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Eclat Etoile ―星に輝く光の物語―  作者: 琥珀
11章 ー強化個体出現ー
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第419星:白衣の班長

神宮院 アンナ(32)

 レジスタンスの穏健派、『ジェネラス』のリーダー。『レジスタンス』リーダーでもあったが、イクサと決別したことで勢力が二分。決別した末、敗北する。平和的な思考の持ち主で、言葉で人の心を動かすタイプ。心から平等な世界となることを願っている。千葉根拠地に保護され、神宮 アンという偽名と役職を与えられる。

 それからも、根拠地は今までと変わらない日々を送った。


 一人一人が軍務にあたり、それが終われば咲夜の指導のもと、訓練に勤しむ。


 出現した『メナス』に対しては、小隊を組んで対応。そして撃退していった。


 変わらない日々…それが錯覚であることは全員が分かっていた。


 朝陽が眠ったままの状態になってから一週間が経っていた。


 誰も口にはしなかったが、朝陽の不在は戦力としては勿論だが、明るく前向きな言動のムードメーカーが減ってしまったのは、やはり少なくない影響を与えていた。


 その変化に当然大和も気付いていたが、こればかりは対処のしようが無かった。


 激励は一週間前にかけた。今はそれが自分にできる限界であった。


 咲夜も訓練中に発破を掛け続けているらしいが、それでも今の状態を維持するので精一杯だという。


 かく言う咲夜本人も悩みを抱えているようで、ここ最近は少し元気が無いようだった。



「(弟子である朝陽君があの状態じゃ仕方ないか…理由はそれだけじゃ無さそうだが…)」



 しかし掛けられる言葉は見つからず、大和は今日も自分の机の上に用意された書類に手を伸ばした。






●●●






 大和の計らいもあって、根拠地で自由を許されたアンナは、最初こそ応接室に篭っていたが、この一週間で外を出歩くようになった。



 これまで目にしてきたのは、根拠地内での訓練に日々の軍務、そして『メナス』との実戦における、司令官(大和)達の振る舞いであった。


 そしてこの日もアンナは、新たな発見を得るため、根拠地の内部を歩き回った。



「(身内の一人が倒れて気が沈んでいる、とは聞いていますが、それでもこの活気。この根拠地での彼女達が、どれだけ恵まれた環境下にいるのかが伺えますね)」



 かつて『軍』にいた頃の自分と比べながら、アンナは散策を続ける。



「(この一週間で彼女達のことは見ることが出来ました。今日は少し、施設を回ってみますか…)」



 これまで見てきた場所とは違う場所に興味を示し、アンナは再び歩き出す。



「(しかし…これでは本当に『視察』のようですね。どこか、彼の思惑通りに動かされているような気がしてならないのですが…)」



 元とはいえ一つの派閥のリーダーであったアンナが、上手く乗せられているように思うのは気分が良く無いと感じたのか、僅かに眉を顰める。



「あら、貴方どなたですの?」



 と、内部を散策していると、一人の人物と出会う。


 纏っている白衣と、対面した時の圧から、戦闘員では無いことは直ぐに分かった。



「私は…神宮(かみみや) アン。私のことは先週の朝礼で聞いてると思いますが…」

「朝礼…?あぁ確か司令官さんが毎週やってる恒例の挨拶でしたか?残念ですが私、アレに出席してませんの。ど〜せ退屈な話を聞かされるだけですもの」



 これまで会ってきた『グリッター』と違い、初対面の相手に対していきなり司令官を貶すような話をする人物に、アンナは興味を示した。



「貴方は…司令官のことを敬って無いのですか?」

「私が?司令官を?まさか!」



 アンナの言葉を聞いて、白衣の女性、科学班班長の一ヶ瀬 瑞樹は、コケにするように鼻で笑った。



「…ここの人員の中で、彼を敬わない人はいないと思っていました。ですが、彼を敵対視しているわけでも無さそうですね」

「……ま、アレやコレや無茶な仕事を押し付けてきた前任に比べれば、今の司令官は自由にやらせて下さいますから、その点は感謝しておりますわ」



 まとめると、この人物は大和に興味がないのだと言うことが分かった。


 大和からどう思われようと、どう扱われようと構わない。だから初対面の相手にも、堂々と告げるのだと理解した。



「それで、結局貴方は何者なんですの?白昼堂々根拠地を出歩いているのですから、何かしらの関係者なんでしょうけど」

「私は、この根拠地に興味を持って『視察』を依頼し派遣された『グリッター』です。今は、根拠地の内部施設を回っている最中です」



 半分は大和から与えられた詭弁ではあるが、ここで『軍』人と名乗らず、『グリッター』と伝えたのは、アンナに残された小さなプライドによるものだろう。



「ほ〜ん、内情視察、というわけですか。司令官さんや指揮官さんをお連れになられていないということは、随分と自由な権限をお持ちのようですね」

「…自由に視察して良いとは言われています。ところで貴方は?」



 いきなりの発言があって尋ね忘れていたことに気付き、アンナは瑞樹に名前を尋ねた。


 すると瑞樹は、面倒臭そうな表情を浮かべながら、顔だけ天を仰いだ。



「ホントはリナさん以外の方に名乗る名なんて無いのですが…先に尋ねてしまった手前、私だけ言わずに去るのは、それはそれで気分良く無いですわね」



 ハァ…と心底嫌そうにため息を吐いたあと、瑞樹は胸に付けられた名札を見せつけながら、自身の自己紹介をした。



「千葉根拠地科学班班長、一ヶ瀬 瑞樹ですわ。ここで『メナス』や『戦闘補具(バトル・マシナリー)』の研究を担当してますの」

「科学班班長…」



 アンナは再び過去に自分が『軍』に所属していたころの人物と比べてしまう。


 使用者の負担を顧みずに作られる武器の数々。


 『グリッター』を兵器としてしか見ていない指揮官と結託して作られた武器は、粗悪なものばかりであった。


 この瑞樹という人物は果たしてどうなのか。ここまでのやり取りだけでは、そこまで汲み取ることが出来なかった。



「科学班…興味があります。良ければ少し見学させていただいても?」

「お断りしますわ」



 アンナのお願いを、瑞樹は即断った。



「…何故です?」

「私は仕事中は基本的に一人で取り組みたいのです。発想も閃きも一瞬の刻に訪れます。それを邪魔されるのは、嫌なんですの」



 もっともらしいことを述べているが、アンナは瑞樹が非人道的な武器の開発に着手しており、それを隠しているのでは無いかと疑った。


 しかし、これだけ個性が強い人物であるため、そうだと断定することも出来なかった。


 遠回しに尋ねるか悩んだものの、アンナは本来ここの人物では無い。


 例え嫌われようとも問題は無いと判断し、直球で尋ねることにした。



「それは…見られては困るような研究をしているからでは無いですか?例えば、使用すれば味方にも被害が出るような非人道的な武器を研究しているとか…」

「はぁ!?」



 案の定、というべきか、瑞樹は怒った様子でアンナを睨みつけた。



「今の私の発言だけでどうしてそんな偏った考え方が出来ますの?貴方相当の変わり者ですのね!」



 彼女には言われたく無い…とアンナは思ったが、それは口にせず続ける。



「専門的な科学的なことは分かりません。ですが、粗悪な出来や、人を人と思わない『戦闘補具(バトル・マシナリー)』を、私は何度も見てきました。研究の内容が秘匿性の高いものであることは承知していますが、そう言う経験をしてきた身からすれば、疑いもします」



 睨みつけるような瑞樹の視線に物怖じせず、アンナは真っ直ぐ見つめ返した。


 しばらく続く視線の交錯。その中で、瑞樹は何か感じるものがあったのか、視線を外して再びため息を溢した。



「人を人と思わない武器…えぇ、この根拠地にもそんなものがありましたわ。前任の指揮官の遺物ですけどもね」



 先程までのめんどくさそうな様子が一変して、その口調はまさしく科学班の班長としての口調へと変わっていた。



「残念ながら今もそういった手合いの研究をしていないという証拠はお見せできませんわ。さっきも申し上げました通り、私は基本的に一人で研究に没頭したいものですから」



 口調は変わった。しかし口先だけなら何とも言える。アンナの疑いは晴れなかった。



「ですがこれだけは言っておきますわ。私の科学は人を活かしてなんぼ、ですわ」

「…!」



 しかし、その後紡がれた瑞樹の言葉で、その考えは一変した。



「確かに時に研究というのは、恐ろしい物を生み出しますわ。例えばいま貴方が仰ったような武器も然り、ですわ」



 瑞樹は「ですけれども…」と続ける。



「私はそれを良しとはしませんわ。科学は人を活かしてこそのもの。人を進歩させ、守り、豊かにし、育む、人類に与えられた叡智ですわ」



 瑞樹は再び真っ直ぐアンナを見つめ、そしてグイッと顔を詰め寄らせた。



「貴方がどんな経験をしてそのような考え方をされるようになったのかは分かりませんし興味もありません。ですが、貴方がそういう風に科学を考えるように、私にも私なりの矜持があります。その矜持を貫き通すためならば、私は我が身の全てを科学に注ぎ込みますわ」



 信念を持った強い瞳に見つめられ、逆にアンナがたじろいでしまう程であった。


 その直後、瑞樹は「ハァ」と気の抜けたような息を吐き出し、ゆっくりと歩き出した。



「やれやれ…我ながら何でこんなに熱くなってしまったのしまったのかしら」



 その姿が離れていく前に、アンナはハッと我に帰り、瑞樹に声をかけた。



「疑ってごめんなさい!貴方の志し、とても素晴らしいと思います!」



 真正面から非を認め謝られると思っていなかった瑞樹は、振り返り様にポカンとした様子を見せたが、やかでどこか照れたような様子で頬をポリポリと掻いた。



「まぁ…分かって下されば良いんですわ」



 それだけ言い残し、瑞樹は研究室へと向かおうとするが、ふとその足を止め、悩んだような表情を浮かべながら再び振り返った。



「『視察』の件ですけれど」

「…?はい」

「この先に技術所があります。そこなら内部を見学出来ると思いますわ。そちらに行かれてはいかがでして?」



 そう言うと瑞樹は今度こそ、歩いてその場から去っていった。


 その言葉が、瑞樹なりの優しさと贖罪なのだと気付き、アンナはお礼の意味を込めて、小さく頭を下げた。

※後書きです






ども、琥珀です。


昔のアニメはストレートに子供たちに憧れを与える物語が多かったと思います。


もちろん、色々な深いネタや暗いストーリーも交えた作品もあったと思いますが、その風潮としては、現代の作品の方が色濃いかな、と思います。


それはノベル系も例外ではなく、明るくシンプルな作品も好かれる中、色んな伏線やシリアスさなど、色んな要素を望まれるようになってるな、と感じています。


私の作品は、そこまで深く描くことは出来ていませんが、最近のアニメやノベルを見ていて、時にシンプルに、時に複雑に描かれている作品を見ると、素晴らしいな、と思ってしまいます。


私の作品も、いつかもっと深みのある作品に出来たら良いなと思う今日この頃でした。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜日を予定しておりますので宜しくお願いします。

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