第430星:『コール・トゥルビヨン』②
神宮院 アンナ(32)
レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。従来の『レジスタンス』そのもののリーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北した。穏健派だけあり、平和的な思考を持ち主。言葉で人の心を動かすタイプで、心から『グリッター』と人の平等な世界を願っている。イクサに敗北したことで行方をくらませていたが…?
時間は今に戻る。
言葉が離脱し、小隊の面々の表情に暗い影が落ち始めた時、その風はゆっくりと舞い降りた。
小さな竜巻のようなものが海面に降り立ち、そしてゆっくりとその渦が消え去っていった。
その中から現れた人物に、一同は驚きの表情を浮かべた。
「え…アンさん!?」
真っ先に声を上げたのは、『グリット』で視界を広げていた三咲であった。
アンナはゆっくりと振り返ると、朗らかながらどこか悲哀に満ちた笑みを浮かべた。
「貴方達の戦いに介入してしまい申し訳ありません。ですが、お力添えが必要な場面かと思いましたので」
「…いや〜、それよりもどうして特例官がここにいらっしゃるんですかね〜?」
普段は冷静な椿も、この時ばかりは動揺を隠せずにいた。
「それは……」
『ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
アンナが答えようとした時、背後から『ユニティメナス』の叫び声が響き渡る。
「…どうやらゆっくりとお話をしている時間は無いようです。樹神 三咲さん」
「え…?あ、はい!」
突然名前を呼ばれ、三咲は驚いた様子で答える。
「ここからの戦闘は、私が引き受けます。樹神さん達小隊の皆さんは、後方からの支援をお願いします」
「え…そ、それは危険です!特例官がどれ程の実力をお持ちかは存じませんが、『ユニティメナス』と『コマンダーメナス』の連携は侮れません!いくらなんでもお一人では…」
先程まで戦闘を繰り広げ、そして劣勢を強いられていた三咲からすれば、アンナの言葉に対しては当然の反応であった。
しかし、アンナはそんな三咲に対して、安心させるような優しい笑みを浮かべ答えた。
「戦闘の状況やデータは既に司令官さんから頂いています。あの二個体の強さは理解しているつもりです。だからこそ、皆さんには下がっていていただきたいのです」
アンナは三咲達から視線を逸らし、『ユニティメナス』の方に目を向けると、ゆっくりと手に握られた杖を構えた。
「…皆さんを、巻き込んでしまわないように」
その言葉と同時に、アンナの全身から、翠玉色の『エナジー』が吹き出し、それと同時に、思わず顔を手で覆ってしまうほどの強力な風が吹き荒れた。
風は周囲の海水を弾くほどに強くなり、一時的にではあるが、『ユニティメナス』達の視界を塞ぐことにも成功していた。
「こ、この出力…アンナさん、貴方は一体…!?」
「申し訳ありません。私については、この戦いが終わってから必ず…まずは皆さんをここから一度離します」
そう言うとアンナは杖を軽く横に振るった。
その瞬間、その場に残っていた椿小隊と三咲小隊の面々の周囲に風が吹き、風は全員を包み込むようにして渦巻いた。
「わ、わわ!!身体が風で浮いて…!?」
浮き始めた自分達の身体に、凛が驚いた様子を見せるとそのまま風にさらわれるようにして、戦場から離されていった。
風の移動速度は決して遅くは無かったが、強化された『ユニティメナス』がレーザーの狙いを定めるには遅すぎる程の速度であった。
「『そよ風』」
それより前に動いたのはアンナ。振り返りざまに杖を軽く振るうと、三咲達に狙いを定めていた三体の『ユニティメナス』の首元に翡翠色の風が吹き、その向きを変えた。
『ア゛ァ!?』
突然の突風で首の角度を変えられた三体の『メナス』のレーザーは、あらぬ方向へと放たれる。
「困ります。彼女達はいま移動中です。出来れば手荒な真似は避けて頂けますと幸いです」
アンナはおよそ戦闘には似つかわしくない優しい笑みを浮かべ、『メナス』達を注意した。
戦闘と呼ぶほどのことでは無い、小さな小競り合い程度の出来事。
しかし、強化された肉体を一瞬で動かすほどの『風』に、『メナス』達は一瞬でアンナを危険視する。
その警戒心もあってか、アンナは無事に三咲達を後方へ撤退させることに成功していた。
「…一先ずこれだけ離せば問題ないでしょう」
ここまで必死に戦闘を行ってきた三咲達を、有無を言わさず引き離してしまったことに対して申し訳なく思いながら、アンナはゆっくりと『メナス』の方へと振り返った。
「お待たせしました。さぁ、それではここからは私がお相手させていただきます」
再び杖を前に構えると、アンナの周囲に翡翠の『エナジー』が吹き出し、それと同時に風が吹き荒れる。
風圧だけでは無い、アンナ本人から放たれる圧を、『メナス』達はビリビリと感じ取っていた。
『ァ゛ア゛!!』
同じくアンナの圧を感じ取っていた『コマンダーメナス』は、それを振り払うようにして、前に立つ『ユニティメナス』達に檄を飛ばした。
『『『ァ゛ア゛!!』』』
それに呼応するように、三体の『ユニティメナス』達も雄叫びを上げ、アンナを睨みつけた。
「対峙しただけで分かります…この個体達が通常の『メナス』では無いということが…」
先程までとは状況が変わり、敵は一人となった。
数で勝った『メナス』達は、それにモノを言わせるようにして、正面からアンナに向かっていった。
「ですから、先ずは一番厄介そうな個体から片付けてしまいましょう」
その時、『ユニティメナス』の後ろで指揮をとっていた『コマンダーメナス』の頭上から、突如突風が吹き荒れた。
『ァ゛ア゛!?』
予兆もなく現れた突風は、巨大な竜巻となって『コマンダーメナス』を飲み込んで行った。
「『竜巻』」
竜巻は更に勢いを増していき、やがて海面にも渦が出来上がっていった。
そして、竜巻は更に勢力を増していき、『コマンダーメナス』を巻き込んだまま海面の中へと飲み込んで行った。
『ガボッ!?ガボボッ!!』
「そのまま暫く海水の中で揉まれていてください。貴方がいるとどうやら厄介そうなので」
アンナの表情は変わらず小さく笑みを浮かべたまま。
しかし、この一瞬で、劣勢を強いられていた戦況をひっくり返し、対処に苦しんでいた『コマンダーメナス』をあっという間に封じ込めていた。
「さて、貴方達の頭は抑えました。『コマンダーメナス』が居なくなった貴方達の実力は、いかほどでしょうか?」
ニコッと笑みを浮かべるアンナに対し、『ユニティメナス』達は一瞬臆したような動作を見せるが、直ぐにアンナを睨みつけるような表情へと変わり、襲い掛かっていった。
「鋭く、早い。強化された個体というのも納得がいきます」
これに対してもアンナの行動は、杖を横に振るうだけの動作に留まった。
「『突風』」
直後、アンナの目の前から翡翠色の粒子が吹き出し、それが強力な風となって三体の『ユニティメナス』に襲い掛かった。
『ァ゛ア゛!?』
その風圧は凄まじく、真正面からその風を受けた『ユニティメナス』達は、押し返されるようにして動きを封じ込められていた。
「『風の槍』」
更にアンナは杖を突き出すように構えると、先端の尖った竜巻が杖から吹き荒れ、動きを封じられていた一体の『ユニティメナス』の胸部を貫いていった。
『ァ゛…オ゛…』
胸を貫かれた『ユニティメナス』は、苦悶の表情を浮かべながらも、傷跡から黒い霧状の物質が噴き出るだけで、消滅する気配は無かった。
「弱点であるはずの胸を貫いてもなお消滅しませんか。強化されたのは身体能力だけでなく、耐久面も、といったところでしょうか」
しかし、アンナはこれにも動じる様子を見せることはなかった。
大和から事前に渡された情報と、自身がこの目で見ていた、海音の『パイルグリット』を受けても消滅しなかったことから、その可能性は高いと予め踏んでいたからである。
「ですが私の攻撃で貫通したり、内部の損傷があるところを見ると、どうやら内部に関してはそこまで変動は無いようですね。それでしたら、このような攻撃はいかがでしょう?」
アンナは杖を前に構えた後、その杖を上に掲げた。
「『風拡散』」
すると、胸を貫かれた『ユニティメナス』の全身から、無数の風の槍が内部から出現した。
『カッ…!?』
「胸を貫いた風をそのまま利用して、内部から拡散させて貫きました。どうやら予想通り、内部は脆いようですね」
内部から無数に貫かれた『ユニティメナス』は、ついに全身がボロボロと崩れていき、そして黒い塵となって消滅していった。
「強化されたと言っても無敵では無いようで安心しました」
三咲達が連携を取っても苦戦していた『ユニティメナス』、それを悠々と一体倒して見せたアンナの表情は、やはり小さく笑みを浮かべるだけに留まっていた。
「さぁ、『ユニティメナス』は残り二体…このままお相手願いましょう」
アンナは更にニコッと笑みを浮かべ、残された二体の『ユニティメナス』に畏怖の感情を覚えさせた。
※後書きです
ども、琥珀です。
申し訳ありません!いつもの更新時間で寝過ごしてしまいました…
誠に申し訳ありません…
ついにクリスマスも過ぎてしまいましたね〜。
あとは年を越すのを待つのみです…
早いものですね…この作品も書いて長くなります…
これから先もどうぞ宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




