、最後にもう一度アンナを一瞥した後、咲夜は今度こそその場をあとにした。
「…上司想いの、良い部下ですね」
「そんなもんじゃありませんよ。ボクと彼女は、血の繋がりはなくても、本当の家族のようなものです」
大和の口から出た言葉が、軽いものではないことに直ぐに気付いたアンナであったが、それ以上は追求しなかった。
「さて…彼女にはああいった手前、こういうことを言うのは申し訳ないですが、決行するかどうか…いえ、出来るかどうかを確かめなくてはいけませんね」
アンナは困ったような表情を浮かべ、大和の方を見た。
「そうですね。過去に経緯があったとはいえ、彼女達は過激派組織の『レジスタンス』として育成されてきた。穏健派組織の筆頭である貴方に、彼女達が着いて行くか、それはまた別の話ですから」
「分かっています。だから無理強いはしません。今の私の、感じてきたこと、考えていることを全て話した上で、彼女達の判断に委ねます」
両者は頷き合うと、渚達が収監されている留置場へと向かっていった。
※後書きです
ども、琥珀です。
定期連絡の記載です。
2/6〜2/10の更新についてなのですが、私事で申し訳ないのですが更新をお休みさせていただきます。
翌週からは通常通り更新しますので、宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




