第424星:模倣
樹神 三咲
千葉根拠地所属。生真面目な性格な反面融通が利かないことも。戦場全体を見渡せる『グリット』で戦況を冷静に判断、指揮する。当初は大和方針に反対していたが和解し、現在は『三咲小隊』隊長を務める。
佐久間 椿
千葉根拠地所属。洞察力に優れ、トラップを作る『グリット』を扱う。『アウトロー』との戦いでかつての自分と葛藤するが、三咲とのやり取りで再び『グリッター』としての姿を取り戻す。『椿小隊』隊長。
【椿小隊】
写沢 七
写真を撮るのが大好きで、同時に仲間のことをよく観察し、僅かに変化に気遣うことができる。物体をコピーする『グリット』を持つ。
重袮 言葉
活発で女の子が大好きでいつもセクハラまがいの行いをするが、時折その表情に影を落とすことがある…対象に関係なくトラウマを想起させる『グリット』を操る。
海藤 海音
誰に対しても物事をハッキリ言う性格だが、仲間のために行動する優しい心の持ち主。僅かな予備動作から動きを直感的に読み取る『グリット』を持つ。
【三咲小隊】
椎名 紬
ややキザッたい口調だが、経験も多く冷静な女性。相手と視線を合わせることで、相手と視線を交わすことで、視界を共有する『グリット』を持つ。
八条 凛
自信家で勝気な性格だが実際は素直で純粋な性格。触れた物体に自身の『エナジー』を纏わせ、その物体をの向きを操る『グリット』を持つ。
大刀祢 タチ
メナス襲撃後も密かに残った武家の家系で、礼儀を重んじる。根拠地の少ない常識者。攻撃した動線上に斬撃状の『エナジー』を残し攻撃する『グリット』を持つ。
「小隊編成を模倣…?ですが、そうすることに『メナス』に一体どんなメリットが?」
大和の発言に、咲夜は首を傾げる。
「確かに、本能でボク達を脅かしてきた『メナス』が、編成を模倣することには一見何の意味が無いように思える。けれど、『エデン』が知性を分け与える事が出来る、と仮定すれば話は変わってくる」
「…と言うと?」
「単純な話だ。無数の個体の中に、一体統率が執れる『メナス』が加わる。それだけでボク達が考案した編成に匹敵する小隊が作られる…しかも『メナス』の個体数は無尽蔵だ。純粋に頭数で押し負けるようになって、『メナス』の進行がより強力なものになる」
大和の説明を受けて、ようやく事態の問題の大きさを理解したのか、咲夜の表情が強張っていく。
「では…この侵攻は、その第一歩だと?」
「そこまでは行かないかもしれない。もう少し手前、実戦向けかどうか実験をしているんじゃないかな。だから複数の編成を組まず、ボク達の編成に近い個体数で攻めてきたんだと思う」
「いきなり大きく攻め込まず、試行錯誤を繰り返しながら調整していく…これが事実なら、恐ろしい事態です」
「まったくもってその通りだ。いよいよもって、『メナス』の知性に対する厄介さが表立ってきたわけだ」
咲夜と同じく表情を強張らせていた大和であったが、その瞳に迷いは無かった。
「だからこそ、ボク達は引くような戦いを見せてはいけない。小隊としての歴戦の格の違いを見せつけて、『エデン』を迷わせる必要がある。幸いなことに今回は二小隊で挑む事が出来た。確実に勝利を掴むぞ」
「「はいっ!!」」
大和の言葉に、咲夜だけでなく夕も加わって、強く返事を返す。
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「三咲さん、司令官からは何と?」
前衛で接近していたタチが一旦距離をとり、司令官からの指示を三咲に尋ねる。
「『異変は正しいものだと思う。まずはその異変がどういったものなのかを、時間をかけても良いから確認してほしい』、だそうよ」
「…成る程。しかし対峙した時に感じたあのプレッシャー…そう簡単に見抜く事が出来るだろうか…」
タチは刀を身体の前で構えながら、視線の先で立ち尽くす『メナス』を見つめる。
「異変の確認は大事だけど〜、必要以上にこだわることも無いんじゃないかな〜。最大の目的は『メナス』の撃滅な訳だし〜、その上で見極められたら上々…くらいの認識で良いと思うんだけど〜」
悩むタチの言葉に対し、椿がふんわりとした声で自分の考えを全員に伝える。
「私は賛成です!タチちゃんと海音ちゃんが一回身を引くレベルだし。慎重になるのは良いと思いますけど」
「私も賛成。離れていても今回の『メナス』は何か違うのを感じ取れるし、確実に倒すべきだと思う」
その椿の考えに、七と言葉が賛同する。
「そうですね。私も椿の意見に賛成です。連携パターンは大きく変更はせずに、確実に倒しにかかりましょう。異変については、私と紬の二人で注視するようにします」
これに続いて三咲も賛同すると、名前を出された紬は顔に手を当て考え込む。
「ふむ、となると私が見るべきは、戦闘に参加する様子を見せない、後方の『メナス』になるだろうか。他の個体に対するサポートは少し甘くなるが…」
「やり方は変えないんでしょ?それなら数では勝ってるし、紬さんの分くらいなら皆で補えるんじゃないかしら。私もサポートに回れそうだし、大丈夫だと思うわ!」
「…確かにそうだな。可能な限りフォローはするが、各々普段よりも警戒心を高めておいてくれ」
紬は僅かに不安げな表情を浮かべていたが、それより少し前に立つ凛がフォローし、紬もこれに納得する。
「方向性は決まりましたね。それでは改めて、『メナス』の討伐にかかります!皆さん、気を抜かないで、確実に倒し切りますよ!」
「「「了解!!」」」
三咲の言葉を皮切りに、二小隊の面々は再び行動に移る。
一度交代した海音とタチの前衛二人は、再度前身の姿勢を見せ、凛と椿の両名がこれをサポートする体勢に入る。
「海音、さっきの違和感が事実なら、対峙する『メナス』は、通常の個体よりも更に身体能力が高い事が予想出来る。私達は距離を近目に保って、互いにフォローし合えるようにしておこう」
「分かった。動きの異変や見切りに関しては私の方が適してると思うから、先手は私が行くよ」
「危険だと思ったら直ぐに後退してね〜。先にいくつか罠は仕掛けておくから、座標の確認はしておいてね〜」
前衛二人の通信を聞いていた椿は、罠設置型『グリット』である『鮮美透涼の誑惑』で透明な罠を仕掛けていき、万全のフォロー体制を整えていく。
「ありがとうございます、椿さん。これで思いきり戦えます」
「よっしゃ!いくぜぇ!!」
それを確認した二人は、海面を強く蹴り、ホバーで移動しながら再び『メナス』達に攻撃を仕掛ける。
『──ァ゛ア゛!!』
海音達の行動に対し、声を上げたのは後方に立つ個体の『メナス』。
そして残った四体の『メナス』は、その声に合わせるようにして動き出した。
「(…!ジッと私達の方を見ていると思ったが、私達の動き出しを待っていたのか!やはりあの後方にいる個体の『メナス』は、指揮を執る、いわゆる『コマンダー』タイプといったところか)」
他の個体の『メナス』の視界を一度端に置き、『コマンダータイプ』の『メナス』の視界をジャックしていた紬は、その事に確信を持つ。
「…!気を付けて二人とも。四体の『メナス』は、二組で固まって、貴方達に対して二対一の状況を作るつもりのようです」
逆に『グリット』で全体を見ていた三咲が、海音とタチの二人に警告する。
「私達がやろうとしていたことを向こうがするのか!」
「やっぱりこれまでとは違う感じがするな…!とにかく私達も離れないで戦おう!」
敵の狙いである二対一の状況を作らせないように、海音とタチの二人は距離を縮めて応戦する。
「右上の『メナス』、触手で薙ぎ払ってくるぞ!」
「了…解!!」
相手の僅かな動きの機微を読んで、動きを先読みする海音の『グリット』、『乗れない波はない』でタチに攻撃の情報を伝えると、タチはこれに反応して、身体を屈める。
その直後、その頭上を『メナス』の触手が通り過ぎていき、タチは無事に回避に成功する。
「一発入れる!!タチはそれに続いてくれ!!」
その攻撃の隙を突いて接近していた海音が、拳を握りしめて、思い切り良く殴りつけた。
「よし!」
拳が入ったのを確認したタチが、身を眺めた状態から海音に続いて『影漆』を振るう。
回避する間もない、見事な連携技。これまでに何度も『メナス』を消滅させてきた連携であるが…
『──ァ゛ア゛!!』
「ッ!!消滅しない!!」
今回の『メナス』は消滅しなかった。
攻撃を受けた『メナス』は、斬りつけられた箇所から黒い霧のようなものを噴き出しながらも、その原型を留めており、ぎこちない動きで海音とタチの二人に向かって反撃を仕掛けて来ていた。
「やばっ!!近寄り過ぎた!?」
「大丈夫だ、『グリット』は発動してある」
『メナス』が反撃に転じた瞬間、振るわれた手が突如としてスパッと切り裂かれる。
刃を振るった瞬間に、『グリット』を発動させていた、タチの『残滓彷徨う不朽の刃』によるものである。
しかし安堵したのも束の間、別の個体の『メナス』が、タチの『グリット』を避けて攻め込んできた。
「早い!なら、今度は反撃に転じながら『グリット』を…!」
距離を詰めて攻撃を仕掛けて来た『メナス』に対し、タチは再び『影漆』を振るおうとするが…
「…!ヤバい!」
途中で異変に気付いた海音が、反撃しようとするタチを抱えて一気に後退した。
次の瞬間、『メナス』が振り下ろした拳が海面を叩きつけると…
────ドバァ!!
という大きな音と、大量の水飛沫を上げた。
単に拳を振り下ろしただけの攻撃。しかしその威力は、これまで見てきた単体の『メナス』とはかけ離れた威力が備わっていた。
「あ…ぶなかった。今のを真正面から受け止めていたら、私の腕が無事では済まなかった…ありがとう海音」
「礼を言うのは早いぜ…今のは結構衝撃的な展開だったからな…」
大量の水飛沫が降り注ぎ、髪を濡らしながら、海音は強張った笑みを浮かべる。
「あぁ…私達の攻撃は受け止められ、逆に私達は『メナス』の攻撃を受け止めることは出来ない…これは攻め方に注意しないと危険だ」
「だよな…改めて、今回の個体が別モンだってのを分からせられる攻撃だったよ…」
これまでの『メナス』からは経験したことのない、桁違いの攻撃。
今回の『メナス』の異変を、前衛の二人は身をもって体感していた。
※本日の後書きはお休みさせていただきます
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。




