第438星:戦いを終えて
戦闘を終えた一同は、戦闘海域から戻ると、そこには大和達の姿があった。
「お疲れ様みんな」
「司令官!!それに指揮官、夜宵さん達まで!!」
ここまで手厚く迎えられるとは思っていなかった三咲達が、驚いた様子を見せる。
しかし三咲達にとってもそれは都合が良かった。
「司令官、言葉の容体は?」
今回の戦闘で大怪我を負い、『ベイルアウトシステム』によって離脱していた言葉の状態を、一刻も早く確認したかったためである。
「大丈夫…と言う言い方は違うかもしれないが、沙雪さんに確認したところ、一先ず命に別状は無いそうだ。だから安心して良い」
大和の答えを聞いて、一同は安堵の表情を浮かべる。
「言葉くんの件はあったにせよ、それ以外の犠牲者はゼロ。想定外の相手に対して、みんなホントに良くやってくれたよ。それをいち早く伝えたくてね」
「いえ、そんな…司令官方の指揮があったのと、アンナさんの増援があったからで……あ……」
そこで三咲は、アンナの名前を迂闊に出してしまったことで、ハッと口を塞ぐ。
しかし、大和は小さく笑みを浮かべたまま、三咲の肩をポンっと叩いた。
「良いんだ三咲くん。彼女の正体については、もう根拠地全体に知れ渡ってる。それは彼女も知っているし、それを理解した上で君達の救出を優先させたんだ」
フッと目線をアンナに向けると、アンナもこれに頷いた。
「戦場に出て、『グリット』まで使うのです。隠し通すことなど出来ないことは初めから分かっていました。全て承知の上です」
アンナも大和と同じように優しい笑みを浮かべ、三咲達に告げた。
三咲達はその言葉に応えるように同じく笑みを浮かべていたが、三咲だけが疑問を抱いていた。
「…ですが、どうしてそこまでして私達のために戦ってくれたのですか?同じ『軍』所属でもない、貴方が…」
ともすればアンナの行動を批判するような発言にも聞こえたが、アンナは気にした様子は無かった。
しかし、答える言葉を選んでいるようで、直ぐに答えは返って来なかった。
「そうですね……私が進むための道標、そしてこれから芽吹くであろう可能性を潰されたく無かった、からでしょうか?」
アンナの答えに、三咲だけでなく全員が首を傾げていたが、大和だけがその言葉の意味を理解したのか、小さく笑みを浮かべていた。
「ふふ、要は皆さんを助けたかった…ただそれだけの理由ですよ」
最後は本当なのか嘘なのか分からない笑みと言葉を残し、アンナはゆっくりと根拠地の中へと戻って行った。
●●●
戦闘が終わり、三咲達が言葉のもとへと向かう中、大和、咲夜、アンナの三人はその場に残っていた。
「私の信憑性のない発言も素直に信じ、何よりも仲間のことを想う姿…本当に素晴らしい根拠地ですね、ここは」
去っていく三咲達の姿を見届けながら、アンナは小さく笑みをこぼしていた。
「そんな思想を、あなた方が植え付けたのでしょう?」
「…元からこの根拠地はそういう場所でしたよ。怪我を負った仲間を想う心も、差別に負けない励まし合う心も、最初からみんな持っていた。ボク達がしたのは、それをほんの少し整え、背中を押しただけ。スゴイのは、劣悪な環境でも負けなかった、彼女達自身です」
これまでの功績を自分の手柄とは言わず、あくまで根拠地の人々のものと言い張る大和に、アンナはまた笑みを浮かべた。
「そう…彼女達は環境に負けなかった。涙を飲むことも多かったでしょうに、それに挫けず、戦い、そして守り続けた。そんな彼女達だからこそ、ここまで繋がりの強い根拠地となったのでしょう」
もう姿も見えなくなった三咲達の方を見ながら、アンナは小さく呟いた。
「環境に押し潰されて逃げ出した、私とは違う」
それまで浮かべていた優しい笑みから一転、悲しげな表情を浮かべた。
「…誰だって逃げ出したくなりますよ。外からも、中からも差別されれば…」
「ふふ、本当に優しい司令官ですね、貴方は。一番の違いはきっとここにあるのでしょうが…私には護里さんが居ても耐え忍ぶことが出来ませんでしたから」
続けざまに紡がれる悲しげな言葉に、大和が何かを言いかけるが、アンナがそれを遮った。
「あぁ、誤解なさらないで下さい。何も自棄になっているのではありません。ただ、改めて私と彼女達は違うと、そう感じただけの話です」
再びアンナの顔を見た時には、アンナの瞳には力強さが戻っていた。
「私と彼女達は違う……だからこそ、私にしか見えない世界があると、今は思っています」
「アンナさん…」
アンナはしばし目を閉じた後、咲夜に目を向けた。
「指揮官さん、今回の戦闘を経て、『軍』では今後どのような動きがあると想定されますか?」
突然の質問に咲夜は驚いた様子を見せるが、直ぐに頭の中で計算を始めた。
「…出来る限り情報を秘匿できるように操作はしましたが、今回の相手はただの『メナス』では無かった上に、統率のある動きも見せてきました。これを流石に隠蔽することは出来ません。それを上手く取り繕って報告したとしても……それをその場のメンバーだけで打開出来たとは考えられず、アンナさんならぬ、第三者の介入があったという調査が入る可能性が高いと思います」
「その調査までの猶予は?」
アンナの問いに、咲夜は少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「私の方で報告書の作成を意図的に遅らせたとしても、恐らく二・三日後には、最高本部からの調査が入ると思われます」
「十分です。ありがとうございます」
アンナは丁寧にお辞儀をした後、再び大和に目を向けた。
「司令官さん、ご迷惑ばかりをお掛けしますが、お願いしたいことがあります」
●●●
『…結局今回モ敗北。アナタニトッテ得ラレタモノハアッタノ?』
千葉根拠地から遥かに離れた沖合で、『アイドス・キュエネ』は海に横たわる『エデン』に問い詰めた。
『得られたものはあったのか?あったに決まってる!!』
『エデン』歓喜の声をあげ、海面に立ち上がった。
『数でも質でも優っていた我々が、どうしてこれまで人間どもを押し込むことが出来なかったのか!!その一つが解明されたんだ!!これは大きな手柄だよ!!』
両腕を上に掲げ、全身で喜びを露わにする『エデン』に、『アイドス・キュエネ』は引いた様子で更に尋ねる。
『敗ケテ一体何ヲ得タトイウノカシラ?聞カセテ頂戴?』
『答えならもう見せて示しただろう?』
『ソレガ分カラナイカラ聞イテルンデショウ』
そう答えると、『エデン』はやれやれといった様子で首を横に振った。
それに僅かに苛立ちを覚えるも、答えを知りたい『アイドス・キュエネ』は、その感情を抑える。
『さっきも言ったように、我々はこれまで数でも質でも人間に優ってきていた。しかし、人間どもはそれでも尚抵抗し、我々の侵攻を防いできた。それは何故だと思う、《アイドス》』
『…奴等ノ使ウ特殊ナ能力ガ、《メナス》ヲ凌駕シテイタカラ?』
『いいや違うね!』
『アイドス・キュエネ』の出した答えを、『エデン』は即座に否定した。
『答えは統率力さ!!ただ数だの質だのに目を向けて力任せに攻めていたから、私達は攻め入ることが出来ずにいた!!』
『エデン』の言葉を聞いて、『アイドス・キュエネ』も先ほどの戦闘を思い返して、納得したように頷いた。
『ツマリ、《個》ノ力ガイクラ優レテイテモ、磨キ上ラレタ《組織》ニハ叶ワナイ…ソウ言イタイノネ』
『その通り!!私達にはそれが欠けていた…それがどうだ!!簡単な強化と、《知性》を分け与えただけの少個隊だけで、これまで幾度と苦渋を嘗めさせられてきた相手を押し込んでいた!!コレが私達の新しい戦い、与えられた知性を活かす、新たな道標だ!!』
歓喜する『エデン』に対し、その答えを聞いてもなお、『アイドス・キュエネ』はどこか冷めた様子であった。
『…デモ敗北シタヨウダケド?』
『あの謎の風女の登場は予想外だった。けど、それ以外は完璧だっただろう?もう少しで勝利を掴めるところまで来ていたのだから!!』
『エデン』は完全に確信を得たかのように笑みを溢していた。
しかし、それとは対照的に『アイドス・キュエネ』の表情は冷めていく一方であった。
『…マァ、貴方ガソウ思ウノナラ好キニシタラ良イワ』
『おや?私の考えに賛同できないか?この作戦を進めていくにあたって、お前にも指揮官を委譲してやろうも思ってたのに』
『冗談ハ止メテ。私ハ私デ好キニヤルワ』
そして『アイドス・キュエネ』がその場から去ろうとした時、最後に振り返って小さく呟いた。
『ネェアナタ…気付イテル?アナタノソノヤリ方ハマルデ…』
そこまで言ったところで、『アイドス・キュエネ』は口を閉ざした。
そして、最後まで言い切ることなく、その場から姿を消した。
※後書きです
ども、琥珀です。
早いうちにお伝えしておく必要があるかと思いましたので、本日から定期的に記載させていただきます。
2/6〜2/10の更新についてなのですが、私事で申し訳ないのですが更新をお休みさせていただきます。
翌週からは通常通り更新しますので、宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




