第429星:『コール・トゥルビヨン』
『では、私が参りましょう』
────今から数分前。
その声は不意に聞こえ、大和の咲夜の二人は思わず耳に付けられた通信機に手を当てる。
「この声は…」
聞きなれない声に、最初は戸惑った大和であったが、
「…まさか、本気ですか?」
直ぐにその正体を察した大和は、改めてその人物、神宮院 アンナに尋ねた。
『無論、本気です。このような事態で、そのような冗談を言うような性分は持ち合わせておりませんので』
アンナはこれまでと同様に淡々と、それでいて芯の強い口調で答えた。
しかし、大和は顎に手を当て、考える素振りを見せた後、再度尋ね返した。
「…何故あなたが?失礼ですが、いまの貴方は『軍』人でも、『レジスタンス』でもない。それなのに、この戦闘に意欲的に参加しようとする理由が分かりません」
大和はアンナの言葉を信用していないわけではない。
寧ろ、大和の計らいでアンナをここに留めているので、その逆、信頼の証とも言える。
それでも、皇 イクサとの戦いに敗れ、直前までやや自棄になっていたことを踏まえると、この戦闘を死に場にしているのでは無いかと勘繰ってしまっていた。
しかし、そんな大和の考えとは裏腹に、アンナはそんな様子は一切見せない力強い言葉で、大和の質問に答えた。
『何のことはありません。私はただ、この根拠地の方々に教えて貰ってばかりで、まだ何のお礼も出来ていないだけですから』
「…お礼、ですか」
改めてモニターを見ても、画面越しに見つめてくるアンナの顔に、決死のような表情は見られない。
寧ろ、この状況を冷静に見極め、そして自分が出ることが最善であると判断して進言しているように見えた。
『…彼女達からは…いえ、貴方達からも、私は多くのことを学ばせていただきました。自分が、いかに世間知らずであるかを痛感させられたのです』
アンナは自分の胸に手を当て、この根拠地での出会いと学びの日々を頭の中で蘇らせていく。
『私は無知でした。しかしそれは同時に、私にはまだまだ進むことが出来るということを知る機会にもなりました。これはきっと、成長することが出来る証なのだと。それを教えてくださったのは、この根拠地の皆さんです』
アンナから語られる言葉に、大和は黙って耳を傾け続ける。
『だからこそ、私は彼女達を守りたい。私に進むべき道標を指し示してくれた根拠地を救いたい。これからの、進むべき未来のために』
アンナの発言の節々から伝わってくる力強さに、大和はそれが本心であることを感じ取っていた。
そしてその答えは、アンナが再び立ち上がることを願っていた大和の考えにも合致していた。
しかし…
「アンナさんの意志と考えはよく分かりました。ですが、貴方が出撃されることの意味とリスクを理解なさってますか?」
大和が考えていた、アンナが出撃するにあたっての最大の懸念点を、彼女にぶつける。
「これまでは、貴方の姿が表舞台に晒される事が無かった。だからその存在を隠蔽することが出来ました。ですが、実戦に参加するとなれば、隠蔽することは極めて難しくなります」
大和はあくまでアンナの身を案じた発言を繰り出す。
「ましてや貴方は、元とはいえ『レジスタンス』のリーダーだ。その情報は『軍』にも広く知れ渡ってる。そうなれば…」
『無論、全ては承知の上です。それでも、その上で私は…今の私は、彼女達を救いたいと思っているのです』
アンナの答えは直ぐに返ってきた。
その言葉を聞いて、大和の懸念は拭い去られ、決意が固まるのに時間は掛からなかった。
即座にテーブルの端末を操作し、現在の戦況が載せられた情報を、アンナのいる部屋の端末に送り込んだ。
『…!これは…』
「現在の戦闘のデータを送りました。戦場は海上です。直ぐに『戦闘補具』の用意をさせます」
大和の決断は、アンナを出撃させること。
そして、そこからの動きは素早く、直ぐにアンナの出撃準備を整え動き出していた。
その大和の動きに対し、咲夜は耳打ちするようにして語りかける。
「…宜しいのですか大和。彼女の実力を疑うわけではありませんが、彼女の戦闘の参加は即ち、これまで隠してきた正体を明かすことになります。少なからず、小隊の面々に混乱をもたらすのでは…?」
アンナの出撃そのものを否定するわけではなく、咲夜は三咲達二小隊のことを心配していた。
統一の取れない戦場の指揮は、困難を極めるからである。
しかし、それて大和の決断は覆らなかった。
「…咲夜の懸念も分かる。けど、事態は逼迫してる。離脱者も既に出てる状態だ。ボクは司令官として、彼女達の身を守り、そして指揮を取る責務がある。そのために使える手段があるのなら、ボクは迷わずその手を取る」
時に手段を選ばないと告げた大和は、その後苦笑いを浮かべ、「それに…」と続ける。
「君がここに存在していた、っていう事実以上に驚くことなんて、そうそう無いでしょ?」
地球に初めて生まれた最初の『グリッター』、早乙女 咲夜。
その存在は100年前の伝説の存在とされていたが、その咲夜はいま、指揮官としてここで指揮を執っている。
確かに、それに勝る衝撃的な事実は存在しないかもしれない、と思わず咲夜も納得してしまう。
それが同じ『グリッター』なら尚更である。
「同じ伝説の存在と言われていた【オリジン】とも対峙してる。今更『レジスタンス』のリーダーが一人現れたくらいじゃ、彼女達は狼狽えないよ。流石に驚きはするだろうけどね」
咲夜は困ったように眉を寄せていたが、自分を引き合いに出されては返す言葉もなく、そのまま大和の決断を受け入れた。
それを確認すると、大和は再びアンナの映るモニターへと目を向けた。
「出撃に必要な装備はこちらで用意します。海上戦に必要な『戦闘補具』以外に必要なものはありますか?」
大和の言葉に、アンナは送られてきた情報に素早く目を通しながら、首を横に振った。
『いいえ必要はありません。この情報だけで十分です。《戦闘補具》も不必要です』
「え…そ、それじゃどうやって…」
アンナの返答に、夕が困惑していると、これまで映し出されていたモニターの画面からアンナの姿が消えた。
それから間も無くして、地下に設置された司令室にも伝わるほどの揺れが起こる。
「こ、これは……?」
覚えのない揺れに夕が辺りを見渡す中、大和、そして咲夜の二人が天井、即ち地上の方を見上げていた。
「…これが、『レジスタンス』リーダーの『グリット』…」
●●●
同刻。
室内から出たアンナは、根拠地のある一角に立っていた。
纏ったマントが微かにたなびく程度の風が吹くなか、アンナはその風を全身に浴びるようにして目を閉じていた。
「(不思議な感覚…これから戦いに赴くというのに、とても心が軽く、そして気持ちが弾む…これまでどんな戦いの時もこんな感覚にはならなかった…)」
その風が、次第に不自然に強くなり、アンナを中心に吹き荒れて行く。
「(あぁそうか…こんなにも心が軽いのは、これが誰かを傷付けるための戦いではなく…誰かを救うための戦いだから、なのですね)」
更に風は強くなり、やがてアンナの身体に纏うようにして渦巻いていく。
「(これが彼女達が見てきた景色…これが、彼女達が戦う理由…これが…私が求め、目指すべき理想の振る舞いだったのですね)」
風を纏うアンナの様子は、とても晴れやかで、どこか吹っ切れたような清々しい表情であった。
そして、周囲に吹き荒れる風に乗るようにして、アンナの身体が少しずつ浮いて行く。
「この想いを、志を思い出させ、そして教えくれたここの人達のために、必ず彼女達を救い出して見せます。もう一度、私とともに舞いましょう」
その手には、魔法使いが使うような杖が握られており、それを身体の前にかざした。
そして、アンナは幾多の戦いを共にした、『相棒』の名前を口にする。
「『我が心躯は御風と共に』」
自らの力で纏った風とともに、アンナは空へと飛び立った。
※後書きです
ども、琥珀です。
気付けばもうすぐクリスマス。そして年末ですね。
皆様仕事納めは間も無くでしょうか。
私の仕事は仕事納めが無いので、31日から4日まで仕事です(涙
更新なのですが、来週一杯まで更新し、年始はお休みさせていただき、1月9日から再開したいと思います。
また改めて通達させていただきますので、宜しくお願いします。
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




