第435星:役割交代
神宮院 アンナ
レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。従来の『レジスタンス』そのもののリーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北した。穏健派だけあり、平和的な思考を持ち主。言葉で人の心を動かすタイプで、心から『グリッター』と人の平等な世界を願っている。イクサに敗北したことで行方をくらませていたが…?
樹神 三咲
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務める。
佐久間 椿
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長。
【椿小隊】
写沢 七
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…対象に関係なくトラウマを想起させる『グリット』を操る。
海藤 海音
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな予備動作から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手と視線を交わすことで、視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。触れた物体に自身の『エナジー』を纏わせ、その物体をの向きを操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に斬撃状の『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
「アンナさんのサポートは無くなってしまいましたが、『ユニティメナス』は残り一体です。確実に、一気に仕留めに行きますよ」
通信機を使用し、三咲が各メンバーに指示を出す。
「もともと一体は私達だけで倒せてるんだ!今回は人数も揃ってるし、絶対に倒せる!」
勇む海音の隣で、タチがソッと肩に手を乗せる。
「気持ちは分かるが冷静にな海音。さっきの攻防も、一対一の状況を作って貰いながら、最後の攻めのところで、触手という、今までにもあった当然の攻撃手段を見落としていたんだ。油断すれば足元を掬われるのはこちらだ」
二人の年齢はさほど変わらないが、武術の家系であるタチの方が冷静に状況を見極めており、勢いに任せて進もうとする海音を嗜めた。
『そうですよ海音。さっきの一連の流れは、アンナさんのフォローがあったからこそです。私達だけで一体倒しているとはいえ、油断は出来ませんよ』
そこに三咲からの指摘も入り、海音も一度冷静になる。
『まぁでも〜、実際討伐はしてるわけだし、逆にそこまで緊張しなくても良いかもね〜』
逆のことを言い出したのは椿。と言ってもこれは油断して良いと言う意味ではなく、全員の緊張をほぐすための発言だろう。
『残り一体ならば、私が視界をジャックして確実に動きを読み取れるし、咄嗟のレーザーならば、凛の《貴方のハートを狙い撃ち》で咄嗟に角度を変えるなりすれば対応できる』
そこに紬も賛成し、次々と作戦のプランを立てていく。
『でもさ、さっきみたいに触手出されたらどうする?あの数を一気に捌ける人ってなると…』
最後にアンナが対処した触手の部分で引っかかってしまい、一同から意見が出てこなくなる。
『そんなら〜私が前に出るよ〜』
沈黙を破ったのは、再び椿であった。
『椿…?貴方が前に出るんですか?』
『ま、私この中でもタチちゃんと海音ちゃんに次ぐ接近戦の成績あるしさ。《グリット》も接近戦でも有効だし、妥当じゃない?』
椿の言葉に嘘はなく、反論するものはいなかった。
『でもでも、椿さんの接近戦の成績は知ってるけど、それじゃ海音ちゃんと役割が被っちゃうんじゃない?それだと、触手に対する根本的な解決になってないというか…』
ふと疑問に思った凛が、椿に尋ねると、椿は手を振りながら「いやいや〜」と否定した。
『被っちゃうなら役割を変えれば良いんだよ〜』
『役割を…変える…?』
『そうそう〜。七ちゃん、私のと七ちゃんの《パイルグリット》を、一つずつコピーしてくれる?それならそこまで劣化しないでしょ?』
『え?えぇまぁ、一つくらいなら殆ど変わらないと思いますけど…』
椿に指示された通り、七は椿と自分の『パイルグリット』をコピーし、計四つになった武器を手渡した。
『つまりは現状はさ、さっきまでは、海音ちゃんが切り開いて、アンナさんがサポートして、タチちゃんが仕留める形だった。けどアンナさんのサポートが無くなっちゃったから、触手というか、範囲的な攻撃に対しての対応策が無いわけだ』
「そうだな。私の攻撃が届いたとしても、『ユニティメナス』は差し違えても私を倒そうとするだろう。それでは意味がない」
三咲達の目的はあくまで『生き残る』こと。
作戦の中に、敵味方関係なく差し違えるという内容があってはいけない。
だからこそ、三咲達は頭を悩ませていた。
『だから役割を変えよう。海音ちゃんはさっきと同じ、《ユニティメナス》の攻撃をこじ開ける役割。替わるのは私とタチちゃんだ』
『……そうか、なるほど…』
いち早く椿の発言の意味を理解したのは、付き合いの長い三咲だった。
『タチちゃんの《グリット》と《影漆》の効果を併用すれば、多分この中では一番範囲攻撃に対して有効な対応が取れるはず。私達もギリギリまで接近するわけだから、攻撃の軌道は概ね分かるよね?』
「なるほど…確かに…いやしかし、私がその役割を担ったら、誰が止めを?」
『それは、私がやる』
ガチャン!という音とともに、椿は左腕に超近距離用武器『パイルグリット』を取り付けた。
『海音ちゃんの攻撃のおかげで、この《戦闘補具》が有効なのは分かってる。でも一発じゃ倒しきれない可能性があるから、計四発用意しておく。これなら、《ユニティメナス》の攻撃網を打破出来るでしょ〜?』
椿の作戦を聞いて、全員のイメージが統一されていく。
『…一番懐まで飛び込んでいくんです。危険ですよ?』
『それを小隊のみんなが今までやっててくれたんだからさ、小隊長がいつまでも後方で待機なんてしてらんないじゃん?』
椿の発言に、後方支援が主となる三咲は「耳が痛いですね…」と呟いた。
『分かりました。みなさん、今の作戦は聞いていましたね?海音が先陣を切り、椿が討伐し、タチがそれをフォローする。残ったメンバーは全力でそれをカバーします!!』
「「「了解!!」」」
『これ以上の犠牲者は誰一人として出させません!!最後まで気を抜かないように!!』
「「「はい!!!!」」」
三咲の発言に、全員が力強く答えた。
それを隣で聞いていた椿は、小さく笑みを浮かべていた。
「(耳が痛いのはこっちの方だよ三咲ちゃん〜。私にはこんな風にみんなを鼓舞することなんて出来ないからさ。だから身体を張るしか無いんだよ)」
右腕につけられた武器をさすりながら、三咲をチラッと見つめる。
「(すっかりまぁ小隊長の姿が様になっちゃって…夜宵さんにも匹敵するんじゃないかな、この味方を鼓舞する力は)」
さすっていた手を止め、今度は武器をギュッと握りしめる。
「(だからこそ、私は私のやり方で、小隊長としての務めを果たす。みんなを守れるように…『軍』の一員として、根拠地のメンバーとして、誇れるように!!)」
作戦は決まった。
そして三咲の言葉とともに、その作戦は直ぐに遂行されていった。
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「…!(根拠地の皆さんが動く気配が…作戦が決まったようですね)」
一方で、先程まで抑え込んでいた『コマンダーメナス』と対峙しているアンナも、三咲達が行動に移す気配を感じ取っていた。
「(彼女達のことです、私が抜けたところで直ぐに打開策を思いつくでしょう。聡明な指揮官が信頼している部下ですから)」
そう考えているアンナは、いま自身が発生させている風に乗って、空中を高速で飛翔していた。
その理由は単純明快。
────ピュン!!
「ッ!!」
『コマンダーメナス』が、とめどなくレーザーを打ち続けているからである。
通常、『メナス』がレーザーを放つには、数秒のチャージの間がある。
しかし、『コマンダーメナス』は、通常のレーザーよりも一発の出力を大幅に弱め、細かく打ち分けることで、その間をほとんど無くしていた。
これにより、一発一発の威力は弱くなり、致命傷に至ることは無いものの、それでも貫通性の高いレーザーを単発であろうと何発も喰らえば、簡単に命を堕とすことに繋がる。
故に、アンナは全力で回避に徹していた。
「(この『コマンダーメナス』…レーザーの扱い方と良い、私の動きを読むような照準と良い、やはり頭がキレるのは間違いないようです。ですがそれだけではありません)」
細かなレーザーによる攻撃が止んだ一瞬の隙をついて、アンナは反撃を試みる。
「『突風』!!」
強力な風を発生させ、『コマンダーメナス』の動きを封じ込め、反撃に転じようとしたアンナであったが…
『ォ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
全方位から吹き荒れる風に対し、『コマンダーメナス』はそれを力技で脱し、再びアンナに照準を定めた。
「(…ッ!やはり、この『メナス』は…!!)」
再び迫り来る、細かなレーザーの放射に、アンナは風を纏って回避運動に入る。
自分の行く先に確実に狙いを定める正確なレーザー射撃に冷や汗を垂らしながら、アンナはどうにか攻撃を避けることに成功していた。
それと同時に、一つの事物に確信を抱いていた。
「(やはり、この『コマンダーメナス』…『知性』を与えられただけじゃない!!『知性』のほかに、『ユニティメナス』を率いられるだけの実力を身に付けた強化個体なのですね!!)」
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




