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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第428星:合成個体

樹神 三咲

千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務める。


佐久間 椿

千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長。



【椿小隊】

写沢 七

 写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。


重袮 言葉

 活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…対象に関係なくトラウマを想起させる『グリット』を操る。


海藤 海音

 誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな予備動作から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。


【三咲小隊】

椎名 紬

 ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手と視線を交わすことで、視界を共有する『グリット』を持つ。


八条 凛

 自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。触れた物体に自身の『エナジー』を纏わせ、その物体をの向きを操る『グリット』を持つ。


大刀祢 タチ

 メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に斬撃状の『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。

「ッ!?」



 もうもうと立ち込める蒸気のなかから、薄暗い影とともに姿を現した『ユニティメナス』の気配を感じ取った言葉は、その動きを一瞬止めてしまう。



『──ァ゛ア゛!!』



 一瞬とはいえその硬直は、強化された『ユニティメナス』が攻撃するのに十分な時間だった。


 ドッ!!という衝撃が真横から走り、言葉の身体がくの字に曲がる。



「グッ…アッ…!!」



 防御をする術も間もなく、言葉は殴りつけられた勢いで蒸気の外へと吹き飛ばされていった。



「言葉!?」



 それを真っ先に見つけたのは、『グリット』で蒸気一帯を視ていた三咲だった。


 水の上を何度も跳ねた後、大きな水飛沫をあげて海に沈んで行った。



「言葉!!」



 海面に沈み込んだ言葉の姿を見て、七が急いでその場所へ移動する。


 しかし、七がそこへ辿り着く前に、海面からエネルギーの球体に包まれた言葉が姿を現した。



「ベイルアウトシステム…!?たった一撃で!?」



 『ベイルアウトシステム』は、千葉根拠地の技術班班長であるリナが、人体に必要な最低数値を下回った時に、『エナジー』を使用してシールドを展開。


 そのままベルトと根拠地を繋ぐ信号に沿って、浮遊させて根拠地に帰還させるシステムである。


 これまでこのシステムが最も活用されたのは、最凶の災害と呼ばれた最初の『メナス』、【オリジン】と対峙した時である。


 それ以降は順当に戦闘に勝利し、日の目を浴びることのなかったシステムであったが、数ヶ月ぶりにこのシステムが起動することになった。


 これが、今回の戦闘がどれほどの規模のものであるかを物語っていた。



「…ッ!ごめん…みんな…しくじった…!」

「大丈夫!!こっちのことは良いからしっかり休んで!!」



 球体の中から、重傷を負っている言葉の声が聞こえてくるが、側によっていた七が返事を返した。


 言葉からそれ以上の返答はなく、そのまま球体はゆっくりと浮上し、姿を消していった。






●●●






「こ、言葉さんが『ベイルアウト』しました!根拠地に向かってます!」

「すぐに医療班に連絡してくれ!『ベイルアウト』での脱落だ、重症の可能性が高い!沙雪さんにも連絡を!」

「は、はい!」



 夕は大和の指示を受け、医療班に通信を入れる。



「…大和…『ユニティメナス』は一体討伐したとはいえ、残り4体。それも、二小隊の連携と言葉さんの『グリット』を破った上での残数です。あまり流れは良くないように思えます」

「…分かってる。出来れば増援は送りたい。けど、朝陽君が戦闘不可能な今、まともに機能してる小隊は、あと夜宵小隊だけだ。万が一に備えて、根拠地を空にしておくことは避けたい」



 咲夜の言わんとしていることは理解していた大和であったが、それでも、最悪の事態を想定して、夜宵小隊の出撃には消極的であった。



「…私が出ますか?」

「それもダメだ。前回は【オリジン】という強大な敵がいたから欺けたが、流石に二度も隠蔽するのは難しい。咲夜の出撃は、それこそ最終手段だ」

「ですが、戦闘の流れを変えなくては…」



 二人の話し合いは押し問答状態であった。


 両者の意見は正しく、だからこそ正解に辿り着けない。


 二人が解決策に頭を悩ませていると、その解決策となり得る一人の人物が、通信機越しに語りかけてきた。



『では、私が参りましょう』







●●●






「さて…これで仕切り直しになっちゃったねぇ〜」



 状況が変わったのを見て、椿は蒸気を発していた罠を解除。


 前衛に出ていた海音とタチも合流し、一度陣形を整える。



「ごめん…私が二体目を仕留めきれなかったからだ…だから言葉は…」

「不必要な思考だぞ海音。相手は初めて邂逅する未知の『メナス』だ。予想外の方が起きても仕方ない。それよりもここをどう生き延びて勝利するかだけ考えるんだ」



 ネガティブな思考に捉われそうになった海音を、タチがすぐさまフォローする。



「実際のところ、どうですかタチさん。言葉さんのサポートは減りましたが、前衛二人と残った私達のサポートで局面を打破出来そうですか?」

「不可能…とは言いません。海音が一体倒したように、こちらの攻撃が効いていないわけでは無いようなので。ただ…」



 三咲に尋ねられ、タチは直ぐに答えるが、最後の方で言葉に詰まる。



「ただ、二体目で早くも『パイルグリット』に対応してきた『ユニティメナス』、言葉の『グリット』の特性を見抜いて対処してきた『コマンダーメナス』。この両者のコンビネーションは、シンプルながら強力。同じ手はもう通用しないでしょう」



 タチの考えは全員が感じていたことだったのか、誰一人その後に発言することは無かった。



「…そもそも、これまで何年も変わらなかった『メナス』が、急にこんなにも変わったわけ?」

「凛、今は余計なことを考えている時間は…」

「いえ、もしかしたら必要な着眼点かもしれません」



 凛がふと疑問に思ったことに対し呟くと、タチがそれを嗜めようとしたところを、三咲が制止する。



「強化された『メナス』を、私達は漠然と受け止めていましたが、何故強化されたのか、何が強化されたのか、それを突き止めなければ、突破口は開かないかも知れません」



 三咲の冷静な言葉に、一同は納得の表情で頷いた。



「単純な意味合いでは〜、前衛を張ってる『ユニティメナス』は身体能力が向上してるように思えるよねぇ〜。攻撃力とか、反射神経とか、これまで戦ってきた『メナス』よりも強化されている気がする〜」

「『コマンダーメナス』はその逆をいっている気がするね。戦闘能力は未知数だが、盤面全体を見て指揮を執っている感じだ。ちょうど三咲さんのような立ち位置だね」

「…力と知性…その両方を上手く切り分けて与えている…?与える…この感覚はどこかで…」



 椿と紬の二人の発言を聞いて、何か思うところが出来たのか、三咲が考え込む様子を見せる。


 幸いにも、まだ言葉の幻影が残っている可能性を探ってか、『メナス』達が攻撃を仕掛けてくる様子は見られず、三咲には十分に考える時間が与えられていた。



「もしやこれは、『カルネマッサ』の時と同じ現象なのでは?」



 そして三咲は、一つの結論を導き出した。



「『カルネマッサ』って、三咲ちゃんと朝陽ちゃんの小隊が対処にあたってた、超巨大『メナス』のことだよね?それとこれが一緒ってこと?」



 椿は三咲の発言の意味を理解しつつも、同一の現象という点までは理解できなかったのか、小首を傾げる。



「全く同じというわけではありません。ですが、やっていることは同じと言えます」

「つまり、どういうこと?三咲さん」



 七が結論を急ぐようにして尋ねると、三咲は落ち着いた様子で説明を始める。



「以前私達が対峙した『カルネマッサ』は、不特定多数の『メナス』を強引に合成して生まれた生命体であると司令官は推測されています」

「強引に合成…あぁ、そういうことね〜」



 三咲の言わんとしていることをいち早く理解したのは、やはり長年の付き合いのある椿であった。



「……?どういうこと?『カルネマッサ』と『ユニティメナス』がどう関係があるの?」



 凛は理解ができず、ハッキリとした答えを求めた。



「つまり、いま私達が対峙している『ユニティメナス』、及び『コマンダーメナス』は、『カルネマッサ』よりも合成個体を減らして作られた『メナス』なのでは無いか、という事です」



 三咲が導き出した結論に、椿を除く全員が目を開いて驚いた表情を浮かべる。



「個体数の合成数を減らして作られたのが『ユニティメナス』…?でも、そんなこと可能なの!?」

「これは一つの仮説です。ですが、前衛を戦う『メナス』に『力』を、後衛でサポートする『メナス』に『知性』を分け与えることが可能だとすれば、今回の二種類の『メナス』にも納得がいくはずです」



 七は三咲の仮定を信じられない様子であったが、実際に『カルネマッサ』と対峙した三咲には確信があるようであった。



「前回の『カルネマッサ』の狙いは、恐らく私達では太刀打ちできないような強力な()()を作ることであったと思います。ですが、結果は知っての通り、『メナス』とも呼べない異形の存在が作り上げられただけでした」



 唖然とする一同に向けて、三咲はその根拠を話していく。



「それを見た『エデン』は、今回は力をコントロール出来る数だけ合成した。その成果が『ユニティメナス』なのではないでしょうか」

『面白い仮説だ。けどボクもその可能性は高いと思ってる』



 三咲の話している内容に対し、通信機越しに聞いていた大和が賛同した。



『《カルネマッサ》との戦いの記録は《レジスタンス》の妨害によって残ってはいないけど、報告された情報と照らし合わせると、《ユニティメナス》は同じ原理で生み出された可能性は高いと思う』

「…ですが司令官…この仮説の行き着く先は…」

『分かってる。三咲君の考えている通りだと思うよ。今回の《ユニティメナス》の生みの親は恐らく《エデン》。そしてその《エデン》の能力は、他の個体に力を与える事だ』



 三咲はやはり…といった表情を浮かべていたが、他のメンバーはいまいちピンと来ていないようであった。



「力を与える…?具体的にはどういうことなんですか〜?」

『難しい事じゃない。簡単な例で言えば《エデン》の本来の特性である《知性》を分け与える、《メナス》を合成させて《力》を与える。それが《エデン》の能力というわけだ』

「…なるほど〜。それが今回の《ユニティメナス》であり、《コマンダーメナス》でもあるわけですね〜」



 椿が問いかけたことで、ようやく全員が理解できる答えが返り一同は納得するが、同時に戦慄した。



「それは…このレベルの相手がこれから先何体も現れる可能性があるということですか…?」

『…そうなるね』



 タチが恐る恐る尋ねると、大和は士気に影響することを懸念して躊躇ったものの、素直に答えた。


 そして予想通り、全員がこれからの未来を予想して畏怖するなか、三咲が声を張り上げた。



「だとしても!いま私達がすべき事は変わりません。目の前の脅威を振り払う。それが私達の今の使命です。そうでしょう、みんな」



 三咲の言葉は力強く、そして現実的であった。


 その言葉に鼓舞され、一人、また一人とその瞳に力を宿していった。



『三咲君の言う通りだ。相手がどれだけ強くなろうと、ボク達のすべき事は変わらない。戦って、守って、そして生き抜くために立ち向かう』



 そこに更に大和からの言葉かけが加わり、もう恐れを抱くものは誰一人いなかった。



「しかし司令官、現状だと攻め手に欠けます。何か状況を打破する手はないのですか?」



 熱く、それでいて冷静な三咲は、状況が不利なことを見極めて、大和に作戦を要求した。



『ある。そして、もう()()()

「…え?」



 大和がそう返した時、周囲に強烈な風が吹き荒れた。

※本日の後書きはお休みさせていただきます






本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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