第426星:水蒸気の悪夢
樹神 三咲
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務める。
佐久間 椿
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長。
【椿小隊】
写沢 七
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…対象に関係なくトラウマを想起させる『グリット』を操る。
海藤 海音
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな予備動作から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手と視線を交わすことで、視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。触れた物体に自身の『エナジー』を纏わせ、その物体をの向きを操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に斬撃状の『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
「よっし、みんな準備オッケーだよ〜」
強化されたと思われる『メナス』と戦闘を続けていく中、周囲で着々と準備を進めていた椿が連絡を入れた。
「了解!!言葉、用意は良いですね!?」
「勿論、いつでもいけるよ」
通信を受けた三咲が、隣で前衛のサポートを続けていた言葉に声をかけると、言葉はこれに直ぐに応じる。
「分かりました!椿、お願いします!」
「了解〜」
三咲からの指示を受け、椿は両手の指をパチンパチンと鳴らしていく。
セットした透明な罠に、対象が触れることで発動する椿の『グリット』であるが、セットした罠一つに対し指にセッティングすることで、指を鳴らすことでも罠を発動することが可能である。
最初の変化は発光。
『メナス』達を中心とし、その周囲に計8つの光がカッ!と瞬き、そして消えていった。
間も無くして次の変化が現れる。
発光した部分からその周囲に、突如煙のようなものが立ち込め始めた。
よく見ればそれは水蒸気で、熱によって海水が蒸発していることによって生じているもののようであった。
「『軍』御用達の『マグネシウム(1000円)』に市販の着火したマッチを組み合わせて海水にセットしてみたよ〜。通常なら膨大な海水で熱は消えちゃうんだけど、罠は上限全部使用した上に、性質は3〜4倍。数十分くらいなら高温の熱を発するでしょ〜」
椿の予想通り、周囲の海面からは次々と水蒸気が発せられており、視界は大幅に悪くなっていた。
「ちょっと味方の視界も悪くなっちゃうけど〜、そこは任せて良いよね言葉ちゃん〜」
「大丈夫。これだけ条件が揃ってれば、『グリット』を発動出来ます」
椿の言葉に答えると、言葉は武器をしまい、タチと海音の前衛の二人組の方へと近づいていった。
「基本的な攻撃は私が撹乱する。二人は私の『グリット』で惑わされて出来た隙を突いて攻撃をお願い」
「了解。言葉さんの幻影に紛れて攻撃を仕掛けます」
「うへ〜視界ワル…私の『ノれない波は無い』も十分な効果は出せないかも」
「大丈夫、海音ちゃんの可愛さはちょっとやそっとじゃ隠しきれないから」
「そんなこと聞いてないし言ってねぇよ!!グッジョブすな!!」
相変わらずのセクハラ発言に海音がツッコミを入れたところで、三人は改めて戦闘体制に入る。
「条件は揃ってるから『グリット』の発動自体は問題ないわ。懸念点は私がこの蒸気のなかにいる必要があることと、攻撃のタイミングの見極めは二人次第になること。そこは任せて良いわね?」
「心配には及びません。これでも前衛を務めてきた自負がありますから」
「私も、言葉が撹乱してくれるなら、隙自体は見逃さないと思う。あとは確実に仕留められる準備をしておくだけ」
通常の攻撃では火力不足を痛感した海音は、懐から対超近距離戦闘補具である、『パイルグリット』を取り出す。
アームに付けられた杭を『グリッター』のエネルギーを推進剤として勢いよく打ち出して敵を貫く武器この武器は、的確に『メナス』を貫くことのできる一撃必殺の武器ある。
その攻撃範囲は杭の伸びる範囲までしか無いため実用性は高くないが、言葉による撹乱があれば、当てられる確率は大幅に上がるだろう。
その『パイルグリット』を腕に付け、いよいよ戦闘の準備は完了する。
「用意は良いわね?行くわよ!『泡沫夢幻』!!」
三人が同時に水蒸気のなかに入り込んでいく最中、言葉の身体が一瞬光り、その光が波状となって水蒸気に伝播していく。
「…三人の姿をロスト。私の視界にもハッキリ映りません」
「だが私の視界からも三人の姿が消えた。今のところ『メナス』達も捉えられていないみたいだ」
周囲の広範囲を見渡せる三咲の『対敵生命体感知』と、相手の視界と自身の視界を同調させる『視界同調』を持つ二人も、三人を見失うほどの水蒸気の濃さ。
フォローを取れる体勢は整えているものの、この状況ではあとのことは三人に任せるしか無かった。
その水蒸気のなかでは、既に三人が行動を開始していた。
予め『メナス』の位置を記憶していた三人は、目標を完全に見失うことなく接近していた。
そして一気に距離を詰めた、タチと海音の二人が、突如蒸気の中から姿を現して、攻撃を仕掛けた。
『────ァ゛ア゛!!』
しかし、相手は『グリッター』さえも上回る身体能力を有する『メナス』。
更に今回は通常の個体よりも強化されている『ユニティメナス』。
突如目の前に現れた二人に対しても即座に反応し、無数の触手を展開して攻撃を仕掛けた。
そして、一瞬にして展開された無数の触手は、海音、そしてタチの身体を貫いていった。
これまで回避され続けてきた攻撃が、あまりにもあっさり直撃したことに、『ユニティメナス』達は僅かに困惑した様子を見せた。
しかし、驚きはこの後にやってきた。
二人は、貫通した触手を気にかけず、ズブズブと音を立てながら、徐々に『メナス』に近いていき、そして、血だらけになりながら抱きついてきたのだ。
「あああああぁぁぁぁぁ……………!!!!」
「痛い……イタイよぉぉぉぉ………!!!!」
血みどろの状態で抱きついてくる二人に、流石の『ユニティメナス』もおぞましさを感じ得ざるを得なかった。
僅かに動きが鈍ったその瞬間、その死角を縫うようにして、再び海音とタチが姿を現した。
「海音!!狙うのは私の攻撃を受けた弱った個体から!!」
「分かった!!」
困惑と驚きを交えながら、『ユニティメナス』達は急いで声のする方へと振り返るが、そこでは既に攻撃体勢に入っている二人の姿があった。
「影漆──飛影!!」
先に仕掛けたのはタチ。飛ぶ斬撃で既に弱っていた『ユニティメナス』に牽制を仕掛ける。
攻撃を仕掛けられた『ユニティメナス』は、身を屈めることでどうにかこれを交わす。
しかし、その回避した先で、視界の先に杭のついた拳が迫っていた。
『ノれない波はない』で『ユニティメナス』の動きを先読みしていた海音の攻撃である。
「くらえ!!『パイルグリット』!!」
その拳を『ユニティメナス』の腹部に叩きつけると、海音は腕に備え付けられた『パイルバンカー』が作動し、その腹部を貫いた。
「──カ゛ア゛!?」
ドバッ!!と背部から大量の霧状の黒い物質が吐き出され、『メナス』は苦悶の声を上げる。
「いい加減、くたばれ、この!!」
グッ、と杭を押し込むようにする海音であったが、『ユニティメナス』の身体はなかなか崩れず、そしてガッ!と海音の手を掴んだ。
「海音!!」
その様子を見ていたタチが、すぐに助太刀に入ろうとするが、海音が片手でそれを制した。
それから間も無くして、海音を掴んでいた『ユニティメナス』の身体がボロボロと崩れ、やがて黒い塵となって消滅していった。
「海音!!大丈夫か!?」
それを見届けたあとに、タチは改めて海音に近付き、無事を確認する。
「大丈夫。最後に掴まれた時、もうほとんど『メナス』に力は入ってなかったから」
「なら良いが…あれだけ弱った状態で『パイルグリット』を当てても直ぐに消滅しないほどの個体だ。残りの三体はもっとヒット&アウェイを強く意識していこう」
「わかっ……」
タチの指示に、海音が答えようとした時だった。
二人の背後から突如『ユニティメナス』が姿を現し、その腕で二人の胸を貫いたのである。
胸部から大量の血が溢れ出し、二人は口からゲホッ…と吐血する。
先程は不意をつかれた『ユニティメナス』であったが、今度は視界の悪さを逆手に取り、急襲を仕掛けた形になった。
致命傷どころか即死の傷を負った両名。
その二人は、胸から生えた腕を見た後、その首を真後ろへと90度傾けた。
「イタイヨ〜………」
「ヒドイヨ〜………」
それは、およそ人間の動きではない動作。目に精気はなく、大量の血を口から吐き出しながら『ユニティメナス』を見つめていた。
そして、顔はそのままに、腕が食い込むことさえ意に介さず、ズブッ…、ズブッ…、も音を立てながら『ユニティメナス』へと近いていく。
『──ァ゛ア゛!?!?』
その光景は『メナス』から見ても不気味だったのであろう。
腕に突き刺さった二人を、二体の『ユニティメナス』は振り払おうとしていた。
「足を狙う!!崩れたところを仕留めてくれ!!」
そこへ、再び姿を現したのはタチと海音の二人。
タチが鋭い太刀捌きで『ユニティメナス』の脚を切り裂くと、『メナス』の姿勢が崩れる。
「貰ったぁ!!」
そして、先程同様、海音は思い切り良く『パイルグリット』を突き刺した。
※後書きです
ども、琥珀です。
胸の中のわだかまりが少し取れました。
これでまた筆を取ることが出来そうです!
頑張ります!
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




