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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第420星:白衣の班長②

神宮院 アンナ(32)

 レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。『レジスタンス』リーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北する。平和的な思考の持ち主で、言葉で人の心を動かすタイプ。心から平等な世界となることを願っている。千葉根拠地に保護され、神宮 アンという偽名と役職を与えられる。

 瑞樹と別れたアンナは、瑞樹に言われた通り技術所を訪れていた。


 科学班の居室のような作りとは違い、技術所は巨大な工場のようであった。



「ふむ…自由に研究に没頭できる環境と、必要な開発に着手できる環境。この根拠地らそのどちらも揃っているのですね。施設環境だけでも当時の私達よりも優れているように思いますが、これは時代の差なのでしょうか」



 アンナが『軍』に所属していた頃にも、同じ施設が無かったわけではない。


 しかし、規模の面で見ると、この根拠地にある施設は、当時の何倍もの規模であった。


 だからこそ、アンナは優遇されていると感じたのだろう。



「あれ?お姉さん、どちら様ですか?」



 と、入り口の付近で棒立ちをしていると、一人の青年に声を掛けられた。


 見覚えの無い人物が立っていれば声を掛けられても当然ではあるが、アンナはそんなことに気付くことさえ出来ない程、過去に浸っていた。



「あぁ、失礼しました。少々考え事をしておりました。こちらの技術班のチーフさんはいらっしゃいますか?」

「班長ですか?多分そこらで作業してると思いますけど…ちょっと待っててくださいね」



 我に返ったアンナは、まずはこの施設を見学する許可をもらうべく、青年に技術班の班長がいるかどうかを尋ねた。


 青年は純真なのか、アンナに対して何の違和感を感じる事なく、言われた通りに班長を探しに向かった。



「…誰に対しても差別なく…これは、大和()の教育の賜物なのでしょうか」



 瑞樹という例外はあったものの、この根拠地に来てから、アンナは部外者のような扱いを受けることは一度も無かった。


 それどころか、大和がアンナを紹介してから、まるで身内のように親しくされてきた。


 一瞬、これが本当に『差別』に晒されている根拠地と、その『グリッター』達なのかと疑うほどであったが、その温かな雰囲気は、かつて集っていた『ジェネラス』と似通っており、どこか親近感を覚えていた。



「ほいほい、私をお呼びで……って、あれ?アンタ、司令官から紹介されてた神宮さんじゃん」



 やってきたのは、女性ながら職人気質を感じさせる、ゴーグルをつけた女性だった。


 ゴーグルを外した姿を確認すると、確かに自分が紹介された時の朝礼に参加していた人物であった。



「私は技術班班長の草壁 リナ。ここに来たってことは、技術所(ここ)を見学したいってこと?」

「えぇ、まぁ。先程お会いした一ヶ瀬 瑞樹さんという方から、こちらなら見学が出来ると伺いまして」



 アンナが先程の出来事を素直に伝えると、リナは僅かに驚いた様子を見せた。



「瑞樹と話したんですか?」



 そんなに驚くことだろうか…とアンナは思いつつも、確かに初期の瑞樹の対応を思い返すと、普通の会話が出来たことは奇跡なのかも知れないと思い直した。



「えぇ。残念ながら科学室の方は見せていただけませんでしたが」

「いや、それでも凄いことですけどね。瑞樹は話す人を選ぶんで、それだけでも驚き」



 このリナの驚きぶりを見るに、瑞樹は相当捻くれた性格をしているのだろう。


 それでも科学班の班長を務めているのは、それだけの科学技術を有しているからか、それとも大和の寛容な采配からか、はたまたその両方か。


 しかし、そこまでの興味関心は、アンナは抱かなかった。



「っと、ごめんなさい。技術所の見学をしたいんでしたよね?」

「えぇ、是非」



 そう言うとリナは、手に持っていた資材を近くの机の上に置いて、軽く乱れた服を整えた。



「そんじゃ、私が直接案内しますよ」

「班長である貴方が…?貴方も仕事があるのでは?」



 アンナが尋ねると、リナは手を顎に当て、僅かに考え込む素振りを見せた後首を横に振った。



「まぁ仕事はありますけど、急ぎのモンじゃないですし、司令官からも来たら案外してやってくれって頼まれてますからね」



 ここでも大和の名前が出され、アンナはやはり大和の思い通りに行動させられているのでは…と少し気分を害した。


 そんなアンナを他所に、リナは説明を続ける。



「それに一応、瑞樹の言う通り技術所(こっち)の見学は出来ますけど、機密になるような所もあるんですよ。司令官も出来る範囲で、ってことでしたし、私が直接案内した方が都合が良いんです」



 リナから事情を聞かされ、アンナは成る程、と納得する。


 どんな組織にも、外部に漏れたくない情報や技術というものは存在する。


 アンナは名目上は『軍』所属となっているが、その実は外部の人間である。


 『軍』の上層部から直々に命令でも来ない限りは、外部の人間に肝となるような技術は見せないだろう。


 その辺りを一番弁えているのが班長のリナであると言うのなら、道理に叶っている話である。



「分かりました。それでは、お忙しいでしょうが、リナさんにこの施設の案内をお願いします」

「はいよ、承りましたっと!」



 リナはニカっと笑みを浮かべ、アンナのお願いを二つ返事で了承した。






●●●






「……といった感じで、今は根拠地の内側の強化をしてるんです」



 基本的な『戦闘補具(バトル・マシナリー)』についての知識はあったため、アンナはリナに、この根拠地で新しく試みていることについて尋ねていた。


 その答えは、根拠地そのものの強化である、という返答であった。



「根拠地内部での迎撃システムの開発や、それからシステムの基幹となる機関室の外壁強化とか、今はその辺りに力を入れてますね」



 確かに、直近の『メナス』による襲撃は、その過激さを増していると聞く。


 現に『レジスタンス』時代にはアンナも『メナス』と対峙しており、その変化には気付いていた。


 そのため、万が一根拠地の『グリッター』が敗れた場合、又は根拠地にまで手が及んだ際に向けて、強化を施すというのは間違いではないだろう。


 しかし、一点だけ疑問があった。



「何故システムの防御機構を強化するのではなく、外壁などの強化、武装をしているのですか?『メナス』が活発になっているとはいえ、そんな的確な場所に潜入することは無いと思うのですが」



 リナはう〜ん、と唸ったあと、「まぁ大丈夫でしょ」と呟きながら答えた。



「理由はいくつかあるんですけど、システムのプログラムの強化自体は私達技術班ではなくて、科学班が担当しているんです。だから私達がしているのは、そことは別の、防御機構の強化ですね」

「成る程…ですが、それでは私の質問の答えになっていません。『メナス』がそんな綿密な侵入を試みるとは思えませんが…」

「『()()()()そうかもしんないです」



 アンナの言葉に、リナは即答しつつ続けた。



「『軍』の関係者の方なんで話しても大丈夫だと思いますけど、先日、この根拠地は『レジスタンス』に襲撃されたんです」

「…っ!」



 それはアンナにも十分に記憶にある件であった。寧ろ、それが理由で今に至っている状況でもあった。



「その時、根拠地を機能させていたプログラムを、ハッキングではなくて強制的にシャットダウンさせられる事態が起きたんです。だからこれは、対『メナス』を想定したものじゃなくて、対()を想定した強化であって、その役目を担っているのが技術班である私達になりますね」



 過激派とはいえ同じ『レジスタンス』の襲撃が契機となり、このような強化に至っていることを考えると、アンナの胸は締め付けられるように痛くなった。



「(…私達のせいで、ここの方々に余計な手間をかけさせ、そして警戒心を抱かせた…私が掲げていた理想とは真逆です…)」



 根拠地の現状を知ってしまい、アンナは思わず黙り込んでしまう。


 それを、何か勘違いしたのか、リナは慌てた様子で訂正する。



「あ!対人用強化といっても、侵入者を撃滅するための武装強化とかじゃないですよ!?電気ショックとか金網とか、相手の動きを封じたり、拘束したりするための装備です」

「…ですが、前回の襲撃でアナタ方はその機関室を狙われて命の危機に晒されたはずです。そこでその様な罠では、万が一ということがあるのでは…?」



 アンナの答えにリナは頭を掻き、困りながらも笑みを浮かべて答えた。



「まぁ確かにそうかも知れないんですけど…なんて言うんですかね。例え根拠地の破壊を目的とした人達を相手にしても、出来るだけ対話はしたいじゃないですか」

「……対話?命を狙う相手に対して、ですか?」



 アンナは驚きを隠せないといった表情で、リナに尋ね返す。



「アハハ、甘い考えだと思いますよね。ちょっと前の私ならそんな考え方はしなかったかも知れないです。でも…」

「…大和…ここの司令官の着任による変化ですか?」



 リナは照れた様子を見せながら頷いた。



「ここの司令官、お人好しでしょ?その上私達のこともぞんざいには扱わないし、寧ろ毎日のように見に来てくれて、褒めてくれる。そんな司令官、指揮官、今まで居なかったから」

「…だから、貴方の考え方も変わったと?」

「私ってより、根拠地全体の考え方が変わったと思うんです。司令官がいつも人に対して真摯であるからこそ、私達もそれに全力で応えたい。だから、強化する方針も変わったんだと思います」



 リナ言葉は真っ直ぐであった。


 元々裏表のない性格ではあるだろうが、それでも、大和という存在が目の前の人物に影響を与えたのは間違い無いだろう。



「(私が望み、手の届かなかった変化が、こんな身近に…)」



 アンナはリナから目を離し、周囲を見渡した。


 そこでは、技術班のメンバー達が今も作業を続けている姿があった。



「(例え憎しみや怒り、差別のような意識のある相手に対しても誠意と優しさを…彼は、この根拠地にそれを根付かせた…私が掲げていた使命と同じものを…)」



 その複雑な心境に、アンナは再び黙り、そして考え込んでいった。

※本日の後書きはお休みさせていただきます






本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は水曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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